弁護士が教える医師のためのトラブル回避術

第8回 医師・医療機関に求められるLGBT対応

 最近ニュースなどで「LGBT」という単語を目にする機会も増えてきました。「LGBT」とは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時の性別を越境する者)の頭文字を取ったもので、いわゆる「セクシャル・マイノリティー」を総称する表現として用いられています。
 なお、性的指向・性自認は、本来カテゴリー分けになじまない個人個人それぞれのものであり(セクシャル・マイノリティーと呼ばれない人についても細かいレベルで言えば同様でしょう)、L、G、B、T、のカテゴリーに分類できない性的指向・性自認を有する人も当然存在しています。そのため「LGBT」は、これら4つのカテゴリーの頭文字を取ったものではありますが、これら4つのカテゴリーに限定せず、多様な性的指向・性自認を表す表現として用いられています。

 LGBTは、特別に珍しいものではなく、日本国内での割合は全人口の3%~5%程度であるといわれています。しかし、従来の社会システムでは、LGBT当事者の存在は、明示・黙示に、その前提から排除されてしまっており、日々の生活の中で、様々な不都合やそこからくる生きづらさを抱えている当事者の方も存在しています。そして、そのような生きづらさは、性別適合手術や戸籍上の性別変更など、LGBTの問題としてまず思い浮かぶような場面以外の日常にこそ存在しているのです。

 本日、10月11日は、認識向上を目的とし設定された、LGBTの人々を祝うカミングアウトデー(National Coming Out Day)です。そこで今回は、LGBTが医療機関で直面する問題を取り上げ、医師や医療機関側に求められる対応について法的側面を中心に解説したいと思います。

家族の立ち会い 家族の同意、家族への説明

 緊急搬送された患者のパートナーと名乗る同性の人物が医療機関を訪れ、患者の状況について説明を求めるなど、医師や医療機関がLGBTの同性パートナーの取り扱いについて悩むケースがあります。
 類似の場面として入院患者の臨終の場面への立ち合いを認めるか、意識不明状態での緊急手術で誰に同意を求めるのか、という問題もあります。このような場面において、「家族以外へは説明できない」と拒絶すれば、LGBT患者の同性パートナーが医療機関側の対応に不都合や不満を感じることは容易に想像できます。一方、医師や医療機関側としても患者との関係からどのような対応が許されるのかについて不安もあると思います。
 では、医療機関としてはどのような対処が望ましいのでしょうか。
 まず、大前提ですが、どのような医療行為を選択するのか、病状といったプライバシー情報をどの範囲で明らかにするのかという事項は、最終的には患者本人が決定すべき事項といえます。未成年者の親権者など法定代理人であるような場合を除けば、法的には家族であったとしても患者本人との関係ではあくまで第三者であって特別な意味はありません。現在当然のように行われている家族への説明や同意は、自分自身の意思表示が不可能になった場合には最終的な決断をゆだねるという患者の意思があると推定しているにすぎません。その意味で、本来であれば患者本人が決めるべき事柄について、家族の同意があったからといって法的に何らかの効果が発生するわけではないのです。
 よって、同性パートナーであるからといって、それだけで家族と取り扱いを分ける必然性はなく、患者の意思に沿うものであると確認できる限りは、通常の家族に対する取り扱いと同様の対応で問題ないといえるでしょう。そこで、問題はいかにして患者の意思を確認・推認するかということになります。渋谷区が導入したパートナーシップ証明書のような公的な証明があれば一番ですが、公的な証明書ではなくても、当事者間で締結したパートナーシップ契約書のような書面で確認が取れれば問題はないといえるでしょう。
 患者の意思確認ができない場合にどの程度の対応を行うか、誰に患者の代わりに意思表示をしてもらうかについては、最終的には医師・医療機関側の判断にゆだねられているといえます。よって、法的な親族関係がない場合にはパートナー関係があったとしても一切取り合わないという対応も可能です。しかし、法律上の親族関係がないというだけで形式的に拒否をすることはせずに、柔軟な対応を行うことが患者本人の意思を最大限尊重するという意味では望ましいといえるでしょう。

 

アウティング

LGBTなどに対して本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性自認等の秘密を暴露する行動のことを「アウティング」といいます。アウティングは、プライバシー侵害など不法行為にもなりうる行為であって、アウティングを行った側が損害賠償請求を受ける例も実際に発生しています。
先ほどの家族への説明・同意の場面とは逆に、医療機関が意図せずして患者の家族等にアウティングを行ってしまう場合もあり注意が必要です。性感染症の治療で受診した患者の担当医師が患者の家族に感染の原因を説明してしまい、家族には秘密にしていた性的指向が明らかにされてしまったという例も聞いたことがあります。
 緊急手術の同意の場面などでは、決断を家族にゆだねるという意思を推定しているわけですが、性的指向・性自認については、家族にこそ知られたくないと考える場合も当然あり、家族だから説明してもいいだろうという考えは当てはまらないのです。患者本人の意思に沿っているかを今一度振り返る必要もあるでしょう。

 

受け入れの準備と心構え

 病気の背景にLGBT特有の問題があるにも関わらず患者自身がLGBTであることを医師に対してもカミングアウトできず、正確な病状の把握に困難を生じさせる場合などもあります。また、今回取り上げた同性パートナーの取り扱いについても、「パートナー」とは名乗れず単に「友人」として医療機関を訪れている場合もあるでしょう。
 LGBTは特別なものではないという前提のもと、例えば見かけ上の性と戸籍上の性別が異なる患者に対していかに接するか(部屋割り・トイレなど)など、医療機関側も事前に対応を準備しておくべきです。他の患者との関係や、施設面で限界もありますから、できることとできないことがあるのは当然です。しかし、受け入れの準備を行うことで、スタッフの側の心構えも出来、現場での無用な混乱を避けることが可能です(なお、人口に占める割合から言えば、表面化していなかっただけで既に多くのLGBT当事者と接しているということが指摘できます)。
 医師個人の観点で言えば、受け入れ準備といっても、特段特別なことが求められるわけではありませんが、差別的な言動をしないことや、意図せずにアウティングをしてしまわないように意思確認を慎重に行うという意識を持つことは重要でしょう。そして、受け入れの準備ができている医療機関、受け入れる姿勢を示している医師に対しては、患者もLGBTであることをことさらに隠す必要もなくなり、よりよい関係が構築できるようになるのではないでしょうか。 

 

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中澤佑一(なかざわ・ゆういち)

弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所代表。東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻を卒業後、上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻を修了。2011年に戸田総合法律事務所設立する。専門はインターネット・ITに関する法律問題。

著書に 『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(中央経済社)ほか。

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