医師のためのタイムマネジメント術

第3回 時間とエネルギーの関係

岩田 健太郎 氏(神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授)

時間は主観的な存在

時間は客観的な、絶対的なものではありません。別に難しい特殊相対性理論の話をしているのではありません。簡単に言えば、楽しい時間はすぐに過ぎ去り、苦痛の時間(例えば会議)はノロノロしていて進まない時間なのです。
ですから、時間の使い方においてもこの時間の持つ「主観性」を意識してやるのが大事です。

 

タイムカッターになろう

ぼくは書類の無駄にうるさい方です。無駄な書類、多いですよね。こういう書類の存在を看過しないことが大事だと常々申し上げています。

例えば、エイズ患者さんの自立支援医療の書類が無駄です。なぜかこの書類は自治体によって書式が異なるのですが、前任地の千葉県では、毎年この書類を更新する必要がありました。そして、更新のたびに「この患者がHIV感染という診断に至った経緯」を書かせていました。そして、ワードのコピー・アンド・ペーストは認められず、なんと「手書き」でこれをやれと要求していたのです。毎年。

「HIV患者が診断に至るまでの経緯を毎年書かせるのは非合理的だ。こんな無意味な書類を作らせるべきではない。診断に至る前の経緯なんて、最初に一回訊けば十分だろう。そもそも、診断に至るまでの経緯なんて本当に必要なのか。どんな経緯であってもHIV感染症である限り、提供される行政サービスは同じのはずだ。あなたたちは我々に無駄な仕事をさせている」とぼくは猛抗議しました。その結果、この無意味な書式は撤廃され、「診断に至る経緯」を毎年書く愚行はやらなくてもよくなりました。そもそも、HIV感染者は一度受診したら、ずっと治療を継続しなければなりません。「毎年書類を更新」することの必然性すらないのです。ですから、現在は兵庫県と折衝して、「自立支援医療の書類を毎年更新することを止めましょう」と提案しています。
物分りが悪く、現状維持に流れやすい行政サイドと辛抱強く交渉事をするのは大変です。しかし、それは何かの「未来」をもたらす仕事であり、やりがいのある仕事です。他の人の役にもたちましょう。

一方、毎年同じ患者の「診断に至るまでの経緯」を手書きする作業はまったくの時間の無駄であり、意味はありません。率直に言って、受け取る行政サイドもちゃんと読んでいないと思います(何が書いてあっても、もたらされる結果は同じだからです)。平成24年に「ニューモシスチス肺炎で診断した」と書いて、平成25年に「カポジ肉腫で診断した」と書いても、おそらく誰も気づかないでしょう。こういう露骨に無駄な書類仕事に時間をかけるのは主観的には極めて苦痛です。 タイムカッターになる、とは必ずしも「5分間を捻出する」という意味ではありません。主観的に使ってよかった時間を増やし、徒労の時間を減らす、なくすということです。
楽をするためには苦労せよ、とぼくはよくいいますが、「そういうこと」なんです。

 

退屈な時間を作らない

ぼくは退屈を知らない人です。複数の作業を並行して並べています。
それは、マルチタスクではありません。マルチタスクは案外、効率が悪いんです。そうではなく、やる仕事はいつも一つ。集中できる仕事を一つだけやっていきます。
しかし、同じ仕事を続けていると退屈しますし、気持ちが乗らないときもあります。そういうときのために「別の仕事」も用意しておくのです。で、別の仕事(一つ)に集中する。結果的にはマルチタスクになるわけですが、一つのタスクしかしないとはそういう意味です。

気持ちが乗っているときの30分は気持ちが乗らないときの30分とは生産性がまったく違います。ぼくは気持ちが乗っているときであれば、例えば6000字くらいの原稿は30分くらいで書き上げることができます。しかし、気持ちが乗っていない場合は何時間かかっても数千字の原稿が埋まりません。「そういうこと」です。

また、シングルタスクにはボトルネックが存在します。パンツを履かないと、ズボンが履けないというやつです。例えば、本を書く時、その本の仕事だけしていると、例えば編集サイドに原稿の校正を頼んでいる間はやることがありません。「退屈」な時間が出来てしまいます。ぼくは翻訳を含めるとだいたい7,8つくらいの出版物の制作を同時進行でやっていますが、これくらいタスクがあれば、ボトルネックはまず消滅します。

こうやって、生産性は上がっていきます。ぼくは年に数冊、多いときは10冊近くの本を出します。また、原著論文も年数本は書いています。しかし、本の執筆にしても研究にしても、とりかかってから完成するまでにたいてい5年から7年くらいかかっています。できてくるプロダクツだけを見ていると、数カ月で完成させているように見えても、実際にはものすごい時間をかけて作っているのです(まあ、論文の場合はrejectされて再提出、の時間もありますし、書籍も出版社に断られ、断られで、出してくれる出版社探しに難渋することもありますが)。

 

出来た時間は、慈しむ

さて、こうやってタイムマネジメントを活用し、時間を捻出するのですが、作り出した時間はどうやって使えばいいでしょうか。

例えば、家族との時間です。うちは共働きなので、ぼくが仕事ばかりやっていると妻の負担が大きくなります。夫婦の対話、親子の対話も大切です。ゆっくりとした時間を家族と過ごすために、一所懸命時間を捻出するのです。まさに「楽をしたければ、苦労せよ」です。

音楽を聴く時間、小説を読む時間も大切です。ぼくはたいていの書物は速読で読みますが、小説は速読すると面白さがこぼれ落ちてしまい、「かえって無駄」になってしまいます。New England Journal of Medicineのサマリーはポッドキャストで1.5倍速にして聞いていますが、落語を聞くときはスピードを速めると魅力が半減しますから、1倍速で聞きます。落語は講義や講演のスキルを高めるのにもとても役に立ちます。とくに勉強になるのは「間」のとり方です。講義って沈黙している時間がとても重要なんです。たくさんの情報を詰め込んで誰にも読めないスピードでスライドをバンバン回して喋りまくる、みたいなレクチャーは相手に届きません。つまり、自己満足にしかなりません。

時間を削り取るのも、時間をゆっくり使うのもどちらも「時間へのリスペクト」への表現型に過ぎません。そして時間に振り回されず、時間を使いこなすようになれば、心に余裕が生まれ、仕事の生産性も高まります。プライベートライフも充実します。時間泥棒にもならず、時間の奴隷にもならないために、日本の医者は大きなパラダイムシフトを要しているのです。

 

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岩田 健太郎(いわた・けんたろう)
1971年島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。1997年、島根医科大学(現:島根大学)を卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院内科などでの研修を経て、中国で医師として働く。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。2004年に帰国し、亀田総合病院に勤務。感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任し、現職。
著書に『1秒もムダに生きない 時間の上手な使い方』(光文社新書、2011)『バイオテロと医師たち』(集英社新書、2002)、『感染症外来の事件簿』(医学書院、2006)、『感染症は実在しない』(北大路書房、2009)、『麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか』(亜紀書房、2009)など、多数。
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