医師が医療に殺されないために【前編】

勤務医が“自分自身”のために行うべきメンタルケア

鈴木 裕介 氏(医師/ハイズ株式会社 事業戦略部長)

 

医療業界は「ブラック」産業!?

まず、医師のメンタルストレスについてのあらましをご紹介します。
以下の表をご覧ください。産業別でメンタルヘルスに問題を抱えている職員の割合が最も多いのは、なんと「医療・福祉」業界。悪名高いIT産業を抑え、堂々の1位なのです。医療業界は「ブラック」産業と言っても差し支えないでしょう。

 

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出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」(平成24年)

 

また、日本医師会が施行した勤務医対象のアンケートの最新版によれば

  • ・5人に1人の医師が、「自分は健康ではない」と自覚
  • ・約6.5%の医師が、抑うつ症状尺度で中等度以上の抑うつ状態
  • ・約3.6%の医師が、実際に自殺や死ぬことを毎日または毎週考えている
    (参考:日本医師会 勤務医の健康支援に関する検討委員会「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査報告書」(平成28年6月))

と、かなり衝撃的な調査結果になっています。本邦の死因の順位として、「自殺」は30代では第1位、40代では悪性新生物に次いで第2位。我々の世代において、うつや自殺は決して遠い世界の出来事ではないのです。
(参考:厚生労働省「人口動態統計年報 主要統計表」(平成23年12月1日))

 

「身体からの悲鳴」に気付けるか

このように、医療現場はメンタルヘルスの観点でとてもハイリスクな職場であるのが実態なのです。では、メンタル不全のサインをどのように捉えれば良いのでしょうか。 ここでは分かりやすいように「うつ病」を例にお話しします。ご存知のように、うつ病の初期症状は身体症状になります。以下のような症状が典型的です。

  • ・(夕方よりも)朝がしんどい
  • ・ぐっすり眠れない
  • ・仕事の能率が落ちている
  • ・電子カルテでミスタイプが多い
  • ・なぜか涙が出てくる
  • ・頭に「もや」がかかったような状態が続いている
  • ・原因不明の頭痛、胃痛、吐き気がある
  • ・性欲が明らかに落ちている

これらは心のストレスが身体に影響を与え、悲鳴を上げているサインです。大事なことは、これらのサインに気付くことで自分のメンタル不調を疑えるかどうか。教科書的な知識は持っていながら、いざ対象が自分となると急に感度が下がってしまうことはあり得ます。まさに「医者の不養生」。これを地で行っているのが医師のメンタルヘルスの現状かもしれません。

 

デキる医師ほどうつになりやすい?

デキる医師ほど、うつになりやすい。こう言ったら皆さんは不思議に思うでしょうか? ここでは、ドイツの精神医学者H.テレンバッハが提唱した「メランコリー親和型性格」というものを復習してみましょう。「メランコリー」とは“ゆううつ”の意味で、ゆううつに親和性の高い性格、というストレートなネーミングです。以下のような特徴があります。

【メランコリー親和型性格の特徴】
・ルールや秩序を守り、几帳面
・自分の仕事に対する責任感が非常に強く、完璧主義
・他者を重んじ、親切・律儀・誠実
・衝突や摩擦を避けるために、自ら折れることができる(むしろ、折れがち)

これ、いわゆる「デキるドクター」の性格にかなりの部分が当てはまっているのではないでしょうか?
まさに模範的で、職場で高い評価を得やすいキャラクターです。学生時代から「品行方正のよい子」もしくは「ムードメーカー」的な立ち位置を続けてきた方に多い性格であり、上の世代にも下の世代にも同世代にも全方位的に高い評価を得ていることが多いです。

接する人が自分に何を期待しているかが分かってしまうので、そこに先回りして自らを適応させることにとても長けている。長らくそのようにして多くの人からの信頼を勝ち得てきた背景があり、そのやり方はその人の「必勝パターン」でもあるのです。これが行き過ぎると「過剰適応」と呼ばれる状態になり、心身の不調をきたすリスクが大きく高まります。

30~40代の中堅ともなれば部下も出来て、責任のある立場におかれる機会も増えるでしょう。元々の性格傾向に職責が加わり、自らのキャパシティの限界になるまで頑張り続けてしまう。中堅世代の医師のうつは、このようなケースが多いのです。思い当たるフシのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

「弱みを見せる勇気」を持つこと

ここで、先述のアンケートの中でもうひとつ我々にとって示唆的な結果をお伝えします。

2人に1人の医師が、「体調不良があっても他の医師に相談しない」と回答

この結果から声を大にして言いたいことは、そもそも医療のプロフェッショナルである我々医師にとって、誰か他人に助けを求めるということは実は難しいスキルなのだ、ということです。追い詰められてしまいやすい人の根本にあるのは、誰かに援助を求めることで自分の評価が下がったり、「できないやつと思われる」リスクを取ったりするくらいなら、「自分一人でやったほうがましだ」といった心理です。

しかしながら、適切なタイミングで援助を求められること=援助希求能力はストレスマネジメントの根幹的な技術のひとつであり、これを育むために一番必要なのは誰かに「弱みを見せる勇気」です。気軽に頼み事をできるような相手や、ピンチになったときにその心情を吐露したり駆け込んだりできるような関係を普段から確保しておくことが重要なのです。できれば、職務上直接の利害関係がない人であることがベターです。

何事も備えあれば憂い無し、メンタルヘルスマネジメントは災害時のマネジメントと似ています。皆様に、ピンチのときにヘルプをお願いできる適切な相談先はあるでしょうか。もし思い当たる人がいるのであれば、その関係性を大事にメンテナンスしてください。もし見当たらなかったとしたら、今からでも構築していき、まさかのときに備えましょう。

 

具体的なストレス対策

次に、具体的なストレス解消方法について述べていきます。

①「72時間完全休養」
これは、休職や退職の前にぜひ試すべき選択肢です。72時間、完全に休養を取れれば精神的疲労はかなり改善しますし、これで治らなければ軽症でないことがわかります。
ポイントは外界との接点を断つこと。PHSや携帯電話はオフにし、どうしても気になる引き継ぎや連絡事項は簡易なメモや他者を通じて行います。メールやSNSにも極力触れないのがベターです。これらの心がけだけでも大きなダメージはかなり回避できるでしょう。

②「悩みのジャグリング」をやめ、タスクを全て書き出す!
悩みのジャグリングとは、複数の悩みやタスクが頭の中をグルグルしている状態のことです。やるべきことが複数あったときに自動的に生じ、タスクの実体以上に我々にストレスを感じさせるものです。
複数の悩みやタスクに追い詰められていると感じたら、一度紙に全部書き出してみることをお勧めします。その上で、「重要度」と「緊急度」を軸に整理してみます。問題やタスクを全部書き出すことで、自分を悩ましている問題の数がそんなに多くないことが可視化され、また俯瞰することで状況をよりクリアに判断することができます。

ストレスに対する「受け身」を覚えることは、自分だけでなく周囲を守っていくことにもつながります。次回は、上司が知っておくべき部下や同僚のメンタルストレスケアについてお伝えします。

 

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鈴木 裕介(すずき・ゆうすけ)
2008年高知大学医学部卒業。医師免許取得後、国立高知病院で初期研修を修了し、高知大学附属病院、細木病院など高知県内の病院に勤務。一般内科診療やへき地医療に携わる傍ら、高知県庁内の地域医療支援機構である一般社団法人高知医療再生機構にて広報や医師リクルート戦略、医療者のメンタルヘルス支援などに従事。2015年より現職。
著書に『ハグレ医者 ~臨床だけがキャリアじゃない~』(共著・日経BP社)、『Youtubeでみる身体診察』(共著・メディカルレビュー社)『3ステップで成果を上げる!チームビルディング超入門』(共著・監修・メディカ出版)などがある。
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