医師の目から見た「働きやすい病院」とは 後編

働きやすい病院の見極め方

瀧野敏子 氏(NPO法人イージェイネット代表理事)

「働きやすい病院」の評価・認証を行っている、NPO法人イージェイネット代表理事・瀧野敏子先生へのインタビュー後編です。
前編では、病院機能評価の軸となるポイントや、就労環境をめぐる課題の変化について伺いました。後編では、働きやすい就労環境を探す前に医師側に求められる姿勢や、「働きやすい病院」の見極め方についてご紹介いただきます。

 

医師に求められる姿勢

就職先あるいは転職先として病院を探す前に、改めて医師に考えてほしいことがあります。それは「良い医療を提供するために自分は何ができるのか」という点です。
どの病院の経営者も良い医療を提供したいと考え、そこに貢献できる医師の採用を望んでいます。そのため、自分の都合ばかりで「働きやすい病院」を探すのではなく、自分が患者さんに、病院に、一緒に仕事をする人に何を提供できるのか、ということを最初に考えてもらいたいと思います。

さて、自分が何をしたいか、何ができるかを捉え直すためには、まず自分の医師人生の棚卸しをしてみるのがよいでしょう。

例えば、今まで何をしてきて、3年後、5年後、10年後にはどうなっていたいのかを、医師人生とプライベートの両面について、すべて書き出して年表にしてみます。そもそも自分が何をしたくて医師になったかというのも、日々の仕事の渦中にいると見失いがちです。だから一度、自分の医師人生をまとめて整理してみましょう。

また、「医療を通じて他者に貢献する」という前提を踏まえた上で、現時点での、自分の人生での優先順位を考えてみましょう。絶対に譲れないものもあれば、多少なりとも譲歩できる部分もあるはずです。自分がどのような医療現場で何をしたいのか、どのような技術を磨きたいのかなどを整理することで、医師として希望する方向性が見えてきます。

また、自分の医師として、あるいは人間としての「売り」が何かというのも、意識して書き出してみましょう。例えば、「約束は必ず守る」「初めて会った人に絶対に好かれる自信がある」といったことですね。医師はサービス業であり人と関わる仕事ですから、こうした人間的にプラスになることは雇用する側からしても大事なことです。自分で気づいていないだけで、他の人から見るとすごいということもありますので、親類や友人、先輩医師などに聞いてみるとよいでしょう。

このように自分を「見える化」する作業というのは、ついおろそかになりがちですから、意識的に取り組むことをお勧めします。
転職先の病院を選ぶ前に、自分がどのような医師(人間)であり、病院に対してどのような価値を提供できるかということを、改めて整理するとよいでしょう。

 

「働きやすい病院」の見極め方

インタビューの前半で、NPO法人イージェイネットが「働きやすい病院」を評価する際の4つのポイントとして、「(1)トップのコミットメント」「(2)ハード面」「(3)ソフト面」「(4)コミュニケーション」という4つの軸をご紹介しました。
この軸に沿って病院が「働きやすい」かどうかを知るためには、面接などの折にいろいろな形で質問を投げかけてみるとよいでしょう。
重ねて言いますが、まず「良い医療を提供したい」という姿勢が大切で、それがなければ「自分が楽をしたいだけ」ととられてしまいます。注意しましょう。

 

(1)トップのコミットメント

経営者の職場環境改善・充実への熱意を知ることが大切です。
人間同士なので、理事長や院長が本気で取り組んでいれば、その熱意は必ず伝わってきます。
病院も医師を確保するのに必死ですから、突っ込んで聞けば本音で話してくれるはずです。「医師のワークライフバランスについてはどう考えておられますか? 例えば、医師数が充足していないと『当直翌日は午後から帰っていいよ』というようなことも言いづらいと思いますが、この病院では実際どのようになっていますか?」といったことを聞けばよいかと思います。
そこで「実際にはなかなか難しいんだよね」というような答えが返ってきたら、それはそういう病院だということです。
でも、本気で取り組んでいる場合は、ときに感動すら覚えるほど本当に熱心に語ってくれますよ。

 

(2)ハード面

「制度があるか否か」よりも、「制度の運用実績があるかどうか」が重要になります。
例えば女性医師の場合、「産休や育休の制度はありますか?」と尋ねたら、ほぼ100%「あります」と答えが返ってくるでしょう。実際にどれぐらいの取得実績があるかを確認しましょう。産休・育休については看護師のデータを出されることが多いですが、医師の場合の取得実績を確認しましょう。

ただ、休みのことや自分の権利のことばかり質問すると、当然ながら嫌がられます。「患者さんに良い医療を提供するためには、医師が疲れきっていると医療事故につながるリスクもあるし、休むべきときに休めるというのは大切」というスタンスで、「貴院に何か誇れる制度や実績はありますか?」と聞いてみるのがよいでしょう。

 

(3)ソフト面

ハード面と同じく、福利厚生などの制度があるかどうかよりも、実際にスタッフ同士で助け合えるような人間関係があるかどうかが大事です。
「子育て中の医師が保育所に預けた子どもが熱を出して、急に帰らなければならないような場合もあると思うのですが、そういうときは実際現場ではどのように動いているのでしょうか?」というような形で、現場での対応、人間関係について尋ねましょう。現場の雰囲気まで聞き出すのはなかなか難しいかもしれませんが、特に子育て中の女性医師などはネックになるところですので、できるだけ聞いてみましょう。

 

(4)コミュニケーション

トップから現場へ、現場からトップへの意思疎通が、具体的にどのような形で行われているかを聞いてみましょう。年に数回、院長が全職員を集めて話をするなど、トップの職場環境改善の意欲を末端まで届ける努力をしているかどうか。また現場からトップへの意思疎通という点では、下の意見を拾い上げて対応してくれる具体的な枠組み、ノウハウがいくつあり、どれだけ実践されているかを尋ねます。こうした枠組みがあるところは、たいてい人間関係がうまくいっています。

 *

「患者さんにとって豊かな医療を提供する」という観点から、「働きやすい」病院の考え方、見極め方についてご紹介をしてきました。
医師の側に「良い医療を提供したい」という姿勢があってこそ、良い医療を提供する「働きやすい」病院に受け入れてもらうことができます。医師であるみなさん自身が何をしたいのか、患者さんに、病院に、一緒に仕事をする人にどのような価値を提供できるのかをしっかり見極めた上で、「働きやすい」病院に巡り会えることを願っています。

(聞き手・エピロギ編集部)

 

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瀧野敏子(たきの・としこ)
NPO法人イージェイネット代表理事
1981年大阪市立大学医学部卒業。東京女子医科大学での研修を経て、1983年より同学で助手を務める。1984年より国立小児病院(現 国立成育医療研究センター)研究医。1987年淀川キリスト教病院内科に入職。2004年ラ・クォール本町クリニック設立。2005年にNPO法人イージェイネットを設立し、以来女性医師のキャリア形成・維持・向上のサポートや、働きやすい病院評価(ホスピレート)事業に従事。
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