院内保育所が急増中! 求められる細かなニーズへの対応

育児をめぐる女性医師支援の現状

厚生労働省統計の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、全国の医療施設に従事する女性医師数は、平成24年12月末の時点で約57,000人、全体の19.6%に上ります。平成4年以降の推移をみると、毎年約1,500~2,000人ずつ増加しており、全体に占める割合は今後も増加していくと思われます。
こうした状況の中、政府が策定する「『日本再興戦略』改訂2014―未来への挑戦―」(2014年6月24日閣議決定)内では、「女性医師が働きやすい環境の整備」を掲げ、復職支援、勤務環境改善、育児支援等の取り組みを推進しています。
今回は、これらの取り組みの中から、院内保育所に対する現状の取り組みについてご紹介します。


「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」(日本医師会、2009)によると、「仕事を続ける上で必要と思われる制度や仕組み・支援対策」として64.8%の女性医師が「託児所・保育園などの整備・拡充」を挙げています。これは挙げられている項目の中でトップを占めています。また、病児保育(61.5%)、保育施設やベビーシッターの斡旋(38.6%)、保育施設利用の際の保育料の助成(29.2%)など、保育関連の項目を挙げている女性医師が多く、関心の高さが伺えます。

 

急速に進む院内保育所の設置

総務省は「医師等の確保対策に関する行政評価・監視」において、平成26年1月1日時点での院内保育所設置状況の調査結果を公表しています。
これによると、調査対象となった142医療機関のうち、109機関で112の保育所が設置されていました。76.8%の医療機関に保育所があることになります。このうち、平成17年~21年に32施設、平成22~26年に25施設の保育所が設置されており、ここ10年ほどで保育所の設置が急速に進んでいることが分かります。

 

 

 

厚生労働省が発表している認可外保育所に関する資料を参照すると、院内保育所蔵家の傾向がより明確に分かります。

 

 

平成19年度までは院内保育所数が2,200前後で増減を繰り返していますが、平成20年に2,371カ所になり、以降平成24年の2,667カ所まで徐々に伸びています。その影響もあり、院内保育施設の児童数は、平成19年度には37,000人だったのが、平成24年には50,000人に達しています。

 

公的支援が院内保育所を後押し

平成20年度から院内保育所の設置が相次いだ理由として、平成19年に当時の政府・与党が取りまとめた「緊急医師確保対策」の影響が挙げられます。政府はこの中で「女性医師等の働きやすい職場環境の整備」を対策のポイントとして明示しました。これにより、それまで看護師確保策として行われていた院内保育所の整備が女性医師支援も視野に入れたものになり、病院内保育所運営事業の予算が引き上げられ(※)、病院内保育所施設整備事業が創設されました。その事業により、医療機関に新たな病院内保育所を設置するために必要な工事費等の補助を受けることができるようになりました。
※平成19年13億3300万円から平成20年15億8700万円に引き上げ。

こうした公的な後押しを受けて、病院内保育所は年々増加していきました。
平成26年1月の総務省調査では、対象となった112の院内保育所のうち、設置に際して補助金等を活用した院内保育所は全体の25%、運営について補助金等を活用している院内保育所は50%であり、公的な支援が一定の役割を果たしていることが分かります。

なお、上記の2つの事業は2014年度に「地域医療介護総合確保基金」が設置されたことに伴い廃止されていますが、同基金でも同様の取り組みが行われています。また、厚生労働省が実施している「事業所内保育施設設置・運営等支援助成金」や各都道府県・市町村が実施している補助金なども、病院内保育所の設置や運営を支援する仕組みとして活用されています。

 

半数以上が「24時間保育」「休日保育」に対応

「医師等の確保対策に関する行政評価・監視」(総務省、2015)では、調査した112院内保育所のうち、24時間保育に対応しているところは全体の6割、休日保育に対応しているところは全体の半数でした。このほか、緊急一時保育(※)に対応している保育所が約4割、病児等保育に対応しているところは全体の4分の1、児童保育に対応しているところは1割5分という結果になっています。
比較するデータとしてはやや古いですが、全国保育協議会が平成23年に行った調査では、休日保育に対応している全国の保育所はわずか7.4%でした。それに比べると、院内保育所はライフサイクルが不規則になりがちな医療従事者に配慮したサービスの提供に努めていることが伺えます。

 

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今後の課題は細かいニーズへの対応

総務省の調査では、医療機関から、院内保育所の設置や運営が出産育児を理由とした離職の防止、短期での職場復帰、新規採用者の増加などにつながったとする意見が聞かれたことを挙げ、医師や看護師等の離職防止及び再就業に一定の効果があったとしています。

他方、厚生労働省の主導で平成26年から行われている「女性医師のさらなる活躍を応援する懇談会」の報告書(平成27年1月)では、院内保育所を設置できる医療機関の多くは既に設置しているとした上で、今後の取り組みの方向性として以下の点を挙げています。

  • 〇様々な保育サービスを利用できる環境を整備することにより、子どもが小学校に入学した以降も含め、育児等をしながらでも医師としての業務に集中できる環境を確保することが重要である。

  • 〇院内保育所の運営にあたっては、全職種が利用できるとした上で、早朝からの保育や保育時間の延長、24時間保育、食事の提供、駐車場の優先利用など、柔軟な対応が必要である。

  • 〇子どもが病気にかかった場合でも柔軟に対応できる病児保育の確保は、育児をしながら安定的に働き続けるために重要である。

  • 〇規模の小さい医療機関など、院内保育所の設置や病児保育の対応ができない場合、保育所の共同設置や共同利用、民間のシッターサービスが利用しやすいような工夫などが必要である。

女性医師が増加し、働きやすい環境の整備が進む中で、院内保育所の設置自体はある程度進められてきました。その効果もあり、利用する児童も増加を続ける中、今後は医療従事者のニーズにより細かく対応した、柔軟なサービスの提供が求められていくことになりそうです。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考>

厚生労働省「平成24年(2012年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/12/index.html

日本医師会「女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」(閲覧日:2015年4月20日)
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090408_2.pdf

総務省「医師等の確保対策に関する行政評価・監視」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/91719.html

厚生労働省「保育所関連状況取りまとめ(平成26年4月1日)」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000057750.html

厚生労働省「平成24年度 認可外保育施設の現況取りまとめ」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000053289.html

厚生労働省「医師確保対策」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kinkyu/

全国保育協議会「全国の保育所実態調査報告書2011」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.zenhokyo.gr.jp/cyousa/201209.pdf

厚生労働省「女性医師のさらなる活躍を応援する懇談会 報告書」(閲覧日:2015年4月20日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000071857.html

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