管理職としてのマネジメント力の磨き方 後編

多様性を受け入れチームメンバーをサポート

大嶽浩司 氏(昭和大学医学部麻酔科学講座 主任教授) 

昭和大学医学部麻酔科学講座主任教授・大嶽浩司先生へのインタビュー。前編では、医療現場でのマネジメントのコツや、後進の指導、医師自身のキャリアマネジメントなどについて伺いました。
後編では、リーダーシップのあり方や、多様性を大切にするマネジメントについて話を伺います。

リーダーシップは ”How can I help you?”

私は一時期、アメリカのビジネススクールに通っていたのですが、そこではリーダーシップというものについて頻繁に語られていました。アメリカのリーダーシップは、当初、私が考えていた「俺についてこい」というものではなく、「いかにチームメンバーや組織のために尽くすか」というものでした。あちらのリーダーは”How can I help you?”と常に訊いてくるんです。「僕はどういうふうに君を助けることができるのか?」って。

今でもよく覚えているのが、ハーバード大学のマサチューセッツ総合病院に面接に行ったとき、当時の麻酔科のトップがソファーにもたれかかりながら私に”How can I help you?”と訊いたこと。私が「小児麻酔をやりたい」という話をしたところ、「うちの小児麻酔はあまりお勧めしない」「近隣のボストン小児病院はすごくいいところなのだが、3年待ちになる」「他にも選択肢があるんじゃないか」というように、いろいろなアドバイスをいただきました。

リーダーの役割は、それぞれのチームメンバーが活躍できるように、あるいは夢に一歩でも近づけるように、どうすればいいかを考え、環境を作っていくことです。そのためにも、話をよく聞いてニーズやモチベーションを知っておくことが重要になります。

 

ミドルの管理職はカレッジスポーツのコーチに近い

もう一つ、リーダーの重要な役割が、チームの方向性を揃えることです。方向性というのは大きいところから小さいところまであって、大きいところでいうとチームのビジョンを揃えること。小さいところでいうと、日々のミーティングで「今日はこの患者さんがこういう状態で、こういうリスクがあるから注意しましょう」といった点を共有することなどです。

30代、40代のミドル世代が率いるチームには、医師もいれば看護師もいますし、技師もいるかもしれません。年齢も能力も役割もまちまちです。チーム全体からみれば小さい仕事でも、やっている当人にとっては大事な仕事と捉えていることがよくあります。また、それぞれのメンバーが小さく切り取った部分では正しい判断をしていても、全体で見るとそれぞれの判断と判断がぶつかってしまい、うまい結果が残せないこともあります。
そうした中で「今はこの患者さんに集中して、それは後でやろう」というように方向性を揃えて、チームをマネジしていく。うまく導いていく必要があります。

能力や特性にばらつきのある人たちを率いていくという点で、ミドル世代の管理職はカレッジスポーツのコーチに近いかもしれません。プロスポーツであれば、監督はプロとして完成された選手を率いるので、戦術を与えるだけでいい。でもカレッジスポーツの選手は能力的にでこぼこ。プロに行くレベルの人もいれば、そうでないレベルの人もいます。
完成しきっていない人たちをまとめて、同じ方向を向いてもらい、チームとして力を高めていくこと。それがミドル管理職の役割です。

 

多様性を肯定するマネジメント

多職種で取り組む、診療科を横断するといったチームの多様性、つまりダイバーシティは重要で、この多様性がチームに力を生みます。
ただ、多様な価値観を理解してチームをマネジメントしていくというのはとても難しいです。例えば、9時5時で働くお母さん医師と、同年代の独身でがんばっている女性医師を同様にマネジするのは非常に難しい。それはもうそのまま受け入れるようなチームにするしかないですよね。多様な価値観や多様な貢献の仕方があるということをメンバーに理解してもらい、互いに感謝し合える環境を作っていくしかありません。
特に麻酔科のような外科系の職場では、勤務時間が後ろに長くなりがちで、5時で帰らなきゃいけない方はすごく引け目を感じていたりします。ただ、彼女たちは他の人を助けたくないわけではなくて、家で別にやることがあって、帰らざるを得ないから帰っているんです。そして引け目を感じている分、昼間にはすごく献身的にがんばってくれていたりします。そういう働き方に価値があると、きちんと認めてあげること。そうすれば、いざ何かあったときに力になってくれます。

医師は特定の診療科内だけで、下手をすると診療科内の特定のグループの中だけで働いていたりします。そのせいか「この科の働き方はこうだ」「あのやり方は間違っている」というように、自分のポリシーや生き方にないものを受け入れなくなりがちなのですが、これは非常に良くないことです。

近頃はますます働き方が多様化し、複雑化しているため、さまざまな貢献の仕方を理解し認めてあげることは、より大事になってきています。

 

 

いろいろな人と混ぜられることで視野が広がる

昭和大学では、30代、40代のミドル世代向けにワークショップや1泊2日の合宿を行っています。
合宿には医師や看護師、技師、事務など多職種30~40人ほどが集まります。6つぐらいの班に分かれて、例えば人材育成といった病院の抱える問題について自分たちでテーマを出し、自分たちで解決策を考え、みんなの前で発表する。そうしてだんだんと議論を深めて、合宿の最後にはソリューションを提案します。

普段、病院では顔を合わせないような人とも一緒になって、それぞれの現場で抱える問題を出し合って、解決策を考えていく。そのうちのいくつかは実際に病院の施策として採用されています。マネジメント力を身につけるという意味では、いろいろな人と混ぜられるので、自動的に視野が広げられるわけですね。医師だけじゃなく、みんなが病院のことをよく考えているんだということがよく分かります。

 

医療は社会的な行為

例えば大学病院とか学会といった大きなチームとして動く場合は、少なくとも数年先、ときにはもっと先のビジョンをチームでシェアして動いていくことが大切です。
医療は社会的な行為であり、社会の動きと密接しています。この15年ほどで患者の要求はずいぶん変わってきました。例えば医療安全への関心が高くなり、医事係争が増えています。これは医師にとってはあまり嬉しくないことですが、「そんなのはおかしい」といってもしょうがないんです。
日本の医療は社会からお金をもらっている部分が大きいので、医師が好む好まざるに関わらず、社会インフラとしての役割があります。社会の動勢やニーズが正しいか正しくないかは、医師が勝手に決めることではなく、むしろ社会が決めること。医療をやっている以上、社会的な動きには必ず巻き込まれなくてはいけない。
社会に満足してもらうというのはすごく大事で、それを理解せずにチームを導く方向を誤ると、チーム全体が不幸になってしまいます。

患者安全だったり、感染制御だったり、どんどんスタンダードが変わっている中、コンプライアンスはますます厳しくなっています。ミドル世代はそういう知識を、「現場の医療技術とは関係ない」と切り捨てるのではなくて、身につけておくべきでしょう。
今後、おそらく医療に対する要求は高まっていく一方なので、医療倫理や安全管理といった面で社会のニーズに応えることはますます必要になってくると思います。

 

マネジメントに終わりはない

チームで動いているとき、全員が100%満足ということはありせん。どのメンバーも少し我慢してがんばっている部分があります。また、チームの構成員も診療方法も日々変わっていきますし、そもそも患者も毎日変わります。
マネジメントは動いている目標を追っているようなもので、常により良い形があり、山登りのように「山頂に着けば終わり」ということはないんです。だから「マネジメント力を磨くんだ!」と身構えてがんばるというよりは、人の話、意見をよく聞きながらマネジメントに取り組んでいくということになります。

できればなるべく若いうちから、医師だけではなく病院内のいろいろな人と話しておくことをお勧めします。いきなり「意見を言ってくれ」といっても、最初から本音を言ってくれる人はいませんよね。若いうちにやるような基本的なことで言うと、まずは挨拶をする、名前を覚える、顔を覚えることから始めましょう。

マネジメント力は、身につけたいと思い、心を配れば誰でも身につけられるもの。
いろいろな人に興味を持ち、人の話をよく聞いて、常により良いマネジメントを追求し、よりよい職場環境を作っていきましょう。

(聞き手・エピロギ編集部)

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大嶽浩司(おおたけ・ひろし)
昭和大学医学部麻酔科学講座主任教授。1998年東京大学医学部卒業。日本のほか、オーストラリア・アメリカで臨床麻酔医として勤務。2004年よりシカゴ大学ビジネススクールMBAに進学し、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて2年間勤務したのち、2008年より帝京大学医学部附属病院経営企画室に勤務。2011年より自治医科大学地域医療センター地域医療政策部門長。2013年9月より現職。
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