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世界最大規模の国際ヘルステック・カンファレンス
「Health 2.0 Asia – Japan」開催!
<前編/1日目>

皆さんは「Health 2.0」というイベントをご存知でしょうか。
Webの新しい時代の幕開けを告げた「Web2.0」を思い出させるこの言葉。
実は、医療・ヘルスケア分野における最新テクノロジーと
それを活用した先進事例を紹介する「世界最大規模の国際カンファレンス」のことなのです。
その日本版である「Health 2.0 Asia - Japan」が先日、東京・虎ノ門で開催されました。
日本初開催となるこのヘルステックの祭典を『エピロギ』が特集レポートいたします。

そもそも「Health 2.0」とは

「Health 2.0」と書いて「ヘルス・ツーポイント・オー」と読みます。
発祥はアメリカのカルフォルニアにあるテクノロジー開発の聖地、シリコンバレー。
世界的な医療・ヘルスケア市場の拡大を受け、シリコンバレーでは多くの医療・ヘルスケアテクノロジー(ヘルステック)の開発が行われています。
「Health 2.0」はそうした医療・ヘルスケア領域のテクノロジー開発者の情報共有や連携を活性化させるために生まれたイベント。間違いなく今後の業界をけん引するであろう技術と情報、そして人の発信・共有・交流の場としてヨーロッパ各地へと拡大。いまや世界中が注目する一大ムーブメントとなっています。
今回、その「Health 2.0」が初めて日本に上陸。
「テクノロジーが、ヘルスケアをリデザインする。(Technology Redesigning Health Care)」をテーマに、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのイノベーターはもちろん日本の医療・ヘルスケア業界をリードするプレイヤーが一堂に集結。今後のイノベーションとコラボレーション、そして問題解決に向けたアクションについて議論されました。
ここで取り上げられる情報は確実に今後の医療業界・ヘルスケア業界の潮流となるものばかり。ビジネス・プレイヤーだけではなく、医療を支える医師にとっても見逃せないイベントなのです。

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いよいよ開催「Health 2.0 Asia - Japan」!

世界最大規模のヘルステック・カンファレンス。その日本初開催の地として選ばれたのは虎ノ門ヒルズ。奇しくも日本の近代医療の先駆者、杉田玄白の墓所からもほど近いこの場所で、世界と日本の「医療・ヘルスケア領域の未来」が交錯しました。
開催されたのは2015年11月4日・5日の二日間。この日は日本の医療・ヘルスケア業界にとって記念すべき日になったのではないでしょうか。
虎ノ門ヒルズに入るとすぐ「Health 2.0」のロゴが入ったTシャツを着た若いスタッフが声をかけてくれました。このイベントの運営にはヘルステックに興味を持つ多くの学生ボランティアが関わっているとのこと。この辺りからも注目度の高さが伺えます。

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業界の新しい構造が垣間見える

受付を済ませ、いよいよ会場へ。入り口で同時通訳用のイヤホンセットを受け取ると、国際カンファレンスという言葉が現実感を増してきます。
この二日間ではおよそ50名のもスピーカー、モデレーターらが自分の専門分野や実施しているサービスについてプレゼンテーションを行います。国籍を問わず、業界・分野をけん引するトップ・プレイヤーたちが自分の言葉で自らの取り組みについて話すのです。
各国の政府担当官。最新のテクノロジーを武器にビジネス展開を行う方々。起業し医療やヘルスケアの業界に新たなサービスを展開する医師の方々など、登壇者は実に多彩。現在の医療・ヘルスケア分野が医療従事者だけでなく、多くの異業種・異分野の方々との連携で形成されていることがよく分かる構成です。

■「Health 2.0 Asia - Japan」プログラムを見る

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Welcome to 「Health 2.0 Asia - Japan」!

記念すべき最初のスピーカーは「Health 2.0」の共同創設者の一人であるMatthew Holt氏。約20年前に来日した際のエピソードをユーモアたっぷりに語りながら「Health 2.0 Asia - Japan」開催までの道のりを振り返りました。また、もう一人の共同創設者でありCEOを務めるIndu Subaiya氏は来日することはかなわなかったものの、ビデオレターで喜びを伝えました。
そのあとに登場したのが「Health 2.0 Asia - Japan」の日本側主催者となったメドピア株式会社代表取締役社長であり現役医師でもある石見陽(いわみよう)氏。氏は「Health 2.0」のカンファレンスについて「特徴はスピード感」であると説明。非常に短い時間のなかで繰り広げられる膨大な情報の「渦」を楽しんで欲しいと述べました。またこの「Health 2.0」が単なる情報発信の場で終わるものではなく「交流」の場であることを強調。自身も交流を楽しみにしていると話しました。
つながること。これは、「Health 2.0 Asia - Japan」が取り扱うキーワード

クラウド
ウェブ
モバイル
unplutform(プラットフォームではないもの)

と直結するテーマでもあります。
行政と医師。
医師と患者。
患者と患者。
そして、全体のつながり。
テクノロジーがどのような「つながり」を実現していくのか。そして散在する課題をどう克服していくのか。
いよいよ怒涛のカンファレンス・セッションの開幕です。

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課題はプラットフォームとしての整備

初日、最初のセッションは「Government2.0」。マクロ的視点から市場の現状と課題把握を促すもの。国家レベルでの医療・ヘルスケア分野の認識と現状、そして展望についてのカンファレンスです。
登壇したのは一般社団法人医療経済研究・社会保険福祉協会の医療経済研究機構所長の西村周三氏。続いてイギリス、アメリカ、日本各国の医療・医療サービス担当官が登場。各国とも医療・ヘルスケア分野は拡大市場であるという認識のもと、「患者個々人の情報をいかに共有・活用していくべきか」について話し合われました。
現在、医療の現場が直面している課題は「電子カルテ化」に象徴されています。各国とも国の方針により電子カルテ化が急速に進みました。しかし、病院が活用する電子カルテの仕様は提供会社によってバラバラ。また、患者の診療情報を含む個人情報を取り扱うためのルールも未決。つまり、社会保障制度としてのプラットフォームとしての整備が追いついていないのです。

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このセッションで提示された課題は、現在の医療・ヘルスケア領域で展開されている「サービス」の課題とまったく同じ。これではいかに患者個々人の情報を集め、ビッグデータ化したとしても有効活用することは難しい状況なのです。
こうした課題に対し、今後登壇するスピーカーがどのような提言を行うのか。このあたりにも注目が集まりました。

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ビッグデータの活用

1日目のセッションで多く登場した言葉があります。それは「ビッグデータ」と「共有」です。
いずれも「Health 2.0 Asia - Japan」のキーワードとして上げられている「クラウド」や「ウェブ」、「モバイル」が実現するモノ・コトです。
いまやスマートフォンは単なる電話ではなく、常に生活者のポケットにある「情報収集端末」。さまざまなビジネス・プレイヤーがアプリケーションを作成し、モバイル・デバイスによる情報収集を行っています。ほぼすべての人々が持つスマホ。そこから得られる膨大な情報と、そこから得られる統計的価値。ビッグデータがもたらす医療・健康面への成果は計り知れません。
「ビッグデータ」の活用について具体的に述べられたのが「Health 2.0 and Big Data」というセッション。モデレーターを務めた川渕孝一東京医科歯科大学大学院教授は、「Volume(量)」「Variety(多様性)」「Velocity(速さ)」、そして「Value(価値)」で評価されると解説。医療・ヘルスケア分野は、膨大かつ多様な情報を扱い、活用する時代に入ったことを示唆しました。
これに対し、スピーカーとしてディスカッションに参加した日本アイ・ビー・エム株式会社の久世和資執行役員のプレゼンテーションでは、アイ・ビー・エム社が提供する人工知能「Watson(ワトソン)」の活用例を紹介。電子カルテやスマートフォンなどを通して収集された膨大な情報も人工知能の投入で適正な活用が可能になったことを示しました。
しかし、ここでもやはり「どうすれば個別のデータを接続・共有できるのか」という課題が提起されました。

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人工知能の活用と医療・健康への可能性

さて、これまでの医療・ヘルスケア分野で数値化・定量化が困難だった領域があります。それは、精神医療の領域です。この領域では臨床はもちろんのこと、治験の分野でも定量化・数量化が大きな課題になっています。
特に、この傾向が顕著なのは精神科領域。
うつ、認知症、統合失調症、強迫症、パニック障害。こうした精神疾患の多くは、精神科医との対話の中でどのような症状をもっているのか診断されます。つまり、ある方向から見るならば、この診断方法には「精神科医が患者を自分の物差しで判断している」と言われてしまう危険性が残されてしまうのです。常に重大な判断を迫られている医師にとって、このリスクは非常に恐ろしいものです。
このリスクに対し、人工知能は「類似症例検索と標準治療提案」という可能性を提示します。医師の診断と人工知能の提案。双方を検討し治療計画を立てることができれば、より適切な治療を提供することができるかもしれません。
このような人工知能の活用を具体的に進めている企業の一つが「Deep Dive by UBIC MEDICAL」に登場した株式会社UBIC MEDICAL(ユービック・メディカル)です。
彼らが提供するサービスは「転落・転倒防止システム」。
電子カルテなどに含まれる診療記録や看護師のコメントなど。自由に記載されたテキストデータの中からせん妄状態などの「予兆」を検出。転落・転倒リスクを予測するというものです。
人工知能を活用した医療・ヘルスケアサービス。
医療現場への人工知能活用はすでに始まっているのです。

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患者同士の情報共有

行政、医師。医療の現場にはもう一つ、重要なステークスホルダーがいます。患者です。イノベーションは常にステークスホルダーからの情報インプットによって発生するもの。しかし、医療・ヘルスケアの分野では、顧客である患者の「声」が取り入れられる機会は少ないといえます。
しかし、業界全体にイノベーションが必要とされている今日、患者の役割もまた大きく変わろうとしています。
患者にとっての情報共有は患者自身の生活の質向上、また精神的不安の改善にとって非常に重要だといえます。「patienslikeme」というアメリカのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)があります。これは患者同士が自分のプロフィールや疾病、病状、治療方法などを共有しようと立ち上げられたものです。各患者が告白するさまざまな「声」。これが業界にさまざまなイノベーションを生み出すきっかけとなってきました。
ディレクターであるRishi Bhalerao氏が登壇し、10年前位にサイトを立ち上げた経緯を話し、 「このサイトは患者を結び、患者の声を活かしていける。
私たちにはプライバシーポリシーもあるが「開放ポリシー」もある。
患者は自分の症状の情報も共有する。また、治療の状況情報も共有する。
投薬と副作用なども公開している。
こうした患者の情報が「先生」となる。
こうした情報は研究にも活用することができる」
と話しました。「patienslikeme」では現在も100を越えるプロジェクトに取り組んでいるとのこと。こうした取り組みに参加することで、患者もまた自らの健康に意識的になり、またそのデータを役立てることができたと言います。患者同士が情報を「共有」し、つながること。こうした取り組みは医師が立つ医療の最前線に患者も「参加」することにもつながります。医師としてこれが是か非か、さまざまな議論を呼ぶことでしょう。しかし、Rishi氏が繰り返した「我々はjourney(旅)の途中にいる」という言葉の通り、医療のあり方も変革の途にあることは間違いありません。

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「つながること」への旅路

patienslikeme」のように患者同士、あるいは医師と患者がつながるための取り組みは世界各地で始まっています。その状況について、八木亜希子氏を司会にしたパネルディスカッションが行われました。
日本で治験情報提供サービスを展開する株式会社クロエ取締役、牧大輔氏は「日本国内では「patienslikeme」のように活発なディスカッションが行われる前の段階」だといいます。患者はさまざまな情報を求めています。回復の望みをつなぐため、治験情報をも求めています。しかし、治験情報は一般生活者である患者にとって何の整備もされていない「わかりにくいもの」「使いにくいもの」でしかありません。情報が患者視点には作られていないのです。こうした形のない障壁が情報共有を妨げている状況。それが現在の日本だといいます。
日本肺癌学会理事長、光冨徹哉氏は「(治験の情報は)リテラシーが低い方だと情報の渦に巻き込まれ、正しい治療を諦めてしまうこともある。難しいんです」と警鐘を鳴らしつつ「現在は肺癌学会にも一般の方が来て勉強されている。とても良いこと。最近では患者コミュニケーションの支援や教育も行っています」と患者自身が情報を求め、医療に参加しようとする流れに対し、臨床サイドも前向きに向き合っていることを伝えました。
そして自身もがん患者である日経BP社、山岡鉄也氏はそれぞれの立場から「医師は癌患者になったことがない」「患者には医療、Web双方のリテラシーを持つこと必要」と提言。患者と医師、双方が対話を重ね双方の立場を理解していくことの重要性について言及。光冨氏も「一番大事なのはそれぞれの立場の意思疎通。かつてはドクター以外はみな部下のような印象だった。しかしいまはちがう。メディカルスタッフのコラボも大事。そして患者と向き合うことも大事。それぞれの人達がどういう悩みをもって、どうしているのかにも配慮が必要。だから上下のない“病院以外の場”で交流していくことが大事だと思う」と述べました。
「つながること」への旅路。日本をはじめ多くの国々が理想的な「連携」に向けて歩み始めています。

 

Afternoon Pitch Competition

さて、さまざまな提言が行われた「Health 2.0 Asia - Japan」初日。そのなかでもユニークなひとときだったのが「Afternoon Pitch Competition」。医療・ヘルスケア領域に新たなビジネスで挑戦しようという企業とそのサービスを「Health 2.0」のモデレーターとスピーカーが審査。優秀なビジネスに賞を贈呈しようというコンペです。プレゼンテーションを行ったのは5つの企業。トイレをメディアとしてユーザの健康データを収集、ビッグデータを形成するビジネス。タッチパネルで指先の透過明度を測定し最適なサプリ・ジュースをブレンドするジュースサーバを提供するビジネス。3Dプリンタでユニークかつ安価な義手を制作するビジネス。本気で治したい患者のために“名医”を紹介するビジネス。指先の血液輝度や心拍を検出し、心の動きを見える化するビジネス。プレゼンテーションされたサービス内容からも今後の発展を十分想像させうるビジネスばかりでした。
最優秀賞を獲得したのはサイマックス株式会社のビジネス。トイレをメディアにして健康データを収集するというものです。社長・鶴岡マリア氏の示したビジョンは収集した巨大情報を発展的に役立てることができる可能性を秘めたものでした。これまで医療を牽引してきた医師たちに加え、新たなプレイヤーたちが業界に参入を始めているのです。

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課題=道しるべ

初日に行われたセッションでは、現在の医療・ヘルスケア分野があらゆる局面で「共有」の必要性に直面していることが明らかになりました。地域、行政、医師間での医療情報共有。医師と患者の症状共有、患者間の情報共有。その他たくさんの「共有」が求められています。
しかし、その「共有」を実現させるためにはクリアしなければならない「課題」も多く提示されました。環境やアプリケーションなど、プラットフォーム整備という課題。個人情報の取り扱い方法など権利と安全性の課題。そして医師・患者それぞれの立場や感情、リテラシー差に起因する立場的課題。
まだ発見されていない未知の課題も含めると、道のりは平坦ではないのかもしれません。しかし、課題はゴールに辿り着くための道しるべ。克服していくことが、それぞれの理想的「共有」へ向かう道なのは明らかです。
そして、これら「共有」に向かう傾向は、これまで医師と行政に主導されてきた業界に「ビジネス・プレイヤー」と新たな「テクノロジー」の参入をもたらしました。異業種との業界そのものの「共有」。「Health 2.0 Asia - Japan」は今後の医療・ヘルスケア業界の未来の形を示すものとなりました。

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二日目については<後編>でレポートします。

(文・佐々木 裕)

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佐々木 裕(ささき・ゆう)
TV番組制作会社、広告制作プロダクション、Web制作会社を経て広告代理店に入社。コピーライター、ディレクターとして研鑽を積む。東日本大震災後、Web制作会社に移籍。クリエイティブディレクター、ライターとしても業務にあたる。医療分野は専門分野として長年かかわる分野のひとつ。医療・ヘルスケア分野の今後の動向を読みながら原稿制作を行っている。

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