僕がブログを書く理由

-患者さんとの信頼を高め、医療制度を良くしていくために-

名月論 氏(脳神経外科医)

名月論(なづき・さとし)
とある総合病院に勤めている若手脳神経外科医。
医学一般、脳や脳外科、日本の医療にまつわる様々な事柄をテーマとして、2010年より一般向けのブログ「ある脳神経外科医のぼやき」を執筆中。ブログのアクセス数は累計148万回にも上る(2015年3月現在)。著書に『誰も教えてくれない脳と医療の話』(文芸社)などあり。

 

ブログを書いている医師は日本にどのくらいいるのでしょうか? 決して少なくはないように思いますが、継続的に続けている方はそう多くはないように思います。

ブログを書き始めた頃、僕は救急がウリのとある総合病院で、脳神経外科の尖兵として働いていました。月に20日以上はファーストコールで24時間オンコールの状態でした。昼夜問わず救急科からは「頭部CTを見てほしい」と病院に呼ばれることもあれば、ファーストコールを外れている日でも手術となれば病院に駆けつけていました。夏休みと年末年始の数日以外はあまり気の休まる暇もなかったのを覚えています。

そんな中、かれこれ約5年ブログを書き続けています。更新のペースにはその時々の忙しさやモチベーションによってもかなり波がありますが、ここまで続けられたのはブログを書く“2つの理由”があったからです。

 

医師と患者が同じ感覚を持ち、信頼関係を高めたい。

1つ目は、主に脳卒中や外傷、そして悪性の脳腫瘍など、生死に関わる患者さんやそのご家族と接しているうちに、医師ならば誰でも気づくあることに疑問を持ったからです。それは、医師の診療業務にあてる労力と時間の多くが、患者やそのご家族への説明のために費やされているという事実です。インフォームドコンセントが最も大切なのは言うまでもありませんし、患者さんそれぞれによって病状が異なるのは当然で、通り一遍の説明書で済むはずがないのは重々承知です。しかし、それらを踏まえたとしても、医学知識がほとんどゼロの方に、正確に病状説明を理解していただくにはお互いに相当な努力を要するのは事実でしょう。
これは我々医療従事者と一般の方の間で、あまりにも知識やその常識に隔たりがあるからです。小中高の義務教育で医学に関する知識は、せいぜい保健体育程度しか教わりませんし、実際の医療に関する知識を一般の方が得る機会はほとんどないからです。 そこで僕は考えました。

医師の目線から見た“医療や病気に関する常識”のようなものを少しでも咀嚼した情報源があったなら、と。 僕らが診療を行う際に基準としているような考え方を広められることができたなら、と。

土台として同じ感覚を医師と患者が共有した上で説明ができれば、インフォームドコンセントはずっとスムーズに行われ、説明を受けた患者さんの理解度も高く、より良い信頼関係が築かれるのではないでしょうか。
医療におけるトラブルの多くは主治医と患者の意思疎通のレベルが低いことが原因ですから、トラブルの芽が生まれるそもそもの土壌を変えることができるのではないかと考えたのです。それが、一般の方向けに“医師の目線から見た医学知識や医療の常識”を“分かりやすく伝える”ためのブログを書き始めた大きな理由です。

 

今よりも医療制度を良くしたい。

 2つ目の原動力は憤りにも似たような感情でした。当時、文字通り身を粉にして年中働いていたからでしょうか? 僕はあまりにも脳神経外科医である自分の労働条件が他科と比べて劣悪なことに不満を持っていました。簡単に言ってしまえば、いくら働き、いくらリスクを負っても、給与は他科と変わらないどころか低いということに対しての不満でした。

その不満の源泉はどこにあるのか? それを考えていくと自然とこの国の医療の構造上の問題や不条理、偏在にぶち当たったのです。どこの世界や分野にもこういった問題はあると思います。そういった不条理を少しでも良くしていくためには、まずはそれを知ってもらわなければいけない! そう僕は考えました。こう書くとまるでジャーナリストのようですが、ブログを書くことによって日本の医療の不条理を少しでも広く一般に理解していただくことができたなら、きっとより良い医療制度を生み出す土壌になるのではないか? そう思いました。

このような原動力に突き動かされて続けてきたブログもそろそろ丸5年を迎えようとしています。ブログの記事を元に書籍を1冊、電子書籍を4冊発刊することもできました。 一般の方向けにブログを書く上で、やはり間違ったことを書くわけにはいきませんし、自分自身も勉強になっていることもとても多いです。実際に読者の方とのやり取りを通じて、患者さんの立場として感じることを以前より理解できるようになったようにも思います。 ブログを書き始めた当時のモチベーションをこれからも持ち続け、微力ながらも医療を良い方向に変えられるように続けていきたいと思っています。

<ある脳神経外科医のぼやき> http://ameblo.jp/nsdr-rookie/

【関連記事】
医師としての存在価値を肯定できる場所から
教師から医師に。波乱の軌跡をたどる 前編
ドクターだって人間だものっ!

ページの先頭へ