弁護士が教える医師のためのトラブル回避術

第6回 加害者にならないための「ドクターハラスメント」対処法

「マタニティハラスメント」や「パワーハラスメント」「モラルハラスメント」など、昔から問題とされてきた「セクシャルハラスメント」に加え、様々な「ハラスメント」が問題になっています。
誰もが、被害者、加害者、どちらの立場にもなりうるこれらの問題。医師の場合は、加えて「ドクターハラスメント」も注意すべき「ハラスメント」の一つです。
今回は「ドクターハラスメント」について、加害者にならないためのポイントや、問題になってしまった際の対処法を弁護士が解説いたします。

そもそも「ドクターハラスメント」って何?

 ドクターハラスメントは「ドクハラ」とも呼ばれる、医師による患者に対するいやがらせを意味する言葉です。10年以上前、医師である土屋繁裕氏が使い始め、すでに一般に定着しています。

 

どのような言動が「ドクハラ」になるの?

「病気になったのはあなたの日頃の行いのせい」、「子どもなんて産む必要あるの」など患者からすれば人格を否定されたように感じる言葉が典型ですが、このような露骨な言動に限られるわけではありません。患者が不必要に不安や不快な感情を有する言動が広く「ドクハラ」に該当する可能性があります

 

ドクハラなんて問題化されているの?

 インターネットで「ドクハラ」と検索すると質問サイトや掲示板などが多数ヒットします。具体的な医院の名称を出して「ドクハラ」被害を訴えるものや、訴訟を検討していることを投稿しているものも存在します。
 前述の通り、患者の主観によって「ドクハラ」と判断されてしまいますし、直接被害申告がなされるケースは少ないことから、知らぬ間に噂になっているケースやいきなり問題視されるなどのケースが大半かと思います。

 なお、東京都福祉保健局には「患者の声相談窓口」が設置されており、医療機関の職員の対応方法などを相談する窓口が設けられています。
 こちらのサイトでは、過去の相談件数や相談内容を公表しており、直近では平成26年度の実績を確認することができます。
 報告書によれば、平成26年度(平成26年4月から平成27年3月まで)に都本庁に設置された「患者の声相談窓口」と都保健所の窓口に寄せられた患者の声は合計13,480件であり、そのうち、健康療養相談や治療内容に関する相談が58.2%、医療行為や医療内容、医療機関従事者の接遇、説明不足などの苦情が40.1%となっています。
 そして、患者の声全体に対する割合になりますが、相談者は男性が40.3%、女性が59.5%、性別不明が0.2%であり、相談の対象となった診療科は、多い順に精神科が25.0%、内科が19.2%、整形外科が8.6%で、これらトップ3で過半数を占める結果となっています。
 相談に対しては、課題の対処方法の助言や心情吐露の受止めで対応しているケースが多く、窓口では相談者側にも課題があると思われるものが全体の70.5%を占めています。しかしながら、残りの約3割は医療機関側に問題がある可能性のあるケースであり、窓口では市区町村、保健所、医師会、弁護士会等の機関を紹介しているようですので、潜在的に問題となっているケースは少なくないようです。

 

ドクハラが起きてしまったら ~ 過去の裁判事例から

 最近では、インターネット上の掲示板などに医師の氏名や医院の名称を明示して「ドクハラ」と摘示されるケースも散見されます。
 検索ボリュームがあまりに多い場合、検索エンジンによっては関連したワードとして表示され大きな影響が出るケースもありますので要注意です。
 さらに、このような間接的な方法ではなく、損害賠償請求がなされるケースも存在します。
 過去に裁判になったケースには以下のようなものもあります。

① 精神神経科の患者が、医師から言動が理由でPTSDになったとして、損害賠償請求を行った事例

 こちらの事例は最高裁判所まで争われました。結論として因果関係が否定され患者の請求は認められませんでしたが、高等裁判所の判断では損害賠償請求が認められたということや、最初に訴訟が提起されてから最高裁判所の判断が出るまでに問題となった診療行為から7年以上の年月が経過していることに照らせば、医師にとって非常に重たい負担になってしまったことは明らかです。

② 自律神経失調症で休職中の者が、産業医との面談において受けた言動により症状が悪化したとして、損害賠償請求を行った事例

 こちらの事例は、医師が患者に対し、「それは病気やない、それは甘えなんや」、「薬を飲まずに頑張れ」、「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが」という発言が問題視されたのですが、休職中であることや自律神経失調症であることを考慮するとこのような発言は避けるべきであったと判断され、損賠賠償請求が認められました。認められた金額は60万円と少額かもしれませんが、患者の所得や復職がどれほど遅れたかといった事情で金額は増大する可能性があります

 このように、いわゆる裁判沙汰になるケースも存在しますし、医師のみへの請求ではなく、使用者責任として勤務先の医院にも損害賠償請求されるケースもありますので、勤務先にも迷惑をかけてしまう可能性がある点は要注意です。

 

伝え方次第!? 診療行為との境界はどこにある

 それでは医師はどのような対応をとればよいのでしょうか。
 明確な基準は存在しませんのでケースバイケースで対応することが求められます。
 前提として、医師の役目として患者が不安になるからという理由で不利益・不安にさせる情報を伝えないのでは仕事を全うしたことにはなりません。医師として病名の告知や病状を患者に伝える必要があります。
 医師も人間ですから、療養上の指導に従わない患者や時間を守らない患者に対しては頭にくることもあるでしょうし、診察時間中に多くの患者を診察しなければならず一人の患者に割ける時間も限界があります。
 しかしながら、そもそも患者は何らかの健康上の不安を抱えて来院しているという前提がありますし、医師と患者の間には知識量でも圧倒的に格差があります
 したがって、医師としてはそのような前提条件を考慮したうえで、不要に不安にさせる言動をとらないよう常に心がける必要があります。敢えて述べるとすれば常に携帯電話やICレコーダーで録音されている可能性も考慮し、後日客観的に検証されても問題ない言動のみを行いましょう

 

ドクハラ防止の体制作り

 これまで医師に焦点を当ててきましたが、「ドクハラ」は医療に従事する方すべてに当てはまります。
 医師として看護師などの態度にも注意を向けるようにしましょう。
 また、前記「患者の声相談窓口」における対処方法でも患者の声を聞くことだけでも相当数の苦情を鎮静化できていますので、専用の電話番号を設けるなどして医院として相談窓口を設置することも検討してもよいかもしれません。現に、東京都福祉保健局では都内病院で窓口を設置のうえそれを公表してもよいというところを一覧にして公表しています。

 なお、典型的な「ドクハラ」とは異なりますが、SNSやメーリングリスト(医師専用のものを含む)などへの投稿が問題化したケースも存在します。匿名掲示板や閉鎖的なコミュニティーであっても名誉毀損やプライバシー侵害で民事や刑事責任を追及される可能性がありますので、その点は要注意です。匿名掲示板であっても、発信者を特定する手続きは用意されています。
このような事例は、日本医師会においても注意喚起がなされています。
日本医師会 第Ⅺ次生命倫理懇談会「『高度情報化社会における生命倫理』についての報告」

 「ドクハラ」問題は、医師や医院の信用低下に直結します。最近は個人でも簡単に情報発信が可能な時代ですので、一度表面化すれば経営上のリスクにもなりえます。
 患者からの告発のみに焦点をあててきましたが、内部の人間が「ドクハラ」問題を告発する可能性も当然存在します。転職サイトなどに投稿されれば、医院としては職員を採用することが困難になりますし、医師自身にとっても、「ドクハラ」が医院や医師会に伝わり昇進や転職活動に悪影響を与えかねませんので要注意です。

 

 

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松本紘明(まつもと・ひろあき)

弁護士 / 弁護士法人戸田総合法律事務所、第二東京弁護士会所属。
事務所は数十社のクライアントと顧問契約を締結し、医療関係も含む。注力分野はインターネット法務、労務、離婚や男女トラブルなど。

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