医師が得する"お金"のハナシ

知るほどに得をする! 勤務医でも使える確定申告活用術

医師のみなさんは、確定申告にどれだけ関心を持っていますか。勤務医の場合、確定申告で行う会計処理は基本的に病院側が「年末調整」という形で代行してくれます。そのため、確定申告は勤務医にとっては少し遠い存在かもしれません。
しかし、勤務医でも確定申告を行うことで納めすぎた税金が還付される場合があるのです。
今回は、勤務医であっても役に立つ確定申告の活用術をご紹介します。

 

そもそも確定申告とは?

確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得とそれに応じた所得税および復興特別所得税を計算し、申告と、納めた税金の過不足を清算する手続きを意味します。所得のうち課税対象となる範囲は出ていったお金の種類によって異なり、それぞれに定められた割合の金額が課税対象から控除されます。

それでは、控除の対象にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的なものから意外なものまで、知っていると得をする確定申告の活用法をご紹介します。

※確定申告の基本的な考え方について知りたい方は「医師が得する"お金"のハナシ 第2回 勤務医の確定申告」をご覧ください。

 

仕事のための研修費や衣服費も、控除の対象!?

特定支出控除とは、個人で負担した業務に必要な経費が、収入を元に定められた一定の金額を超えた場合に受けられる控除で、給与所得に対して受けられます。業務に必要な経費として認められる支出は以下の8項目。

1.通勤費
2.転居費
3.研修費
4.資格取得費
5.帰宅旅費
6.図書費
7.衣服費
8.交際費

特定支出控除は、確定申告書に「特定支出控除の適用を受ける旨」と「特定支出の合計額」を記載し、源泉徴収票などの必要書類を添付して提出することで受けられます。添付する必要書類は「特定支出に関する明細書」「給与等の支払者(病院やクリニック)の証明書」「搭乗・乗車・乗船に関する証明書」「支出した金額を証明する書類(領収書など)」の4種類です。

※特定支出控除について詳しく知りたい方は「第9回 勤務医の自腹出費を削減できる?「特定支出控除」の基礎知識」をご覧ください。

 

医療費が10万円を超えたら確定申告を

保険金などで補てんされる場合を除き、年間10万円超の医療費を支払っている納税者は、200万円を上限として、その医療費分の金額が所得税・復興特別所得税から控除されます。その制度を医療費控除といいます。

対象となる医療費には自身の医療費だけでなく、配偶者や子どもなど生計を一にする親族の医療費も含めることができます。また、この場合の医療費には医師や歯科医師の治療費だけでなく、治療のための医薬品の購入費用やあん摩治療への対価、寝たきりの方のおむつ代なども含まれます。
※対象となる医療費の範囲についてより詳しく知りたい方は、国税庁のホームページ「医療費控除の対象となる医療費」をご覧ください。

医療費控除は、確定申告書に必要事項を記入したうえで、領収書に基づいて書かれた「医療費控除の明細書」を添付して提出することで受けられます。平成28年度までは医療費の領収書も提出する必要がありましたが、現在は手続きの簡略化により不要になりました。
※「医療費控除の明細書」の実物と詳しい書き方を確認したい方は、国税庁が公開している「医療費控除の明細書の様式」をご覧ください。

 

OTC医薬品も控除対象に!

医療費控除の一種として、平成29年度からセルフメディケーション税制という制度が導入されました。これは、自己または生計を一にする親族のために年間1万2,000円以上の対象医薬品を購入した場合、その購入費用について所得控除が受けられるという制度です(上限金額:8万8,000円)。

通常の医療費控除との選択適用となっているため、納税者はいずれかしか受けられません。どちらを受けるかは、国税庁が公開している「医療費控除・セルフメディケーション税制の減税額の試算ツール」を参考に判断するとよいでしょう。

セルフメディケーション税制の対象となる医薬品は、薬局やドラッグストアで購入できる頭痛薬や軟膏などのうち、医療用から一般用に切り替えられたものを指す「スイッチOTC医薬品」と呼ばれる医薬品です(一覧は厚生労働省「セルフメディケーション税制対象医薬品 品目一覧(全体版)」から確認できます)。購入した際のレシート・領収書に控除対象であることが記載されているので、医薬品を購入した際はしっかり確認し、保管しておきましょう。後述の明細書があれば、通常確定申告にレシート・領収書は必要ありませんが、後から記入内容の確認のために提出を求められる場合があります。

セルフメディケーション税制を受けるためには以下の書類3点を提出する必要があります。

1.セルフメディケーション税制を適用し計算した確定申告書
2.セルフメディケーション税制の明細書
3.一定の取組を行ったことを明らかにする書類

上記3つ目の書類に必要な「一定の取組」とは、健康の維持増進および疾病の予防にまつわる取組を意味します。「インフルエンザの予防接種の領収書」や「職場で受けた定期健康診断の結果通知表」などが書類の例として挙げられます。
※詳しくは国税庁が公開している「セルフメディケーション税制の詳細ページ」の最下部「(2)手続・必要な書類」をご覧ください。

 

マイホームの新築・増改築した人は要チェック! 住宅ローン控除

住宅ローンを利用してマイホームの新築・購入・増改築などを行った人は、一定の要件を満たすことで「住宅ローン等の年末残高×1~1.2%」の所得控除を10年間受けることができます。これを住宅ローン控除といいます。

また、住宅ローンを利用していない場合でも、バリアフリー改修工事や省エネ改修工事を行ったり、耐久性や省エネ効果などを基準に政府によって認定された住宅を購入したりした場合には、「工事や認定にかかる費用×10%」の控除が受けられる場合があります。

なお、住宅ローン控除を受けるための要件は「住宅取得後6カ月以内に入居し、引き続き居住していること」など、新築・中古など取得した住宅の種類ごとに細かく規定されています。住宅ローンを利用していない場合も「改修工事をした後の家屋の床面積(登記面積が50㎡以上であること)」など、さまざまな要件を満たす必要があります。
※住宅ローン控除について詳しく知りたい方は、国税庁が発行している「平成30年度版 暮らしの税情報」の「マイホームを持ったとき1」を、住宅ローン以外の控除について知りたい方は「マイホームを持ったとき2」をご覧ください。

住宅ローン控除は、控除を受ける最初の年に確定申告をすれば、翌年以降は年末調整で控除が受けられます。最初の年は確定申告を、2年目以降は年末調整での申告を忘れないようにしましょう。

 

「ふるさと納税」も対象です

国や地方公共団体に対して寄附金を支払った場合に受けられる所得控除を、寄附金控除といいます。寄附金控除によって控除される金額は「以下A・Bのいずれか低い金額-2,000円」で計算することができます。

A.その年に支出した特定寄附金の額の合計額
B.その年の総所得金額等の40%相当額

寄附金控除は、寄付を行った団体から交付された領収書を添付し、必要事項を記入した確定申告書を提出することで受けられます。ただし、団体によっては「その団体が寄附金控除の適用対象に当てはまる団体と証明する書類」などほかの書類が必要になる場合もあります。

この寄附の一種として最近注目されているのが「ふるさと納税」です。ふるさと納税とは、都道府県・市町村への寄附を行うこと。自分の生まれ故郷だけでなく、どの自治体にでも行うことができ、食品や宿泊券など豪華なお礼の品が受け取れることで人気を集めています。

ふるさと納税で寄附金控除を受ける際は、「自治体発行の寄附を証明する書類(寄附金受領証明書)」を添付した確定申告書を提出します。そうすることで、所得税が控除されるだけでなく、翌年度分の住民税についても控除を受けられます。また、ふるさと納税を行う自治体の数が5団体以内である場合は、確定申告をしなくても寄付金控除が受けられる「ふるさと納税ワンストップ特例」という制度が利用できます。

なお、控除される金額の上限はふるさと納税を行う本人の給与収入と家族構成で細かく決まっています。
※詳しく知りたい方は総務省が運営するふるさと納税ポータルサイトの「全額控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安」(ページ中部)をご覧ください。

 

同居していない子どもの年金や親の介護保険料も、控除対象の可能性あり

年末調整で申請を忘れないことが一番ですが、税の仕組みは複雑なため、つい見逃してしまうこともあります。例えば、子どもや両親・配偶者など生計を一にしている親族の国民年金保険料・介護保険料といった社会保険料を負担している場合に、その金額分の控除が受けられる社会保険料控除は、その代表といえるかもしれません。「生計を一にしている」という言葉は必ずしも同居している状態だけを指さず、「余暇は基本的にともに過ごしている」「生活費・学資金・療養費などを常に送金している」といった場合でも当てはまります。しかし、同居が絶対条件と誤解して申請を忘れてしまう人も少なくないようです。

 

年末調整後でも、控除の申請は可能!

年末調整で控除の申請漏れがあった場合は、翌年の3月15日までに確定申告を行い、書類を提出し直すことで後からでも還付を受けることができます。また、年の途中で退職し、年末調整を受けられなかった場合も同様です。

また、還付申告は過去5年分の所得に対して行えるため、2、3年前から社会保険料控除などの申請を忘れていたという方は、まとめて申請を行い、払いすぎた所得税を取り戻しましょう。確定申告で所得を正確に申告することで、所得額を元に算出される次年度の住民税や国民健康保険料の負担が軽くなることもあります。

 

時機を逃さず確定申告を

確定申告は確定申告書類を税務署に提出することで行えます。税務署へ書類を提出する方法は、以下の3通りです。

1.確定申告書類を税務署に持参もしくは税務署で記入して直接提出する
2.確定申告書類を税務署へ郵送する
3.「e-Tax」(インターネットで国税に関する申告や納税、申請・届け出などの手続きができるシステム)を利用して提出する

3であれば税務署に足を運ばなくても確定申告を行うことが可能です。そのため、多忙な勤務医でも確定申告を行いやすい方法といえるでしょう。もちろん、配偶者など家族に申告を代行してもらうこともできます。

確定申告ができる期間は2月16日から3月15日までの1カ月間です。いま一度、申告することでメリットを受けられるものがないか、確認してみてはいかがでしょうか。

※記事本文中のリンクは2018年12月に最新の状態に変更しております。

(文・エピロギ編集部)

<参考>
エピロギ「医師が得する“お金”のハナシ│第2回 勤務医の確定申告」
https://epilogi.dr-10.com/articles/528/
エピロギ「医師が得する“お金”のハナシ│第9回 勤務医の自腹出費を削減できる? 「特定支出控除」の基礎知識」
https://epilogi.dr-10.com/articles/1745/
国税庁「平成29年分 確定申告に関する情報の総合窓口 確定申告特集」
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tokushu/index.htm
国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1120.htm
国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1122.htm
国税庁「医療費控除に関する手続について(Q&A)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/pdf/iryohikozyoQA.pdf
国税庁「医療費控除を受けられる方へ」
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2017/pdf/04.pdf
国税庁「No.1210 マイホームの取得等と所得税の税額控除」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1210.htm
国税庁「No.1221 認定住宅の新築等をした場合(認定住宅新築等特別税額控除)」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1221.htm
国税庁「マイホームを持ったとき」
https://www.nta.go.jp/homonsya/kojin/12.htm
国税庁「パンフレット「暮らしの税情報」(平成29年度版)│マイホームを持ったとき 1」
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/koho/kurashi/html/05_1.htm
国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1150.htm
厚生労働省「健康・医療│セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
国税庁「No.1130 社会保険料控除」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1130_qa.htm
国税庁「No.1180 扶養控除」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1180_qa.htm
国税庁「No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1910.htm
国税庁「申告手続きの流れ」
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2017/b/02/2_01.htm
国税庁「確定申告書等作成コーナー」
https://www.keisan.nta.go.jp/h29/ta_top.htm#bsctrl
総務省「ふるさと納税ポータルサイト」
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html
TRUSTBANK「ふるさとチョイス」
https://www.furusato-tax.jp/
AllAboutマネー「年末調整で控除し忘れた! 期限はいつまで?」
https://allabout.co.jp/gm/gc/14794/
AllAboutマネー「確定申告で社会保険料や住民税の減免も決まる」
https://allabout.co.jp/gm/gc/13906/

 

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