決断の時―キャリアの岐路で、医師はどう考え、どう選択したのか

第6話 医局長からの衝撃の言葉、その後の転職活動の先に見えた「一緒に働く人の大切さ」

医師の長いキャリアには、重大な決断を迫られる場面が何度かあります。本連載「シリーズ・決断の時」では、それぞれの医師が「自身のキャリアに関する重要な局面でどのように考えて決断したのか」について、エピソード形式でご紹介します。

第6回となる今回は、34歳の内科医師のエピソードです。今後のキャリアについての1つの参考になれば幸いです。

 

「2人目をつくるな」医局長からの衝撃の言葉

「思っていても普通、そんな事言う!?」
木村由美医師(仮名)(34歳、内科)は、驚きを隠せなかった。

長女はそろそろ2歳になろうとしている。
大学医局関連の病院と言えど、保育園のお迎えに間に合うように時短勤務は許されているし、当直が免除されているのにはありがたく思っている。周囲に感謝しているからこそ、もう少し恩返ししたいと思っている。

だが先週、医局長から言われた言葉は衝撃的だった。
「ちょっと人員が厳しくてね……。あまり言いたくないんだけど、来年は仕事に専念してもらいたいんだよね。いや、時短とか当直とかを言っている訳ではなくて、ちょっと産休とかまた発生しちゃったら困るなぁと思って」

煮え切らない言い方にピーンときた。
確かに常々、子どもは2人欲しいと言っていて、(そろそろかな)と思っていた事も事実だ。
でも、まさか遠回しとはいえ「2人目をつくるな」とは想像もしていなかった。

「子どもをつくるなら、戻ってこなくていいよ」と言われた他の病院に勤める友人医師を思い出した。その時はひどい事をいう病院だ、と一緒になって怒り、最終的に彼女は退職したのだが、まさか自分も同じような仕打ちを受けるとは……。

思えば、時短や当直免除に関しても、決して「快く」対応してくれた訳ではない。露骨に「いいよなぁ」と言われたり、勤務終了間際に緊急度の低い仕事を振られたり、嫌な思いはこれまでもしてきた。ただ、今回の言葉は決定的だった。

「仕事は好きでも、ここは続けられるところではない」

木村医師にとって、医局を辞めるのには充分すぎる理由だった。

 

半信半疑で始めた転職活動

そこで、その友人医師にどうやって転職したか尋ねたところ、紹介会社を使ったという答えが。本当に良い所を紹介してくれるかは半信半疑だったが、とりあえず登録してみる事にした。

登録すると、すぐに電話があり、担当者と会う事になった。
まず自分に合う勤務先を紹介してもらうことを期待していた木村医師にとって、自分のことについて聞かれたのは意外だった。特に家族、親族の状況まで聞かれた際は、「その情報は必要ですか?」と思わず聞き返してしまった。

しかし、医療機関にとってみれば、例えば子どもが体調不良の際、代わりに対応できる人の有無や、いない場合はどうするつもりなのか、ということは非常に気になるところなのだそうだ。このような説明を受け、「確かに」と納得できた。

 

子育てと両立しながら勤務を続けるための選択肢

担当者によると、ここ数年、働き方改革が叫ばれるようになって、『女性支援枠』を設ける医療機関が増えてきたという。中には週3.5日でも常勤として受け入れてくれる職場もあるそうで、ありがたく感じた。

なお、「あまり大きな声では言えないんですが……」と前置きがあった後で、「医療機関によっては時短勤務でも、定時あがり扱い、つまり給与は変わらずで対応してくれる所もあります。他の先生が頑張っている手前、大っぴらには言えませんが」という話もしてくれた。

病院にそこまで配慮してもらえるのはありがたいが、人が好いと捉えるべきなのか、本当に困っているからそこまでせざるを得ないのか、判断が難しいと木村医師には感じられた。

他には、人気がある働き方として、健診や産業医といった働き方も提案された。もちろん勤務内容は知っていたが、これからも病院で内科医として働き続けていくものと漠然と思っていただけに、「そういえば、その選択肢もあったんだ」と新鮮だった。

とりあえず資料をもらって、夫にも相談した。夫も医師であるため、担当者の話を伝えるとすぐに事情を理解してくれた。話し合った結果、「できるだけいろいろな選択肢を目で見て、じっくり考えたほうが良い」ということとなり、

  • ・複数展開しているクリニックで週4日時短勤務
  • ・半官半民の立ち位置の総合病院で、週4日健診勤務
  • ・民間総合病院の週3.5日勤務

の面接に足を運ぶ事にした。

 

民間病院に足を運んで受けた"良い意味"でのショック

最初に足を運んだ「健診」施設は、いままでの大学病院の勤務に比べると緊急度が大きく異なり、精神的なストレスがだいぶ和らぎそうな環境である点は良いと思った。ただ、やはり「これまでやっていた内科」にまったく携わらなくなるのは、経験してきたことが活かせずもったいないと感じられた。

それでも、実際に行ってみたことで「違う」と確信できたのだから、それはそれで収穫だったのかもしれない。

あとは、勤務日数を大幅に減らしつつこれまでのような勤務を行う民間病院か、時短対応してもらい外来のみを対応するクリニックか、に絞られた。面接に行く前、木村医師は「外来のみのクリニックのほうがQOLが重視できるのかなぁ」と漠然と考えていたのだが、民間病院に足を運んで、良い意味で大きなショックを受ける事になった。

一言で言えば、木村医師の家族に関する生活への理解、歩み寄ろうとする姿勢が今の医局や他の職場とはまるで違ったのだ。

上司にあたる部長職の医師から、前触れもなく「お子さんは2歳ですよね。熱発とか突然あるから大変だ。大丈夫、そういう事があったらあとはこちらがやっとくから、お子さんのもとに向かってくださいね」と言われた。

最初は単なるリップサービスかなとも思ったのだが、さらに話を聞くと、以前、他の子育て中の医師にも同じような対応をしていたのだそうだ。

また、本当は聞きたい事がたくさんあっても、権利ばかり主張していると思われたくないと考え、質問を木村医師が躊躇していたとき、「先生が気にされている点がありましたら、何でも言ってください」と切り出してもらえて、とても楽になった。

これまでなかなかまとまった夏休みが取れず、近場のみで済ましていた家族旅行、実はどうにかならないかと思っていた。それを恐る恐る切り出してみると、「それじゃ、まずは木村先生から希望を出してください。それに合わせて仕事を組みますから。土日を絡めれば1週間くらい取れるから、海外にも行けるんじゃないかな」と快い返事が返ってきた。

 

身に染みて感じた「一緒に働く人の大切さ」

もちろん、こちらの要望がすべてかなえられたわけではなかったが、それぞれ病院としてできる事、できない事を明確にしてくれ、できない事に関しては理由も添えてくれたので、すっと腑に落ちる感覚があった。

「一緒に働く人って大切だなぁ」と身に染みて感じることのできたひと時であった。

帰宅後、夫にも相談したところ「そういった環境を求めていたんじゃないの?」と背中を快く押してもらうことができた。木村医師にはもう不安の気持ちはなかった。

4日後の週明けには、その民間病院に転職する意向を紹介会社の担当者に伝えた。

転職して3カ月が経ったころ、紹介会社の担当者から連絡があった。

しばらく働いていくと、「この時間は2人体制でなくてもいいかも。時短できないかな」と思える時もあるが、現時点で充分、「快く」配慮してもらっていると日々実感している。自分が尊重されているという感覚が確かにあったので、「お互いに思いやりをもって働きたい」「できる限りのところで力になりたい」という気持ちを強く抱くようになっていた。

何よりも、医局の関連病院に勤務していて嫌な思いを経験していた頃とは、雲泥の差だった。

「大丈夫ですよ。長く働けそうです」

そう答える木村医師の顔は、自然と笑顔になっていた。

 

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森川 幸司(もりかわ・こうじ)
大手の出版関連企業から転職して株式会社メディウェルに入社後、関東を中心にコンサルタントとして300人以上の医師のキャリア支援に従事する。「自分が先生の立場だったら、家族の立場だったら…」という想いから、「自分事としてとことん本気になる」ということを仕事上の信条とする。
2011年5月、ステージIVの大腸がんとそこから転移した肝臓がんの診断が下り、それ以降は手術と抗がん剤による闘病生活が始まる。肝臓がんの再発や肺への転移なども経験し、入退院を繰り返しながら、現在は管理部門に所属し他のコンサルタントの支援を行なっている。

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