「コミュニケーションの棚」から、おススメの一冊をご紹介! 医師のためのビジネス選書

詩が死を癒し、現実の重みを持った死が詩人に新たなインスピレーションを与える。詩人と医師の心ふるえるコラボレーション。

『詩と死をむすぶもの』 ~詩人と医師の往復書簡 谷川 俊太郎・著 朝日新聞出版
821円 2008/10/10

ホスピス医療に携わる医師の徳永進氏と、詩人の谷川俊太郎氏による2年間にわたる往復書簡集。医師が死を迎える患者のエピソードを手紙に託し、詩人は詩と散文で応えながら、生死についての深い考察を、ユーモアを交えながら展開しています。

内容詳細

物語に基づいた医療が忘れられる傾向にある(徳永進)

 診療所の朝の申し送りでは、当直ナースが夜中の出来事などを日勤のナースに申し伝える。「1号室の石渡さん、朝一番、『コーラ』でした」と当直ナース。「コーラ」とは、「コーラを飲ませてくれ」の意。血圧や脈拍数や体温を聞かなくても、「コーラ」が発せられれば石渡さんは快調だ、とみんなが知っている。食道がんである中西さんの楽しみは、許可された1日5本のタバコ。5本目を吸ってしまうと、次の1本が待ち遠しくて、0時を回ると必ず、「看護師さん、1本、吸わしてくれ」が口グセだ。ところが昨晩はその声が掛からなかったとのこと。申し送りのそのフレーズで病状が浮かぶ。臨床での体の流れ、あるいはその破綻は、「コーラ」や「0時の夕バコ」で描き出されるのだ。
 現代の医療は、科学的な医療が中心で、物語に基づいた医療が忘れられる傾向にあるが、両者のように相反するものが共存していないと、大切な空間は作れない。臨床とは、豊かな矛盾に満ち、息づく所なのだ。

現代人の多くが「意味病」にかかっている(徳永進)

 死後の処置で体を拭くとき、遺族に手伝ってもらうことは、死を受け容れるのに大切な体験となる。ある患者さんが亡くなったときも、二人の娘さんに手伝ってもらっていた。すると長女が「お父さんって痛がりだったけど、三途の川を渡るとき、痛がりませんか?」と聞いた。ナースがさりげなく「だったら痛み止めの坐薬、入れてあげておきましょうか」と言って、一つ、肛門に入れた。今度は次女が「もう一つ入れて下さいませんか、ほんと痛がりだから」と言い、残っていたもう一つも入れた。
 患者さんはもう死んでいて痛みを感じるはずがない。だったら、坐薬を亡くなった患者さんの肛門に挿入しても意味はない。でも、病室のその光景を想像してみると、無意味に思えるこの座薬が、何ともユーモラスで、湯灌している人たちに大きな意味を持っているように思えるのだ。意味って何だろう。子供でなくなった現代人の多く、そして医療者の多くは意味の囚われ人。「意味病」にかかっているのかも知れない。

コトバを声にすることで生まれる力(谷川俊太郎)

 世界は、人間が発生するまではただ存在するだけで、その存在に意味はなかった。無意味はそういう言葉が発明される以前の世界に感性を開いてくれる。ほんとうに深い、切実な人間関係もときには意味を超えて人と人とをむすぶ。そこにひそむ泣き笑いのようなユーモアも無意味であるからこそ、意味が届かないあの世への入り口になるのだ。
 医療の現場にからだを語るコトバだけでなく、こころを語ろうとするコトバが入ってきつつあることは歓迎すべきことである。からだとこころは、本来ひとつのものであるだからだ。
 そこで、谷川俊太郎氏が、ここ10年来実行してきたのが人前での自作の音読である。活字の黙読では、作者と読者とのあいだに共時的なつながりはないが、朗読の場を聴衆と共有すると、声がこころだけでなくからだをも動かすエネルギーとして働く。詩を聴いて笑ったり泣いたりする聴衆に、こころだけでなくからだも励まされるのだと、谷川氏はいう。

 

(文・情報工場

 

情報工場
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目次

  1. 1. 朝の申し送り …進
  2. 2. 夜の場所 …俊太郎
  3. 3. ラウンジ語り …進
  4. 4. ラウンジの次元 …俊太郎
  5. 5. 意味ないじゃーん …進
  6. 6. 感度良好です …俊太郎
  7. 7. なかなおり、至難 …進
  8. 8. 困ります …俊太郎
  9. 9. 3号室の生徒たち …進
  10. 10. 消えようとするとき …俊太郎
  11. 他全24項目

◎著者プロフィール

谷川俊太郎
詩人。1931年東京都生まれ。1952年、第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。詩作を中心に絵本、エッセイ、翻訳、映画脚本など幅広い活躍を続ける。
徳永進
医師。1948年鳥取県生まれ。京都大学医学部卒業。鳥取赤十字病院内科部長を経て、鳥取市内に「野の花診療所」を開設。82年『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞受賞。
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