医師の仕事道具図鑑

第1回 聴診器~人気ブランド&商品はこれだ!

日々、患者さんの命を扱い、正確でスピーディーな診断が求められる医師の業務。だからこそ、毎日使う仕事道具にはこだわりたいところ。
今回紹介する仕事道具は、多くの医師にとって必需品である「聴診器」。
人気の聴診器ブランドとそのブランド独自の製品を、特徴とともにわかりやすくご紹介します。

 

リットマン~シェアNo.1、聴診器の「代名詞」。

リットマンは、1960年代に誕生したアメリカの聴診器専門ブランドです。
1963年、心臓専門医でハーバード大学医学部教授のデイビッド・リットマン博士が、自ら開発した聴診器の特許を取得しました。その聴診器は、低音域と高音域が聴き分けやすく軽量で利便性が高いという、博士の理想の聴診器を体現したものでした。
博士は、その発明品を売り出すためにカーディオソニックス社を設立。1967年、ポストイットなどで知られる3Mが買収し、現在まで改善を繰り返しつつ世界的ブランドへと育て上げました。それが、現在の「リットマン」聴診器です。

■リットマンの聴診器の特徴
1)圧倒的なシェア

リットマンの世界シェアは8割を超えています。
日本の医師の間でも大きな人気を誇り、『Dr.コトー診療所』や『Ns’あおい』などの人気医療ドラマでも、リットマン聴診器が使われました。初めて手にした聴診器はリットマンという医師も多いのではないでしょうか。
リットマンは、まさに聴診器の「代名詞」といえるでしょう。

2)サスペンデッド・ダイアフラム
サスペンデッド・ダイアフラムとは、リットマンの特許技術です。
患者さんの胸に押し当てて音を採集するチェストピース(集音板)には、膜型(ダイアフラム面)とベル型(ベル面)という2つのタイプが存在します。通常、「呼吸音や正常心音などの高音は膜型で」「過剰心音などの低音はベル型で」と2つの面を使い分けなければなりませんが、サスペンデッド・ダイアフラムならば押し当てる圧力を調節することで、1つの面で膜型とベル型を切り替えることができます。

■リットマンのオリジナル製品
・Littmann Classic ⅡS.E.

「Littmann Classic ⅡS.E.」は、リットマンの一般診療用聴診器のロングセラー・モデルです。1996年より20年間、多くの医師・看護師に愛用されてきました。もちろんサスペンデッド・ダイアフラムが採用されており、1つの面だけで高音と低音を聴き分けることができます。また、接触面に厳選した素材が使用されており、皮膚に当てても冷たい感触がしません。

ほかに特長として挙げられるのが、優れたデザイン性。しなやかなチューブの形状や金属部の光沢の美しさが評価され、2012年には公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞において「ロングライフデザイン賞」を受賞しました。カラーバリエーションも全部で10種類以上と豊富です。

・価格
定価:15,000円(税抜)

 

ケンツメディコ~「MADE IN JAPAN」の品質。

ケンツメディコは埼玉県本庄市に本社を構える日本のメーカーです。医薬品製造、医薬品卸売、介護など医療にまつわるさまざまな事業を行うスズケングループが、医療機器製造に特化したグループ会社として1991年に創業しました。

聴診器以外にも、血圧計や血中酸素飽和度を測るパルスオキシメータや、内視鏡や手術器具を消毒する酵素洗浄剤など、その製造機器は多岐にわたります。しかしながら、創業当初より中心的な製品であり続けてきたのは、やはり高品質で知られる聴診器です。

■ケンツメディコの聴診器の特徴
1)日本メーカーの信頼感

ケンツメディコの聴診器は部品の鍛造から成形、組立、梱包にいたるまで、全て一貫して国内で行われています。そのため、品質管理の徹底ぶりは折り紙付き。
ばね部分には丈夫さと扱いやすさを兼ね備えるために日本の焼き入れ技術が生かされており、耳にはめるイヤーピースの部分は、日本人の耳にフィットするように調整して設計されています。このような気遣いも、日本メーカーならではのものでしょう。

2)世界唯一のステレオ聴診器
ケンツメディコは世界唯一のステレオ聴診器「ステレオフォネットシリーズ」を保有するメーカーです。同シリーズは、1991年に風間繁医師によって開発されました。
風間医師は、聴診器のチェストピース(集音板)を中央で完全独立させ、右側の音は右耳で、左側の音は左耳で聴ける仕様にすることで、立体的なステレオの音声で聴診を行うことを可能にしました。
その結果、肺のふくらみが目に浮かぶほど詳細に呼吸音が伝わるようになったり、呼吸音と心音が聞き分けやすくなったり、音の減衰が少なくなったりといったメリットが生まれました。

■ケンツメディコのオリジナル製品
・ステレオフォネットSX No.178

2006年より販売されている「ステレオフォネットシリーズ」の普及型モデル。累計販売実績24,938台(2016年7月時点)を誇る同シリーズの代表的な聴診器の1つで、完全独立した集音・伝音構造により、呼吸音・心音・心雑音の全てをステレオ音声で聴くことが可能です。
日本人の耳に合わせて作られたイヤーピースは360度回転式。そのため、耳との摩擦が軽減され、長時間使用しても快適な装着感を維持できるよう設計されています。

さらに、膜型・ベル型両面のチェストピースにnon-chill樹脂が用いられているため、胸に当てても患者さんに冷感を与えずに済みます。その細かな気遣いから、「聴診の概念が覆された」と口コミが寄せられるほど、評判の聴診器です。

・価格
定価:38,800円(税抜)

 

ウェルチ・アレン~長年信頼されてきた性能の高さ。

ウェルチ・アレンは、長い歴史を誇るニューヨークの医療機器メーカーです。1915年の創業から今に至るまで、世界初の携帯型検眼鏡の発明や、業界初の医療機器への光ファイバー採用など、医療機器業界に数々のイノベーションを起こしてきました。

その聴診器は、聴診器製造における同時代のリーディングカンパニーを買収して改善し続けられています(1986年にTycos社、2003年にCardio Control社を買収)。
また、ウェルチ・アレンはアメリカ国内でのシェアが高く、『ER』や『HOUSE』などの人気海外ドラマでも、同社の聴診器が使われている様子を見ることができます。

■ウェルチ・アレンの聴診器の特徴
1)コルゲート(波型)ダイヤフラム

コルゲート(波型)ダイヤフラムは、文字通り波が起こっているかのように、溝が中央から同心円状に刻まれているダイヤフラムです。溝によって音を拾う面積が広がることで、より小さな音でも聴き取ることが可能になります。
さらに肌への密着性も高まるので、通常のダイヤフラムでは聴診器と肌の間に隙間ができてしまうような痩せた患者さんの診察でも重宝します。コルゲートダイヤフラムはウェルチ・アレンの聴診器全てに付属しています。

2)金属製のチェストピース
ウェルチ・アレン製聴診器のチェストピースは、ステンレス鋼や真鍮などの金属で作られています。その分重量は増しますが、周囲の雑音の影響をほとんど受けずに安定してチェストピースからの音声を伝えられるので、プラスチック製のものなどに比べ、耳に届く音がより鮮明に聞こえます。うめき声や泣き声がする中で微妙な判断を迫られることもある医療現場において、大きな助けとなる特長です。

■ウェルチ・アレンのオリジナル製品
・エリート

「エリート」は、あらゆる診療場面で活躍する万能型の聴診器です。聴診の精度が重視される循環器科で重宝されているほか、小型の小児用ダイヤフラムが付属しているため、小児の診察で使うことも可能です。

音を伝えるチューブが2本に分かれているダブルチューブは、「エリート」の強みの1つといえるでしょう。左右で音の伝わる経路を独立させることで、音の減衰と雑音の影響が抑えられています。また、バネ部に形状記憶合金が使われていて変形しにくく、消耗部品以外の部品に10年保証がついています。仕事道具を大事にする医師にとってはうれしいポイントです。

・価格
定価:34,700円(税抜)

3つの代表的な聴診器ブランドを、その商品とともに紹介しました。独自の特許技術や付属部品、デザインなど、どの製品にも工夫や特徴がみられます。
道具の質は仕事の質に直結します。仕事の精度を上げてくれる使い勝手のよい一品を、ぜひ手に入れてください。

※聴診器の部品の名称については、各メーカーの表記にならい記載しています。

 

(文・エピロギ編集部)

 

<参考>
「住友スリーエムに訪問してみんなに教えたい3つのこと」(植山周志のぶっ飛びブログBMXライダーとしてぶっ飛んでいたがビジネスマンとしてぶっ飛べるか?!)
http://www.shoe-g.com/2011/12/3-4.html
「GOOD DESIGN LONG LIFE DESIGN AWARD|グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」(GOOD DESIGN AWARD)
http://www.g-mark.org/award/describe/39342?token=OwhcGi0pbw
「聴診器の使い方 おすすめのリットマン、持ち方や当て方とは」(腸内美人の秘訣―整腸セラピスト 坂井正宙の挑戦―)
http://cyou-kenko.com/rehabilitation/2293/
「ClassicⅡS.E. LONG LIFE DESIGN」(3M)
http://www.mmm.co.jp/hc/littmann/lld/index.html
「3M リットマンステソスコープ 総合カタログ」(3M)
http://www.mmm.co.jp/hc/littmann/lld/index.html
「聴診器の選び方」(研修医マニュアル)
http://resident.weblog.to/archives/40037247.html
「聴診器の仕組み|基礎編(1)」(看護roo!)
https://www.kango-roo.com/sn/k/view/2531
「製品のご紹介」(従来の聴診器を超えたスーパー聴診器Stéréophonette(双響聴診器)ご案内ホームページ)
http://www.mmjp.or.jp/stethoscope/feature.html
「企業情報」(KENZMEDICO)
http://www.kenzmedico.co.jp/company
「看護学生の皆様へ」(KENZMEDICO)
https://goo.gl/aig4T6
「医学生の皆様へ」(KENZMEDICO)
https://goo.gl/65oxz4
「製品紹介」(KENZMEDICO)
https://goo.gl/LsaR2L
「総合カタログ」(KENZMEDICO)
http://www.kenzmedico.co.jp/dc/_SWF_Window.html
「日本の職人技が光る、世界唯一のステレオ聴診器 Stéréophonette」(KENZMEDICO)
http://www.kenzmedico.co.jp/wp-content/uploads/2014/11/sx178n.pdf
「聴診器の話ーラエネックからステレオまでー」
http://www.asahi-net.or.jp/~ig2s-kzm/story.html
「第5回 聴診器[ちょうしんき]」(メディカルα)
http://www.bs-tbs.co.jp/alpha/archive/05.html
「スズケンの歴史」(SUZUKEN)
http://www.suzuken.co.jp/company/history.html
「会社概要」(WelchAllyn)
http://welchallyn.jp/corporate/profile.html
「ウェルチ・アレンの歴史(企業情報)」(WelchAllyn)
http://welchallyn.jp/corporate/history.html
「聴診器(製品に関するFAQ)」
http://welchallyn.jp/faq/stethoscope/index.html
「ウェルチ・アレン 聴診器」(WelchAllyn)
http://www.brightsmile.jp/shop/files/Products/catalog/stet.pdf
「エリート」(WelchAllyn)
http://welchallyn.jp/product/stethoscope/stetho_elite.html
「ウェルチ・アレン 聴診器 総合カタログ」(WelchAllyn)
http://welchallyn.jp/product/catalog/pdf1/Stetho_2014.pdf

 

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