勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【第8回】原著論文の書き方⑥-査読委員のチェックの視点を押さえて論文を執筆、内容を点検・調整する

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

今回は、原著論文の査読委員が実際に査読を行う際のチェックポイントについて解説します。チェックポイントに沿って論文を執筆、内容を点検・調整することにより、アクセプトの確率は上がります。

 

1.ピアレビューとは

前回も書いたとおり、レベルの高いジャーナルは、たった一人のeditorが論文のTitleとAbstractを読んだだけで迅速に足切りの決断を下します。editorによる足切りをかいくぐり、外部査読(external review)に回れば、複数名の査読委員(reviewer)が査読を行います。このように、投稿論文を複数名の同じ分野の専門家(peer)に査読(review)してもらい、そのコメントを参考に編集者(editor)が採否を決定するシステムを、ピアレビュー(peer review)と言います。
ピアレビュー式のジャーナルに投稿する場合は、査読者のチェックの視点を押さえた論文を執筆すると良いでしょう。

 

2.手引きから査読委員の視点を読み取る

各ジャーナルは、査読者に査読の手引きを提供しています。British Medical Journalのホームページには、以下のような査読の手引き(Resources for reviewers)が掲載されています。
こうした査読者向けの手引を読み、reject/acceptのポイントを知ることは有効です。手引から査読の視点が特に読み取れるものをいくつかご紹介しましょう。

“Originality - does the work add enough to what is already in the published literature? If so, what does it add? Please cite relevant references to support your comments on originality.”
(独創性 - その研究は、すでに出版された文献の内容に対して、十分に内容が追加されていますか? その場合、それは何を追加していますか? 独創性に関するあなたのコメントをサポートするために、関連する参考文献を引用してください。)

“Importance of the work to general readers - does this work matter to clinicians, researchers, policymakers, educators, or patients? Will it help our readers to make better decisions and, if so, how?”
(一般読者にとっての研究の重要性 - この研究は臨床医、研究者、政策立案者、教育者、または患者にとって重要ですか? 読者がより良い判断を下すのに役立ちますか? もしそうなら、どのように?)

“Overall design of study - appropriate and adequate to answer the research question?”
(全体的な研究デザイン - リサーチ・クエスチョンに答えるのに適切ですか?)

“Participants - adequately described, their conditions defined, inclusion and exclusion criteria described? How representative were the authors of patients whom this evidence might affect?”
(研究対象者 - 適切に記述され、その条件が定義され、包含および除外基準が記述されていますか? このエビデンスが影響を与える可能性のある患者をどの程度代表していますか?)

“Methods - adequately described? Main outcome measure clear? Is the study fully reported in line with the appropriate reporting statement or checklist”
“ Was the study ethical (this may go beyond simply whether the study was approved by an ethics committee or IRB)?”
(方法 - 適切に記述されていますか? 主要なアウトカム指標は明確ですか? 研究は適切な報告書またはチェックリストに沿って完全に報告されていますか?)(研究は倫理的でしたか?(これは、研究が倫理委員会によって承認されたかどうかだけではありません))

“Results - answer the research question? Credible? Well presented?”
(結果 - リサーチ・クエスチョンに答えていますか? 信頼できますか? うまく提示されていますか?)

“Interpretation and conclusions - warranted by and sufficiently derived from/focused on the data? Discussed in the light of previous evidence? Is the message clear?”
(解釈と結論 - データによって保証され、データから十分に導き出されていますか? データに焦点を当てたものですか? 過去のエビデンスに照らして議論されていますか? メッセージは明確ですか?)

“References - up to date and relevant? Any glaring omissions?”
(参考文献 - 最新かつ関連する内容ですか? 明白な欠落はありませんか?)

 

3.査読者・編集者がrejectを判断するポイント

手引を公開していないジャーナルの場合は、一般的な査読者の視点を押さえるのが良いでしょう。査読者・編集者の立場から、投稿論文をrejectする一般的なポイントを以下に列挙します。

(1)独創性の欠如

論文のIntroductionでは、「先行研究ですでに明らかになっていることは何か?」「まだ明らかになっていないことは何か?」を提示し、研究の目的を明示します。このプロセスにおいて論文の独創性を強調する必要があります。独創性(originality)が欠如していたり、研究目的・仮説が不明確であったり、先行研究の二番煎じにすぎない論文は、rejectとなります。そのような論文に対して、査読者・編集者はIntroductionを読み終わった時点でrejectを決断します。

(2)重要性の欠如

研究の重要性(Importance)をIntroductionで簡潔に提示する必要があります。研究結果がもたらす臨床現場へのインパクト、患者に与える恩恵、医療政策立案者に与える示唆などが全くない研究は、たとえ独創性があっても、研究を行う必要性が無いとみなされ、rejectとなります。

(3)Methods、Resultsの不備

提示された研究目的や仮説に対して、研究デザインが適合していない場合も、rejectとなります。
Methodsでは、研究対象を適切に記述し、包含および除外基準やアウトカム指標を明示する必要があります。Methodsの再現性の欠如、研究デザイン上の致命的な欠陥、重大な未測定交絡因子の存在、症例数過少による検定力不足、統計解析の稚拙な誤りは、いずれも単独でrejectの原因となりえます。

(4)Discussionの不備

論理的一貫性のない文章構成、不完全かつバイアスがかかった結果の過剰な解釈・誇張、Resultsに基づかないこじつけの自己主張は、rejectの原因となります。Limitationの不充分な記載も、同様にrejectの原因になるので注意が必要です。

今回解説した査読者・編集者がrejectを判断するポイントを、論文執筆開始の時点から十分に留意して、執筆を進めてください。それにより論文執筆にかかる期間を短縮でき、rejectのリスクを軽減することも可能になるでしょう。
次回は「投稿規定に沿って原稿を整える方法」について解説します。

 

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康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)、『超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
超絶解説
医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本
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発行所:金原出版
発行日:2019/11/20
内容:
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