勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【第10回】投稿先の選び方

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

今回は、投稿先の選び方について解説します。一流誌の論文採択率のほか、投稿先を選ぶ際の参考となる情報についてご紹介。最後にOpen access journalの現状と課題、投稿を避けるべき「ハゲタカ・ジャーナル(predatory journal)」の見分けについて触れます。

 

1.一流誌は論文採択率が低い

論文の投稿先を選ぶ際にまず思い付くのが、知名度の高い、いわゆる「一流誌」ではないでしょうか。しかし一流誌は、論文の採択率は決して高くありません。
JournalGuideという論文雑誌検索のフリーツールには、主要なジャーナルの論文採択率(acceptance rate)が掲載されています。どの程度正確か保証の限りではありませんが、2020年3月時点の4大誌の採択率は、NEJM(New England Journal of Medicine)およびThe Lancetが5%、BMJ(British Medical Journal)が7%、JAMA(Journal of the American Medical Association)が9%でした。

BMJがホームページ上に公開しているGuidance for Authors(2018年5月3日改訂版)によれば、BMJには年間7,000~8,000本の論文が投稿される中で、採択率はわずか7%です。そのうちresearch articlesに限れば年間約4,000本の投稿がありますが、採択率は4%です。約3分の2の投稿は外部査読(external review)に回ることはなく、編集者の判断で足切りされます。

一方で、採択率の高い雑誌もあります。循環器系雑誌に焦点を当てると、Circulationは11%、European Heart Journalは20%、Circulation Journalは23%でした。特にOpen Access Journalは採択率の高いものが多く、BMJ Openが53%、PLOS ONEは69%の採択率でした。

雑誌によって採択率が大きく異なることを念頭に置き、論文の内容に対して適切な投稿先を検討することが大切です。

 

2.投稿先を選ぶ際のポイント

採択率の他にも、投稿する雑誌を選ぶ際に考慮すべき点があります。3つご紹介しましょう。

(1)記念受験をしない
4大誌に掲載される原著論文は、それらの採択率の低さからも分かるように、狭き門を潜り抜けた、極めて優れた論文といえるようです。世界中の臨床家が興味のあるテーマに関して、旧来の治療法や疾患概念を覆すほどに強烈な新規性のある内容であり、なおかつデザイン・分析手法とも十分に質の高い論文だけが掲載される、と考えても良いでしょう。

若手研究者の中には、上記のような事情をよく知らないで、自分が書いた論文を「ダメ元でLancetに投稿したい」と臆面もなく語る者がいます。そういう者に限って、Lancetに掲載されている論文を読んだことすら無いのです。
このような「記念受験」はやめておいた方が良いでしょう。時間と労力の無駄です。投稿先のジャーナルに掲載されている論文と、自分の論文のレベルを比較し、共著者とよく相談して、適当な投稿先を決めるべきです。初回の投稿では少々の高望みは良いとしても、rejectされたら再投稿先は採択率の高いジャーナルを選ぶべきです。

(2)インパクト・ファクターにこだわらない
インパクト・ファクター(impact factor)は、同じ専門領域のjournal間の相対比較には有用ですが、異なる領域のjournal間の比較には役立ちません。例を挙げると、Circulationのインパクト・ファクターは、Annals of Surgeryのインパクト・ファクターよりも高いですが、前者の方が後者よりもレベルが高いというのは間違いです。必ずしもインパクト・ファクターにこだわる必要はないでしょう。

(3)投稿先のジャーナルの傾向をつかむ
ジャーナルのAims and Scopeをよく読むことが大事です。Scope違いのジャーナルは投稿を避けましょう。例えば基礎研究を多く掲載する雑誌に臨床論文を投稿しても、採択される確率は低いはずです。

傾向をつかむ方法として、投稿先のジャーナルに自分の研究と同様のテーマの論文が過去に掲載されているか、チェックすることは極めて重要です。各ジャーナルには積極的に採用する領域やテーマがあることが多く、その傾向をつかむことは、採択に近づく重要な要素となりえます。

さらにジャーナルの出版元がどこの国にあるのかも、重要な判断要素です。国によって臨床上の慣習は異なり、医療制度も異なります。日本とアメリカでは関心が高いテーマであっても、イギリスでは全く関心がない、ということもよくあります。

 

3.Open access journalで注意すべきハゲタカ・ジャーナル

Open access journalとは、掲載論文のフルテキストをインターネット上で公開しているジャーナルの総称です。著者には高額の掲載料(article processing charge,APC)が課されますが、読者は購読料を支払う必要がなく、論文にフリーアクセスできます。

主なOpen access journal として、PLOS ONEに代表されるPublic Library of Science(PLOS)シリーズや、BioMed Central(BMC)シリーズが有名です。また、老舗のジャーナルがOpen access journalを姉妹誌として発刊するケースも増加しており、Natureの姉妹誌であるNature CommunicationsやScientific Reports、BMJの姉妹誌であるBMJ Openなどが有名です。

Open access journalに投稿する際は「掲載によって評価を得られるか」という視点で媒体を見極めることが大切です。一部のOpen access journalは営利を優先し、掲載料で稼ぐことを目的として、形ばかりの査読で質の低い論文を多数掲載しています。そのようなジャーナルは「ハゲタカ・ジャーナル(predatory journal)」と称されます。まさに人を食いものにする「プレデター」なのです。
プレデターかどうかを見分けるのは時に困難ですので、インターネットサービスのDOAJ (Directory of Open Access Journals)を活用すると良いでしょう。DOAJは、プレデターではないジャーナルの一覧を掲載するポジティブリストです。DOAJに掲載されていないOpen Access Journalはプレデターの可能性を否定できないので、注意したほうが良いでしょう。

自分が書いた論文にふさわしいジャーナルを選ぶことは容易ではありません。ジャーナルのAims and Scopeをよく読み、過去に似通ったテーマの論文が掲載されているジャーナルを中心にターゲットを絞りましょう。身の丈に合ったレベルのジャーナルを選ぶことが、結果的にベストの選択に繋がります。

最終回となる次回は「論文不正」について解説します。

 

 

【関連記事】
「勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ【第9回】|原著論文の書き方⑦-投稿規定に沿って原稿を整える」
「『外科医』という仕事の魅力」山本健人氏[けいゆう先生](消化器外科医/京都大学大学院医学研究科)

 

康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)、『超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
超絶解説
医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本
著者:康永秀生
発行所:金原出版
発行日:2019/11/20
内容:
日々進化する統計手法を“臨床家目線”で解説。
近年、医学研究に用いられる統計手法が極めて高度化している。臨床家が現代の論文を斜め読みせず、真に理解するにはどうすればよいのか。 そのためには臨床医学の進歩だけでなく、統計学の進歩にもキャッチアップしていく必要がある。本書では、「どのような臨床的状況や臨床データに当てはまるか」に焦点を合わせ、日々進化する難解な統計手法を“臨床家目線”で徹底的にわかりやすく解説した。臨床疫学の専門家たちが贈る、すべての臨床家必携の一冊。

コメントを投稿する

コメント
投稿者名(12文字以内)

EPILOGI メルマガ会員募集中 人気記事ランキング エピロギ編集部おすすめ記事 会員限定アンケート 会員限定イベント情報
ページの先頭へ