勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【第9回】原著論文の書き方⑦-投稿規定に沿って原稿を整える

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

今回は、投稿前の原稿チェック・投稿準備の際に医師が知っておくと特に役立つ事項をピックアップ。ジャーナルの投稿規定に沿ったAuthorship・Acknowledgementの記載、Cover letterの書き方について、ポイントをご紹介します。

 

1. 統一投稿規定とその参照方法

International Committee of Medical Journal Editors(ICMJE)は、医学論文誌における統一投稿規定「Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals」を出版しています。詳細はICMJEのホームページを参照してください。同ホームページから統一投稿規定のPDF版がダウンロードできます。
各ジャーナルは、原則としてICMJEの統一投稿規定に沿う形で、独自の投稿規定を作成しています。ジャーナルによって微妙にその内容が異なるため、投稿に際しては各ジャーナルの投稿規定をよく読んで、それに沿って原稿を整える必要があります。

 

2. Authorship(共著者)の要件

論文を書き慣れていない若手医師が「共著者」欄に記載する人物に悩むケースが散見されます。統計データを提供してくれた、原稿を推敲してくれた、といった「研究に協力してくれた関係者」をすべて記載すべきかどうかということは、人間関係もその背景にあることから、判断に迷ってしまうようです。

ICMJEの統一投稿規定では、Authorshipの要件について、「以下の4つをすべて満たす者がAuthorである」としています。

“Substantial contributions to the conception or design of the work; or the acquisition, analysis, or interpretation of data for the work”
(研究の構想・デザインまたは研究のデータ取得、分析、解釈に対する実質的な貢献)

“Drafting the work or revising it critically for important intellectual content”
(論文の重要な内容について草稿を作成、またはそれを批判的に改訂)

“Final approval of the version to be published”
(出版される内容についての最終的な承認)

“Agreement to be accountable for all aspects of the work in ensuring that questions related to the accuracy or integrity of any part of the work are appropriately investigated and resolved ”
(論文のあらゆる部分の正確性または完全性に関連する疑問が、適切に調査および解決されていることを保証し、論文のすべての内容に対して責任を負うと同意していること)

これら4つのすべてに該当しない人物は、共著者欄に記載してはならないのです。

 

3. Acknowledgement(謝辞)の書き方

論文原稿の本文末尾、Reference の直前に、Acknowledgement(謝辞)を書くことがあります。Acknowledgementの欄には、「研究に具体的に貢献したものの、Authorshipの要件を満たさない人や組織の名称」を記載します。また、研究費の提供者(funding source)を謝辞の中で紹介することもあります。(Acknowledgementとは別に、Funding sourceの項を別途記載するケースもあります。)

Acknowledgementに、やたらに多くの人名を書くべきでありません。単に「お世話になった」という程度でAcknowledgementに書くべきではなく、どのような理由でAcknowledgementに載せるのかを明記する必要があります。ICMJEの統一投稿規定には、その理由の記載例として、以下が挙げられています。

"served as scientific advisors," "critically reviewed the study proposal," "collected data," "provided and cared for study patients", "participated in writing or technical editing of the manuscript"
(「科学的な事項に関するアドバイザーとしての役割を果たした」「研究計画書を批判的にレビューした」「データを収集した」「対象患者を提供しケアに当たった」「原稿の執筆や技術的な編集に参画した」)

 

4. Cover letterの書き方

Cover letterの宛先はジャーナルの編集長(Editor-in-chief)であり、Reviewerが宛先ではありません。よってCover letterの内容は出版されず、読者の目に触れることもありません。

一般に初回投稿時のCover letterには、以下の内容を記載すれば良いでしょう。

  • (i)そのジャーナルに投稿したい旨
  • (ii)論文内容の簡潔な説明
  • (iii)重複投稿(duplicate submission)でないこと
  • (iv)Author contributionと、著者全員が原稿の最終版を承諾していること
  • (v)Conflict of Interestの公開
  • (vi)Corresponding authorの氏名・連絡先

なお(v)は、Cover letter とは別にCOI format(利益相反)を提出する場合が多くなっており、「(iv) Author contributionと、著者全員が原稿の最終版を承諾していること」については、ジャーナルによっては本文に書く場合もあります。

 

5. 【補足】アメリカ英語とイギリス英語の使い分け

出版社がイギリスにあるジャーナルには、Lancetとその姉妹誌、BMJおよびその系列誌などがあります。イギリスのジャーナルに投稿するときに限り、イギリス英語で表記する必要があります。それ以外はすべてアメリカ英語を用います。1つの論文にアメリカ英語とイギリス英語が混在しているのは不可です。

アメリカ英語とイギリス英語の使い分けといっても、両者の文法はほぼ同じです。日常会話では、英米で用いられる単語に少し違いがあります。例えば、「秋」のアメリカ英語は“fall”、イギリス英語は“autumn”です。

医学英語でも、単語レベルでは英米の違いはほとんどありません。単語の綴り(spelling)の違いだけに気を付ければ良いでしょう。以下にいくつか例を挙げます。

 

アメリカ英語 イギリス英語
center centre
analyze analyse
anemia anaemia
organize organise
behavior behaviour
realize realise
labor labour
color colour
randomize randomise
leukemia leukaemia
esophagus oesophagus
diarrhea diarrhoea
pediatrics paediatrics
orthopedics orthopaedics
hematology haematology

 

万全を期するには、イギリス人に英文校正を依頼すると良いでしょう。論文の英文校正を請け負っている会社に自身の原稿の校正を依頼する際、校正者にイギリス人を指定することも大抵可能です。

投稿規定に沿って原稿の体裁を整えること、Authorshipの要件を満たしていること、Acknowledgementがルールに沿っていること、Cover letterが正しく書かれていることは、いずれも投稿者がジャーナルの編集者に示すべき礼儀作法と言えるでしょう。整っていない原稿は、査読に回る前に編集者から投稿者に差し戻されることもあり、査読開始の遅延にもつながります。逆に、細部にわたってきちんと整えられた原稿は、編集者に好印象を与え、その後のプロセスを円滑にします。

次回は「投稿先の選び方」について解説します。

 

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康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)、『超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
超絶解説
医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本
著者:康永秀生
発行所:金原出版
発行日:2019/11/20
内容:
日々進化する統計手法を“臨床家目線”で解説。
近年、医学研究に用いられる統計手法が極めて高度化している。臨床家が現代の論文を斜め読みせず、真に理解するにはどうすればよいのか。 そのためには臨床医学の進歩だけでなく、統計学の進歩にもキャッチアップしていく必要がある。本書では、「どのような臨床的状況や臨床データに当てはまるか」に焦点を合わせ、日々進化する難解な統計手法を“臨床家目線”で徹底的にわかりやすく解説した。臨床疫学の専門家たちが贈る、すべての臨床家必携の一冊。

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