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【第6回】原著論文の書き方④ -「Discussion」の執筆ポイント

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

第3回より「原著論文の執筆手順」について解説しています。今回は、前回の「Results」(研究結果)に続き、「Discussion」(考察)の書き方について押さえましょう。

 

1.Discussionに記載すべき項目

第2回で解説した症例報告論文と同様に、原著論文の「Discussion」も、「Introduction」における問題提起を発展させ、当該症例の新規性を提示するパーツになります。

Discussionの典型的かつ基本的な構成(structure)は以下になります。

  • 1.Brief summary(要約)
  • 2.Comparison with previous studies(先行研究との比較)
  • 3.Possible explanations and implications(結果の解釈)
  • 4.Limitations(研究の限界)
  • 5.Conclusion(結論)

第5回でもお伝えしましたが、介入研究の論文はCONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials)声明に従い、観察研究の論文はSTROBE(STrengthening the Reporting of OBservational studies in Epidemiology)声明に従う必要があります。

Discussionの記載に関して言えば、CONSORTとSTROBEで共通して記載すべき項目があります。介入研究でも観察研究でも、「鍵となる結果」「解釈」「限界」「一般化可能性」の4点は必ず記載してください。

(1)鍵となる結果(Key results)
研究目的に直接関わる鍵となる結果を、Discussionの冒頭の1パラグラフに簡潔に記載します。読者が研究における主要な発見を確認し、後に続く解釈が研究結果にも結びついているかどうかを評価するために有用です。先に述べた構成における「1.Brief summary(要約)」部分になります。

(2)解釈(Interpretation)
研究の目的や仮説に照らして、結果の解釈を簡潔に記述する必要があります。今回の結果が系統的レビューを含む過去の関連文献の結果とどのように関連するか、それらは一致するのか異なるのか、異なる場合はどのような理由が考えられるかを慎重に論じます。
構成における「2.Comparison with previous studies(先行研究との比較)」「3.Possible explanations and implications(結果の解釈)」がこれにあたります。

因果関係に関する考察では、以下の項目について可能な限り検討しましょう。

  • ・介入・曝露とアウトカムの関連の強さはどのくらいか
  • ・介入・曝露とアウトカムの関連は、他のセッティングにおける研究とも一貫しているか
  • ・介入・曝露とアウトカムの関連をサポートするような実証的な研究(基礎研究や動物実験も含む)によるエビデンスはあるか
  • ・用量反応関係はあるか
  • ・用量反応関係が確認できる場合、生物学的蓋然性(biological plausibility)があるか

そして今回の結果が、既存の理論や実臨床の現場、医療政策にどのような影響を与えるかについても言及すべきでしょう。今回の研究でもまだ明らかにされなかったナレッジ・ギャップ(knowledge gap)を明らかにし、将来の研究の必要性について論じることもあります。

(3)限界(Limitations)
研究の限界を同定し考察することは、科学論文の本質的な部分と言えるでしょう。潜在的なバイアス(potential bias)や精度低下(imprecision)の原因、解析の多重性(multiplicity)、および介入が計画どおりに実施されたかどうかについて検討する必要があります。

(4)一般化可能性(Generalizability)
一般化可能性は、外的妥当性(external validity)または適用可能性(applicability)とも呼ばれ、異なる状況でも同様の試験結果が得られると考えられる程度について言及する必要があります。特に、患者のリクルート、適格性基準、患者の特性、アウトカムの選択とその評価、フォローアップの期間などについて一般化可能性を欠く場合はそれについて言及すべきです。

Discussionの基本構成「4.Limitations(研究の限界)」が、上記の「(3)限界(Limitations)」と「(4)一般化可能性(Generalizability)」にあたります。

 

2.Discussionの記載におけるポイント

良い研究を行い妥当な結果を得たのち、簡潔明瞭で無難なDiscussionを書けば、必ず論文はアクセプトされます。逆に、研究結果がいまひとつの内容であれば、それをDiscussionの作文力で補うこともできません。

論文の執筆者が留意すべきは、せっかく良い研究を実施し新しい知見を見出したにも関わらず、論文のDiscussionがまずいせいでrejectされてしまうような事態を避けることです。
Discussionの記載にあたっては、以下のポイントを押さえましょう。

(1)Simple is best.
研究の成果を平易な文章で分かりやすく伝えることが、論文の執筆者の使命です。美辞麗句や修辞技巧は一切不用です。
簡潔明瞭を旨とすることも、科学論文執筆の鉄則です。1文は長くても30単語以内に短くまとめましょう。それを超える場合は2文に区切ってください。関係代名詞を用いた30単語を超える長い1文よりも、それを用いない短い2文のほうが確実に読みやすくなります。能動態が原則ですので、受動態は避けるべきです。

1パラグラフは10行以内にまとめましょう。そして1つのパラグラフには1つのトピックしか含めないことが鉄則です。1つのパラグラフに2つ以上のトピックが含まれると、焦点がぼけてしまいます。
各パラグラフにkey sentenceを1文ないし2文、意識的に挿入することを忘れないようにしましょう。

(2)論理一貫性を重視する
Discussion全体を通じた論理一貫性を意識しましょう。すべての記述はConclusion(結論)と矛盾しないようにすべきです。また、Conclusionに関連しない蛇足の記載は一切無用です。Discussionの途中で論理一貫性が破綻してしまうと、最後のConclusionに締まりがなくなるばかりか、ときに論理矛盾に陥ることもあります。

(3)冗長さを排除する
先行研究の詳細な解説を延々と書く必要はありません。教科書的な記述も不要です。論文の本旨から外れる、研究目的とは直接関連のない枝葉末節な記述は一切排除すべきです。論文で強調したいポイントがぼやけてしまうことは防がなくてはなりません。

(4)Resultsに基づく議論に徹する
Resultsからは導かれない主張を展開してはなりません。Resultsの足りない部分を、根拠のない推測で補おうとすることはご法度です。そうした独りよがりの主張はrejectの直接の原因になりうるので十分に注意しましょう。「言えないことは言わない」ことが鉄則です。

(5)新規性を強調する
新規性(novelty)は、研究の生命線です。先行研究と比べて何が新しい発見なのか、そこを強調しなければ、論文としての体を成しません。
なお論文の目的と異なる部分の結果に新規性があったとしても、そこはあまり強調すべきではありません。論旨がぼやけてしまうからです。

(6)Limitationを端折らない
重要な結果に影響を与えうるlimitationはすべて記載しましょう。重大なlimitationを記載しないと、それがrejectの理由になりえます。特に潜在的なバイアス(選択バイアス、測定バイアス、交絡)の大きさと方向性に関する適切な記載は、論文の内的妥当性を説明する上で必須です。
ただしlimitationを適切に記載しても、それで直ちにrejectを免れられるわけではありません。重大なlimitationはそれ自体がrejectの大きな理由の一つであり、それを作文力でカバーすることはできないためです。

(7)Conclusionは慎重に
いかに優れた論文でもどこかに必ず限界があります。Conclusionは、limitationを踏まえて慎重に書くべきです。
妥当と考えられる研究結果であっても、もしかすると将来、より優れたデザインの研究によって覆されるかもしれません。そのことをわきまえ、すべての論文のConclusionでは断定調を避け、より断定的でない(less assertive)表現を心掛けるべきです。

Discussionは、論文全体の中で最も記述の難しいパーツです。しかし、上記のポイントに従って、簡潔明瞭に書くことを心掛ければ、必ず良いDiscussionを書くことができます。

次回は「原著論文のTitle, Abstractの作成」について解説します。

 

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康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
Annals of Clinical Epidemiology(ACE)
発行:日本臨床疫学会
創刊:2019年4月1日
内容:
「クリニカル・マインドとリサーチ・マインドを持つ医療者による質の高い研究を、ビッグデータを活用した研究などの振興と研究人材育成を通じて推進し、現在の医療が直面する諸課題の解決に貢献する」という日本臨床疫学会のミッションに沿う論文を掲載します。掲載論文は、同会ホームページの会員専用ページから閲覧可能です。
臨床の分野を問わず、医療者からの多様な原著論文の投稿を受け付けます。症例報告は受け付けておりません。本会会員のみならず、非会員の投稿も可能です。
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