卒後10-20年、中堅医師としての道を拓く 若手医師を育てる「Teaching Skill」講習会

【第1回】新しい武器を身に付けませんか?

浜田 久之 氏(内科医/長崎大学病院 医療教育開発センター センター長・教授)

卒後10年~20年も経つと、臨床経験も豊富になり、中堅どころとして現場の第一線で活躍されている先生も多くいらっしゃることと思います。一方で、若手医師の教育を任され、不安や迷いの中、試行錯誤されている方も少なくないのではないでしょうか。
初期研修が義務化されて10年。この4月にはいよいよ新専門医制度も開始されます。地域の医療を守り、病院が生き残るために、「若手医師を育てられる」ことが重要視される昨今、若手医師への適切な指導やキャリア育成のできる「教育力」を持つ医師のニーズが高まっています。

本シリーズでは、医学博士・教育学博士であり、内科医として毎日現場で若手医師の指導に力を注ぐ浜田久之氏(長崎大学病院 医療教育開発センター長)に、明日から実践できる若手医師の教育ノウハウ=「Teaching Skill」を12回連載で解説していただきます。

第1回は、オリエンテーションとして、若手医師を教育するさまざまな場面で「武器」となるTeaching Skillを身に着ける目的と意義についてのお話です。

 

あるドクターのつぶやき

一応、専門医も取った。
臨床もトップレベルではないが、それなりに自信はある。
病棟でも「先生、先生」と頼られているのは、嬉しいが、ちょっとしんどいところもある。まあ、それが10年経ったということか~。

おかげさまで、<長>が付く役職にもなった。
上司は、時折不機嫌になるが、基本はいい人だ。後期研修医の部下も一人いる。可もなく不可もなし……という奴だ。正直、教えるのは結構、苦労している。世代のギャップなのか。自分一人でやったほうが、楽な時もある。

家庭?
まあまあだと思う。子供はなかなか勉強してくれないが、元気は元気。妻(夫)は、相変わらずだ。

お金?
欲張ればきりがないが、こんなものか……。振り返ってみると、10年経ってそれなりのことが身に付いて、それなりになったということか。

しかしなあ~、なんだかなあ~。
漠然とした不安はある。
病院間の競争も激しくなる一方だし、来年から専門研修が始まるらしく、上の方は大学からの派遣がなくなるのではないかとヤキモキしている。個人的には、いまはそれなりに満足しているが、こんなペースであと10年も20年も現場に立てるだろうか?

思い切って、辞めるか……。でも、辞めてどうするのよ?
病院、変わる? 開業? 転科? いっそ、転職するか。できるわけないか…。
ああ~。これから、どうすれば……。

わかります。そのお気持ち。
私もそうでした。
30代、40代と迷い多かった私から、あなたにひとつの提案をさせてください。 新しい武器を身に付けてみませんか?
先生は、これまで患者さんのために臨床で、医学のために研究で、さまざまなスキルや知識の武器を身に付けてきたと思いますが、ここで再び新しい武器を身に付けるのはいかがでしょうか?
いまさらとお思いでしょうが、まだ、あなたは若い。
新しいことにトライしても悪くはないでしょう。
人を傷つけない、人を幸せにして、かつ、自分を幸せにする魔法の武器を。
それは……Teaching Skill。

えっ? と思う人は多いでしょうが、そうなんです。
我々は医師なので、この分野は門外漢なのです。だからこそ、Teaching Skillを身に付けると、すごいことになると思います。人生が変わるかもしれません……とは言いませんが、人生を豊かにするかもしれませんね。

 

医療業界は、かつてないほど、教育力が求められている

初期研修が義務化され早10年。
この10年の歴史は、研修医教育の変革の歴史ではなく、指導者の変革の歴史でありました。 教育力のある医師は、次々にいいポジションに付けられて、組織の中核メンバーになりました。大学では多くの教育関連の教授ポストが誕生し、市中病院では教育センター長等のポストが雨後のタケノコのように出てきました。
その中から「カリスマ指導医」と呼ばれる医師が生まれ、高い報酬でヘッドハンティングされることもあるようです。患者ではなく、若手医師を集めて教育できる能力のある医師たちは、それだけで食べていける時代になっています。

医学生教育の方でもいま(詳細は割愛しますが)大変革が起こっています。教育関連のポストは人手不足となっているようです。
臨床の現場でも、教育力は重視されつつあります。
教育力のある医師は、将来の中核メンバーや幹部候補として育てられています。経営陣は、金勘定ばかり考えているわけではありません。なぜならば、この荒波(地域医療構想、病床再編、ダブル改訂、新専門医制度……)の中で病院が生き残るためには、人が最も重要であり、そのためには人が育つ病院であることが必須だからです。

逆に言えば、後輩に教えない、自分の偏屈なやり方に固執する医師は、この10年でずいぶん消えていきました。少なくとも、若手育成を担う教育病院からは立ち去りました。私が住む医師不足の地方でさえ、そうなのです。

 

俺には、私には、教育なんて関係ない!?

「自分は、ブラック・ジャックのように腕一本で生きていく」
……としても、自分の好きな医療をできるような環境をつくり上げる(つまり、コメディカルや後輩医師を教育できる)能力が求められます。

「いや、私は、開業するから教育なんて関係ない!」
開業したら、スタッフの教育は、かなり大変ですよ。スタッフをうまく教育できなければ、間違いなく患者さんからの支持も得られないでしょう。

「じゃあ研究?」
それこそ一人ではできません。部下を育てながらチームでやらなければなりません。

さらに、家庭においても、教育力が必要だということに、異議はないですね。
子供の教育、パートナーの教育、親の教育……。

この仕事を続けるならば、教育から逃れることはできないかもしれません。
Teaching Skill。必要なのです、あなたに。

 

教え方は、ひとつ……ではない

あなた「これは、こないだ教えたじゃない。なんで、言われた通りにやらないの!」
研修医「……。すみません」

よくある病棟の風景です。思い返してみると、我々は幼稚園や小学校や中学校でも、同じようなことを先生から言われましたよね。教育とは、先生が指示をして、生徒がそれに従い、何かを達成することなのでしょうか。子供の教育(Pedagogy)の場合には、そのようなことは多々あります。

しかし、大人を教育(Andragogy)する場合においては、他にももっと方法があります。研修医を「なんで言われた通りにやらないの!」と叱るのも、いい方法だと思います。私は、悪いとは思いません。ただし、いくつかの方法を知った上で叱った方がよりいいと思います。例えば、叱る前後に、下記のような問いを挟むことは有効かもしれません。

「この結果を君はどう思う?」
「これは、正直まずいね。何がいけなかったの?」
「これは、君の将来のキャリアに必要なことだよね?」
「患者さんの病態は、これで改善する?」

それぞれのフレーズには、相手が成人ということを意識した上での戦略的な方法が隠されています。それが、成人教育理論のひとつです。意外と深く、また、おもしろいですよ。

 

優れた臨床家と良き指導とは

この「講習会」の連載は、あなたの教え方や教育論を否定するものではありません。
私が述べるTeaching Skillは、あなたにとって、+αもうひとつの武器となるものです。

優れた臨床家は、診断や治療においてさまざまなアプローチを持っています。本当のプロは、患者さんの病気を治すためには、ひとつのやり方に執着しませんよね? それと同じです。
良き指導医になるためには、さまざまなアプローチを持つことです。

自分を幸せにする、周りをハッピーにするツールがTeaching Skill。
きっと、これにより、あなたの道は新しい方向へ拓けていくに違いありません!
すいません、ちょっと、言い過ぎですね(笑)。

これから、月に1回、1年にわたり、楽しく連載していきたいと思います。
気楽に読んでいただければ幸いです!

第2回記事はこちら>>

<参考>
Malcolm S.Knowles. The Modern Practice of Adult Education from Pedagogy to Andragogy. Association press,Chicago,1980.
浜田久之 資料集
http://www.mh.nagasaki-u.ac.jp/kaihatu/center/staff/#hamada
長崎大学病院 医療教育開発センター ブログ
http://careerngs.exblog.jp/

 

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浜田 久之(はまだ・ひさゆき)
大分医科大卒。内科医、消化器内科専門医、プライマリケア学会指導医。
博士(医学)、博士(教育)。認定医学教育専門家。
予備校講師・学習塾経営を経て、長崎の内科医局に入り地域の中小病院で働く。卒後5年目頃より研修医指導をしながら、野戦病院にて総合診療病棟等の立ち上げ等に関わるが、疲弊し辞表を提出したことも。
10年目、逃げるようにトロント大学へ。帰国後開業するつもりだったが、カナダの医学教育に衝撃を受ける。帰国後、社会人大学院生として名古屋大学大学院教育発達科学研究科で学びながら、カナダで修得した成人教育理論を基礎としたTeaching技法を伝える指導医講習会を主催。現在1000名以上が受講している。
「教うるは学ぶの半ばなり」。日々挫折や葛藤の中で学び続けている。
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