勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【要約版】効率的な症例報告論文・原著論文執筆のポイントまとめ

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

医学論文を執筆したいけれど忙しくてなかなか取り組めない――。そんな医師向けに、効率的に論文を執筆し、さらにジャーナルの採択率を高めるためのコツをご紹介する、シリーズ「勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ」。全11回にわたり、論文執筆・投稿で押さえるべきポイントを、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導し、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏に、解説いただきました。連載をまとめて振り返り、特に押さえておくべきポイントを紹介します。

※要約前の記事は、本文記事中のリンク、もしくはページ下部の一覧からご覧いただけます。

 

1.論文作成の準備-研究計画の立て方

医学論文は、テーマの着想から執筆・投稿までを2~3年以内に行うのが理想的です。データ収集が完了したら遅くとも半年以内に投稿しましょう。

効率的な論文執筆において最も重要なのが「研究計画」です。その研究に意味があるかを見極め、作業ロスを防ぐためにも、しっかり研究計画を立てる必要があります。焦らず以下の手順で研究計画を立てていきましょう。

 

1-1.テーマ選び

臨床研究の場合、研究はクリニカル・クエスチョン(clinical question, CQ[臨床的疑義])の発掘から始めます。日常臨床の現場で抱いた疑問があれば、そのままCQとなり得ないか検討してみましょう。日常臨床から研究はすでに始まっているのです。

症例報告論文であれ原著論文であれ、医学研究のテーマを選ぶ上で重要なのは「新規性(novelty)」と研究の「実行可能性(feasibility)」です。次のステップとして、発掘したCQがこれらを満たすものか確認していきます。

 

1-2.疑問のリサーチ・クエスチョン化(「実行可能性」の検証)

発掘したCQが「実行可能」で研究対象となり得るテーマか確認するため、CQをリサーチ・クエスチョン(research question, RQ)へと定式化し、研究の目的と仮説を明確にしていきます。定式化は「PE(I)CO」と呼ばれる枠組みに沿って行います。

PE(I)CO

  • P  : Patients(患者)
  • E(I): Exposure(曝露) またはIntervention(介入)
  • C  : Control(対照)
  • O  : Outcome(アウトカム)

 

1-3.文献検索(「新規性」の検証)

PE(I)COに沿って研究の目的・仮説を整理した後、文献検索によって過去に同様の研究が行われていないか、研究の「新規性(novelty)」を確認し、PE(I)C0をブラッシュアップします。ポイントは検索に時間をかけ過ぎないこと。効率的に検索し、論文精読の時間を確保しましょう。忙しい臨床医の先生方には文献検索のデータベースPubMed*で先行研究を確認する方法がおすすめです。

* PubMed:米国立医学図書館(United States National Library of Medicine,NLM)の一部門、米国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information,NCBI)が提供する医学・生物学分野の文献情報データベースのこと

第1回では、PE(I)COに当てはめて研究の目的・仮説を明確化する手順や、PubMedを活用した効率的な文献検索の方法を解説しています。詳細は以下リンクをクリックしてください。

 


 

2.症例報告論文の構成と執筆のポイント

症例報告論文とは、珍しい症例や未知の病態の、診断や治療における新しい知見を報告する論文です。どれも困難な症例や新たな病気の予防・診断・治療のヒントとなる情報です。また、将来的に原著論文につながる論文となる可能性もあります。症例報告論文は原著論文と違い症例が1例でも成立するので、症例報告や学会発表にとどめず、英語論文として発表し、世界中の臨床家に共有しましょう。

症例報告論文は、以下の各パーツで構成されます。

症例報告論文の構成と記載すべき内容

  • Abstract(抄録)
    症例の新規性とそれに対する考察
  • Introduction(緒言)
    当該症例に注目する理由、臨床的な問題提起
  • Case(症例)
    症例が示す臨床像
  • Discussion(考察)
    当該症例の新規性(Introductionにおける問題提起を発展させて提示)
  • Conclusion(結論)
    全体をまとめるキー・メッセージ

 

第2回では、各パーツの書き方のポイントや注意点について解説しています。詳細は以下リンクをクリックしてください。

 


 

3.原著論文の構成と執筆手順

原著論文は、以下のような特徴のある論文です。

  • ・独創的な研究結果の最初の発表の場となる
  • ・実験や分析の方法に再現性がある
  • ・査読を経てジャーナルに掲載される

※「勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ【第3回】原著論文の書き方① -『Introduction』の執筆ポイント」より引用

なお、学会抄録、文献レビュー、評論などは原著論文には含まれません。

原著論文の構成
原著論文はTitleとIMRAD(イムラッド:Abstract[抄録]、Introduction[緒言]、Methods[方法]、Results[結果]、Discussion[考察])と呼ばれるパーツで構成されます。

原著論文の執筆手順
原著論文の各パーツの執筆順は、Introduction→Methods→Results→Discussionとするのが良いでしょう。本文を書き上げた後にAbstractを執筆し、最後にタイトルを付けるのが最適な手順となります。実験・観察の進行と合わせて、論文執筆も段階的に進めてしまうのが効率的です。

 


 

4.原著論文の各パーツの執筆ポイント

各パーツは相互に関連し合うため、論理立てて作成する必要があります。以下より、各パーツに記載すべき内容をお伝えします。パーツごとの記載内容の詳細や注意点は、各回記事を参照してください。

 

4-1.Introduction(緒言)

Introductionには、その研究を行うべき論理的根拠を示す必要があります。以下のような4パラグラフ(段落)で、解決すべき臨床的課題、以降に展開される論旨の方向性、研究の目的を明示しましょう。

Introductionの構成と記載すべき内容

  • 第1パラグラフ:背景(Background)
    解明すべき臨床的な課題とその性質・範囲
  • 第2パラグラフ:すでに分かっていることは何か?(What is already known?)
    第1パラグラフで提示した臨床的課題について、先行研究で明らかになっている範囲
  • 第3パラグラフ:まだ分かっていないことは何か?(What remains unknown?)
    第1パラグラフで提示した臨床的課題について、先行研究でまだ明らかになっていない範囲
  • 第4パラグラフ:この研究の目的は何か?(What were the aims of the present study?)
    研究の目的となる、証明すべき仮説

第3回では、Introductionの各パラグラフに記載すべき内容の詳細を解説しています。詳しくは以下リンクをクリックしてください。

 


 

4-2.Methods(研究方法)

Methodsには型があり、記載すべき項目リストに沿って執筆します。介入研究ではCONSORT声明、観察研究ではSTROBE声明に従ってMethodsを記載する必要があります。記載すべき主な項目とその内容を第4回記事より引用します。

Methodsの構成と記載すべき内容

  • (1)研究デザイン
    以下のような内容を記載します。
     ・介入研究か観察研究か
     ・介入研究ならば、ランダム化か非ランダム化か
     ・観察研究ならば、コホート研究か症例対照研究か横断研究か
  • (2)研究対象とセッティング
    適格基準・除外基準と、その基準を用いる理由を説明します。研究のセッティングとは、研究の実施場所および研究期間を指します。
  • (3)倫理的配慮
    インフォームド・コンセントの方法や倫理委員会の承認などを記載します。
  • (4)統計手法
    研究が適切に行われたことを説明するために、詳細な統計手法を示します。

Methodsで重要となる視点は「再現性」であり、他の研究者が論文の内容を追試できる程度に詳細な記載が必要となります。再現性を高めるためには、統計学を用いて数量的なデータを提示することが大切です。
第4回では、統計手法の記載に関する留意事項を解説しています。

 


 

4-3.Results(研究結果)

Resultsに記載すべき項目は、Methodsで記載した適格基準と対象者の選択過程、そして研究結果ですが、「介入研究」と「観察研究」で列挙すべき項目が異なります。ポイントは表現・項目の定型に沿って執筆することです。

またResultsの記載においては以下の点に注意すると良いでしょう。
・時制はすべて過去形、文体は能動態で記載する。
・対象者の選択過程、研究結果ともに、Methodsに書かれている順番に対応させる形で記述する。
・統計学用語は正しく使用する。
・定型表現に則って記載する。

図表の作成・掲載にあたっても文中でのデータ引用、図表のキャプションや枚数など注意すべき点があります。ポイントや注意点を押さえれば、Resultsの記載はそれほど難しくありません。詳しくは第5回記事を参照してください。

 


 

4-4.Discussion(考察)

DiscussionはIntroductionにおける問題提起を発展させ、当該症例の新規性を提示するパーツです。基本的な構成(structure)は以下になります。

Discussionの構成と記載すべき内容

  • 1.Brief summary(要約)
  • 2.Comparison with previous studies(先行研究との比較)
  • 3.Possible explanations and implications(結果の解釈)
  • 4.Limitations(研究の限界)
  • 5.Conclusion(結論)

※「勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ【第6回】原著論文の書き方④ -『Discussion』の執筆ポイント」より引用

介入研究でも観察研究でも、「鍵となる結果」「解釈」「限界」「一般化可能性(異なる状況でも同様の試験結果が得られると考えられる程度)」の4点は必ずDiscussionに記載します。記載にあたっての詳細な説明は、第6回記事を参照してください。

執筆にあたっては、明瞭簡潔に研究の新規性が伝わり、かつ、すべての記述がConclusion(結果)と矛盾しないよう注意しなくてはなりません。またResults(研究結果)からは導かれない主張をしないことも大切です。

 


 

4-5.Abstract(抄録)

ジャーナルによって、採用するAbstractの構成は異なります。標準型を採用するジャーナルが最も多いものの、近年はBMJ型を採用するジャーナルの数も増加しています。ここではBMJ型Abstractの記載内容をパーツごとにご紹介します。

Abstractの構成と記載すべき内容

  • Objectives(目的)
    研究の主な目的、検証された仮説、またはRQ(research question)
  • Design(デザイン)
    研究デザインの種類
  • Setting(設定)
    参加施設の特性や地理的位置、参加施設数など
  • Participants(参加者)
    対象患者の組入れ基準および除外基準の定義
  • Interventions(介入)
    どのような介入が、いつ、どのくらいの期間で行われたか
    ※介入がない場合はパーツを省略
  • Main outcome measures(主なアウトカム評価項目)
    計測されたアウトカム評価のうち、主なもの
  • Results(結果)
    主要な結果
  • Conclusions(結論)
    重要な結論とその臨床的含意(clinical implication)
    ※必要に応じて政策的含意(policy implication)を記載

British Medical Journal(BMJ)に投稿された論文のうち、最終的にacceptされるのはわずか7%。rejectされる論文のうち60~70%はexternal review(外部査読)に回される前にふるい落とされます。editor’s kick(編集部による足切り)は速く、たった一人のeditorがTitleとAbstractを読んだだけで迅速に足切りの決断を下します。この段階でrejectされてしまうと査読コメントが付かず、客観的な評価ももらえません。

Abstractを執筆する際は、本文を読んでもらう可能性を高めるためにも論文の全体像を「完全・正確・明快」に伝えることを心掛けましょう。本文をすべて書き上げた後に、その内容を煎じ詰めAbstractを作成すると良いでしょう。

 


 

4-6.Title(タイトル)

Abstractを書き終えたら、以下のポイントを押さえてTitleを作成しましょう。
・論文の対象(target)と鍵となる概念(key concept)を明示する
・体言止めで記述する
・Titleのスタイルはジャーナルにそろえる

Title作成の鉄則は一語たりとも無駄なwordを含めないことです。それでいて、必要十分な情報は含めなくてはなりません。さらに、専門家でない読者でも、この論文に何が書かれているか一目で理解できるよう意識することが大切です。

Title, Abstract作成手順の詳細や注意点は、第7回記事を参照してください。

 


 

5.原稿を整える-査読者の視点と投稿規定

Abstractでお伝えしたように、レベルの高いジャーナルは、編集者が選定した論文を複数名の専門家が査読し、さらに編集者が採否を決定するピアレビュー(peer review)の方式を取っています。そのようなジャーナルに投稿する場合は、査読者のチェックの視点を押さえた論文執筆、点検・調整を行うことが大切です。査読者のチェックの視点は、各ジャーナルがホームページで公開する「査読の手引き」から読み取ることができます。

第8回記事では、編集者や査読者がrejectを判断するポイントである、独創性の欠如、重要性の欠如、Methods(研究方法)、Results(研究方法)、Discussion(研究方法)の不備について解説しています。また第9回では、投稿規定に沿ったAuthorship(共著者)、Acknowledgement(謝辞)、Cover letterの書き方のコツをご紹介しています。以下リンクよりご覧ください。

 


 

6.投稿先の選び方

投稿するジャーナルを選ぶ際は、以下の点に留意することが大切です。

・論文採択率
自身の論文の内容に対して適切な採択率であるか。

・投稿先のジャーナルの傾向をつかむ
ジャーナルのAims and Scopeに対して適さない内容はないか。過去に掲載された論文と自分の研究の傾向がマッチし、また出版元の国で関心の高いテーマか。

第10回では、誤った投稿先の選び方や、「ハゲタカ・ジャーナル(predatory journal)」と称される注意すべきOpen access journalをご紹介しています。以下リンクよりご覧ください。

 


 

7.論文不正とならないための注意点

論文不正に該当する行為を理解し、執筆時に注意することは重要です。特に文部科学省が2014年に策定した「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」で定義する、研究活動における3つの特定不正行為に留意しましょう。

・ねつ造(fabrication)
・改ざん(falsification)
・盗用(plagiarism)

このほか、二重投稿も不正行為となるため、注意してください。異なる言語で2つ以上のジャーナルに投稿することは二重投稿に当たります。

最終回では、うっかり行いがちな不正行為や、不正を防ぐための対策をお伝えしています。

 

ポイントを押さえた執筆・チェック、投稿をすることで論文の執筆効率や採択率は高まります。臨床医であっても論文実績はキャリアに大きく影響します。連載を通じて紹介したポイントを参考に、論文作成に挑戦されることを願います。

 

【要約前の各記事はこちら】

 

 

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康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)、『超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
超絶解説
医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本
著者:康永秀生
発行所:金原出版
発行日:2019/11/20
内容:
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近年、医学研究に用いられる統計手法が極めて高度化している。臨床家が現代の論文を斜め読みせず、真に理解するにはどうすればよいのか。 そのためには臨床医学の進歩だけでなく、統計学の進歩にもキャッチアップしていく必要がある。本書では、「どのような臨床的状況や臨床データに当てはまるか」に焦点を合わせ、日々進化する難解な統計手法を“臨床家目線”で徹底的にわかりやすく解説した。臨床疫学の専門家たちが贈る、すべての臨床家必携の一冊。

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