勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【第7回】原著論文の書き方⑤ -「Title,Abstract」の執筆ポイント

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

第3回より「原著論文の執筆手順」について解説しています。今回は、前回の「Discussion」(考察)に続き、「Title」(タイトル)および「Abstract」(抄録)の書き方について押さえましょう。

 

1.【はじめに】不出来なTitle, Abstractは足切りの原因になる

British Medical Journal(BMJ)には年間約8,000本の論文が投稿されます。最終的にacceptされるのはわずか7%ですが、rejectされる論文のうち60~70%はexternal review(外部査読)に回される前にふるい落とされてしまうのです。

BMJのauthor information(投稿規定)には以下のような文章があります。

“We may screen original research articles by reading only the abstract.”
(われわれはAbstractを読んだだけで論文を選別するかもしれない)

実際にBMJのeditor’s kick(編集部による足切り)は速く、たった一人のeditorがTitleとAbstractを読んだだけで迅速に足切りの決断を下します。ときにはたった1日で足切りレターが送られることもあるのです。

外部査読に回れば、たとえ最終的にrejectとなっても、editorと複数のreviewerから査読コメントをもらえます。つまり自分の論文に対して客観的な評価をしてもらえるのです。足切りされると、それすらもらえません。足切りの決断が速いのは、著者らの時間の空費を最小限にし、すぐに他誌に投稿できるようにする、編集部の配慮とも言えるでしょう。

論文の著者の立場で注意すべきことは、せっかく本文の内容が悪くないにも関わらず、TitleとAbstractがまずいせいで、外部査読に回る機会を失ってしまうことです。本文に素晴らしい内容が書かれていても、TitleとAbstractがまずければ、その先を読んでもらえる可能性を失ってしまうのです。

 

2.本文との不一致を避ける、Title, Abstractを書くべきタイミング

論文の各パーツを書く順番は、以下のようになります。

Introduction→Methods→Results→Discussion→Abstract→Title

本文をすべて書き上げてから、本文の内容を煎じ詰めてAbstractを作成するといいでしょう。
ときにTitle, Abstractを先に書いてから本文を書きはじめる若手研究者がいますが、そのような書き方は絶対にやめたほうが良いでしょう。こうした手順ではTitle, Abstractと本文の内容の不一致が起こりやすくなってしまいます。

 

3.Abstractに記載すべき内容

Abstractは“complete, accurate, and clear”(完全,正確,明快)を旨とすべきです。Clear(明快)であるためには、concise(簡潔)を心掛け、不必要に長くならないように留意すべきです。そのため、Abstractに引用文献を記載すべきではありません。

3‐1.Abstractの構成

ジャーナルによって採用するAbstractの構成は異なり、以下の3パターンに分類できます。

(1)標準型
Background(背景)、Methods(方法)、Results(結果)、Conclusions(結論)の4パーツで構成される型

(2)BMJ型
Objectives(目的)、Design(デザイン)、Setting(設定)、Participants(参加者)、Interventions(介入)、Main outcome measures(主なアウトカム評価項目)、Results(結果)、Conclusions(結論)の8パーツで構成される型
※BMJでは、Methods(方法)をDesign、Setting、Participants、Interventions、Main outcome measuresに分割しています。

(3)JAMA型
Importance(重要性)、Objectives(目的)、Design(デザイン)、Setting(設定)、Participants(参加者)、Intervention(s) for clinical trials or Exposure(s)for observational studies(臨床試験における介入または観察研究における曝露)、Main Outcome(s) and Measure(s)(主なアウトカム評価項目)、Results(結果)、Conclusions(結論)、Relevance(関連性)の10パーツで構成される型

標準型を採用するジャーナルが最も多いものの、近年はBMJ型を採用するジャーナルの数も増えてきました。

3-2.パーツごとの記述内容

本文を読まなくても、Abstractを読めば論文の全体像が分かるようにしなければならなりません。
BMJ型に沿って、各パーツに記述すべき内容と記載のポイントを確認しましょう。

(1)Objectives(目的)
研究の主な目的、検証された仮説、またはリサーチ・クエスチョンについて明快に提示しましょう。

(2)Design(デザイン)
ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究、横断研究、症例シリーズ研究、診断研究といった研究デザインの種類を明示してください。
さらにランダム化比較試験ならば、盲検化されているかどうか、プラセボ・コントロールを置いているかどうか、コホート研究ならば前向きか後向きか、などを明示しましょう。

(3)Setting(設定)
参加施設の一般的な特性や地理的位置、参加施設数などを提示するパーツです。特定の施設名よりも、施設の特性(大学病院、三次救急施設など)を記載してください。

(4)Participants(参加者)
対象患者の組入れ基準および除外基準の定義を示します。

(5)Interventions(介入)
どのような介入が、いつ、どのくらいの期間で行われたかを明記しましょう。介入がない場合はパーツを省略できます。

(6)Main outcome measures(主なアウトカム評価項目)
計測されたアウトカム評価のうち、主なものを列挙してください。

(7)Results(結果)
Resultsは主要な結果を示すパーツです。「何が科学的新発見なのか」を強調してください。Table 1に書かれている記述統計をAbstractに羅列すべきではありません。ある介入の効果、曝露とアウトカムの関連が、統計学的に有意である、または有意でないことを述べるだけでは不十分です。
Resultsでは多変量解析における最も重要な結果を記載しましょう。例えばロジスティック回帰ならば、odds比とその95%信頼区間およびP値を併記し、Cox回帰ならば、hazard比とその95%信頼区間およびP値を併記してください。可能な限り、相対リスク(relative risk)だけでなく絶対リスク(absolute risk)とnumber needed to treat(NNT:必要治療数)も提示しましょう。

(8)Conclusions(結論)
重要な結論とその臨床的含意(clinical implication)、あるいは必要に応じて政策的含意(policy implication)を示すパーツです。最も重要なことは、結果の内容を超える結論を導いてはならないということです。

 

4.Titleの書き方

Abstractを書き終えてから、さらにそれを煎じ詰めて、Titleを作成しましょう。通常、TitleにBackgroundsの内容やResultsの具体的な数値は含めません。論文の対象(target)と鍵となる概念(key concept)を明示してください。

Title作成の鉄則は、一語たりとも無駄なwordを含めないことです。それでいて、必要十分な情報は含めなくてはなりません。ただ簡潔(concise)であれば良いわけではなく、論文の対象(target)と鍵となる概念(key concept)に関する情報を含む必要があるのです。
さらに、専門家でない読者でも、この論文に何が書かれているか一目で理解できるtitleも意識することが大切です。

なお、Titleは「体言止め」が一般的です。肯定文・否定文・疑問文といった完全文で構成されたTitleは避けるべきでしょう。論文のConclusionで控えめに述べるべき内容を完全文Titleで示すことは、軽率な印象になりがちです。
また、Titleのスタイルはjournalによってやや異なります。LancetやBMJでは、対象が比較的詳細に記述され、タイトル末尾にコロン(:)をはさんで研究デザインも示されます。The New England Journal of Medicineのタイトルはシンプルであり、鍵となる概念(key concept)のみの提示が多く見られます。

以下は最近BMJに掲載された論文のタイトルです。上記のポイントが押さえられているか確認してみましょう。

Continuous subcutaneous insulin infusion versus multiple daily injection regimens in children and young people at diagnosis of type 1 diabetes: pragmatic randomised controlled trial and economic evaluation

こちらはランダム化比較試験の論文です。何と何の比較か、対象疾患および対象患者の範囲、研究デザインを短いtitle内に網羅しています。

Association of early postnatal transfer and birth outside a tertiary hospital with mortality and severe brain injury in extremely preterm infants: observational cohort study with propensity score matching

また、こちらは観察研究の論文です。“Association of 曝露 with アウトカム”という観察研究では定番のtitleの書き方をしています。曝露、アウトカム、対象、研究デザイン、統計解析手法をギュッとまとめた簡潔明瞭なtitleです。

Title, Abstractは論文の「顔」に当たるものであり、読者に論文の「第一印象」を与えるものです。第一印象が悪いと、その先の本文を読んでもらえません。本稿のポイントに沿って、Title, Abstractをしっかり整えるとよいでしょう。

次回は「原著論文における査読委員のチェックの視点」について解説します。

 

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康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)、『超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
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