勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ

【第5回】原著論文の書き方③ -「Results」の執筆ポイント

康永 秀生 氏(東京大学大学院医学系研究科 教授)

臨床研究の実績として、医師のキャリアに大きく関係する医学論文。本シリーズは症例報告・原著論文を中心に、執筆から投稿までのコツを連載形式でご紹介します。解説いただくのは、東京大学大学院で臨床疫学と医療経済学の教授として若手研究員を指導、「Journal of Epidemiology」の編集委員も務める康永秀生氏です。臨床で忙しい勤務医でも書き上げられる「論文作成の方法」をレクチャーいただきます。

第3回より「原著論文の執筆手順」について解説しています。今回は、前回の「Methods」に続き、「Results」(研究結果)の書き方について押さえましょう。

 

1. 【研究デザイン別】Resultsに記載すべき項目

Resultsでは、「Methods」(研究方法)で記載した適格基準と対象者の選択過程、そして研究結果(実験・観察結果)を、いずれも簡潔に記載していきます。また、Resultsには表現、項目ともに定型があり、その定型に沿って執筆することもポイントです。まずは、「介入研究」と「観察研究」それぞれについて、記載すべき項目を押さえていきましょう。

(1)介入研究のResults
介入研究では、CONSORT (Consolidated Standards of Reporting Trials)声明に従い、以下の項目を列挙する必要があります。

■適格基準と対象者の選択の過程

  • ・各群について、ランダム割付けされた人数、意図された治療を受けた人数、主要アウトカムの解析に用いられた人数
  • ・各群について、追跡不能例とランダム化後の除外例、除外理由
  • ・参加者の募集期間と追跡期間を特定する日付
  • ・試験を終了または中止した理由
  • ・各群のベースラインにおける人口統計学的、臨床的な特性を示す表
  • ・各群について、各解析における参加者数、解析が元の割付け群によるものであるか

■研究結果(実験結果)

  • ・主要・副次的アウトカムのそれぞれについて、各群の結果、介入のエフェクト・サイズの推定とその精度(95%信頼区間など)
  • ・サブグループ解析や調整解析を含む、実施した他の解析の結果
  • ・各群のすべての重要な害または意図しない効果

(2)観察研究のResults
観察研究ではSTROBE(STrengthening the Reporting of OBservational studies in Epidemiology)声明に従い、以下の項目を列挙する必要があります。

■適格基準と対象者の選択の過程

  • ・研究の各段階における人数(例:潜在的な適格者数、適格性を調査した数、適格と確認された数、研究に組入れられた数、フォローアップを完了した数、分析された数)
  • ・各段階での非参加者の除外・辞退理由
  • ・参加者の特徴(例:人口統計学的、臨床的、社会学的特徴)と曝露・潜在的交絡因子の情報
  • ・それぞれの変数について、データが欠損した参加者数

■研究結果(観察結果)

  • ・アウトカム事象の発生数
  • ・調整前の推定値と交絡因子での調整後の推定値(該当する場合)、そしてそれらの精度(例:95%信頼区間)
  • ・調整対象となった交絡因子と、調整理由
  • ・カテゴリー境界(連続変数がカテゴリー化されている場合)

なお、ここまで明確に対象者を書き示すのは、第4回でお話した科学的根拠となる「再現性」の担保とともに、研究結果を実臨床に応用する際に適応できない患者を明示し注意喚起するためです。当たり前のことですが、治療の適用を間違えば患者に危険が生じること、研究のゴールは発表ではなく治療であることを忘れないでください。
一般にCONSORTの順守率は高く、出版されているランダム化比較試験の論文は大抵上記の項目をすべて満たしています。一方、STROBEの順守率は相対的に低く、上記の項目を一部満たしていない論文もしばしば見かけます。特に交絡因子の調整理由が書かれていないことがあります。なるべく先行文献を引用して、調整理由を明記すべきです。

 

2. Resultsの記載におけるポイント

論文執筆初心者が書いた論文のドラフトをチェックすると、Resultsの記載方法にしばしば誤りが見受けられます。ここでは、論文執筆初心者が特に注意すべきResultsの記載ポイントを列挙します。

(1)Results記載の原則
1)文体・時制
Resultsには、行われた研究結果の重要部分を、淡々と表記することが求められます。したがって、Resultsはすべて過去形で書くことが原則です。
また、著者の視点・意見を反映した解釈や推論を述べるべきではありません(それらは「Discussion」(考察)で書くべきです)。したがって、Resultsにおける形容詞は、原級で用いられることはなく、比較級・最上級で用いられます。なぜなら、原級は絶対評価、比較級・最上級は相対評価であるからです。比較を伴わない絶対評価をResultsに記載することは不適切です。
なお、他のパート同様、Resultsにおいても、常に能動態で書くことが推奨されます。主語が著者ら(we)の場合、受動態にしてby usを省略することは許容されます。それ以外は受動態を使用すべきではありません。

2)Methods(研究方法)との一致
冒頭でお伝えしたように、Resultsでは、Methodsに記載した適格基準に基づき、対象者の選択の過程を簡潔に示す必要があります。その際、Methodsで特定されたすべての一次および二次アウトカムに関するデータを記載しなければなりません。
また記載の順番と項目も重要です。対象者の選択過程、研究結果ともに、Methodsに書かれている順番で、対応するResultsを記述しなければなりません。Methodsに書かれないことをResultsに書くことはご法度です。Methodsに書いてあるのに、対応するResultsが書かれていないのも不可です。

3)統計学用語の使用上の注意点
統計学用語の使用にあたっては、以下の点に注意しましょう。

  • ・“random”“normal”“significant”“correlation”“sample”といった統計学用語を統計的記述以外に使用しない
  • ・“normal”を「正常な」「普通の」という意味で論文中に使用することは避ける
  • ※“normal distribution”(正規分布)の“normal”と紛らわしいため
  • ・“significant”は、“statistically significant”(統計的に有意な)という意味でのみ用いる
  • ・「関係」という意味でcorrelationという単語は用いない
  • ※“correlation coefficient”(相関係数)の“correlation”と紛らわしいため

4)Resultsで使われる定型表現
Resultsでは、比較や増減、関連性を示す英語表現や、データ表記における数値の表記方法において、定型の表現が多く存在します。定型表現に則って記載することが論文の採用可否において重要であり、執筆時間の短縮にもつながります。詳しくは拙書『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』を参考にして下さい。

(2)図表の作成方法
1)重複記載の制限
図(Figure)と表(Table)に示されるデータを本文中に長々と繰り返してはなりません。鍵となる結果(key results)は重複しても問題ありませんが、本文には、最も重要な所見やデータの傾向のみを強調または要約します。

2)self-explanatoryの原則
図表は、それぞれself-explanatory(それ単体で明確)でなければなりません。図表の内容を理解するためにいちいち本文に戻らなくてはならないような書き方は避けましょう。図表にキャプション(Caption)をつけ簡潔な説明を記載することは認められていますので、ぜひ活用してください。

3)図表の数量制限
図表は、論文の主張を説明し、裏付けとなるデータを評価するのに必要なものだけに限定しなければなりません。表は2ページ以内にまとめるべきです。3ページ以上の表はAppendix(付録)に回すように編集者から指示を受けることもあります。
相対的に重要でない補足資料は、本文ではなくAppendixに入れることもできます。とはいえ、結果の記載は必要最低限の内容にとどめるべきです。論文執筆初心者は特に、「苦労して行った実験や調査の結果はできるだけ多く載せたい」と考えがちです。しかしその考えは誤りです。臨床的価値のある新たな発見の記述、未解明であった研究仮説の証明にのみ紙幅を割くべきです。そうではない結果は、ばっさりと切り捨てたほうが良いでしょう。

Resultsの記載にあたっては、上記のポイントに留意してください。逆に、上記のポイントに従えば、Resultsの記載はそれほど難しくはありません。

次回は「原著論文のDiscussionの書き方」について解説します。

 

【関連記事】
「勤務医が知っておきたい医学論文作成のイロハ【第4回】|原著論文の書き方② -『Methods』の執筆ポイント」
「医療ニーズの変化と医師の生涯学習」北村聖 氏(東京大学医学教育国際研究センター主任教授)
「働きながら考える『医師のキャリア習慣』」高橋俊介氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授)
「医師のためのタイムマネジメント術【第1回】|自分の時間を大事にしよう」

 

康永 秀生(やすなが・ひでお)
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。
1994年、東京大学医学部を卒業後、6年間臨床医として病院勤務。東京大学助教・特任准教授、ハーバード大学客員研究員などを経て、2013年より現職。専門は臨床疫学、医療経済学。2019年1月現在、英文原著論文の出版数は約400編。日本臨床疫学会理事。Journal of Epidemiology編集委員。Annals of Clinical Epidemiology編集長。近著に、『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)、『できる!臨床研究 最短攻略50の鉄則』(金原出版)、『健康の経済学』(中央経済社)、『すべての医療は「不確実」である」(NHK出版)、『超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)など。
超入門! スラスラわかる
リアルワールドデータで臨床研究
著者:康永秀生
発行所:金芳堂
発行日:2019/8/19
内容:
リアルワールドデータ(Real World Data, RWD)が近年注目されている。RWDは、病院やクリニックなど、日常の臨床現場で記録され蓄積されている患者データの総称である。ランダム化比較試験(RCT)のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。RWDには、患者レジストリー、保険データベース、電子カルテデータなどを含むデータベースが含まれる。
本書は、RWDを駆使した臨床研究の実践的な指南書である。ビッグデータを解析可能にするためのSQL操作法、観察研究のデザインと統計解析、論文執筆、査読者のコメントに対する対処法など、RWDを用いた臨床研究のノウハウを満載している。
Annals of Clinical Epidemiology(ACE)
発行:日本臨床疫学会
創刊:2019年4月1日
内容:
「クリニカル・マインドとリサーチ・マインドを持つ医療者による質の高い研究を、ビッグデータを活用した研究などの振興と研究人材育成を通じて推進し、現在の医療が直面する諸課題の解決に貢献する」という日本臨床疫学会のミッションに沿う論文を掲載します。掲載論文は、同会ホームページの会員専用ページから閲覧可能です。
臨床の分野を問わず、医療者からの多様な原著論文の投稿を受け付けます。症例報告は受け付けておりません。本会会員のみならず、非会員の投稿も可能です。
ページの先頭へ