あのウィリアム・オスラーの名言にヒントを得よう! 医師としてのあるべき姿

医学教育の基礎を築いた人物として知られ、『The Principles and Practice of Medicine』(医学の原理と実際)など多くの名著を残したウィリアム・オスラー。
教育者として一流だった彼は、「オスラー病」や「オスラー結節」(※)にその名を残すなど、研究者としても一流でした。

彼に感銘を受けた医師は多く、日本の名医・日野原重明もその1人。
日野原氏は「医学の中にヒューマニズムを取り戻し、人間を全人的にみる」というオスラーの姿勢を世に広めるため、「日本オスラー協会」を発足させたほどです。

もちろん日野原氏だけでなく、オスラーの思想は世界中の医師に影響を与えてきました。
今回は、彼の名言とともに、その医師としての生き様をご紹介したいと思います。

※オスラー病:伝性出血性末梢血管拡張症
※オスラー結節:感染性心内膜炎でみられる指趾掌蹠の有痛性結節

勉強は若いうちにしておこう

~名言その1~

25歳まで学べ、 40歳まで研究せよ、 60歳までに全うせよ。

カナダのボンドヘッドという寒村で、牧師の子として生まれたウィリアム・オスラー。幼い頃に読んだトマス・ブラウンの『Religio Medici』(医師の信仰)に、大変な感銘を受けたといいます。
18歳になるとトロント大学に入学。もともとは聖職者を志して神学を学んでいましたが、医学専攻の教授に影響されて自然科学に関心を抱くようになり、21歳でマギル大学の医学部に移りました。

オスラーがマギル大学を卒業し、同大学の講師となったのは25歳のとき。
講師として戻ってくるまで、彼はイギリスのロンドンで組織学と生理学を、ドイツのベルリンで病理学を、オーストリアのウィーンで病床一般を学んだそうです。

そして、26歳の若さで生理学、組織学、病理学の教授に着任。教授職の傍ら、総合病院では病理解剖と内科臨床に従事しました。イギリス留学の際には血小板を発見するという研究成果も残しています。

また、56歳でイギリスのオックスフォード大学の教授に就任したオスラーは、自らが収集した医学と科学に関する本(7600冊)の目録を作り、これを「Bibliotheca Osleriana」と呼びました。

 

患者に寄り添って診療しよう

~名言その2~

良き医師は病気を治療し、 最良の医師は病気を持つ患者を治療する。

病を治すことが医師の仕事ですが、より良い医師とは「患者に寄り添う者」のこと。オスラーとその患者にまつわる、こんなエピソードがあります。

天然痘に冒された、死を待つばかりの青年がいました。彼は信心深いクリスチャンだったのでしょう、オスラーに「聖書を読んでほしい」と頼んだといいます。オスラーはそれに応え、一日中彼のそばを離れませんでした。

最期のとき、青年は静かにこう言ったそうです。「本当にありがとう」。
オスラーは自ら祈祷書を読み、青年の最期の様子を手紙に書いて、遠くに住む彼の家族へ送ったといいます。

 

机上ではなく実地で学ぼう

~名言その3~

3時間机で勉強するよりも ベッドサイドの15分が勝る。

ペンシルベニア大学で内科教授を務めていたオスラーは、40歳でアメリカのジョンズ・ホプキンス大学に教授として招かれ、同大学の教育体制づくりに参加しました。

当時のアメリカでは講義を中心とするドイツ式医学教育が主流でしたが、彼が重視したのはベッドサイド教育。病に苦しむ患者との直接の触れ合いを推奨することで、「病気」ではなく「人間」を診る医師の育成を図ったのです。

オスラーが提唱したベッドサイド教育は英米に広く浸透し、現在の卒後研修制度の礎となりました。彼が病棟や外来での体験実習を重んじていたことが分かる、こんな名言もあります。

~名言その4~

本を読まずして医学を学ぶことは 海図を持たずして航海に出るに等しく、
患者を診ずして医学を学ぼうとするは 全く航海に出ないに等しい。

「教科書を読むときも常に臨床のことを考えておけ」と、オスラーは言いたかったのでしょう。
ちなみに彼は、ハワード・アトウッド・ケリー、ウィリアム・ヘンリー・ウェルチ、ウィリアム・ハルステッドと共に、全米屈指の名門大学である「ジョンズ・ホプキンス大学」の設立当初を支えた偉人として「ビッグ・フォー」と呼ばれています。

 

医師なら教養を身に付けよう

~名言その5~

医療とは、ただの手仕事ではなくアートである。
商売ではなく天職である。
すなわち、頭と心を等しく働かさなければならない天職である。

これは講演会で医学生に向けられたオスラーの言葉です。 彼は、次にこう続けました。

~名言その6~

諸君の仕事のゆうに3分の1は、
専門書以外の範疇に入るものである。

医師には医学だけでなく人文系の学問も必要だとオスラーは考えていました。彼自身、哲学者や文学者の思想には大きな影響を受けたといいます。
オスラーは医学生たちに、どんなに時間がなくても寝る前の30分間は必ず読書をするように勧めました。

また、彼はこんなことも言っていたそうです。
「医学ほど教養の大切な職業はない。臨床医学ほど教養を必要とするものはない」
つまり、患者の視点に立って行うには、医学教育だけで満足してはいけないということ。
深い愛の心を持って診療を行える医師になってほしいと、オスラーは教え子たちに繰り返しました。

 

医療従事者でなくても役立つ! ウィリアム・オスラーの名言

今回ご紹介したほかにも、ウィリアム・オスラーは多くの名言をこの世に残しました。

「どんな職業に就こうと、成功に向かう第一歩は、その職業に興味を持つことだ」
「穏やかな平静の心を得るために、第一に必要なものは、諸君の周囲の人たちに多くを期待しないことである」
「若者にとって欠かせないのは、友情の恵みである。信頼も、裏切りも、すべてが経験となる」

医学の枠を超えたオスラーの言葉は、医療従事者だけでなく、今なお多くの人々に感銘を与え続けています。

(文・エピロギ編集部)

<参考>
日本オスラー協会「日本オスラー協会ニュース No.65」(2011)
http://www.osler.jp/%E6%B4%BB%E5%8B%95/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC/
新潟RC 12月第3例会 No.2781(新潟ロータリークラブ「Weekly Report Niigata」、2008)
http://www.niigatarc.jp/pdf/2781.pdf
新潟市民病院「研修の理念 ウィリアム・オスラーの教えと共に」
http://www.hosp.niigata.niigata.jp/img/medical/rinsyo_kensyu/rinen.html
iso.labo「名言・格言『ウイリアム・オスラーさんの気になる言葉+英語』」
http://iso-labo.com/labo/words_of_WilliamOsler.html
「医は科学に基づく『アート』」~ウィリアム・オスラー博士のお話~(西宮・門戸厄神 はりねずみのハリー鍼灸院ブログ)
http://ameblo.jp/harry-acu/entry-11812929531.html
この先生に会いたい!![公開収録番]日野原重明先生(聖路加国際病院理事長)に聞く(医学書院「週刊医学界新聞 第2928号」、2011)
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02928_02
地球の名言「ウィリアム・オスラー」
http://www.earth-words.net/human/william-osler.html
塩谷隆信『増補版 遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病;HHT)の診療マニュアル』(中外医学社、2015)

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