働きながら考える「医師のキャリア習慣」 前編

医師にキャリア自律が求められる時代

高橋俊介 氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任教授)

30~40代の医師は転職・転科・開業など、キャリアの転換を考える方が多いです。ただ、今後のキャリアを考えるにあたり、まず具体的に何から取り組めばよいか分からない、という方もまた多いのではないでしょうか。
そこで今回は、自身の歩むべき道を見出していくための「キャリア習慣」について、キャリアや人材マネジメントの研究をされている慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介先生にご教示いただきます。
前編では、医師のキャリアに「自律」が求められるようになった背景や、周囲からのフィードバックの重要性についてお話を伺います。



医師も「キャリア自律」を求められる時代に

欧米では元々、「一つの専門的な職業を生涯にわたり追求すべき」という考え方が強く根付いていました。しかし20世紀終盤からの社会の急激な変化により、例えばIT革命の影響で特定の職業がなくなってしまうなど、一つの職業、一つの専門性にだけこだわり続けるのが難しいケースが増えてきました。生涯の中で場合によっては職種が変わるかもしれないし、同じ職種でも仕事の中身が大きく変わってしまうかもしれない。そのため、「職業」重視から、さまざまな仕事、またはさまざまな職種の連続で積み上げていく「キャリア」重視に変わってきたんです。
自分の人生や仕事を見つめながら、主体的にキャリアを作り上げていくことを「キャリア自律」といいます。日本でも2000年頃から徐々にこうした考え方が広がってきました。

さて、日本の医師の場合はどうかというと、かつては医局人事によるキャリア形成が中心でした。しかし、2004年の研修医制度改革でこの体制が一変しました。医師は研修先を選ぶところから自分でキャリアを選択していくことになり、「キャリア自律」を考える必要が出てきたわけです。 また、医師にキャリア自律が求められるようになったもう一つの原因が、医療機関において経営がとても重要になってきたことです。かつては医師を続けていれば仕事や生活に不自由することはありませんでしたが、今は病院も経営破綻する時代です。昔と比べて高額になった医療機器への設備投資や、徐々に締め付けが厳しくなっている医療保険など、経営的な観点で考えなければならない事柄が出てきています。「医師は医療だけやっていればよいわけではなくなった」ということが、医師のキャリア自律にとって大きなポイントだと私は考えています。

 

医師に求められる能力の多様化

医師として働く上で、中核となるのは医療の知識や技術です。ただ、世の中の多くの仕事が複雑化していく中で、医師もまた一つの専門性だけで仕事を続けるのは難しくなり、さまざまな知識や技術、能力が求められるようになってきています。

求められる方向性は大きく二つに分けられます。 一つは、リーダーシップやコミュニケーション能力といった、普遍性・抽象性の高い能力と、専門性の組み合わせです。コミュニケーション能力については、特に開業を考える場合などは重要になります。患者にとっては、医療の質だけでなく心理的な価値の部分も大きいため、やはり接客が良く説明が丁寧で分かりやすい医師は患者の安心感も違ってきます。

もう一つは、既に持っている専門性とは別の専門性を追求することです。 例えば経営に関する知識がこれにあたります。病院経営の難しいところは、医師としてある程度実績のある人でないとトップが勤まらない点です。しかし、医師としての能力と、病院経営の能力はどんどん乖離してきています。そのため、経営をしっかり学んだ医師がいないと病院が立ち行かなくなるような状況になりつつあります。これは日本の医療全体の大きな問題でもあります。
また、これからは遠隔診断、遠隔手術など、ITも医療の世界へどんどん入ってきますので、こうしたものに関する見識も広めなければならないでしょう。 なお、近頃はキャリアの途中で診療科を転向する医師が増えているそうですが、社会や医療ニーズの変化が激しい中では、経験ベースでこなしていた仕事が周辺環境の変化により通用しなくなってしまうことがあります。そうした中で、ときには途中で専門分野を変えるような柔軟性も求められます。

このように、変化が激しく仕事が複雑化している中では、中核となる医療知識・技術とそれ以外のさまざまな重要な能力との組み合わせが、医師のキャリアを形づくることになります。

それでは、身につけるべき能力、歩むべきキャリアを決めるにはどうすればよいでしょうか。これは、1日朝から晩まで考えただけで分かるようなものではなく、時間をかけて徐々に分かってくるものです。 そこで今回は、みなさんが自分らしいキャリアをつくっていくのに役立つ、3つの習慣をご紹介します。

  • キャリア習慣その1:医師や他職種からのフィードバックを受ける
  • キャリア習慣その2:どのように働いていきたいかを常に考える
  • キャリア習慣その3:異なる職業・働き方の人と広く交流を持つ

 

キャリア習慣その1:医師や他職種からのフィードバックを受ける

ある能力が不足しており、不足を自覚できていない状態を「無意識無能」といいますが、この状態でただ漫然と過ごしても、なかなか不足に気づくことはできません。医療技術など具体的な知識は不足を自覚しやすいのですが、コミュニケーション能力、リーダーシップといった普遍性・抽象性の高い能力ほど不足に無自覚になりがちです。 ここで重要になるのが周りにいる人からのフィードバックです。

人材育成の観点からいうと、人が育つ職場の条件の一つに、フィードバックが多いということが挙げられます。医療技術以外のさまざまな能力を育んでいく上で、職場としてのフィードバックが多いかどうかは非常に重要です。
ところが医師の場合、例えば一人で問診を行っていると、自分がどの程度きちんと相手のことを観察できているかというのは、なかなか自分では分かりません。 そのため最近は、病院によっては問診の様子をビデオカメラで撮影しておいて、あとから先輩医師とビデオを見ながら反省会をする、という指導方法をとっているところもあるそうです。

医師から、特に先輩からフィードバックをもらえればベストなのですが、実際にはそれが難しいケースも多いでしょう。ただそれでもほとんどの場合、看護師は身近にいることと思います。そのため看護師からも気づいた点を言ってもらえればよいのですが、職場で権威に傾斜があるとなかなか発言できない場合もあります。
人間は、どんなに素晴らしい人でも必ずミスを犯すものなので、上司部下や職種を問わず「言えるところは言う」という場の雰囲気はとても大切です。人の命を預かるような仕事であればなおのことですね。

人の自己認識というのは往々にして歪んでいます。自分ではできていると思っていたことができていない、または逆に、自分の実力を過小に評価してしまっているケースもよくあります。
だからやはり、成長をしたいと思ったら自分からフィードバックを積極的に受けにいくことが大切です。フィードバックをしづらいようなオーラを出していると、周囲も「あの人には言っても無駄だ」ということになってしまいます。それよりはむしろ、耳に痛いことを言ってくれる人を大事にして、自分からフィードバックを受けにいくことが大事です。

他者からのフィードバックを受けることで、初めて自分の不足している点に気づくことができるとともに、自分で意識していなかったような強みに気づくこともできる。そうして自己認識が改められた上で、自分は何をしたいのかを考えていく。それが、キャリアを考えるための第一歩です。

後編では引き続き、「キャリア習慣その2:どのように働いていきたいかを常に考える」「キャリア習慣その3:異なる職業・働き方の人と広く交流を持つ」、およびキャリアの中でのワークライフバランスの捉え方についてご紹介します。

(聞き手・エピロギ編集部)

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高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)
1954年東京都生まれ。1978年東京大学工学部航空学科を卒業し日本国有鉄道に入社。1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を終了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。1989年に世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現タワーズワトソン)に入社。1993年に同社代表取締役社長に就任。1997年7月社長を退任、個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。2011年11月から、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。

主な著書:『人材マネジメント革命』(プレジデント社)/『自由と自己責任のマネジメント』(ダイヤモンド社)/『知的資本のマネジメント』(ダイヤモンド社)/『キャリアショック』(東洋経済新報社)/『組織改革』(東洋経済新報社)/『組織マネジメントのプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)/『部下を動かす人事戦略』(共著、PHP新書)/『新版 人材マネジメント論』(東洋経済新報社)/『自分らしいキャリアの作り方』(PHP新書)/『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)/『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)/『新版 人が育つ会社をつくる』(日本経済新聞社)/『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』(PHP新書)ほか
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