2023年から始まる電子処方箋のポイントと日常診療へのインパクト
電子処方箋の運用が2023年1月26日からスタートします。電子処方箋は、患者が加入している医療保険をオンラインで確認できる等の仕組み、いわゆるオンライン資格確認等システムを活用し、これまで紙でやりとりしていた処方箋を電子的に発行・運用できる仕組みです※1。
電子処方箋管理サービスが始まった背景や目的、仕組みなどを解説するとともに、日常診療への影響などについて紹介します。
1. 電子処方箋運用の前提となる「オンライン資格確認」とは
電子処方箋の運用は、医療機関や薬局で実施する「オンライン資格確認」前提となりますが、そもそもオンライン資格確認とはどのようなものでしょうか。
オンライン資格確認はマイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書、または健康保険証の記号番号などにより、患者の加入している医療保険などの資格情報がオンラインで即時に確認できるというものです。
これにより、保険資格の過誤請求によるレセプト返戻の削減、診察前に手作業で行っていた資格確認作業を省けるなど、窓口業務の負担軽減が期待されています。また、マイナンバーカードを用いている患者が顔認証付きカードリーダーの使用に同意すると、医療機関や薬局は、患者の診療/薬剤情報、特定健診等情報を閲覧することが可能となります(下図)。
出典:厚生労働省「オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)」
重要なのは、オンライン資格確認は単に医療機関や薬局が資格確認するためのシステムでなく、安心・安全で質の高い医療を提供していく医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤となっている点です。
将来的にはレセプト・特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテ等の医療機関等が発生源となる医療情報(介護含む)についてクラウド間連携を実現し、必要なときに必要な情報を共有・交換できるようにすることを目標としています。
その際に必須な電子処方箋が蓄積される「電子処方箋管理サービス」はオンライン資格確認のシステムを基盤としているので、電子処方箋の運用にはオンライン資格確認の導入が不可欠となるのです。
2. 電子処方箋の仕組みとメリット
電子処方箋の運用の流れは、以下のとおりです。
出典:厚生労働省 医薬・生活衛生局「電子処方箋概要案内【病院・診療所】」1.2版(2022年11月)」
患者が医療機関を受診した際、マイナンバーカードを保険証として使っている場合(以下、マイナ保険証)は、オンライン資格確認等システムに接続している顔認証付きカードリーダーで本人確認の上、電子処方箋か紙の処方箋か、また過去のお薬情報の提供の可否について選択します。
健康保険証を使っている場合は、受付や診察時に電子処方箋か紙の処方箋かを選択・申告します。患者が電子処方箋、紙の処方箋のいずれを希望しても、医師は支払基金・国保中央会の電子処方箋管理サービスのサーバに処方箋データを登録します。
薬局についても、本人確認や、マイナ保険証を使用している場合の過去のお薬情報提供への同意等は、医療機関と同様です。紙の処方箋がなくなる混乱を防ぐ狙いから当面、医療機関では電子処方箋の引換番号が記載された「処方内容(控え)」が交付されますが、マイナ保険証の場合、顔認証付きカードリーダーの画面で患者自身が直接手続きできますので、薬局での引換番号による電子処方箋の受付は健康保険証の患者がメインとなります。
薬局では電子処方箋管理サービスから当該患者の処方箋データを取得し、調剤後は同サービスに調剤内容を登録するという流れです。
マイナ保険証を使っている患者が顔認証付きカードリーダーにおいて自身のお薬情報の提供に同意した場合、直近での処方・調剤結果を含め、全国の電子処方箋を運用している医療機関・薬局における過去3年間の薬剤のデータを参照できるようになり、データに基づいた精度の高い医療の提供が可能になります。
3. 電子処方箋の運用で医療はどう変わるのか
電子処方箋の導入に向けて政府は、①準備開始、②システム事業者への発注、③導入・運用準備、④補助金の申請─の4つのステップを示しています。
特に医師に関係するところでは、①のステップで、電子処方箋に電子署名を行うためのHPKIカードの発行申請を行います。併せて、システム事業者に電子処方箋対応版ソフト等の見積依頼や発注、導入へと進めていきますが、補助金は2022年度中の導入であれば高い補助率が適用されることから、早めの準備をお勧めします。
紙の処方箋から電子処方箋に切り替わるメリットはさまざまです。まず、処方箋の紛失などによる情報漏洩リスクが減るのに加え、オンライン診療の際に紙の処方箋を薬局へ郵送するという行為も必要なくなります。
中でも最も大きなメリットは、重複投薬の抑制が可能になることです。電子処方箋には、重複投薬や併用禁忌を自動チェックする機能が備わっており、マイナ保険証でお薬情報の提供に同意した患者であれば、過去100日以内に処方・調剤されたどの薬が重複・併用禁忌に該当するかまで確認することができます。
なお、マイナ保険証でお薬情報の提供に同意しない患者、または健康保険証の患者についても重複・併用禁忌については自動的にチェックされ、アラートが出る仕組みとなっていますが、どの薬が重複・併用禁忌に該当するのかまでは表示されません。
加えて、電子処方箋の運用による中長期的な効果として期待できるのが、データに基づいた医療機関や薬局とのコミュニケーションや連携の充実・強化です。患者の同意が得られれば、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照が可能になり、医師と薬剤師、あるいは病院薬剤師と薬局薬剤師の協働により、継続的でより質の高い薬物療法を目指すことが可能です(下図)。
出典:厚生労働省 医薬・生活衛生局「電子処方箋概要案内【病院・診療所】」1.2版(2022年11月)」
電子処方箋が普及している欧米諸国などでは、オンライン診療の普及や疑義照会の減少、患者の待ち時間の短縮などさまざまな効果が実証されています。電子処方箋の運用は医療DX、またはデータヘルス改革を進めていく上で欠かせない取り組みとなっているのです。
4. 電子処方箋の普及への課題と今後の展望
電子処方箋の運用は目前に迫っていますが、スタート時の利用者はかなり限られると予想されています。オンライン資格確認の導入は2023年4月に原則義務化されますが、その導入が伸び悩んでいるからです。厚生労働省の「都道府県別導入状況」によるとオンライン資格確認の運用機関数は2022年11月27日現在で83,579件、参加率(運用率)は36.3%にとどまっています。
こうした状況を受け、医療DXを強く推進する政府の動きに対し、11月2日の四病院団体協議会・総合部会で、拙速な運用開始に強い懸念が示されるなど、現場での運用に関し懸念する声があがっています。
さらに追い打ちをかけるのが、HPKIカードの取得率です。2022年11月末時点での医師のHPKIカードの取得率は、約8.6%にすぎません。また、HPKIカードの取得は、医師、歯科医師、薬剤師ごとに申請先が異なり、手続きに手間がかかるといわれています。
政府はオンライン資格確認、電子処方箋の普及に向けて補助金の活用のほか、オンライン資格確認については2022年度診療報酬改定(10月改定)で加算を新設するなど、同システムの導入を促しています。
このように課題も山積されますが、11月8日、政府が閣議決定した2022度の補正予算案で、厚生労働省は医療DXの推進に1,000億円が計上されるなど、対策が講じられ始めています。
電子処方箋は、薬剤使用の適正性・安全性の確保、そして医療費の適正化にも直結する、政府が進める医療DXの柱のひとつ。患者によりよい医療を提供していくために、医療機関や薬局は一刻も早い顔認証付きカードリーダーの申し込み、システム改修を行うベンダーの選定、改修計画の作成などに努めるともに、政府の動向に注目する必要があるでしょう。
(文・エピロギ編集部)
<参考文献>
- ・厚生労働省「医療DXについて」
- ・厚生労働省「電子処方箋」
- ・厚生労働省「電子処方箋概要案内」
- ・厚生労働省「オンライン資格確認の導入について((医療機関・薬局、システムベンダ向け)」
- ・公益社団法人日本医師会「医師資格証 保有者数の推移」
- ・オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト「【厚生労働省】診療報酬の加算を算定できます!」
- ・厚生労働省「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」
- ・全日本病院協会「電子処方箋で事務連絡|第1021回/2022年11月15日号全日病ニュース」
- ・厚生労働省「令和4年度厚生労働省第二次補正予算案のポイント」
<注>
- ※1 なお、電子処方箋は院外処方箋を対象としており、2023年1月時点では院内処方箋やリフィル処方箋は対象外となっています。