薬剤師へのタスクシフトで医師の業務はいかに軽減できるか――実例を基に探る

 2024年4月からの医師の働き方改革が迫る中、医師から薬剤師へのタスクシフトに注目が集まっています。2023年6月14日、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)に提出された調査のうち「医師の負担軽減策の実施状況」で最も取り組まれていたのは薬剤師による患者への投薬説明であり、他にも薬剤師へのタスクシフトが上位を占めていました。



 人手不足が深刻な看護師へのタスクシフトには限界がある中で、改めて今注目される薬剤師へのタスクシフトについて、実際の取り組みとともに紹介します。

 

1.医師の負担軽減、1位は「薬剤師による投薬に係る患者への説明」

 タスクシフトとは、他職種に医師の業務の一部を移管して役割分担することを指します。役割分担する職種には、看護師や助産師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師、医療事務作業補助者などがあります。

 タスクシフトでは、それぞれの職種の専門性を生かす形で医師の業務を分担します。例えば看護師ならば38の特定行為の実施やプロトコールに基づく薬剤の投与、採血・検査の実施、薬剤師ならば病棟における薬学管理、臨床検査技師ならば心臓・血管カテーテル検査、侵襲を伴わない検査装置の操作などです。

 一方で、役割分担する職種においても、すでにマンパワーの限界など課題があり、タスクシフトを進めるのは簡単ではありません。特に看護師はすでに現場の人手不足が深刻で、日本看護協会が「医師が行っていた行為や業務を単に看護職や他職種にシフトしても、病院全体の業務量は変わらず、他職種の負担増や新たな人材確保が必要となります」とコメントを出すなど、タスクシフトによる業務負担に警戒感を強めています。

 こうした中、医師の業務を役割分担する他職種として期待されているのが薬剤師です。実際に、医師の負担軽減策として実施されている業務の上位を占めているのは、薬剤師によるタスクシフトです。

 2023年6月14日に開かれた中医協では、医師の負担軽減策の実施状況に関する調査結果が公表されました。全診療科を対象とした調査で、所属している診療科で負担軽減策が実施されている医師2,400人の回答によると、最も多く取り組まれていたのは「薬剤師による投薬に係る患者への説明」(47%)、2位は「薬剤師による患者の服薬状況、副作用等に関する情報収集と医師への情報提供」(44%)と、1、2位を薬剤師へのタスクシフトが占めていました(複数回答)。

 このほかにも「薬剤師による処方提案または服薬計画等の提案」(32%)、事前に取り決めたプロトコールに沿っての「処方された薬剤の、薬剤師による変更」(25%)など薬剤師関連の負担軽減策が上位に入っていました。

医師の負担軽減策の実施状況―薬剤師による投薬に係る患者への説明が1位

出典:厚生労働省「働き方改革の推進について(その1)」(2023年6月14日)資料p.29

2.他職種へのタスクシフトが可能な業務を厚生労働省が通知

 こうした結果を受け、日本病院団体協議会(以下、日病協)と日本病院薬剤師会(以下、日病薬)は共同で7月11日、厚生労働大臣に「病院薬剤師確保に係る要望書」を提出しました。

 要望書を「病院薬剤師確保」とした背景には、病院薬剤師不足が影響しています。薬剤師の就職先としては、夜勤がなく病院よりも給与が高い保険薬局の方が人気です。そのため病院薬剤師は不足傾向にあり、厚生労働省が公表した「薬剤師偏在指標」でも薬局薬剤師は供給が需要を上回る「1.08」だったのに対して、病院薬剤師は「0.80」と47都道府県全てで供給が需要を下回っていました。

 このため、日病協と日病薬は要望書で、診療報酬上の要望として①病棟薬剤業務実施加算の算定対象の拡大②退院時薬剤情報管理指導料、退院時薬剤情報連携加算の算定対象の拡大③病院薬剤師による転院、転所時における薬剤管理サマリー等の情報提供に関する評価の創設④病院薬剤師の外来業務に関する評価の創設⑤病院薬剤師の時間外業務に関する評価の創設――などを求めました。このほか、奨学金返済免除や病院への薬剤師派遣、調剤業務のデジタル化推進なども要望書に盛り込まれました。

 このようにタスクシフトで期待が集まる薬剤師ですが、無制限に医師の業務を分担できるわけではありません。薬剤師をはじめとする各職種がどのようなタスクシフトを実行できるかについては、2021年9月30日に厚生労働省医政局長が「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」という通知を出しています。

 それによると、医師から薬剤師へのタスクシフトが可能な業務として、①周術期における薬学的管理等②病棟等における薬学的管理等③事前に取り決めたプロトコールに沿って行う処方された薬剤の投与量の変更等④薬物療法に関する説明等⑤医師への処方提案等の処方支援⑥糖尿病患者等における自己注射や自己血糖測定等の実技指導――などがあります。

 具体的には、例えば周術期における薬学管理では、手術前における患者の服用中の薬剤、アレルギー歴および副作用歴などの確認や手術中の麻酔薬等の投与量のダブルチェック、手術後における術前中止薬の再開の確認などが想定されています。

 プロトコールに沿って行う薬剤の投与量の変更では、事前に取り決めたプロトコールに基づいて、医師による処方の範囲内での薬剤の投与量・投与期間を変更するほか、服薬方法の変更(粉砕、一包化、一包化対象からの除外等)や薬剤の規格などの変更、入院患者の持参薬について院内採用の同種同効薬への変更処方オーダーの代行入力などが可能とされました。

医師からのタスク・シフト/シェアが可能な業務の具体例

出典:厚生労働省「働き方改革の推進について(その1)」(2023年6月14日)資料p.14

3.代行入力や外来診療支援で診療時間や医師の時間外労働が減少

 すでに一部の病院では、さまざまな形で薬剤師へのタスクシフトを実施して医師の負担軽減につなげています。

 例えば京都大学医学部附属病院(京都府京都市)では、患者の入院時に薬剤師が持参薬オーダー入力を支援した結果、患者1人あたりの持参薬管理にかかる時間は全職種(医師、看護師、薬剤師)合計で62.6分から37.6分と、25.0分短縮しました。医師に限ってみれば25分から5分へと、5分の1に短縮しました。

 同じく処方の入力支援関係では、倉敷中央病院(岡山県倉敷市)で薬剤師が持参薬や継続処方、プロトコールに基づいた処方量の変更などについて処方支援を実施。呼吸器内科を対象に処方支援業務をした結果、時間外処方の割合が19.6%から15.8%に減少しました。また、総処方件数も開始前の1,927件から1,745件へと減少。なお、薬剤師による処方支援を導入していない消化器内科の処方状況を比較したところ、消化器内科では時間外処方が約30%を占めていました。

京都大学医学部付属病院での取り組み事例

出典:厚生労働省「日本薬剤師会・日本病院薬剤師会 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング(提出資料)」(2019年7月17日)資料p.6

 KKR高松病院(香川県高松市)では、外来診察室に薬剤師が常駐して診療を支援しています。薬剤師が行っているのは▽電子カルテのオーダー操作補助業務▽処方コーディネート業務▽継続服薬指導業務▽臨床試験(治験)補助業務▽服薬説明業務――などです。これによって、医師による診療時間を平均24.4分から14.9分へと約10分短縮させることができました。

 このほか、洛和会丸太町病院(京都府京都市)では、▽手術室の在庫管理や心臓カテーテル患者・整形外科手術患者への持参薬継続の処方支援▽中心静脈栄養(TPN)の混注▽抗がん剤の混注▽レジメン管理による抗がん剤処方▽インスリン・骨粗鬆症治療薬・抗リウマチ自己注射手技指導▽プロトコールに基づく代行処方など、幅広い業務に取り組んでいます。これらの業務は全てもともと医師または看護師が担っていたものですが、薬剤師が分担することで医師の業務負担軽減につながりました。

 医師の働き方改革スタートまで1年を切り、待ったなしの取り組みが求められています。医師や看護師の人数を増やすことが容易ではない中、既存のマンパワーとしてコメディカルを活用することは必須です。薬剤師や臨床検査技師、臨床工学技士など、それぞれのコメディカルが専門性を発揮して、医師の負担軽減策につなげていく視点が今後はますます重要になっていくでしょう。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考文献>

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