新規参入の続く医師紹介会社、利用時の注意点と適切な会社の選び方とは

 多くの病院が医師不足に悩む中、医師と病院をつなぐ医師紹介会社の存在感が年々高まっています。医師紹介会社は、多忙な中で自分に合った転職先を探したい医師と人手不足で困っている病院双方にとってメリットがあります。その一方で、中には不透明な手数料や社会通念として認められないような高額のお祝い金による転職勧奨などのトラブルも報告されています。


 こうした事態を受けて厚生労働省(以下、厚労省)は、認定制度の創設や相談窓口の設置など、トラブル解消に力を入れています。ここでは医師紹介会社が広がってきた背景から、サービス利用時によくあるトラブルとその対策を取り上げつつ、適切な医師紹介会社を選ぶための方法を紹介します。

 

1. 大学医局が医師の人事権を握っていた時代から、医師・医療機関双方が自由に選べる時代へ

 ほとんどの医師が卒業と同時に出身大学の医局へ入局し、医局が医師の研修の大部分を担っていた時代は、医師の就職や転職について決めるのは基本的に教授を頂点とする大学医局でした。医局は大学病院だけでなく、地域の医療機関もジッツ(医局の関連病院)として実質的な人事権を有し、どの病院にどの医師を派遣するかを決めていました。

 しかし、研修医の段階から特定の大学医局に入って研修を積むことについては弊害も指摘されてきました。大学医局では特定の専門科のみの研修となるため、地域医療で求められる幅広い診療の能力を磨く機会がないということや、医局の強い権力構造もあって研修医や若手医師などの処遇が不十分になることなどです。

 そうした中、1998年に当時26歳の研修医が過労死した事件(関西医科大学研修医過労死事件)が発生し、裁判で「研修医も労働者である」という判断が下されました。それも1つのきっかけとなって、研修医の待遇改善やアルバイトの禁止などが盛り込まれた新医師臨床研修制度が2004年4月にスタートしました。

新医師臨床研修制度では新たなマッチング制度が導入され、研修先として大学病院だけではなく市中病院も選べるようになりました。結果として大学医局に所属しない医師が増え、人員不足に陥った大学医局は、派遣先の病院から医師を引き上げるといった対応を行いました。これによって地域の病院での医師不足が顕在化する事態となりました。

 こうして大学医局での人事権が弱まるにつれて、医師は自らの希望する職場を自分で探すようになり、医療機関も今まで医局派遣に頼っていたところから徐々に自前での医師の採用に取り組むようになっていきました。それと同時に存在感を増してきたのが医師紹介会社です。

 医局に頼らずに医師が転職先などを選ぶ場合、転職先の情報収集や選定を医師が自分で行わなければなりません。しかし、多忙な業務の中で転職活動をすることは難しく、また転職先に関する情報を個人で収集するには限界があります。また、採用活動をする医療機関にとっても、候補となる医師にアプローチするのが難しいというハードルがあります。

 2019年1月22日に医師転職研究所が公表した調査結果では「もし転職活動を始める場合、不安や障壁になりそうなこと」という問いに対して「希望に叶う転職先が見つからない」が54.2%と半数以上を占めていました(調査時期は2018年11月28日~2018年12月25日、回答者531人)。こうした背景もあって、求職者に代わって条件にマッチする病院を探し、面接日時や入職時期などさまざまな調整を行う医師紹介会社のニーズが高まっていったのです。

2. 首都圏では医局人事を抜いて紹介会社経由での医師の採用がトップに

 2004年からの医師・医療機関からのニーズの高まりをきっかけに医師紹介会社の参入も増えており、厚生労働省の人材サービス総合サイトを確認すると、2023年10月時点では521の事業所、214の事業主(会社)で医師を対象とした有料職業紹介事業を営んでいる状況となっています。

 全日本病院協会が2020年10月に公表した「雇用における人材紹介会社に関するアンケート―調査報告―」(調査客対数2,552施設、回答数332施設、回答率13.0%)によれば、2大都市圏(東京・神奈川・埼玉および大阪・京都・兵庫・奈良)における常勤医師の新規雇用ルートは、「紹介会社斡旋」が67.2%とトップで「医局人事」の52.5%を上回っていました。また、2大都市圏に限らず全体でみても43.7%が「紹介会社斡旋」で採用していました。

 なお、2014年時点の同調査では、2大都市圏では45.1%、全体では33.8%となっており、2大都市圏では20ポイント以上、全体では約10ポイント増加しています。このことからもこの数年間で、病院における医師紹介会社経由の採用が定着してきたことが伺えます。

常勤医師新規雇用ルート

出典:全日本病院協会「雇用における人材紹介会社に関するアンケート―調査報告―」(2020年10月1日)資料p.6

3. 医師紹介会社の活用が進む反面、トラブルの報告も増加

 このように医師の転職方法、あるいは病院の医師採用方法として定着してきた医師紹介会社ですが、利用が進む反面、トラブルも増えています。トラブルの代表的なものは、医師を採用する際に病院が医師紹介会社に支払う手数料に関することや、入職しても早期に離職してしまうケースがあることなどです。

 特に早期離職については、悪徳な医師紹介会社が自ら紹介した転職者に対して「お祝い金」などを出すことで転職を促し、短期で離職させて別の医療機関へ入職させ、紹介手数料を荒稼ぎするような手口も厚労省等に報告されていました。

 こうしたトラブルに対して、厚労省はさまざまな対応策をとっています。具体的には2021年4月からは職業安定法に基づく指針が一部改正されて「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭などを提供して、求職申し込みの勧奨を行うことが禁止されました。

 このほかにも紹介事業者が遵守すべき事項として「職業紹介手数料等の情報開示義務」「職業紹介手数料の返戻金制度の勧奨」「自らの紹介により就職した者に対して、就職後2年間の転職勧奨の禁止(無期雇用契約に限る)」などを明示しています。さらには2023年2月には各都道府県労働局に『「医療・介護・保育」求人者向け特別相談窓口』を設置し、同年8月からは職業紹介会社への集中的な指導監督を実施するなど、対策に取り組んでいます。

 また、2023年6月に政府が閣議決定した規制改革実施計画では、厚労省に対して、その集中的指導監督の効果を把握した上で2024年度に必要に応じ所要の措置を検討すること、としています。

「医療・介護・保育」求人者向け特別相談窓口について

出典:厚生労働省「職業紹介・労働者派遣について」(2023年7月10日)資料p.7

4. 適切な医師紹介会社を選ぶポイントとは? 厚労省の認定も参考に

 それでは、数ある医師紹介会社の中から安心して転職の相談ができる適切な会社を選ぶにはどうすればいいのでしょうか。参考になるものとして、厚労省による委託事業「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」があります。この制度は、求職者と求人者の双方が安心して職業紹介会社を選べるように2021年度から始まったものです。

医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度

出典:厚生労働省委託事業「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度

 「お祝い金を支給しない」「取り扱い職種別に手数料を公表している」「転職活動をみだりに助長するような不適切な広告表現・広報活動を行っていない」などの一定の基準を満した有料職業紹介事業者が「適正な有料職業紹介事業者」として認定を受けているため、適切な会社を選ぶ際の参考になります。

 認定事業者かどうかは、認定制度のホームページ上で検索できるようになっています。適正認定事業者を探すためのページに会社名を入力すると、下記のような情報を確認できます。

  • ・本社所在地
  • ・認定取得日
  • ・医師や看護職、薬剤師、リハビリテーション専門職など職種別の入職実績および認定状況(事業者の申請時の直近2年度における入職実績が連続して5件以上ある職種を「認定職種」として表示)
  • ・対応エリア
  • ・サービスブランド
  • ・コーポレートサイト
  • ・手数料の公表URL

 なお、事業者での職種ごとの入職実績として、「Ⅰ:300名以上」「Ⅱ:100名以上」「Ⅲ:50名以上」「Ⅳ:5名以上」「Ⅴ:1〜4名」「空欄:実績なし」のランクも表示されています。

 医師について前々年度および前年度での入職実績が最も高いⅠにランクされている医師紹介会社は、2023年10月時点で下記の5社のみとなっています。

  • ・株式会社メディウェル(医師転職ドットコム・医師バイトドットコム)
  • ・株式会社メディカル・プリンシプル社(民間医局)
  • ・エムスリーキャリア株式会社(エムスリーキャリアエージェント)
  • ・株式会社エムステージ(Dr.転職なび・Dr.アルなび)
  • ・株式会社リクルートメディカルキャリア(リクルートドクターズキャリア)

 利用しようとしている医師紹介会社が良い会社かどうかは、最終的には合う合わないという面もあるため一概に言えるものではありません。ただし、これまでの紹介実績の多さや認定の取得、運営会社、求人数の多さなど、ある程度外的に判断できる材料もあります。大切な情報を預けて利用するサービスでもあるため、厚労省の認定などを参考にしつつ、安心して利用できる会社かどうか一旦チェックしてみることをおすすめします。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考文献>

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