【医師座談会】「医師の働き方改革」で仕事の量や質はどう変わった?現場の課題や今後への期待とは

大学病院ではタスクシフトが遅れ気味/「雑務が本業を圧迫しては本末転倒、労働の量だけでなく質に着目した改革を」

2024年4月、「医師の働き方改革」が施行されました。
医師の長時間労働の是正を目指して、労働時間の上限規制などさまざまな取り組みが進んでいます。制度施行後、実際に効果は出ているのでしょうか?

3人の現役勤務医の方に、「医師の働き方改革」施行前後の変化や制度への受け止めを座談会で語っていただき、前後編の記事にまとめました。

後編となる本記事では、業務の質や量の変化や具体的な勤務先での取り組み、これから医師の働き方はどのように変わっていくべきかについて、現場目線でリアルな意見を交わしていただいています。

本座談会の前編【医師座談会】『医師の働き方改革』で残業時間や有給休暇、給与はどう変化したのか?

 

座談会参加者の紹介

G@呼吸器外科:医師13年目、大学病院勤務医。手術、外来といった一般的な臨床業務に加えて、研究、教育および関連学会の委員会の仕事に従事。大学病院は当直なし、週1回のオンコールあり。週に1回外勤で宿日直許可ありの当直あり。

F@精神科:医師9年目、一昨年までは精神科単科病院で勤務。2024年4月からメンタルクリニックで勤務。現在はクリニックの外来のみで9-18時勤務。外勤はしていない。

サン@内科:医師12年目、800床以上の総合市中病院の内科勤務医。月1回宿日直許可なしの当直あり、オンコールなし。子供のお迎えがあるため基本定時帰り、外勤はほぼしていない。

1.医師の働き方改革で業務の質や量に変化はあったか?

司会:メディウェルのアンケート調査記事「『医師の働き方改革』施行前後で、医師の勤務の実態はどう変化したのか-医師1,596名のアンケート結果-」を踏まえての座談会の後編です。

アンケートでは、勤務時間をもともと長いと感じていなかった医師が6割を超えています。 医師の働き方改革施行前後における主たる勤務先での勤務時間の長さ また、勤務先では具体的な取り組みがされていないと感じる医師が6割越えと大勢を占める結果です。 医師の働き方改革によって自身の勤務環境が改善されたと思うか 個人の変化や勤務先への影響などをどう感じていらっしゃるでしょうか?

F@精神科:働き方改革であおりを受けないように病院からクリニック勤務に変わったため、残業はほぼありません。

それでも病院勤務と比べると、丸一日ぶっ通しで外来なので、連日業務が続くと勤務時間は長く感じてしまいます。これは私の適性の問題です…(笑)

サン@内科:制度改正の前から、子育てに注力できるような常勤の科と働き方を選ぼうとしてきたこともあってか大きな変化はないですが、当直業務が少し負担になったように感じています。

昔は認められていたと聞く「ママ女医当直免除」は今や難しい状況です。少数医師が多数の当直回数をこなすことがなくなったからでしょうか。

当直業務の中身も少し負担感が増しました。例えば、「当直の時の入院数をもっと伸ばすように」と上層部から頻繁にお触れが出ています。断らない救急なんて某医療法人のスローガンだけかと思っていました。

東京ルールなんて取り決めが作られた救急車たらい回し時代から少ししか経たないのに、今や都内の市中病院でも、救急車の受け入れを1件でも断ったら上からのお叱りが発生します。

制度にからんでのものではないのかもしれませんが、病院は収益を上げるのに必死ですね。

G@呼吸器外科:ウチは「働き方改革で残業代をちゃんと払い出したら収益が悪くなったから、もっと手術しろ」って言われました(笑) 

消費税の増税分を診療報酬に償還できないという保険診療のひずみは、大学病院で高額な機器を多数使っていると特に大きいようです。保険診療への締め上げは相当厳しいなと、自由診療との違いを実感します。

働き方改革とはいっても、我々外科医はオペで遅くなる分にはそこまで疲弊しないんですよね。人間なので限度はありますけど。

外科医は手術にやりがいを覚えてこの仕事を選んでいるので、「雑務で時間外労働がかさんだから、今月は緊急オペに入れない」とかになったら本末転倒なんです。

今回の改革はあくまで労働の量に着目しているようにみえます。本来は、勤務時間という量だけでなく質の改善についても切り込むべきだと感じています。

働き方改革が始まって改善された点として、朝カンファの開始時間が15分遅くなりました(笑)
週1でやるカンファもスリム化を図っていて、前は2時間かかってたものが1時間で終わるようになりました。

2.労働時間短縮のための取り組みの変化は?大学病院勤務医は雑務で苦労している?

司会:アンケート結果からは、特に大学病院勤務医の回答者のうち過半数が勤務先の取り組みに不満を感じているという結果が出ています。 【勤務先別】主たる勤務先の働き方改革への取り組みに関する満足度

先生方の勤務先では、労働時間短縮のための取り組みなどはどのようなものがありましたか?

サン@内科:急性期病院であるためか、ナースプラクティショナーが複数科に所属するようになってきています。血液内科、外科系などで活躍されていて、カルテ記載・既存処方内容の変更調整・診察など、病棟業務がタスクシェアされています。

忙しい科の先生はカルテ記載もままならないでしょうし、別の科であっても、こまめにカルテを書いてくれるナースプラクティショナーの存在は有難いですね。

F@精神科:精神科では診断書作成など書類仕事の負担が大きいんです。単科病院だと専攻医から外来がありますし、外来で患者さんが多いとその分書類仕事もかなり増えてくるので。

病院によって書類作成を誰がどこまでやってくれるのかはずいぶん違うのと、その書類の仕上がりやクオリティも職員によって違います。結局自分が一から書き直さないといけないこともあれば、ほとんど確認のみで済むレベルもあったりします。

前の勤務先と比べて、その辺りが今のクリニックでは格段に働きやすくなってます。院長の方針で、医師以外ができることは基本的に全て他のスタッフに任せるようになっています。

そこに至るまでの指導はおそらく大変だっただろうと推察しますが、おかげさまで今のクリニックでは書類関係の負担は大幅に減っています。精神科は特に各種診断書など書類関係の業務が多いので、こういうタスクシフトは非常に助かります。

G@呼吸器外科:大学病院やハイボリュームセンターなどでの勤務が長いので、サン先生・F先生のコメントにそんな事までやってくれるのかと驚いています。大学病院でもタスクシフトは進んではいますが、まだまだというか欲しい所には充足されていません。 

例えば市中病院で勤務していた時は、診察ブースにクラークがついており、同意書の取得、電話連絡、事務的な説明までしてくれていました。一方、大学病院では全て自分でやらなくてはいけないので、患者1人を診るのに倍近く時間がかかります。

一応看護師が数人配置されていますが、彼女たちのフットワークは重く、お昼休みになると全く捕まりません。待ち時間が長いとよくクレームが入っていました。

しかし、少しずつ改善されてきている部分はあります。最近数年ぶりに大学病院に戻ったら、看護師が一部のルートを確保できるようになっていました。これまで自らしていた同意書のスキャン取込みも、スキャンセンターができて、ファイルに同意書を入れてボックスに入れておくだけで良くなっていました。

おかげで外来にかかる時間がだいぶ短くなりましたね。市中病院からすると当たり前なんでしょうが、大学病院からすると大きな前進です(笑)

ナースプラクティショナーも大学病院ではあまり見かけないです。麻酔科でナースプラクティショナーを育成中だという話を聞きましたが、手技のレベルがなかなか向上しないので、医師が業務軽減できる技量には遠いままらしいです。

ともあれまずは、市中病院で他のスタッフによって行われている作業を大学病院でもシフトしていってほしいです。しかし、自分自身飼い慣らされ過ぎていて、何を任せて良いかすら分かりません

F@精神科:大学病院はひどかった…。私がいた時も、検査や他科受診の付き添い、細かい電話連絡や看護のベッドコントロールの都合で部屋が変わることも医師が伝えるルールだったりして非常にストレスフルでしたね。

奇跡的に書類関係は担当のクラークさんがとても優秀で助かったのですが、その他がひどすぎました。

G@呼吸器外科:大学病院の性質上、若手の研修医、専攻医が多いのと、安全管理が誤った方に突き進んでいて、何かインシデントが起こると大真面目に「〇〇は医師が行う」という方針を安全対策だと言い出すので、タスクシフトが進まず、いわゆるブルシットジョブで疲弊する感じですね。看護師より業務に忙殺されてる医師の方がいつかインシデントを起こしそうです。

司会:安全管理の名のもとに医師に業務を集中させるとは迷走していますね。大学病院勤務の医師が感じている負担はもっともで、今のままでは人離れが加速していきそうです。

3.医師の働き方改革の制度施行を経て感じている変化と、今後さらに期待することは?

司会:働き方改革の実際のところについて先生方にいろいろ伺ってきましたが、総じて制度への印象はどうですか?この制度改革は受け入れられるものでしょうか?

F@精神科:悲観的な話だったり、実態が伴っていなかったりとネガティブなことも言いましたが、働き方改革そのものには賛成です。

診療科や所属施設によって各個人レベルでの不満はどうしても出てくるとは思いますが、100点満点の制度はなかなかないでしょうし、医療者の健康を守る上ではやはり勤務時間の把握、管理はきちんとしていくべきだろうと思います。

それで現実的に回らなくなる施設なども出てくるとは思うのですが、その上でどうするかを考えていかないと、本当の意味での改革にはならないのだろうな、と思っています。

あと、残業をきちんとつけることができるようになったというだけで終わらせず、働いた内容が正当に評価されるようになることが本来の働き方改革の目指すべき所ですよね。

サン@内科:私個人も賛成の立場です。超過勤務や365日オンコールなど個人を犠牲にするような働き方を強いられた時代もあった医師業を、聖職ではなく「労働者とみなす」という宣言であり、時代に即した制度ではないでしょうか。

勤務内容に対する評価やインセンティブの最適化(例えば内科と外科が同じ給与で良いか)などの別の議論も必要でしょうが、局地的に見て、勤務時間や当直回数が見える化されて回数分支払われる、インターバル休憩も強制的に確保されるというのは、公平公正で、かつ労働衛生環境の向上につながっている、と感じています。

G@呼吸器外科:私も賛成ですね。施設の対応や診療科の特徴によって部分的な弊害は起こるものの、全体として必要な改革だと思います。議論され尽くしてないところで課題が出てきているなどはありますが、全体的に良くなってるとは思いますね。悪くなった点としてはやはり給与の部分かもしれません。

改善を期待する部分としては、もっとタスクシフトを進めてほしいです。そもそも大学病院には不要なタスクが多過ぎる。若手医師がやっていた仕事が我々中堅にまかされてるだけの所もあるので、それ意味ないじゃんと(笑)

ロスジェネ世代は雑務から解放される「上がり」を目指して10年15年頑張ってたと思うんですけど、上がりの学年になったら、働き方改革の煽りを喰らっていて気の毒以外に言葉がないです。

医師になった頃からずっと思っていましたが、聖職である事、高い職業倫理を求められる事と常軌を逸した滅私奉公ってイコールじゃないですよね。あくまで理想であって、中身は人間ですから。神父さんも夜中には寝てますよ(笑)

司会:全体的には前向きな受け止め方がされた改革前後の変化ですが、改善点は制度施行後もまだまだ残っている現状が今回の座談会でよくわかりました。

医師の業務の質を保って雑務やブルシットジョブを減らすような取り組みが推進されることが今後の課題であるといえそうですね。

4.まとめ

座談会後編では、医師の働き方改革への実際の印象と現状の課題が浮き彫りになりました。

一部の病院やクリニックではナースプラクティショナーの活用や書類業務などのタスクシフトが徐々に進みつつある一方で、今回挙がった大学病院などでは業務改善の取り組みの遅さや負担の減らない現状が指摘されました。医療業界全体の働き方改革には更なる取り組みが望まれます。

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