【特集】インフルエンサー医師

研修医になってはじめて、「医学は楽しい」と思えた

joslerの犬(腎臓内科専攻医)

「小心者だったから、仕事選びで失敗しないように、高校生の時にあらゆる職業のメリット・デメリットを調べました」と語るjoslerの犬先生。

たどり着いた答えは「医師になること」──。現在は腎臓内科の専攻医として活躍する傍ら、ネットでの情報発信やXの勉強会スペースの運営など、精力的に活動されています。

今回のインタビューでは、医師を目指したきっかけや研修医時代の苦労、そして現在の取り組みや今後の展望について、じっくりとお話を伺いました。
【特集】インフルエンサー医師
近年、医師の働き方が多様化する中で、キャリアにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、臨床現場にとどまらず、SNSやさまざまなメディアを活用され、医師の学びやキャリア形成に役立つ情報発信に取り組んでいらっしゃる医師の方々にインタビューしました。医師の視点から広がったキャリア像や、仕事の軸となる想いなど、皆さまの今後を考えるヒントとなるエピソードをご紹介します。

 

高校生の頃に思い描いた「医師のやりがい」は、間違っていなかった

 

──はじめに、joslerの犬先生が医師を目指した理由・きっかけについて教えていただけますか?

あまりドラマチックな理由はないんです(笑)。

高校生の頃に、「自分は将来どの仕事に就くか」について、いろいろな職業を徹底的に調べたんですね。どんな仕事内容なのか、キャリアパスはどうなっているのか、やりがいは何か…など。

それこそ、銀行員から警察官、料理人など、思いつく職業を全部調べました。さまざまな職業について詳しく書かれている書籍を購入して読んだり、インターネットで調べたり。

──すごい(笑)。高校生の時に、そこまでしっかり調べて進路志望を定めていったのですね。

いや、単に小心者でしたので(笑)。

いつも何か選択を迫られた際に、一つひとつの選択肢にどんなリスクがあって、最悪のシナリオはどんなものがあるかを考えておかないと、不安になってしまうんです。好き好んで調査したというよりかは、恐怖心で必死にやっていた感じですね。

──その時に、「医師」という職業を選ばれたのですか?

はい、いろいろな要素を比較検討した結果、医師が一番自分に合っていると思いました。──まあ、高校生がやったことですので、大した精度で調べられたわけではありませんでしたけれど(笑)。

当時はリーマンショックの影響もあって、多くの若者が将来への不安を感じていて。だから、「医師の仕事は不景気にも強い」という点は大きな魅力でした。あとは、目の前の患者さんの病気を治していくことに、やりがいを感じられそうだな、と。

僕はどちらかというと、人と競争をするのがあまり好きではなくて。

これは勝手なイメージですけれど、例えば1人の営業マンがいて、その人が大きな利益を出したとき、同業他社の利益を得る機会を奪ってしまうことも、きっとありますよね。そういう利益の取り合いになる仕事だと、やりがいを長く感じ続けるのは難しいだろうという想いもありました。

──実際に医大に進んでからは、いかがでしたか?

「医学が楽しい」と思えるようになったのは、研修医になってからです。医大生の頃は、正直モチベーションはやや低めでした。

ですが、研修医になって実際に患者さんと接するようになって、これまで学んだことを治療に生かすようになってくると、気持ちが変わってきたんです。患者さんの状態が改善されていくのを目の当たりにして、「やっぱり、医師の仕事を選んで良かった」と思うようになりました。

研修医として腎臓内科の実習を受けていた時に、ある患者さんを担当することになりまして。

その患者さんは腎臓の病気の影響で足がパンパンに腫れ上がり、それこそ象の足みたいにむくんでいたんですね。それが指導医の指示のもとステロイドの投薬をしたところ、2週間ほどで足のむくみが解消されて、もう普通の足のサイズに戻ったんです。

──その時の経験が、腎臓医を専攻に選んだきっかけにもなったのですね。

はい。腎臓内科は外科のような手術はなく、検査データを調べて薬を選ぶことがメインになります。

そのためには手技よりも学習や考察が求められるわけで、そういう働き方の方が私に向いていると思いました。

研修医として地方の病院で働く際は、指導医や先輩医師が多い都市部の大きな病院にいるときより「自分で判断しなくてはならないこと」が多くなります。

そこで思ったような成果を出せずに悩むことも多かったのですが、勉強を重ねて、たとえば「非常に多い種類の利尿薬からどれを選ぶか」などといったことも段々と分かってきます。すると、一人ひとりの患者さんにより細かい指示ができるようになって、患者さんの回復も見られるようになって。

救急車で担ぎ込まれて入院してきた患者さんが、自分の足で退院できるようになって、1ヵ月後くらいに外来に来てくれて、元気そうに話してくれる。──そういうのがすごくうれしかったですね。

 

そうそう、研修医のローテーションで最初に配属された診療科の指導医の方が、とても厳しかったんです。朝のカンファレンスから毎回めちゃくちゃ怒られて。「もう学生以下じゃねえか」「そんなんなら辞めろ」だったり(苦笑)。

それで毎日夜遅くまで残って調べて、とてもストレスフルな毎日でしたが、おかげでかなり鍛えられました。仕事の処理能力が向上して、1ヵ月たって別の診療科に移ってからは、だいぶスムーズに仕事ができるようになったんです。

その指導医のことは今でも思い出して腹が立つこともありますが(笑)、感謝の気持ちも少しだけ抱いています。

仲間と学び発信し続けることで、成長は加速していく

 

──研修医時代のお話を伺っていて、joslerの犬先生の「学ぶことへの積極さ」を強く感じました。

積極的に学ぶようになったのは、研修医になって、学んだことがすぐに臨床現場で生かせる面白さに気付いてからですね。

ただ、一人で調べるだけでは限界があることも実感しています。学んだことを誰かと議論したり、教え合ったりすることで、より深く理解することができますし、自分では気付かなかった視点を得ることも多いです。

周囲の人と学びを共有し、教え合うことが、医師としての成長を加速させてくれると強く感じています。

──現在はXで「腎臓内科勉強スペース」も運営されていますが、まさに今お話しされた「学びの共有」への取り組みと言えそうですね。こちらの取り組みの経緯についても、教えていただけますか?

Tips: X「腎臓内科勉強スペース」

「腎臓内科勉強スペース」は、joslerの犬先生(@wankosobanyan)がXで知り合った腎臓内科の先生方(チャーリー先生@Charlie_kidney、すみっこ研修医先生@sumikko_dr)とオンライン上で定期的に開催している勉強会です。

腎臓内科に関心のある医師や医学生が集まり、毎回特定のテーマに基づいてディスカッションを行っています。Xのアカウントがあれば誰でも参加でき、上記開催者3名のいずれかの方をフォローすれば次回開催の告知を受けられます。

「腎臓内科勉強スペース」を始めたきっかけは、Xのスペース機能で雑談していた時に、他のユーザーの方から「勉強会をやってみませんか?」と声をかけていただいたことでした。

勉強会では、教科書の内容を輪読したり、症例検討を行ったり、論文を紹介したりと、毎回テーマを決めて議論しています。

単に知識を共有するだけでなく、他の医師とディスカッションする中で、互いに学び合える場になっています。一人で教科書を読むだけでは見逃してしまうような気付きや、他の視点からの新しい発見が生まれることが非常に多いです。

また、この勉強会は、私にとってペースメーカーのような役割を果たしてくれています。日々の業務に追われる中で、どうしても勉強がおろそかになりがちですが、仲間と約束することで、モチベーションを維持し、継続的に学ぶことができます。

勉強会以外でも、3人でグループチャットを作って、日常的に情報交換や相談をしています。単なる勉強会ではなく、切磋琢磨し合える仲間との貴重なコミュニティといった感じですね。

──このほか、医療専門サイト「m3.com<エムスリー>」では、「専攻医が語るマッチング攻略法と病院選び」という連載記事を執筆していますね。こちらはどうして始めたのですか?

Tips: 連載コラム「専攻医が語るマッチング攻略法と病院選び」(m3.com <エムスリー>)

「専攻医が語るマッチング攻略法と病院選び」は、joslerの犬先生が医療専門サイト「m3.com」で連載中のシリーズ記事です。専攻医のマッチングに関する実践的なアドバイスや病院選びのポイントを中心に、joslerの犬先生自身の経験をもとにした具体的な情報を提供しています。

参考:m3.com「専攻医が語るマッチング攻略法と病院選び」」

もともと文章を書くのが好きで、個人的なブログではなく、公的な場所に自分の文章を掲載したいという思いがありました。

そこで、思い切って医療専門サイト「m3.com」に、自分が記事を書きたいという意思を伝えるメールを送ったのです。当時私はXである程度のフォロワーがいて、発信に対する反応も多かったので、「記事を書いたら、多くの人に読んでもらえる自信がある」と、かなり図々しくアピールしました(笑)。

ありがたいことに、その後m3.comの方々とミーティングをする機会をいただきました。どんな記事を書けるか、PV数が見込めるテーマは何かなど、親身に相談に乗っていただき、最終的に「専攻医のマッチング」に関する連載記事を執筆することになりました。

専攻医のマッチングというテーマを選んだのは、医師の就職活動に関する情報は他の職種と比べて公に出ている情報がかなり少なくて、自分自身も情報収集に苦労した経験があったからです。

連載を続ける中で、医学生や若手医師だけでなく、ベテラン医師の方々からも「自分の時代と違う面白い視点だ」といったコメントをいただきました。とある記事ではサイト内での閲覧数Top10入りを果たして、お褒めの言葉をいただいたこともあります。

「専攻医が語るマッチング攻略法と病院選び」のシリーズはあと数回で最終回を迎えるのですが、m3.comの方から次の企画についてのお話もいただいています。

まずは「YES」と言ってみること。そして、完璧を目指し過ぎないこと。

 

──日々の活動で、joslerの犬先生が特に大事にしていることはありますか?

何事にもまず「YES」と言ってみることですね。

誘いを受けたら、可能な限り参加してみる。例えば、飲み会や旅行、何か新しいプロジェクトのお誘いなど、物理的に不可能でない限り、基本的には全部引き受けるようにしています。

なぜそうしているのかというと、こうした「とりあえずやってみる」という姿勢から、自分の世界が広がるのを実感できたことが多かったからです。 実際、SNSでの発信や勉強会活動も、最初は軽い気持ちで始めたものでしたが、それが予想外の出会いや学びをもたらしてくれました。

もともと慎重な性格なので、大きな決断には時間をかけることもありますが(笑)、日常的な小さなチャンスに対しては、迷わず飛び込むようにしています。 その先で得られる新しい経験や楽しみは、私自身の現在の「人生の充実感」にもつながっていると感じています。

──とてもいいお考えですね。そんなjoslerの犬先生の、今後のキャリアプラン・これからチャレンジしたいことについても教えてください。

今後のキャリアプランは、まだ完全に決まっているわけではありません。大きく分けて、二つの選択肢があります。

一つは、海外で働くこと。特にオーストラリアに興味があります。日本の専門医資格があれば、オーストラリアで短期的なポジションに就ける可能性があると聞きました。医療は国によって大きく異なるので、海外の医療システムを経験して、日本との違いや、より良い医療システムのあり方について考えてみたいです。

もう一つは、大学院に行って基礎研究をすることですね。腎臓内科の分野で、研究を通して医療に貢献したいという思いがあります。どちらの道を選ぶかは、まだ迷っています。専門医を取得する頃には、どちらかの道に進む決断をしなければいけないと思っています。

──最後に、現在初期研修を控えている医大生の方に、何かアドバイスをいただけますか?

初期研修のマッチングは「お見合い」のようなもの──というふうに捉えておくのがいいと思います。どんなに優秀で、努力を積んできた人でも、必ずしも第一志望の病院に合格するとは限らないからです。マッチングは「絶対」ではない不確定要素の強い選考方法ですので、第一志望に落ちた場合のことも考えて、複数の選択肢を持っておくことが大切です。

また、初期研修に関する事柄で、ネットや書籍に出回っている情報は、全体のほんの一握りです。ですから、医学生や研修医時代に築いた人脈を大切にされるとよいと思います。

先輩医師や、研修病院で働く医師など、どんな小さなつながりでも構いません。インターネットで調べるよりも、実際に病院で働く人から直接話を聞く方が、よりリアルな情報を得ることができますから。

あとは、「完璧を目指しすぎない」ことですね。患者さんのため、自分のためと頑張ることはたしかに素晴らしいですが、真面目すぎる人ほど、心が折れてしまうことが多いように感じています。

医師の仕事をしていれば、ときに「失敗が許されない」というシビアな状況もやってくるでしょうが、それがずっと続くわけではない。すべてのことに対して「この先、ずっと失敗せずにやっていく」と考えてしまうのは、あまり現実的ではありません。

医師として、そして人として成長し続けるためには、ときに肩の力を抜いて、他の人からの誘いにも笑顔で「YES」と答えられる余裕を持っているくらいが(笑)、ちょうどいいと思っています。

Tips: joslerの犬先生の連載コラム(note.com)

joslerの犬先生が運営するnoteアカウント。医学生や若手医師に向けて、初期研修のマッチング攻略法や病院選びのポイント、医学生・医師向けの参考書や勉強ツールの紹介などを紹介しており、その他英語学習に関する体験談や、研修医としての実務的なアドバイスを伝えた記事も見ることができます。

参考:「わん|note.com

(聞き手・文=エピロギ編集部)

「特集:インフルエンサー医師」について

近年、人々の働き方は多様化しており、医師の世界も例外ではありません。

現在メディウェルでは医師の転職・アルバイト探し支援のサービスをご提供しておりますが、「より多様な医師のキャリアをご支援させていただきたい」という想いから、臨床現場にとどまらず、SNSやさまざまなメディアを活用し、医師の学びやキャリア形成に役立つ情報発信に取り組んでいらっしゃる医師の方々に、キャリアインタビューを実施しております。皆様がキャリアをお考えになる際の、新たな発見につながりますと幸いです。

                         

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joslerの犬(じぇいおすらーのいぬ)
腎臓内科専攻医。
noteを中心とした、医学生や若手医師に向けの初期研修マッチング攻略法や参考書、勉強ツールの紹介や、Xのスペースを活用しての勉強会実施など、精力的に活動。

[X]https://x.com/wankosobanyan
[note]https://note.com/maitakenorth

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