「当直中・当直明けが辛い…」医師の当直の負担を軽減する方法とは?

「毎回当直日になると気が重い……」
「当直明け後も通常の勤務となっていて辛い」
「月10回以上当直でほとんど家に帰れない……」


多くの勤務医にとっての毎日の悩みの種、「当直」。
実は、医師が転職する際に最も多いのも「当直を減らしたい」という希望です。

今回は、「当直勤務がなぜ医師にとって負担になっているのか?」に焦点を当て、医師の方々が当直の負担を軽減するための方法を探ります。

全国の勤務医の1割以上は今夜も当直しているという現実

多くの勤務医が日常的に抱えている悩みの一つに、当直勤務があります。当直とは通常の診療時間外の夜間や休日に病院などで勤務することを指し、病院管理者は夜間帯に医師を当直させる義務があります(医療法第16条)。そのため、全国で勤務医が約20万人いる中、その1割を超える2万人以上の医師が毎晩当直している状況となっています。

 

医師が転職する際に最も多い希望は「当直を減らしたい」

それだけ医師にとって日常の一つになっている当直ですが、通常の勤務に加えての夜間帯の勤務は、医師にとって大きな負担となっています。当社で過去1年に約1,000名の医師に行なった転職に関するアンケートでも、医師の転職時の希望として最も多かったのが「当直を減らしたい」というものでした。

医師が転職時に優先する希望

【転職時の希望のアンケートで「当直」を挙げている医師の回答例】

  1. ・当直や残業を減らして家族との時間をできるだけ増やしたい。
  2. ・当直・オンコールなしで家族との時間を増やしたい。
  3. ・当直は月数回までなら可。ただし、救急当直は避けたい。
  4. ・週5日勤務で、夜間は当直医に任せて勤務したい。
  5. ・当直なしか、当直明けの勤務免除があるところで勤務したい。

 

上記のように、「当直を減らしたい」という希望が転職時に多いということは、それだけ現在の勤務で当直の負担が大きいということを示しているといえます。

 

当直が医師の負担となる3つの理由

それでは、なぜ医師にとって当直がこれほどまで大きい負担となってしまっているのでしょうか?大きく3つの理由が挙げられます。

1.当直中の対応が多くて休めない

まず、当直中の呼び出し回数や、当直中の対応が多く休めないという理由があります。当直時の対応の多さは病院や日によって大きく異なり、絶え間なく救急対応が必要でほとんど休めない場合もあれば、対応がほとんど不要で休息のしっかり取れる、いわゆる「寝当直」といわれる当直もあります。

当直対応の多い病院では、わざわざ夜間に来る必要がないのでは、というような軽度の症例から、重度の症例まで絶え間なく診ることになります。また、「救急は原則として受ける」としている場合、時には専門外の難しい対応も迫られることもあります。

それほど対応が多くない病院でもPHSを常に携帯し、「いつかかってくるかわからない」気を張った状態が続くため、当直中はしっかりとした休みが取れず、寝不足の状態になることもしばしばあります。

2.当直明け後も通常勤務となり、連続勤務時間が32時間以上

次に、当直明け後の通常勤務が負担となっていることが挙げられます。株式会社ケアネットが2014年に行なった医師向けの調査では、当直前後も通常勤務という医師が8割以上を占める結果となっています(下図)。つまり、大半の医師が「通常勤務→当直→通常勤務」という32時間以上の連続勤務を続けていることになります。

当直前後の勤務状況

株式会社ケアネット「当直勤務に関する調査」(2014/4/7)より

 

これは夜間の当直対応が多い場合でも同様であり、多くの医師が睡眠不足で疲労が溜まった状態で当直明けの勤務をしていることになります。これは判断力の低下やミスにもつながりやすく、ケアネットの調査(同上)でも、当直による睡眠不足や疲労により1/3の医師がヒヤリ・ハットを経験したことがあると回答しています。

更に、何日も連続で当直に入るという場合も珍しくなく、当直による連続勤務が医師にとって大きな負担になっているといえます。

3.とにかく当直回数が多い

上記に加えて、とにかく当直回数が多いことが負担になっている場合もあります。医師の当直回数は平均で月3.5回(ケアネット調査, 同上)ですが、全体的に3~4回で勤務しているのではなく、当直回数は勤務医によって大きなばらつきがあります。勤務医の宿直(当直)回数別のデータを見ると、当直なし、当直月1~2回の勤務医が全体の2/3を占めていることがわかります(下図)。

勤務医の当直回数

独立行政法人労働政策研究・研修機構による勤務医への調査(2012/1/2)より

 

平均より当直回数が少ない医師が大半を占めるということは、医師の当直回数にはかなり偏りがあるということを示しています。勤務医の中には月13回など、月10回以上の当直を続けている人もおり、その結果として、肉体的にも精神的にも限界に近い状態となってしまうこともあります。

※関連情報
>>医師の当直の実態とは?1,649人の医師のアンケート回答結果

 

多くの医療機関が未だに医師の当直負担を改善できない背景

このような、多くの勤務医にとって当直の負担が大きい状態は、本来医療機関にとっても避けたい事態です。医師への過剰な負担は、医療安全上の観点からも、医師の健康管理という観点からも望ましくなく、最悪の場合、医療事故や医師の過労死などにつながる可能性もあります。

それでも未だ多くの医療機関で医師の当直負担を改善できていない背景としては、一つには医師の不足が挙げられます。労働政策研究・研修機構による勤務医への調査(同上)でも68.6%の勤務医が医師の不足感を感じていると答えているように、医師不足により勤務医の負担を軽減できない状況が多くの医療機関の課題となっています。

また、当直医師の不足に関しては、日本特有の事情も影響しています。日本では病院数が他国と比較して非常に多い傾向にあります(下図)。当直医師は1病院に1人以上配置しておく必要があるため、病院数が多くなるほど必要となる当直医も多くなります。このため、日本では当直医師が不足しやすい状況にあるといえます。

人口100万人当たりの病院数の国際比較

OECD Health Statistics 2016より (2014年および2013年のデータを利用)

 

日本における勤務医の当直負担の問題を改善できていないもう一つの背景として、「医師は24時間365日働いて当然」な特殊な職業だという意識が、未だに多くの医療関係者や経営者に根強く残っていることが挙げられます。

特に完全主治医制を採用しているところでは、患者さんに何かあればいつでも主治医が対応することになるため、医師も医療機関もそのような意識になりやすいといえます(医療提供の面から主治医制をあえて選択することもあり、主治医制が一概に悪いというわけではありません)。

 

勤務医の当直の負担軽減に取り組んでいる医療機関の事例

上記のような背景から、結果として多くの勤務医が未だに当直の負担に苦しんでいます。しかし、このような事態を問題として捉え、負担軽減に取り組む医療機関も出てきています。

① 当直を勤務1日として換算した上で、週5日勤務としている

当直中の対応が多い場合(十分な休息が取れない場合)、当直は本来勤務時間として換算すべきものですが、医療機関によっては宿直として通常の勤務時間でないという扱いにしているところもあります。千葉県内のある病院では、当直を通常の勤務時間として扱うことで、過度の勤務負担が生じないように配慮しています。

② 当直手当を外部の非常勤医に依頼する際と同等の報酬にしている

当直勤務に対して相応の評価をするという意味で、報酬面での評価を高くしている医療機関もあります。東京都内のある病院では、非常勤の当直医に対して支払われる高めの報酬を、常勤医が対応しても、同額を支払うようにしています。その他、救急や入院対応に対してインセンティブをつけている医療機関もあります。

③ 当直明け後の勤務を免除している

当直明けでの通常勤務が勤務医にとって負担になっているため、当直明け後の勤務を免除している医療機関もあります。大阪府内のある病院では、当直明けの勤務の免除を規定として明文化し、原則と実態が乖離しないように取り組んでいます。

④ 当直時に対応の多い22時-24時まで別の医師が対応している

医療機関によっては、当直時に休息が取れるように、ということで勤務医1人へ負担が集中しないように対策している場合もあります。宮城県内のある病院では、当直時に対応の多い22時から24時の間は別の医師が対応し、その間に当直医が休める時間を確保しています。

⑤ 2名当直で、救急に関しては非常勤医に任せている

当直時の対応では、入院患者に対してというよりも、救急の対応が負担になりやすいため、神奈川県内のある病院の事例では、2名当直とし、救急に関しては非常勤医が対応する体制としています。

⑥ 当直はすべて非常勤医に任せている

医療機関によっては、そもそも当直を常勤医でまかなうことは難しいとして、京都府内のある病院のように当直対応にすべて非常勤医を充てている場合もあります。これは、勤務医の負担を平等に減らすことで、特定の人に負担が集中するといった勤務医同士の不公平を改善するメリットもあります。

以上のように「勤務医の当直の負担は問題である」という認識に立って、率先して負担軽減に取り組んでいる医療機関も出てきています。医師の方々は、この問題に対する勤務先での取り組み姿勢や改善意欲について、今一度確認してみると良いのではないでしょうか。

 

当直の負担に対する、医師としての上手な向き合い方

当直勤務の負担に関しては医師個人として上手に向き合っていくことも重要になってきます。

日本医師会の「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」では、「医師が元気に働くための7カ条」と題して、医師が勤務時の負担と上手に向き合っていくための指針を出しています。以下にその7つについて抜粋し紹介させていただきます。

 

医師が元気に働くための7カ条

① 睡眠時間を充分確保しよう

最低6時間の睡眠時間は質の高い医療の提供に欠かせません。患者さんのために睡眠不足は許されません。

② 週に1日は休日をとろう

リフレッシュすればまた元気に仕事ができます。休日をとるのも医師の仕事の一部と考えましょう。

③ 頑張りすぎないようにしよう

慢性疲労は仕事の効率を下げ、モチベーションを失わせます。医療事故や突然死にもつながり危険なのでやめましょう。

④ 「うつ」は他人事ではありません

「勤務医の12人に1人はうつ状態」。うつ状態には休養で治る場合と、治療が必要な場合があります。

⑤ 体調が悪ければためらわず受診しよう

医師はとかく自分で診断して自分で治そうとするもの。しかし、時に判断を誤る場合もあります。

⑥ ストレスを健康的に発散しよう

飲んだり食べたりのストレス発散は不健康のもと。運動(有酸素運動や筋トレ)は健康的なストレス発散に最も有効です。週末は少し体を意識的に動かしてみましょう。

⑦ 自分、そして家族やパートナーを大切にしよう

自分のいのち、そしてかけがえのない家族を大切に。家族はいつもあなたのことを見守ってくれています。

日本医師会 勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会「医師が元気に働くための7カ条」(2009年)

 

当直勤務の負担についても、上記の指針を参考に無理をしすぎないように気を付けつつ、それが難しい場合は、経営者や事務方に掛け合う、転職を検討する、なども選択肢として考慮することをおすすめします。

 

最後に…当直勤務でお悩み中の医師の方へ

冒頭でお伝えしたように、医師が転職する際の最も多い希望は当直の負担を減らしたいというものです。それだけ多くの医師が日々当直の負担に悩んでいます。

当社は、勤務の過剰な負担がきっかけでうつ病や病気になったために現職を続けられなくなってしまった医師の方々からも、多くの転職・復職のご相談をいただいています。

このようなご相談をいただくたび、「もっと早く相談していただけていれば…」という思いが込み上げてきます。体調を崩してしまってからだと、やはり勤務自体に制約が出るため、医師としてのキャリアの選択肢もその分限られてきてしまいます。

「体調でも崩さないときっかけがない」、「同僚や病院、医局からの反応が怖い、どう伝えればいいのかわからない」とお悩みの医師の方もいらっしゃるかと思いますが、手遅れになる前に、身近な方に相談されることをおすすめします

また、当社では医師の方々のキャリア支援サービスも行なっております。現在の勤務のことでお悩みでしたら、転職する・しないも含めて第三者の立場から最善と思われる選択肢を提供させていただきますので、一度ご相談いただけますと幸いです。

(文・小島 基彰|株式会社メディウェル)

参考情報
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 ≫メディウェルの医師のキャリア支援サービスについて

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小島基彰(こじま・もとあき)
株式会社メディウェル / マーケティングアナリスト

大学にて哲学および医療倫理学を修めた後に、株式会社メディウェルに入社。
業界最大級を誇る医師専用求人ポータルの「医師転職ドットコム」や「医師バイトドットコム」で、キーワードマーケティングの責任者としてサイト運営に携わり、ウェブ上で検索される膨大なキーワードの解析をもとに、日夜データに即した医師のニーズ発見や、マーケティング上の戦略策定を行なっている。
「情報過多の時代だからこそ、本当に重要な要素を読み解き、質の高い情報発信を行なうこと」をモットーとし、マーケティングの観点から医師の「納得のいくキャリア」の実現を支援している。

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