研究紹介

インターネット検索によって得られる「がんに関する情報」は正しいか

〜患者を不確かな情報に迷いこむ“がん難民”にさせないために〜

石川 文子 氏(国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報提供部 研究員)

昨年11月、医療系キュレーションメディアの発信する情報に問題があるとして、大きなニュースになりました。

利益のために、公正な記事であることよりも検索サイトの上位に表示されることを優先し、不正確な医療内容の記事を掲載したり、別のサイトから無断転用したり、手段を選ばないやり方が取りざたされました。

また、今年2月にはGoogleが日本語検索について、サイトの品質の評価方法に改善を加えたと発表しました。しかし、がんに関する情報で検索を試みたところ、改善の効果を感じることはできませんでした。表面的、機械的な評価には限界があるということでしょうか……。

このような、不確かな医療に関する情報提供の問題について、皆さまはどのように感じていらっしゃいますか。

 

はじめまして。私は「がん情報サービス」という、がんに関する情報を提供するサイトの運営に携わっています。

「がん情報サービス」は、国立がん研究センターがん対策情報センターが運営するサイトで、がんに関する基礎知識や、治療法、病院探しなどの情報を患者や家族、一般の方にわかりやすく伝えること、また医療関係者に対しては、診療支援ツールや研修情報などを紹介することを目的としています。

私は情報提供者として国内の現状を、どのような情報が求められているのか、どのように情報提供がされているのか、などについて調べる中で1つの研究を行いました。その成果は「インターネット検索によって得られる『がんに関する情報』は正しいか」という演題で、昨年9月の第8回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会で発表いたしました。ここでは、私の意見を交えながら研究内容についてご紹介させていただきます。

 

ガイドラインや認証活動など、対策はしているものの

背景として、インターネットによりさまざまな医療情報があふれる今、情報入手が容易になった反面、適切な治療を受けずに患者の予後に影響するなどの不確かな情報による悪影響が問題になっているということがあります。この状況に対してはこれまでも国内外で、不確かな情報提供から閲覧者を守る必要性が求められ、情報提供に関するガイドラインの作成や適切なサイトの認証活動など、さまざまな対策がされてきました

例えば、Health on the Net Foundation(HON)によるHONcode、American Medical Association(AMA)によるGuidelines for AMA Web Sites、日本インターネット医療協議会(JIMA)によるeヘルス倫理コードなどがガイドラインとして作成され、HONやJIMAなどではサイト認証活動に取り組んできました。

それでもなお、不確かな医療情報による悪影響はなくならず、情報を得ようとするときによく使うインターネット検索では、その検索結果の順位は必ずしも信頼できるものではないことが問題視されています。

 

HONcodeの8条件を満たすのは50サイト中1件、“偏りのない”サイトは全体の3割、という現実

そこで研究の目的は、「がんに関する情報」についてインターネットの検索結果を対象に情報の正しさを調査し、その結果から問題点を整理し、今後の対策を検討することとしました。

方法としては、検索キーワードを「がん 副作用」「ガン 副作用」「癌 副作用」の3種とし、Yahoo、Google、Bingの検索エンジンで調べました。それぞれの検索結果の上位20件までを抽出し、計180件のうち重複した運営者を対象から除き、最終的に50のサイトを対象に評価しました。評価についてはHONcodeを用いました

HONcodeとは、前述にも書きましたが医療情報の質における基準で、8つの条件から設定されたガイドラインです。以下、私の解釈とともにご紹介させていただきます。

1. Authority(資格)
専門家による情報提供なのかどうか、情報提供者の資格を明示すること。
※基本的なことで、閲覧者がその内容を信頼できるものかどうかの判断で拠り所とするポイントになります。しかし専門家であっても、必ずしも確かな情報を発信しているとは限らないということが問題で、以下の項目も考慮しなくてはいけません。

2. Complementarity(サポート情報)
提供する情報は一般的なものであり、医師と患者の関係をサポートするものであることを明示すること。
※情報によって医師がする診断と同じことはできません。情報だけで判断されることのないように、情報提供として重要な項目ですが、例えば“情報は一般論であり、すべての人に当てはまるものではありません”などの記載がどこかにあるだけでは、閲覧者がそれを意識できているかというと、個人的には難しいと感じました。

3. Privacy policy(プライバシーポリシー)
取得した個人情報の取り扱いを明示すること。
※閲覧者から得られる情報には、問い合わせなどの行為以外にも、サイトにアクセスした時点で自動的に取得されるCookieやアクセスログなどによるものもあります。閲覧者が安心して利用できるように、それらを含めすべての個人情報の取り扱いについて明示する必要があります。

4. Attribution(情報源・更新日)
科学的根拠を示す情報源と、いつの時点での情報なのかの更新日の明示すること。
※医学は日々進歩し、状況は変わります。現時点で確かな情報であるかの判断に必要です。

5. Justifiability(偏りがない)
提供する情報は、4の項目で求められるように科学的根拠を示し、適切な偏りのないものであること。
※例えば、1の項目で医師や病院であったり、4の項目で情報源が示されたりしていても、営利目的や個人の意見などにより偏った主張がされた情報は、閲覧者が公正な判断ができず、この項目は満たされません。本研究では、“がんの標準治療を基本として情報を提供しているか”の観点から評価しました。

6. Transparency(連絡先)
サイト運営者の連絡先やユーザーサポート先を明示すること。
※一方的な情報発信ではなく、サイトの透明性を保つため、閲覧者から問い合わせができるよう連絡先を設ける必要があります。

7. Financial disclosure(財源の開示)
スポンサー企業や寄付など、すべての財源を明示すること。
※提供する情報に対して、スポンサーなどによる影響があるか、お金をもらってスポンサーに都合のよい記事を書いているのではないかと思われないためにも、利益相反を開示する必要があります。

8. Advertising policy(広告ポリシー)
広告と提供する情報を明確に区別し、広告ポリシーを提示すること。
※広告は目に入るように置かれています。サイトの構成もそうですが、検索結果が表示されるページも大変問題だと思います。検索キーワードに関連した広告が一番上に表示され、検索結果で一番になっているサイトと思われかねません。このように、広告とはっきりわかる見せ方をしなければ、閲覧者が自分で見ようとしているものを見ているつもりでも、実は違ったということが起こるのです。

参考:Health on the Net Foundation.
 ※:筆者解釈

 

さて、前置きが長くなってしまいましたが、2016年4月20日の調査結果では、8つの条件をすべて満たしたのは50サイト中1件のみでした。8つの条件を見ると、それほど特別な、満たすことが難しい項目はないのですが、すべてを満たしたサイトが1件のみであったことから、情報提供のされ方は運営者に独自なものになっていることが示されました。

また評価項目の中で、患者が治療の内容を理解する上で重要と考えられるのが、“がんの標準治療を基本として情報を提供しているか”の観点から評価した「5. 偏りがない」についてです。50サイト中35件が満たさず、それは全体の7割を占めました。この条件を満たしていない情報には、例えば、標準治療ではない免疫療法などの科学的根拠が示されていない医療を“効果があります”と言ってしまっているクリニックのサイト、逆に、抗がん剤治療などの科学的根拠が示されている医療を“効果がありません”と言ってしまっている医師執筆によるサイトがあり、専門的な知識がなければ適切な判断が難しいものでした。実際に私も評価した際に、非常に巧妙な書きぶりに、判断が悩ましいと感じたものがありました。

このように、今回の調査結果は一例に過ぎませんが、患者や家族をはじめとする人々が不確かな情報にさらされていること、さらにそれは、これから治療を受けようとする患者の重要な治療選択に影響を与えかねない現状を示唆します。

 

なぜ患者は不確かな情報に振り回されてしまうのか

では、このような不確かな情報に患者が振り回されることになる経緯にはどのような場合が考えられるのでしょうか。

1つは、インターネットの普及により、インターネットから情報を得ることが日常的になり、その結果、よい、悪いに関わらず、情報にさらされていることが原因と考えられます。それは患者だけでなく、その家族、身近な人にも及ぶことで、その人が患者のことを思い、心配してインターネットで調べたものが、患者にとって本当によい情報かどうかは、今回の調査結果を見ても疑わしいと考えられます。さらに、親身になって調べてくれた人から“この治療がいいみたいだよ”と言われたら、患者がその善意を素直に受け取ることも容易に想像でき、それが不確かな情報であるならば、患者が重要な治療選択を見誤る事態に発展することも十分考えられます。

さらに評価結果のところでも述べましたがサイトのつくりは巧妙で、特に標準治療ではない免疫療法を勧めるサイトは、患者に寄り添うとても優しい雰囲気の中で効果を期待させ、誘導します。こういったサイトに引き込まれてしまうのは、患者が現状に不安や不満があり、医師との信頼関係がうまく築けていないのでは、とも伺えます。

 

患者の“どうしたらいいのかわからない”に医師ができること

インターネットの情報だけでは患者が抱える問題は解決しないのです。私はこの研究を通して、医師という立場が患者の治療に対する理解やその先の治療選択において、重要なポイントになると感じました。

このような状況で、治療に対する患者の理解を正しく助けられる立場にいるのは、患者にとっての最善を考えている担当医の先生方以外にはありません。そして患者が理解していくことで、信頼関係を築けていけるのではないでしょうか。ただ場合によっては患者の理解には限界があり、正しい情報を伝えるだけでは解決しないこともあるかもしれません。内容も多様で、担当医が解決するものではないものもあると思います。

そのようなときには、患者の“どうしたらいいのかわからない”や“どこに、どのように聞けばいいのかわからない”に対して、適切な相談窓口などにつなげることにより、自分だけで何とかしようと藁にもすがる思いで、インターネットで調べるということにならないのではないでしょうか。また、この役割分担は患者のためだけでなく、医師一人にかかる負担を軽減することにもなります。

 

医療従事者が連携し、患者を一人にしない・迷わせない

がんに関しては、全国にあるがん診療連携拠点病院等にがんの相談窓口としてがん相談支援センターが整備されています。わたしはがん相談支援センターの相談員研修などを見る機会もあり、相談員の皆さんが“どうしたら患者のためになれるのか”を常に考えて対応していることを知っています。相談を受けたとき、患者が何を聞きたいと思っているのか、会話の中で患者のことを理解しようとし、一緒に考え、患者が目的としている次につなげる役目を担っています。

また、このようなことはがんに限らず、いろいろなところで医療従事者が患者のためにと従事されています。そのような方々が、多職種で、さらに院内院外に関わらず地域で、協力し合って連携することは力になります

最後に、情報提供もその連携の1つであり、私たちは、専門家や一般の方々のご協力を得て情報を発信しています。情報提供者として、医師から患者に、“このサイトを見てみるといいよ”と言われるように、正しい情報を発信し続けていきたいと思います。

患者が“がん難民”になりインターネットの不確かな情報に迷い込ませないためにも、患者の手を離さず、適切なところへつなげられる環境づくりを切に願い、皆さまにも、この話題を身近に感じていただければ幸いです。

 

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石川文子(いしかわ・あやこ)
1998年埼玉大学大学院理工学研究科化学専攻 博士前期課程修了。2014年7月より、国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報提供部の研究員として、「がん情報サービス」の運営に携わる。
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