『ママドクターからの幸せカルテ 子育ても育児も楽しむために』翻訳への想い

育児に奮闘する“すべてのママドクター”に捧げる一冊【前編】

翻訳を達成できたのは多くのママドクターの協力があったから

吉田 穂波 氏(産婦人科医/神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課 技幹/神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 准教授)

医師としての腕を磨き、キャリアを積み、患者さんや同僚からも好かれ、頼られる医師になりたい――そんな志の高い医師、特に働き盛りの医師にとって大切な課題が、家族の健康、中でも子どもの健康管理です。
愛しいからこそ、心をかき乱される存在。そんな子どもの健康管理や、子どもとの向き合い方、子どもの身体面だけでなく情緒面や精神面の育て方について、エビデンスをもとにまとめられた『ママドクターからの幸せカルテ 子育ても育児も楽しむために』の94項目は、きっとあなたの目を開かせ、心を楽にさせてくれることでしょう。

 

子育て中の産婦人科医だからこそ感じた、この本の価値

私は今、3歳から12歳までの5人の子どもを育てており、はた目から見れば「ベテランママドクター」という称号を付けられる立場にあります。
でも、実際は迷うことや分からないことだらけで、そのたびに不安を抱えながら人に聞いたり調べたり……。5人を育てる中で、「あ、これ、前にも経験したわ」とか「そういえば、上の子もこうだった」と対処法が見えて余裕を感じる部分も増えましたが、それでもやはり、子育ては一人ひとり違う対応が必要ですし、それぞれの子どもにとっては初めてのことばかりです。

そんな中、2015年にこの本に出会いました。アメリカで二人の息子さんを育てながら小児科医として働き、子どもの健康についての情報を発信しているママドクターのウェンディ・スー・スワンソン先生の著書です。勤務先の病院とコラボして地域の子育て世代の相談に乗るシステムを構築したり、SNSツールを駆使して情報を発信したりといった彼女の取り組みに感心しましたし、本の内容にも共感できることが多く、「こんな本があったのか」と感動しました。

これを日本語に翻訳する決意をしたきっかけは、私がかねてより尊敬している徳田安春先生(臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄センター長)の一言です。徳田先生には、私が臨床現場にいる時も、ハーバード公衆衛生大学院に進む前も、そして、アメリカでフウフウ言いながら子育てと学業に明け暮れている時も、ずっと温かく見守っていただいていました。
疫学統計の勉強をしながら論文も書きたいと欲張っていたハーバードの大学院生時代もそう。徳田先生に「データ解析をしたい!」と意欲満々でご相談したら、「それなら、このデータを解析してみたら?」と貴重なデータを下さり、海の向こうの私に惜しみない教育熱を注いでくださいました。残念ながら、その解析結果は論文にまでは至らず、今でも申し訳なく思っているのですが……。

そんな徳田先生が、ある出版社からこの本の翻訳出版を打診された際、「日本でママドクターといえば、吉田先生でしょう」と、担当の方に翻訳者として推薦して下さいました。こうやって私を見込んで仕事を任せて下さるなんて、「これは私がやるしかない」と、すっかりその気になりました(笑)。

 

20名のママドクターの力で翻訳を達成

しかし、原著は500ページにも及ぶ分厚い本です。目の前の仕事は山積みで、とても一人で翻訳をやり遂げる自信はありませんでした。担当の方と相談し、下訳に出すか、プロの翻訳家にお任せして私が医学監修という形にするかなど話し合った時、「医学用語が分かる人でないと翻訳が難しいのではないか」「子育てをしたことがある人の方が、切迫感や切なさが理解できて良いのではないか」などといろいろな意見が出ました。「結局は私が一人でやるしかないか……」と抱え込み、私の「やる気」と「すっかりその気」と「ワクワク感」がしぼみそうになりました。その時、私にはママドクターの仲間がいるという強みを思い出したのです。

ボストンから帰国し、4人の娘を育てながら臨床と研究を行き来していた2012年、私は東大の子育て研究者のランチ会に参加しました。とても素敵な友人がたくさん出来たのですが、中でも代田翠先生(内分泌内科医)は明るくて話が合う方で、ママドクター仲間ができてとても嬉しく思ったのを覚えています。その代田先生から紹介されたのが、朝日生命成人研究所の大西由希子先生が立ち上げられたママドクターのネットワークでした。大西先生も幼少時はボストンで過ごされたり、大学生の時には夏休みにボストンの病院に実習に行ったりされていたそうで、初めてお会いした時もボストン話で盛り上がりました。
大西先生の素晴らしいところは、ママドクターが勉強し、交流できる場を定期的に開催されてきたことです。この7月で26回を数えるこの会は、まず、何と言っても託児付きというところに感動しました。女同士のおしゃべりは何よりのストレス解消と情報交換、そして元気をもらうキーワードだなと思いましたし、「コミュニティ」「場」作りの天才でもある大西先生には、そのファシリテート技術も含めとても良い影響を受けました。

そのコミュニティで実践されていたのが、1.メーリングリストの活用、2.プロフィール冊子の作成と共有(お互いのキャリアや家族構成、子育ての工夫などをまとめたもの)、3.託児システムの併用です。私はすっかり感心して、毎回とても楽しく参加させていただきました。最近は子どもたちの行事や部活の練習などで週末はほとんど休みがなく、なかなか参加できないのが残念です。

この翻訳企画にあたってママドクターのネットワークを思い出した私は、大西先生に許可を取り、勇気を出して、メーリングリストに下記のような参加者募集のメールを出しました。

3/9/15
ママドクターの会の皆様、大西先生

いつも、貴重な情報をありがとうございます。
皆様のご活躍に元気づけられている吉田穂波です。
2/15のママドクターの会も、3/7の細谷先生のご登壇も、ぜひ駆け付けたかったのですが、最近は剣道少女の母として、まるで野球男子の母のような週末を過ごしております。
ぜひまた皆様にお会いしたいと思っていますので、次回のママドクターの会を楽しみにしています。

さて、このたび、西村書店さんと下記の本の日本語訳を出版しようと意気込んでおります。

その名も「ママドック・メディシン」。
アメリカ小児科学会が作成した本で、ママドクターから一般のママに向けて書かれた分かりやすい本です。予防接種やSIDS予防に関する小児科的な啓発の内容はもちろん、ワークライフバランス、親子や夫婦のコミュニケーションなど、ありとあらゆる「親の悩みごと」に関するアドバイスが載っていて、とても面白く、是非、日本に紹介したい!!と思いました。

http://www.amazon.com/Mama-Doc-Medicine-Confidence-Parenting/dp/1581108370

総監修と第三章の「予防接種」の部分は、日本小児科学会会長の五十嵐隆先生(成育医療センター総長)が引き受けてくださいましたが、第一章の「予防(日焼け止めや旅行時に気を付けることなど)」、第二章の「子どもとの社会的、感情的関わり」、第四章の「ワークライフバランス」のパートを一緒に翻訳して下さるママドクターの方を大募集中です!!

ママドクターといえば、大西先生が立ち上げて下さったこの会。
まさに、日本のママドクターの当事者である皆さんと、この面白い本を一緒に翻訳できないかな、という夢のようなことを思いつきました。
ほんの数章、あるいは、数ページでも興味がある、英語に自信はないけれど勉強のために翻訳チームに入りたい、という方がいらっしゃいましたら、気軽にお知らせください。
3月16日頃までに名乗りを上げていただければ、こちらの翻訳者候補リストに入れさせていただきます。

(中略)

医師としても母としても、すごく勉強になるこの本、一人で読もうとするとなかなか時間が取れませんが、仲間がいれば、そして、ノルマがあれば楽しく時間をひねり出せるかもしれないわ!と思われましたら、先ずはご一報いただければ幸いです。

ママドクターが社会に貢献するチャンス!だと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
私一人でワクワクしているこの気持ちを、たくさんのママドクターの方々と共有できたらもっと楽しいだろうな、と夢想しているところです。

お忙しい中、最後までお読みくださいましてありがとうございました。
始まったばかりの翻訳プロジェクトの進捗状況も、またご報告させてください。
これからも、先生方のご健康とお幸せを心から願っていますね。

吉田 穂波

このメールを出しましたら、24時間で、何と10名以上の先生が名乗りを上げて下さいました! この時の嬉しさは、何と表現したら良いか分かりません。心細かった気持ちが吹き飛び、共感してもらえた、仲間が出来た、これでこの大著を翻訳できる、という喜びと安堵で胸がいっぱいになり、早速、興奮でいっぱいの気持ちをメールしました。

3/10/15
皆様

昨日の朝から24時間で、何と、10名以上の先生が名乗りを上げて下さいました!
これでいったん募集は終了したいと思いますが、本の内容にご興味がある方、翻訳作業に関心をお持ちの方は個別にメールをいただければ、この日本語訳のプロセスをシェアしたいと思いますのでお気軽にお問い合わせください。

海外で出会った本で
「この本は、いい!!」
と思っても、日本の出版社を見つけ、出版までこぎつけるのはなかなか難しく、また、売り上げの多くが元の会社に行ってしまうのですが、それでも、お金では代えられない報酬=素晴らしい作品を多くの人と分かち合うことが出来、会ったこともない人の役に立つことが出来る、というやりがいがあります。
内容が医学的であることもあり、やはり医師でないと訳せない、という点が出版社のネックだったのですが、皆様のおかげで不安が吹き飛びました。
本当にありがとうございました。

今回の「ママドック・メディシン」翻訳は、このママドクターの会が協力し、社会に向けて貢献できるプロジェクトとして、引き続き皆さまからも応援していただければ嬉しいです。

このコミュニティに加えていただけることを誇りに思っています。
寒暖の差が激しい毎日、くれぐれもご自愛ください。

吉田 穂波

こうして、一度は募集を終了したにもかかわらず、その後も翻訳希望の先生方が後を絶たず続々と手をあげて下さったので、最終的には20名にまで達することとなりました。この原著は94項の本文に加えて各章ごとの要約ページや図説ページなどもありましたので、先生方に翻訳したいパートのご希望を聞き、それらを突き合わせて調整し、出版社の方に翻訳者リストをお渡しして、翻訳原稿を書いていただく運びとなりました。
調整する中で、「ワークライフバランスの話に興味がある」と仰っていた方に「小児科がご専門なので、新生児のこのパートもお願いします」など無理を聞いていただいたこともありましたし、お時間がなくお忙しそうな先生にも平等に分担していただいたりと、様々なお願いを差し上げて、やっとすべてのパーツが埋まりました。

この他、この本の誕生を誰からも喜んでもらえるような環境作りも、コンダクターである私の大事な役割でした。母子保健分野の第一人者である加藤則子先生(十文字学園女子大学教授)に翻訳企画についてご相談したところ、この本の翻訳を心から応援して下さり、
「アメリカ小児科学会の編集した書籍ならば、日本でそれ相応の学術団体にもお目通しいただくと良い。日本で小児科の専門家を束ねているのは四者協(日本小児医療保健協議会)という団体であり、そこのリーダー的存在で、日本小児科学会会長(当時)の五十嵐隆先生(国立成育医療研究センター理事長)にもお目通しいただき、総監訳者になっていただいては」
というアドバイスをいただきました。

その時まで私には、日米の小児科学会の関係性や、組織的な動きをするという発想がありませんでしたので、「その通りだ!」と思い、さっそく五十嵐先生にご面会のアポを取り、出版社の方々と共にお伺いしました。私や出版社が勝手に翻訳するよりも、学術団体の先生方にこの企画を温かく見守っていただきながら、一緒に進めたいと思ったのです。五十嵐先生は、ハンサムで気さくな方で、
「これはいい本だね。アメリカ小児科学会は、こういう上手いヘルス・プロモーションをしているんだなぁ」
と、大きな関心を寄せて下さり、大変ご多忙にもかかわらず、その場で総監訳をお引き受けくださいました。「これは絶対に良い翻訳内容にしなければ」「笑顔で応援してくれる五十嵐先生を裏切ってはいけない」と、ここでもまたモチベーションが上がりました。

「はじめに」や「あとがき」を翻訳したり、全員の翻訳を突き合わせて用語を統一したり、原著者に問い合わせをしたり……。かなりの難産で、この訳書が出版されたのは、翻訳の話が出てから2年後の、2017年4月のことです。
仲間の先生方と一緒に産みだされた協働作品。
多くの方々が、子育てや仕事の合間に、ありったけのお時間とお力を捻出して翻訳して下さった出版までのエピソードは、一生忘れることが出来ないでしょう。難産ではありましたが、それだけに多くの人に助けていただいた感謝の思いと、人との繋がりが支えになることを感じた、私にとってこの本は子どものような存在です。

ママドクターは、時間や働き方など様々な制約を持ちながら、職場でも、家庭でも、壁にぶつかったり切羽詰まったりしている、愛すべき存在です。子どもが可愛いのに、とても忙しくて、いつも子どもを愛せる日ばかりではないかもしれません。そんなママドクター仲間が一丸となって、「ママであることはアドバンテージ(強み)である」「ママドクターである私だからこそ、出来る仕事がある」と、同じ気持ちを共有しながら一緒にお仕事ができた幸運に、心から感謝しています。

 

【翻訳メンバー】
総監訳:五十嵐 隆 先生
監訳:吉田 穂波
アドバイザー:加藤 則子 先生
翻訳担当:
相崎 扶友美 先生
明石 定子 先生
伊藤 香 先生
江藤 陽子 先生
大友 夏子 先生
大西 由希子 先生
梶保 祐子 先生
後藤 美賀子 先生
小林 浩子 先生
佐藤 詩子 先生
鈴木 さやか 先生
竹内 牧 先生
建石 綾子 先生
中村 佳恵 先生
平野 真希子 先生
広田 由子 先生
細谷 紀子 先生
松本 ルミネ 先生

 

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吉田 穂波(よしだ・ほなみ)
産婦人科医・医学博士・公衆衛生修士。三重大学医学部医学科を卒業ののち、聖路加国際病院で3年間のレジデンシーを終え、名古屋大学医学系大学院で博士号を取得。ドイツ・イギリスでの臨床研修やハーバード公衆衛生大学院への留学、国立保健医療科学院 主任研究官を経て、現在は神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課 技幹、政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室 シニアプロジェクトリーダー、神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 准教授を務める。4女1男の母。
『ママドクターからの幸せカルテ 子育ても仕事も楽しむために』
著者:ウェンディ・スー・スワンソン
総監訳者:五十嵐隆
監訳者:吉田穂波
発行者:西村正徳
発行所:西村書店 東京出版編集部
発行日:2017年4月11日 初版第1刷

内容:
発熱や感染症など子どもがかかりやすい病気、日焼け対策、予防接種、事故や怪我の予防など医師としての知見が生かされた内容のほか、育児法に関することや子育てと自分の人生とのバランスのとり方まで、多種多様なトピックを紹介した一冊。
「予防接種は本当に安全?」「良い母親とは?」「正しい育児法は?」「母親になるとはどういう意味?」「自分にとっての公私のバランスって?」など、子育てをする人なら誰でも感じる悩みや迷いに対する著者の考え方や意見が著された同書は、「子どもも親も幸せであるためにどうすればいいのか」を見つめ直すきっかけを与えてくれる。

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