医師専門コンサルタントが解説

QOL向上・開業目的で転職! メリット・デメリットは?

思い描く生活・働き方を手に入れる方法の一つである「転職」。理想を実現できる一方で、現在の仕事場にいることで受けていた恩恵を手放さざるを得ないケースもあります。
転職はメリット・デメリットが表裏一体をなしていることを踏まえて検討することが大切です。とはいえ、初めて転職される(医局を退局される)方にとってどのようなメリット・デメリットが発生するのかを具体的にイメージすることは難しいものです。そこで、今回は「QOL向上」「開業」目的で転職する場合について、医師転職コンサルタントにケーススタディを用いて解説いただきました。

※何をメリット・デメリットと感じるかは個人の価値観にもよるため、ここでは、一般的にメリット・デメリットとされるものを紹介します。

 

QOL向上目的の転職のメリット・デメリット

スキル向上やキャリアのステップアップを目的に転職する医師がいる一方で、プライベートに充てる時間を増やす「QOL向上」のために転職を考える医師も多いもの。中でも「家族との時間を大事にしたい」という理由で転職の相談を受けるケースは少なくありません。

【代表的な転職理由】
・キャリアやスキルアップと家庭の両立
・子どもと過ごす時間の確保
・両親や義父・義母の介護をする時間の確保

今回は、上に挙げた中でも特に相談の多い「キャリアやスキルアップと家庭の両立」「子どもと過ごす時間の確保」の二つをピックアップ。ケーススタディを用いてメリット・デメリットをご紹介させていただきます。

■Case:キャリアと子育てを両立し、年収も増やしたい
30代前半、女性、産婦人科、千葉県の病院に勤務する医師の場合

【現状に対する悩みと実現したい姿】
夫が人事異動で以前より忙しく給与も下がる病院に移ることになった。まだ小さい子どもがいるため、自分が子育てを担当しつつ、世帯収入が減る分も補填したい。今の職場でも多少柔軟性のある働き方をさせてもらっているが、当直免除や時短勤務は難しく、給与が大幅に上がる見込みもないため、転職を検討することにした。仕事内容については、お産が好きで産科の仕事にやりがいを感じているため、できれば業務内容は変えずに産科医としてキャリアアップしていきたい。

キャリアと子育ての両立に悩む女性医師は多く、相談を受けることも少なくありません。希望に沿った提案を心掛けていますが、時短勤務とキャリアアップの両立が難しく優先順位を絞り込まざるを得ない場合も出てきます。その際は複数の選択肢の中から比較検討いただくアドバイスや求人の提案をさせていただいています。

今回のケースでは、加えて年収アップも希望されているため、さらに難易度が上がります。残念ながらすべての希望を叶えられる医療機関は限られます。このようなケースの場合、希望から少し外れるものも含め、主な働き方として次の三つの選択肢が考えられるでしょう。

  • ・選択肢1:【キャリア優先】現在の業務内容・組織の規模に近く、現状よりも好条件な病院で働く
  • ・選択肢2:【収入優先】婦人科や不妊治療などを行うクリニック・病院で働く
  • ・選択肢3:【時間優先】健診専門の施設などで婦人科検診業務に従事する

それぞれの働き方を選んだ場合に発生するメリット・デメリットは以下になります。

 

今回のケースでは、タイミングよく「女性医師に来てほしい」という病院の産科医募集があり、時短勤務や給与交渉の上、転職することになりました。

しかし、最初にお伝えしたように、必ずしも条件を満たす医師の募集があるとは限りません。「QOL」「給与」「キャリア」の中で、譲れない条件はどれか、優先順位をつけ、キャリアを選択する必要が出てきます。

産婦人科医の年収相場を知りたい先生には、こちらもおすすめ>>「産婦人科医師の年収は?転職後のデータをもとに全診療科と比較」[医師転職研究所]

予防医療分野でキャリアを積みたい先生には、こちらもおすすめ>>「予防医療でキャリアを積む~“人間ドック科医”という生き方」岡田定氏(聖路加国際病院 人間ドック科 部長)

続いて、子どもと過ごす時間を確保するために転職を考えている医師のケーススタディを見てみましょう。

■Case:子どもと過ごす時間を確保したい
40代、男性、神経内科、都内の二次救急の病院に勤務する医師の場合

【現状に対する悩みと実現したい姿】
現在働いている病院までは車で片道1時間かかり、負担となっている。帰りも遅く、家族と一緒に夕飯を取ることができない。また月に2~3回の当直、1~2回は日曜・祝日の出勤があり、学校行事に参加できなかったり、子どもと遊んでやれず寂しい思いをさせてしまっている。もっと子どもと過ごす時間を確保したい。

こうした状況の場合、希望を叶えるための働き方のパターンは三つあります。

  • ・選択肢1:休みが取りやすい急性期病院で働く
  • ・選択肢2:急性期対応から外れ、リハビリ・慢性期病院で働く
  • ・選択肢3:クリニックや健診センターなど、病棟フリーで日勤のみの職場で働く

それぞれ、メリット・デメリットはどのようになるでしょうか。

 

こちらのケースも、モデルとなった医師は一つ目の方法で転職することができました。

今回ご紹介した選択肢のように、転職は、現在抱えている課題の解決だけでなく、将来の働き方やキャリアにも影響が及びます。10年後、20年後、どのような仕事や働き方をしていたいのか。この先のご自身のキャリアプランを改めて考えることも、転職活動における重要なステップです。

家族との時間の確保とスキルアップを実現させた医師の「転職事例」はこちら>>「決断の時―キャリアの岐路で、医師はどう考え、どう選択したのか【第1話】「このままでいいのか?」同僚医師の退職を機に考えた結果……」

体力の衰えを機に転科した医師の「転職事例」はこちら>>「決断の時―キャリアの岐路で、医師はどう考え、どう選択したのか【第2話】いつまでも医師として、患者さんを助け続けたい」

 

開業のための転職のメリット・デメリット

最後に、現在の勤務先を退職して開業する場合に考えられるメリット・デメリットについて、ケーススタディを用いて解説します。

■Case:定年後も働き続けるために、開業したい
40代後半、男性、消化器外科、医局派遣先の埼玉県の病院に勤務する医師の場合

【現状に対する悩みと実現したい姿】
子どもがまだ小学生で、少なくとも大学卒業までは一定の収入を確保したいし、できれば定年後も働きたい。しかし今の職場は手術が中心で、この先も今のような働き方を続けられるか、体力的に不安である。通常の大学医局の人事では1~2年で派遣先が変わるケースが多いが、自分はすでに15年も異動がなく、この先もその可能性は低い。そのため都内での開業を考えている。

勤務医が開業を目指す場合、現在の職場を辞めてすぐに開業するイメージを持ちがちですが、開業を最終的なゴールとし、いくつかのステップを経て開業される方も少なくありません。主なステップの踏み方は以下の三つになります。

【開業を目指す方法】
  • パターン1:開業する
  • パターン2:まず「雇われ院長」になり、将来的な開業を目指す
  • パターン3:まずはクリニック勤務で外来経験を積み、将来的に開業する

では、上記三つの選択肢ごとに、メリット・デメリットを見てみましょう。

 

こちらの医師は検討の末に方法1を選び、自宅に近い医療ビル内での開業を決断。広告宣伝費や初期投資の面で負担が少ないこと、年齢的に開業の決断は早いほうがいいことが決め手となりました。

開業は医者人生において大きなイベントであり、相応の準備も必要となることから、メリットだけでなく上記で挙げたようなデメリットについてもよく検討することが必要となります。

開業を検討される先生には、こちらもおすすめ>>「ファイナンス視点で考える、失敗しない“開業”のススメ」杉山正徳氏(㈱日医リース/医業経営コンサルタント)

開業を目指す医師の「転職事例」はこちら>>「決断の時―キャリアの岐路で、医師はどう考え、どう選択したのか【第8話】教授の逆鱗、医療機関からの連続NG……3年後の開業に向けあとがない中で、理事長から切り出された意外な話とは?」

 

仕事・生活の変化についてよくシミュレーションを

QOLを向上させる転職は、応募先が限られ、「現状と業務内容が変わる転職」を選択する先生も少なくありません。収入減やキャリアチェンジの可能性を視野に入れて検討しておくといいでしょう。
また開業目的の転職の場合は、院長職相応の責任・役割が発生することを踏まえ、リスクを最小限に抑えるため、自分にとって必要なステップを設定することが大切です。

自分の選択によって働き方がどのように変わるかイメージしにくい場合は、ぜひ私どものような、紹介会社のコンサルタントに相談してみてください。支援事例を元に、具体的なアドバイスをさせていただきます。

(聞き手・文=エピロギ編集部)

 

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