医師専門コンサルタントが解説

転職活動最大の難所!? 引き留めに負けない、円満退局術

大学医局に所属する医師が民間の病院に転職する際に、最大の関門となるのが医局からの退局。いつ・どんなタイミングで、誰に・どのように伝えれば円満に退局できるのか、円満退局できなかったケースやトラブルになった事例にはどのようなものがあるのか、長年医師の転職をサポートしてきた医師専門のコンサルタントに解説していただきました。

 

退局までの理想的なスケジュール

■ 医師の転職市場動向と、早まる退局スケジュール

はじめに、最近の医師の転職市場についてご説明します。
2004年に初期臨床研修制度が変更されたことに伴い、医局の制度が変化しました。これを機に、それまではほとんどの人が医師になると同時に大学の医局に所属し、開業以外の理由で医局を辞めることはまれ、という状況から、人事に影響を与える30代~40代という年代でも退局し、民間病院に転職するケースが珍しいことではなくなりました。
民間病院でも医師として十分にキャリアが積めること、医局を辞めて民間病院に転職した他の医師の情報に触れる機会が増えたことで、大学医局に所属し続ける以外にも医師として希望するキャリアや、自分らしい働き方を実現できることが明らかになってきたというわけです。

大学医局を離れ、民間病院に転職する医師の数は年々増加しています。それに合わせて、転職活動をスタートする時期も早まりつつあるというのが今の状況です。その理由を紐解くと、自分が医局を辞めることで他の医局員に迷惑をかけたくないという思いと、慎重かつ自分のペースで転職活動を行いたいという思いが働いているようです。

■ 退局までのタイムスケジュール

では、転職先への入職から逆算して、どのくらい前から転職に向けて動き出せばよいのでしょうか。以下に示す図が一般的なタイムスケジュールです。

 

 

昔は退局が決まってから転職活動を始めるのが一般的でしたが、最近では都心を中心に水面下で転職活動を進めておいて、内定を得た状態になってから医局に退局意思を伝える流れになってきています(地方では、退局が決まってから転職活動、という流れが主流のところも少なくありません)。来期の人事を決めるにあたって、医局内で人事の実務を担っている立場の人物(医局長など)による意思確認の機会に退局の話をするという先生もいます。

なお、上のスケジュールはあくまでも一般的なケースで、転職をする先生の医局内での立場や医局の雰囲気(体育会系か否かなど)や地域における医局の影響力(地域の医療機関における医局の派遣先割合の大小)、先生の専門科目や医局の状況(教授の退局・着任のタイミングにあるかどうかなど)によっては、スケジュールが大きく異なることもあります。例えば、チームを率いる立場の先生の場合は、下のメンバーに伝えるタイミングを考慮する必要がありますし、地方の医局などの場合、1年前には退局意思を伝えるべき場合もあります。あくまで図に示したスケジュールを一般論として押さえた上で、ご自身の所属する医局において、周りの医師が退局の際どう動いていたかを参考に、先生の置かれた状況に即した最適なタイミングで転職活動を進めることが重要です。

ただし、いずれの場合も転職先へ内定の正式承諾をする前には、退局の意思を伝えておく必要があります。内定を正式に受諾した後で退局できないことが分かると、トラブルにつながりかねません。

 

上司との面談時のポイント

■ 最初に「退局の意思」を伝えるべき相手は誰?

退局の意思を誰に最初に伝えるべきか、という点について。その先生の立場や組織の体制にもよるので一概には言えないのですが、医局長など、現場に近くて実際に人事を行っている立場の人にまず退局の意思を伝え、そこから話を上げてもらい、教授との面談を設定して話をする、という順を踏むケースをよく聞きます。いきなり教授に話をすることはあまり多くありません。

■ 引き留め回避&円満退局の鍵は「退局理由」にあり

次に、円満退局には欠かせない、転職理由の伝え方について。転職したい理由は、労働環境や人間関係など複合的なものだと思います。本音と建前もあると思いますが、重要なことは、医局側の努力次第で改善できる可能性のある理由は、1番の理由として上げないということです。「家庭の事情」や「家族の介護」など、医局がタッチできない、解決できない問題を理由の中心に話した方がスムーズでしょう。
なお、医局に不満を持っているからといって、悪口を言って辞めるのは避けた方がいいでしょう。医師の世界は狭いですから、転職後に学会などで顔を合わせる機会もないとは言えません。医局側に納得や理解をしてもらい、願わくば、応援してもらえるような辞め方が理想です。

とはいえ、交渉が難しい上司や医局もあると思います。私たちコンサルタントはその場についていってフォローすることはできませんので、退局交渉に臨む先生には、「意志を強く持って伝えるようにしてください」とお話ししています。検討を重ねた結果、すでに辞めることを決めていることをきちんと伝えて、意志を貫く。迷っている、悩んでいるというように気持ちが定まっていない体で話をしてしまうと、そこを詰められ、退局が遠のきかねません。

< 退局意思の伝え方、「成功例」と「失敗例」 >

○いい例:
「〇〇〇〇という家庭の事情があり、家族とも相談したが、自分の働き方を変える選択が最善という判断に至り、また家族も同じ意向のため、申し訳ないですが今期で辞めさせていただきたいです」
※医局では解決できない理由にフォーカスして、退局理由を伝えましょう

×悪い例:
「できれば今期で……」
→じゃあもっと長くいればいいじゃないか、と言われる隙を与えてしまいます。

「辞めようかどうか悩んでいます」
→悩み相談の体で交渉に臨んだ結果、引き留めに遭うことも少なくありません。

「残業が多すぎる/〇〇先生の言動に耐えられない/業務内容に納得できない」
→医局による改善可能性のある理由を伝えた場合、退局話から、その問題をどう解決するかに論点が移ってしまうおそれがあります。

※いずれの場合も、会話の主導権を渡さないような注意が必要です。

 

退局時にやってはいけないこと、やっておいた方がいいこと

■ 転職先の病院名は伝えるべきか?

退局意思を伝える際に、転職先の病院名を聞かれる場合がありますが、基本的に病院名は伝えないようにしましょう。これまでの経験則からいって9割以上の先生が伝えていません。狭い世界ですから、転職先の病院名を伝えた結果、医局から転職先の病院に「うちから引き抜くのか」と直接連絡が行き、病院と大学が揉めるきっかけを作ってしまう可能性も出てきます。こうした場合、病院側としては大学より立場が弱いので、最悪の場合、内定取り消しということにもなりかねません。
交渉が難しい上司や医局の場合、次の転職先を厳しく追及されることがあるかもしれません。その場合は、「いくつか内定をいただいており、最終的にどこに行くかはまだ決めていませんが、家族と相談の上決めようと思っています」といった返答をするのも一つです。さらに内定先を追及された場合は「お断りした際に先方にご迷惑をかけてしまう可能性があるので、行くかどうか決まっていない時点でお伝えするのは控えさせてください」と答えるのが最善でしょう。
なお、医局長に対してだけではなく、転職をするか決める前段階で内定先を口にしたり、内定を断った先の医療機関名を口外したりすることは、その医療機関との今後の関係性に悪影響を及ぼす可能性もゼロではないため、控えるべきです。

ただし、転職先を伝えるべきでないのは退局交渉の段階の話であって、辞めることが確定し引継ぎが始まる時期(転職先への入職日の1カ月前~2カ月前くらい)になると、受け持ちの患者さんなどに退職することを伝える必要も出てくると思います。その際、頑なに転職先を言わないのは現実的ではないでしょう。患者さんとしては、同じ病院に通い続けていていいのか、先生に継続して治療をお願いすべきかどうかを検討する必要が出てくるからです。あまりに宣伝しすぎるのはコンプライアンス上NGですが、常識の範囲内で転職先を伝える分には問題ないと思います。

■ 譲歩できる点は譲歩し、医局に協力する

先ほど、退局交渉の際は強い意志を持って、と話しましたが、退局することが決まったら、退局の時期などある程度譲歩する幅を持つことも、円満退局には必要です。譲れないところと、譲歩できるところを決めて、医局側とすり合わせをしていくとあまり揉めずに済むでしょう。
例えば、3月末で辞めるつもりだったけれども、後任の医師がなかなか見つからない場合、「3月末に辞めると言ったので、何が何でも絶対に3月末で辞めます」というよりは、「1カ月~2カ月の後ろ倒しや、引き続き週1日程度の非常勤勤務が可能か転職先に相談してみますが、それ以上は(もしくは、〇月以降の勤務は)無理です」と、落としどころを探っていくのがよいでしょう。その上で、転職先と相談をし、問題がなければその旨を、変更が難しい場合はその旨を、大学医局側に伝えて下さい。

転職先の病院としても、先生を受け入れることで大学医局との関係が悪化するのは本意ではないはずです。実際、喧嘩別れをして退局するくらいなら入職時期を少しずらしてもいいから円満退局してきてほしいと考える医療機関は多く、これまでお手伝いした転職でも、1カ月~3カ月くらいの調整であれば相談に応じる、という姿勢を見せてくれた医療機関も少なくありません。ただし、その場合はなるべく早いタイミングで転職先に状況を伝え、転職時期の調整の相談をすることが重要です。先生の入職が遅れる間、医師をどう確保するかなど、受け入れ先ではさまざまな対応が必要になってきます。入職を待ってくれる受け入れ先への配慮と感謝を忘れないことが、転職後の働きやすさにもつながるはずです。

■ 退局後に迷惑をかけないための“根回し”

退局による医局への影響を少しでも軽減するためにすべきことは、“早めかつ綿密な根回し”に尽きます。次の医局人事の検討が始まる前に退局意思を伝え、自分が辞めても大丈夫なように後輩を育てて……といった職場への配慮をしてくれた人と、突然「3カ月後に辞めたい」と言ってきた人がいたら、後者に対して「他にも辞める人がいるからあなたは難しい」と言いやすいですよね。

とはいえ、退職希望時期の半年~1年ほど前など、余裕を持って転職先を決め、周りへの告知タイミングや方法を相談できるくらいの余裕があるのが理想ではありますが、その時点で内定を持っている状態でいられるかというと、なかなか難しいのが現実です。そのため、退局が難しい環境の場合は、転職先が確定する前に退局意思を先に伝えることもあります。転職にあたってのこだわりの条件と医局の辞めやすさのバランスをみて、動いていただきたいですね。

他に、退局に関して、医局として引き留めができない場合もあります。これはその先生にスキルがないからではなく、どうしても医局の中に希望するポジションがないことが理由です。過去には「違う病院に求められるポストがあるのなら推薦状を書くよ」と教授から話をしてもらえるケースもありました。これも円満退局の一つのかたちではないでしょうか。

 

退局しやすいタイミング、避けるべきタイミング

一般的に退局しやすいとされるタイミングや、逆に辞めにくい時期、辞めることでより多くの迷惑を医局にかけてしまうタイミングがあります。円満な退局のためにも、時期の見極めは重要です。事前に押さえておくとよいでしょう。

【辞めやすいタイミング】
・教授の退官時
→中には、揉めるのが分かっているので教授の定年まで転職を待つ、という先生もいらっしゃいます。

【辞めにくいタイミング】
・専門医の資格取得直後
→資格取得後すぐの退局は、「応援していたのに」「期待して資格を取らせてあげたのに……」という、医局や教授の期待に対する裏切りと受け取られかねませんし、与える印象もあまりよいものではないでしょう。一方で、資格取得の前に退局意思を伝えると資格取得に支障が出ることもあるので注意が必要です。資格取得後、数年間勤務してから転職する、というのが一般的です。

・期の途中
→後任が着任するまでの期間に対して配慮が足りない、とみなされます。期の途中で医師が抜けると、医局はその分の医師を確保しなくてはならず、迷惑をかけてしまうことも事実です。

・指導している後輩に影響が出るタイミング
→後輩の資格取得時期にも注意が必要です。指導医がいなくなることで資格取得要件を満たせなくなる場合も出てきます。ご自身のキャリアはもちろんのこと、後輩のキャリア形成への配慮も忘れずに、転職時期を見極めましょう。

 

「退局できなかった」「しなかった」……退局交渉で起き得ること

冒頭でお話ししたように、昔に比べると、特に首都圏では各段に転職しやすい状況になっています。それでも結果的に退局できなかった、あるいはしなかった事例はあります(ただし、「退局しなかった」ケースは医局側と本人との交渉の結果ですので、転職失敗とは言えないでしょう)。参考まで、それぞれ、実際にあった事例をご紹介します。

退局できなかった①:退局したい理由を正直に言いすぎた
退局意思を伝える際に「パワハラがひどいので辞めます」とストレートに伝えたところ、医局で「まずパワハラをどう解決するか」という話になり、退局の話が棚上げになってしまった。

退局できなかった②:教授がいい人であるがゆえに……
教授との面談の際に「もっといいところを僕が探してあげるよ」と言われてしまい、断りきれずにすでに内定している転職先に「もしかしたら教授が紹介してくれるかもしれない」と回答することに。退局の話が延び延びになった上、結局、なし崩し的に医局に残留することになった。

退局しなかった①:上からと下からの引き留め
指導役かつ関連病院の責任者というポジションについていて、上からも引き留めに遭い、下からも残ってほしいと言われて、迷った結果、最終的に退局しないという決断をした。

退局しなかった②:新たな選択肢の提示
交渉時に医局から提案された待遇と転職先との比較をして、転職を数年先延ばしにすることにした。

 

こんなことも!? 驚きのトラブル事例

転職しやすくなったとはいえ、円満退局どころか、トラブルに発展するケースも起こり得ます。最後に、実際にあった退局トラブルをご紹介します。

【退局トラブル事例】

トラブル①:教授と殴り合い!?
退局の意向を伝えた場で、感情的になった教授に殴られ、思わず殴り返してしまった。

トラブル②:転職先をつぶされた
転職先の院長を教授が知っており、直接的な派遣関係がなかったのに「うちから引き抜かれると困るんだけど」と圧力をかけられた。
※転職先を伝えるのはくれぐれも退局にOKが出た後に

トラブル③:変な噂を流される
「腕が悪い」「独善的なタイプで扱いにくい」といった噂を流された。

トラブル④:上長に詰められた結果……
退局交渉の際に上長の逆鱗に触れて、心身に不調をきたし転職する気力も失った。結局、医局も辞めることにもなってしまった。

*

医師の世界は狭く、転職後に元の職場の上司や仲間、教授と学会で会う機会も少なくありません。会って気まずい思いをするよりは、「頑張ってる?」と声をかけてもらえる関係性を維持したまま転職をしたいものです。医師としてキャリア構築をする上で起き得るリスクを避けるためにも、転職の際にはぜひ「円満退局」を目指してください。

(聞き手=只野まり子)

 

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