「ファイナンス視点で考える、失敗しない“開業”のススメ」

第1回:データからみるクリニックと医師

杉山 正徳 氏(㈱日医リース/医業経営コンサルタント)

医師のキャリアの中で「転職」と合わせて、「開業」をお考えになった先生もいらっしゃることと思います。大都市を中心に開業される医院が増加する一方で、経営難から閉院(廃止)を余儀なくされるケースも少なくありません。

医療専門のリース会社勤務の医業経営コンサルタントとして、医院開業セミナーや個別相談等でお話しをさせていただいたり、ファイナンス契約等を通じて診療所の医療法人理事長や個人開設の院長から資金調達を中心とした開業や経営の相談を受けるなど、経営に携わる事務長や院長の奥様と日々接した経験をふまえて、失敗しない「クリニック開業」についてお話をしたいと思います。

第1回は、「データから見る診療所と医師」と題し、診療所に関するトレンドを、厚生労働省が発表している「厚生労働統計」から見ていきます。

 

1. クリニックに勤務、開業している医師の割合は?

厚生労働省の発表した『平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況』によると、医師数全体の32.7%は診療所に主に従事しています。
診療所開設者又は法人の代表者は72,024人です(医師全体の23.1%)。同じ年の診療所数は100,461件。差引きすると28,437件分の医院開設者、法人の代表者が足りません。不足分は公的機関の関連診療所、医療法人の分院、複数の医師を雇用している医院と大まかに考えてよいと思います。

 

文中_01

 

文中01-2

 

2. クリニックの開業は増えているのか?

一般診療所(無床)全体的には増加基調にあります。少し詳しく見ていきましょう。
下の図は、厚生労働省が発表した『平成26年(2014)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』の中の「結果の概要Ⅰ 医療施設調査」より 施設の種類別にみた施設数の動態状況をグラフにしたものです。過去5年間だけでも、伸びの多少はありますが、右肩上がりに一般診療所(無床)の数が増えていることがわかります。一方で、同じクリニックでも、有床診療所は減少し続けています。これは医師の勤務負担と高齢化、看護職員の雇用と人件費負担、診療報酬の低さ等が原因としてあげられています(日本医師会『有床診療所に関する検討委員会』答申概要より)。

 

文中_02

 

平成27年(2015年)は開設・再開が7,568件、廃止・休止が7,054件。診療所の開設(再開含む)と廃止(休止含む)の差引が純増減数になりますから、平成27年の1年間で、514件のクリニックが増加したことになります。
右肩上がりに増えているクリニックですが、例外が平成23年、平成26年。この年だけはクリニックの増減数がマイナスです。平成23年は東日本大震災が起こった年。平成26年は消費税が8%に増税された年です。これら外的要因により、開業マインドに影響が出たものと思われます。

 

文中_03

 

 

■都道府県別にみたクリニック数の増減

都道府県別の平成26年と平成22年の数値比較を、診療所数と人口数の項目で見ていきます。
診療所が増加して人口増加(流入)している地域は愛知県や神奈川県、福岡県など7都道府県。また、診療所が減少して人口減少(流出)している地域は福島県や京都府、徳島県など19都道府県にのぼります。
このように診療所、患者数ともに増加している、もしくはともに減少している地域については、 専門ごとの最適数は別として、市場の原理に叶った動きと言えるでしょう。気になるのは、人口が減少(流出)しているにもかかわらず診療所が増加している地域です。宮城県や兵庫県、新潟県など21都道府県にも上ります。この地域については、科目によっては患者の奪い合いが起きている可能性が否定できません。

開業場所を決める際、今後の人口動態にも目配りをして開業計画を練っていく必要があります。

 

文中_04

 

3. クリニック院長の平均年齢推移

次に、クリニック経営者の年齢を見てみましょう。
厚生労働省が発表した「平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によると、診療所開設者の平均年齢は、平成20年以降、少しつづ高齢化しています。病院と同様、後継者問題を抱えた診療所数は増加しており、今後も高齢や後継者不在による閉院(廃止)が増加していくことが予測されます。選択肢の一つとしてそのような医院の継承も念頭に、開業計画を立てることをお薦めします。

 

文中_05

 

文中_06

 

文中_07

 

4. クリニック開業時の院長の平均年齢は?

日本医師会が発表した会員アンケート(「2009年開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査」)によると、クリニック開業の平均年齢は41.3歳です。ちなみに日本政策金融公庫総合研究所が発表している「2016年新規開業実態調査」によると、全業種の開業時平均年齢は42.5歳(30歳代35.3%、40歳代34.5%)。一般的な起業とクリニック開設をする年齢にあまり差はありません。
クリニックにせよ一般企業にせよ、一定期間キャリアを積む期間と、自己資金投下と金融機関の借入返済期間を考えると、30代半ば~40代半ばでの起業が多いと言えるでしょう。
また、弊社に開業を相談される先生の年齢は下がっており、早い方は30代前半、中には20代の方も前もって開業の知識を得ようと弊社セミナーや個別相談会に参加される方もいらっしゃいます。医師として早期にご自身のキャリアプランを考えている方が増えているように思われます。

 

文中_08

 

文中_09

 

5.病院閉院数の増加とクリニックの高齢化

今回は「データから見る診療所と医師」ということでお話させていただきました。ご覧いただいたように全体的にみると診療所開業は増加基調です。一方病院数は減少の一途(平成22年8,670件➩平成26年8,493件)です。
病院の閉院理由としては、国の医療政策や地域の人口動向の変化に対応が不十分であったり、後継者の不在などが挙げられます。今は増加基調にある診療所も、病院と同様に様々な外的事象に目配りをして経営をする必要があるでしょう。

また「3. 診療所開設者の平均年齢推移」でもお伝えしたように、診療所開設者の高齢化が進んでおり、今後、診療所の閉院も増加が見込まれます。
長年地域医療を担っていた診療所が閉院することは、地域住民にとって大きな痛手です。医療過疎地域の市町村の中には診療所の開業サポート(補助金など)をしている所もあります。開業する際には、こういった制度の利用ができないか、お調べすることをお勧めします。

*

地域の人口減少や医療政策が不透明の中で、開業=起業するにあたっては、早い時期から幅広く情報を持つことが肝要です。

弊社のサービスの中で『診療圏調査報告書』作成無料サービスがございます。開業希望エリアの年齢別人口や診療科目別推計患者数や競合先がわかります。開業場所がある程度決まっている方や開業場所がまだ漠然とされている方でも自宅や勤務先、最寄りの駅などを中心に作成することが可能です。医科医師限定サービスです。こちらのHPからお申込み下さい(https://www.nichii-lease.com/inquiry/research/practice.html)。

次回は開業のリスクとメリットについてお話をしたいと思います。開業するからには、皆さん、「成功」を目指します。一方で、理想と現実の狭間で悩まれる方も多く、開業されて数か月で閉院し、勤務医に戻られる方もいらっしゃいます。実際、どのような「失敗」の可能性があるのか。クリニック開業におけるリスクとメリットを、事例を交えて解説致します。

<参考>
厚生労働省『平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況』(結果の概要 1医師)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/kekka_1.pdf
厚生労働省『平成26年(2014年)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況』(Ⅰ医療施設調査 1施設数)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/14/dl/1-1.pdf
厚生労働省『平成25年(2013)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』(Ⅰ医療施設調査 1施設数)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/13/dl/1-1.pdf
厚生労働省『平成24年(2012)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』(Ⅰ医療施設調査 1施設数)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/12/dl/1-1.pdf
厚生労働省『平成23年(2011)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況』(Ⅰ医療施設調査 1施設数)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/11/dl/1-1.pdf
厚生労働省『平成22年(2010)医療施設(動態)調査・病院報告の概況』(Ⅰ医療施設調査 1施設数)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/10/dl/shisetsu.pdf
総務省統計局『人口推計(平成26年10月1日現在)』
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2014np/
総務省統計局『平成22年国勢調査人口等基本集計結果』(人口等基本集計結果)
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/kihon1/pdf/gaiyou2.pdf
厚生労働省『平成26年(2014年)医師・歯科医師・薬剤師調査概況』
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/14/dl/gaikyo.pdf
社団法人日本医師会『開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査』(2009年)
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090930_21.pdf
日本政策金融公庫総合研究所『2016年新規開業実態調査~アンケート結果の概要~』
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_161222_1.pdf

 

【関連記事】
「医師が得する"お金"のハナシ|第11回 【2017年版】診療科別・医師の年収比較~給与の高い科目はここだ!」
「弁護士が教える医師のためのトラブル回避術|第12回 転職時のトラブル防止術」
「医療経営コンサルタントが語る|2016年度診療報酬改定から見る“こんな医療機関は経営が危ない”」

 

杉山 正徳(すぎやま・まさのり)
(株)日医リース 営業推進部 新規開業支援室室長/(公社)日本医業経営コンサルタント協会認定医業経営コンサルタント。医療専門リース会社で培った経験を元に、各種セミナー講演や医師の資金調達の相談やファイナンスプランの提案を行う。
医師転職ドットコム Powered by 株式会社メディウェル

全国47都道府県の医師求人情報や300人以上の転職体験談など、転職に役立つ情報が満載です。勤務地や科目、年収など希望条件を入力すれば、最新の求人を検索できます。
>検索はこちら

ページの先頭へ