ニッポン病院食堂紀行

【第4回】沖縄・名護市|運天食堂

世界中から集めた“美しさ”に満ちた空間でいただくヘルシーな“カフェ風”病院食

病気と闘う患者さんや医療スタッフを陰ながら支える病院食堂。かつて病院の食堂といえば質素で地味なイメージがありました。しかし、現在はインテリアやメニューの彩りにも気を配り、レストランやカフェのように明るい雰囲気の店舗が全国各地に増えています。一流レストラン顔負けの豪華ランチプレートを提供する店や、スタイリッシュなインテリアが注目される食堂もあり、話題に事欠きません。また、生活習慣病に悩む人が増える現代では、病院食堂の健康的なレシピにも注目が集まっています。本シリーズでは、そんなバラエティ豊かな病院食堂の魅力を紹介します。

今回紹介するのは、沖縄県名護市の運天(うんてん)産婦人科医院裏手にある「運天食堂」。同院の給食部門が、入院患者さんとほぼ同じ内容のランチやスイーツを提供するというユニークなスタイルで話題です。

※記事内の価格はすべて消費税込みの価格です。また、掲載している内容はすべて取材当時のものです。その後変更されている可能性もありますので、ご了承ください。

 

1.運天産婦人科医院と運天食堂

運天産婦人科医院

 

名護市街地から県道71号を北に、車で5分ほどの住宅街に位置する運天産婦人科医院。「レンガ+花ブロック」という、いかにも“沖縄らしい”たたずまいが、周囲に違和感なく溶け込んでいます。医院長の運天医師をはじめ、スタッフ総じて「優しい眼差し」と地元から評判で、近隣で元気に過ごす子どもたちの多くがこちらで産声を上げました。そして、医院の裏手にある元はガレージだったスペースを、医院長のご子息・運天慎吾さん(マネージャー)が自らの手で内装工事をし、2017年4月にオープンしたのが「運天食堂」です。
「食堂のようなカフェ、カフェのような食堂」「健康的な食事を美しくおいしく、そして手軽に」をコンセプトに、入院している患者さんとほぼ同じメニューを日々提供。主に20代から40代の主婦層を中心に、幅広い世代のファンに支持されており、一日に40人程度の利用があります。最近は観光客にも注目され、特にお昼時は常に賑わいを見せています。

「一般の飲食店と同じ立ち位置で勝負したい」と話すマネージャー。一般に、飲食店は立地に左右されるビジネス。病院内の飲食店という特別なポジションは、初めから一定層のお客さまが来てくださるメリットがあるため、特別な武器がなくても成立しますが、運天食堂はいずれ病院内食堂とは別の側面を担いたいと考えています。そのためにも競争力が問われる他の飲食店と内容で勝負したいという心意気を持っています。

 

2.テーマは好奇心! 世界の美しいものを集めた空間

食堂入口

 

入り口スペースでは、植物や雑貨がお出迎え。南国の夏空を思わせる鮮やかなスカイブルーの扉を開けると、いわゆる「病院食堂」のイメージとはおよそかけ離れた、イマドキの洗練カフェ空間が広がります。

 

メインスペース

 

店内は、インダストリアルな工業的デザインのインテリアを軸に、アンティーク、ミニマル、レトロモダンと、テイストが異なる3つの空間で構成されています。

まず目に飛び込んでくるのが、入口入ってすぐ、中央にアンティークなチェス台を擁するメインスペース。味わいのある家具や落ち着きのある色合いの照明が、日常を忘れさせてくれる空間です。

 

メインスペース

 

キッズスペース

 

店内を奥へと進むと、右手にはオープンキッチンとその手前には絵本やおもちゃが置かれた床式のキッズスペースが。お子さん連れの来店客がゆっくりくつろげる産婦人科医院らしい心配りが感じられます。

 

テラス側席

 

そして、自然光が差し込むテラス側席はたくさんの植物に彩られた開放的な空間。いずれも異なる世界観に彩られ、店内にいながら、世界を旅しているかのような楽しみを味わえます。

 

 

店内のあちらこちらには昆虫の標本や、化石や鉱石といった自然・天然の物から、絵画やアート作品など、探求心をくすぐる数々の個性的なアイテムが随所にディスプレイされています。これらは、マネージャーが主にネットオークションなどで、国内外から広く集めたものだそう。

 

日本で捕れたシカの頭蓋骨

 

モルフォ蝶の標本

 

北アメリカ南部~南アメリカに生息するモルフォ(※)蝶の標本各種は、“森の宝石”とも言われるだけに、いずれもまばゆい輝きを放っています。
※「モルフォ」はギリシャ語で美しいの意

 

アラフラオオニシ(手前)とアンモナイトの化石

 

オーストラリア北部で発掘された世界最大の巻貝「アラフラオオニシ」の殻は、アンモナイトの化石とともに、自然の驚異を秘めているかのよう……。
一見すると雑多に配された店内のディスプレイは一筋縄でいかない個性的な物たちで満ち溢れていますが、いずれも何かしらのこだわりを感じさせ、見えざるテーマ性すら漂います。そして、その解は、メニューブックの初めの言葉に見つけました。

「この場所をまずは愛娘へ。そしてまだ大人になりきれないあなたとぼくに」。

マネージャーいわく、「子どもが面白いと思うこと、好奇心が内装のテーマで、次世代に残したい、世界のいろいろな美しさを集めた空間」という意味が込められているそうです。

 

要所要所の緑が絶妙に調和

 

また、それらが主張しすぎないよう、大小さまざま、数多の植物とドライフラワーたちにより、たおやかにして絶妙な調和を生み出している点も見逃せません。管理のしやすい一般的な観葉植物以外にも、塊根植物をメインに珍奇植物も趣味で飾っているのだそうです。

 

3.地産地消や無農薬・無添加にこだわったオリジナルメニュー

メニュー

 

気になるメニューはというと、入院中の患者さんとほぼ同じ料理を、30種類程度の豊富な食材で提供。地元のJAや無農薬野菜の生産者との直接取引などで、可能な限り地産地消を心がけ、安心で新鮮な食材を追求しています。さらに盛り付けは、客層に合わせて、見た目も楽しめるようカフェ風に。オシャレかつ丁寧な仕上がりは、もはや質素で地味な病院食のイメージを微塵も感じさせません。

 

ハンドメイドのメニュー表入れ

 

ラインナップは、「日替わりランチ」(950円)を筆頭に、「軟骨ソーキのカレーライス」「シシリアンライス」「チキンタコライス」「タンドリーチキン丼」(いずれも880円)などがスタンバイ。言うまでもなく、ここは医療現場の食。すべからく滋味深くヘルシーに仕上がったメニューの多くは、以前、厨房部門のマネージャーをしていた実母から、現在のマネージャーへ引き継がれたオリジナルです。「医院開業時から34年ほど時代を経てますが、健康的かつおいしいという根っこの部分は変わっていないと思います」。

また、「調理に手間暇を惜しまない」というこだわりのもと、調味料やケーキなど、あらゆるものが手作りなのも自慢の一つです。例えば、イタリアン/タマネギ/和風/ごま/サウザンなど、基本のドレッシングだけで5種類。どれも、化学調味料、保存料、着色料、甘味料、香料などの食品添加物は一切使用していません。この辺りも、多くのファンから支持される理由です。

 

4. 実食! 定番の日替わりプレート

日替わりランチSPセット

 

さてお待ちかねの試食タイム。迷わず一番人気の日替わりランチに、スウィーツとドリンクが付いた「日替わりランチSPセット」(1,300円)をオーダーしました。

 

ゴマ衣のチキン竜田揚げ

 

この日の献立、注目は、ゴマ衣のチキン竜田揚げ。たっぷりまぶせられた白&黒ゴマが食感にアクセントを添えています。旨味が濃厚に凝縮されながらも、さっぱりした甘酢ソースと大根おろしが生み出すバランスが秀逸で、癖になりそうな味わいです。

 

野菜チャンプルー

 

どこか懐かしい趣きの野菜チャンプルーは、タマネギ、青菜など季節の野菜に加えて、県産のお麩が加わり、沖縄ならではの味覚に(沖縄の郷土料理でフーチャンプルーと呼ばれています)。

さらに、ゴーヤーや大根、キュウリなどの新鮮野菜の漬物と和え物に、雑穀ご飯、そうめんスープという構成。山椒風味の塩や柑橘系の甘味噌など、ちょっと変わった薬味やトッピングをアクセントとして、好みに合わせてテイストを変えることができます。いずれも、手作りならではの優しい味わいに包まれ、一口ごとに体の芯が喜ぶのを感じます。ちなみに、ヘルシーと聞いて薄味を想像しそうですが、味付けにはしっかりとメリハリが効いており、決して飽きさせません。あれこれ楽しめてかつボリューミー。男性でも満足すること、請け合いです。

 

スペシャルティーコーヒー

 

コーヒーにも徹底的にこだわっています。生産現場・処理法・買い付け・流通ルートまで一連の流れで品質管理された「スペシャリティーコーヒー」を生豆ショップより調達し、自家焙煎。この季節のオススメは、もちろん「アイスコーヒー」。深みのあるコクが喉に染み入ります。

 

デザート(ヨーグルトアイスとオートミールのクッキー)

 

食後の手作りデザートも日替わり。今回は見た目もかわいい「ヨーグルトアイスとオートミールのクッキー」です。甘すぎない上品な奥行きある味わいが食後の満足感を一層高めます。

 

5.「探究心がくすぐられる過程を楽しんでほしい」

食堂看板

 

最後に、運天食堂のマネージャーからご利用客の皆さまへメッセージをいただきました。

これまで患者さん向けに出していた料理を、より多くの方々へ提供できるようになりました。そこから得られるダイレクトな反響・評価は、調理人のやりがいとなり、手間暇を惜しまぬ、心の込もった調理につながっていると感じております。

子どものお客さまはひたすら楽しんでいただきたいのです。大人のお客さまは「子どもだったころ」を、揺り起こしてください。大人になった私たちは、物事をロジカルに考えすぎます。ですが、そもそも面白い、美しいと感じること自体、もっと直観的で良いと思います。そういう意味では、経験の少ない子どもでさえ「ドキドキ、ワクワク」できるものは、より本質的かつ普遍的な魅力を持っているのではないでしょうか。

また私どものインテリアは、博物学的な側面を持つ蒐集物が多いのですが、あえて情報を削って展示しております。知りたいことが簡単に分かるという利便性よりも、探究心がくすぐられる過程を楽しんでほしいからです。「これ何だろう?」と思えば、スマホですぐに答えを導けるでしょうし、店内には疑問に対する答えが載った図鑑や文献も多く取り揃えているので、探してみてください。

 

6.店舗情報

運天食堂

住所:
〒905-0017
沖縄県名護市大中3-1-5 運天産婦人科1階(裏手)

営業時間:
11時~16時 L.O.フードは閉店1時間前、ドリンクは30分前

定休日:
木曜日・日曜日

<参考>
運天食堂ホームページ
運天食堂のブログ

 

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