日本は安すぎる!? こんなに違う世界の治療費~救急車・初診料・虫垂炎・入院費で比較~
日本の医療費は年々増加を続け、2015年には医療費が42兆3,644億円に及んだと厚生労働省が発表しました。GDPに対する医療支出の割合は7.96%に上り、2017年時点で世界主要国中6位。医療費の削減は今後の課題となっています。一方、1人あたりの医療費は世界主要国中14位。日本は「国の医療支出は高いものの、国民の自己負担は少ない」といえるようです。
日本国民の医療費負担が少ないのは、ご存知の通り、国民が何らかの公的医療保険に加入しお互いの医療費を支え合う国民皆保険制度のためです。一方、海外では日本よりも自由診療の分野が広く、混合診療が禁止されていない国も数多くあります。では、そんな海外の医療費はどのようになっているのでしょうか。救急車の利用、初診料、虫垂炎(手術)、1日あたりの入院費で比較してみましょう。
※ジェイアイ傷害火災保険株式会社 「海外での医療事情」を元に作成
救急車は有料が約半数!? 処置内容でも料金が変動
日本では救急車の利用が無料です。そのためか、近年は緊急性のない出動が問題となっています。総務省消防庁によると、平成27年に救急搬送された人(547万8,370人)のうち、医師が軽症(外来診療)と判断したケースは49.4%。約半数が緊急性を要さない状態でした。1回あたりの出動には約4万円の費用がかかっているといわれており、救急車の有料化が検討されています。
諸外国の半数以上は救急車の利用が有料に限定され(表1)、さらに「車内での処置内容」によって料金が変わることもあります。フィリピンのマニラでは公営救急車の台数が少なく、要請から到着まで時間がかかることもあるため、公営の救急車ではなく私立病院の保有する救急車を利用することもあります。
アメリカを例に見ると、州によって多少幅がありますが、例えばロサンゼルスにおける出動の相場は1回あたり123,000円です。決して安い金額ではないため、海外からの旅行者が救急車の利用をする際には、支払い能力の証明として海外旅行保険の加入者証またはクレジットカードの持参が必要となります。
海外の高すぎる手術費と短すぎる入院日数
最後に手術費用、入院費用など各国の治療費事情について、患者数の多い虫垂炎を例に比較してみましょう。日本では15人に1人が急性虫垂炎を経験するといわれ、10~20代の患者が多い病気です。
手術については、日本の60万円に対し、各国とも高額になる傾向があります。中国は7万円台という比較的安価で手術を受けられるケースがある一方、医師や病院によっては日本の2.5倍以上の約160万円と高額になる場合もあります。
同じく安価なタイでも、私立病院では診察料などは独自に定めているため、日本と比べても決して安いとは言えないのが現状です。
欧米や南米の手術費は幅広く、ブラジルは40万円台ですがアメリカのホノルルでは日本の5倍の300万円になります。国民皆保険を目指したオバマケアはトランプ政権下で廃止の方針が示されたため、100万円を超えるような高額な治療費は、医療保険に加入していなければ大きな負担となります。助けを求めている患者に支払い能力を確認しなくてはならないのは、医師としても心苦しいことではないでしょうか。多くの人が経験する病気であればなおさらのこと、治療費が高額であるのは困りものですね。
平均入院日数も国によって長さが異なります。日本では4日程度が平均入院日数となっていますが、海外では2~3日程度が多く見られます。
国によって入院費にもばらつきがあります。フィリピンのマニラであれば個室1日あたり8,200円と安価ですが、欧米では30万円を超える国も。海外では術後の入院日数が短く、入院費が高い傾向にあります。
海外には「病院は急性期を過ごすもの」という考えがあり、病院でしかできない治療が終われば即退院、という国もあります。世界で見ると、日本のように術後ケアまで同じ病院で行う国の方が少数派のようです。退院後の生活に不安があれば、リハビリ施設や福祉施設に入所したり、介護士や看護師を派遣して在宅ケアを受けたりすることもできます。
日本の医療は医療従事者の負担で成り立っている!?
日本の医療費は提供される医療レベルを考えれば諸外国に比べ患者の負担が軽いことが特徴です。同じ治療内容でも、欧米諸国と比較して1/2以下の金額で受けることができます。一部の先進国では国民皆保険制度が整っており、自己負担額はまったくないか2~3割程度となっているため、旅行者でなければ高額な医療費を恐れる必要はないようです。ただし、受診には予約をするのが一般的で、受診までに数週間~1カ月近くかかる国もあります。日本と同じように自己負担が少ないといっても、他国ではすぐに同様の治療を受けられるわけではありません。また、アメリカ、イギリスなどでは「ファミリードクター制度」が一般的なため、緊急時や歯科等を除き、紹介なしに総合病院や専門医の診療を受けることはほとんどありません。
日本の医療制度の最大の特徴は国民皆保険制度とフリーアクセスです。これによって全国民がいつでもどこでも、所得に見合う費用で良質な医療を受けることができます。2000年にはWHOが評価する「世界の健康システム」(健康の到達度と均一性、人権の尊重と利用者への配慮の到達度と均一性、費用負担の公正さなどから評価)の総合点で世界一と評価されました。
しかし、世界一と評された日本の医療にも、「コンビニ受診」をはじめ、平均受診回数の多さや入院日数の長さ、医療従事者の数の不足など、さまざまな課題があります。日本の人口千人あたりの臨床医数は2.4人と、OECDを中心とした39カ国中で30位であり、高齢化率が世界的にトップであることを考えればやはり少ない印象です。
それでも国民が世界一とも言われる医療を享受できるのは、少ない人員でハイレベルな医療を提供する、医療従事者の皆さんの存在があってこそだと言わざるを得ません。一方で、医療従事者の長時間労働や過労死が問題になっています。また、高齢化、医療技術の高度化によって医療費が増大し、国民皆保険制度は破綻寸前。今後、日本を含め世界の医療制度がどう変わっていくのかが注目されています。
(文・エピロギ編集部)
<参考>
・厚生労働省「平成27年度 国民医療費の概況 結果の概要」
・GLOBAL NOTE「医療費の対GDP比率 国際比較統計・推移(OECD)」
・GLOBAL NOTE「世界の1人当たり医療費 国別ランキング・推移」
・総務省消防庁報道資料「平成28年版 救急・救助の現況」
・総務省消防庁報道資料「平成29年版 救急・救助の現況」
・総務省消防庁HP「平成29年版 救急救助の現況」
・一般社団法人日本海外ツアーオペレーター協会「都市別安全情報 マニラ」
・厚生労働省「平成16年版 厚生労働白書」
・外務省「在外公館医務官情報 アメリカ合衆国(ホノルル)」
・外務省「海外渡航・滞在 世界の医療事情」
・厚生労働省「医療制度改革の課題と視点」
・OECD Data「Doctors」
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コメント一覧(1件)
1. さん
安すぎるとかではなく国民の命を考えての事