メディカルスタッフの医師の仕事って? どう集める?  東京オリンピックを支える医師の仕事&医療体制

東京オリンピックの開幕まで1年を切り、さまざまな準備作業が佳境に突入。スポーツ大会では欠くことのできない医療提供体制も、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の大会運営局医療サービス部を中心に、検討・準備が進められています。

本記事では、医療提供体制や医療行為の責任の所在、大会中の医療を担う非常勤医師や、メディカルスタッフとしてボランティア参加する医師の仕事など、大会と医師の関わり方について最新情報をお伝えしていきます。過去に開催されたオリンピックにボランティア参加したメディカルスタッフの医師の活動実績もご紹介します。

 

1.東京2020大会における医療体制案

大きなスポーツ大会では選手や観客の傷病に備え、多数のメディカルスタッフが会場に配置されます。オリンピックほどの大規模大会になれば、各競技会場はもちろん、選手村や練習会場、国際オリンピック委員会(IOC)・国際パラリンピック委員会(IPC)関係者の宿泊ホテルなど、さまざまな施設で万全の医療体制を敷かなければなりません。東京2020大会の医療提供体制は、2019年8月現在、以下の通り発表されています。

■競技会場

都外を含め43に上る競技会場では、IOCの指示の下、各会場に1名ずつ「会場医療責任者」として医師が配置されます。その仕事は、大会指定病院への救急搬送の決定や関係機関との連絡調整、会場医療計画の監修など多岐にわたります。会場医療責任者の下には「選手用医療統括者」と「観客用医療統括者」の医師が置かれ、会場の規模によっては、会場医療責任者をサポートする医師が配置されるケースも想定されています。以上の医師は、組織委員会により非常勤職員として雇用されます。

・選手用医務室
各競技会場に設置された医務室では、原則として選手、審判を対象に医療を行います。メディカルスタッフは国際競技連盟(IF)の規則に基づいて配置。選手用医療統括者は競技ごとに1名以上置かれ、その下にボランティア参加の医師や歯科医師、看護師、理学療法士などが従事します。

・観客用医務室
東京都大規模イベントガイドラインに基づき、収容人員1万人あたり救護所を1つ設置。観客用医療統括の下にボランティア参加の医師2名、看護師4名が配置され、収容人員が1万人増すごとに医師1名、看護師2名が増員されます。

■選手村ポリクリニック

東京2020大会におけるポリクリニック(検査機器を備えた大型診療所)の詳細は公表されていませんが、過去大会の傾向から、内科や整形外科、歯科、眼科、耳鼻咽喉科といった診察室に加え、救急治療室や調剤薬局が設置される見込みです。また臨床検査を行うための各種機器も整備されます。

■指定医療機関

医務室では対処できないほどの重症ケースは、選手やスタッフなどの大会関係者ならば「大会指定病院」へ、観客であれば各地域の医療機関へ搬送します。招致時は大会指定病院として、東京会場10カ所の「オリンピック病院」と地方会場の4カ所「協力病院」を選定していましたが、その後変更があり、現在は指定病院の追加に向けて調整がなされています。

■医療行為の責任者は誰?

会場内で行われる医療行為はすべて、基本的に組織委員会の責任とする方向で整理が進められています。保険を設定し、その保険料を組織委員会が支払うことで、個人に対する求償も組織委員会がカバーするという形です。会場から指定医療機関へ搬送された後の医療行為に関しては、当該医療機関の責任となります。

 

2.予想される傷病・リスク

組織委員会によると、医療提供体制を整備する上で特に重視しているのは、やはり競技中の選手の事故を想定した体制を敷くことだといいます。とはいえ開催時期を考えれば、観客やボランティアスタッフも含め熱中症や食中毒、やけどほか、酷暑による健康被害への対策は欠かせません。また世界中から大勢の人々が集まる大規模イベントのため、雑踏事故や輸入感染症、テロなどのリスクも増加します。懸念は多く、予測可能な事態には予防的対策と発症した際の対応準備が必要です。

 

3.ボランティア参加の医師はどう集める?

会場医療責任者や選手用医療統括者ら、組織委員会に雇用される一部の医師を除き、競技会場や選手村などで医療支援を行う医師はすべて、いわゆるボランティア参加となります。対選手の医療を担う医師は、これまでに各競技の大会に関わった経験を持つ者が中心となる想定。対観客の医療は、いわゆる一般診療が多くなるとみられるため、比較的規模の大きな医療機関に協力を仰いでいるとのことです。

組織委員会によると、これらメディカルスタッフの医師募集は、各医療機関や職能団体などを通じて、大会運営にどのような形で協力してもらえるかを相談・意見交換しながら、調整を進めているそうです。なお、応募の受付期間や条件などの詳細は非公開となっています。

 

4.過去大会におけるメディカルスタッフの医師の活躍

2012年に開かれたロンドンオリンピック・パラリンピックでは、人材確保が不可欠との理由から、医師をはじめとするメディカルスタッフのボランティアは一般よりも半年早く募集が開始されました。結果、活動したメディカルスタッフは両大会を合わせて1,300名。合計10,568名の選手が参加したロンドンオリンピックでは、選手だけでも1,361件の外傷と758件の疾病が報告され、選手村ポリクリニックは、1日に250名以上もの選手が利用したこともあったといいます。

日本で開催された例としては、1998年の長野冬季オリンピック・パラリンピックが挙げられます。同大会で大きな役割を果たしたのは、地元の国立大学である信州大学でした。信州大学は開催の2年前に「長野オリンピック等支援組織委員会」を発足。学生のボランティア参加を後押しするだけでなく、医学部から300名を超える医師・看護師をメディカルスタッフとしてボランティア派遣し、選手村ポリクリニックを運営しました。

 

5.AC 2020 Tokyoの取り組み

組織委員会主導で競技会場や大会関連施設を中心とした医療提供体制の整備が進む中、「2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体(AC 2020 Tokyo)」の動きも活発になっています。

2016年春、関連学会がコンソーシアム(学術連合体)を結成し、救急・災害医療体制の検討を始めました。2019年4月までに日本救急医学会、日本外傷学会、日本集中治療医学会など、22の学会と東京都医師会、日本AED財団が参加しています。
オリンピック・パラリンピック開催地域の一時的な人口増加に伴う救急需要の拡大のほか、過去のスポーツ大会での態勢を検証した上で、テロや爆発などの大規模事故を想定した対応マニュアルを作成し、検討結果を元に、人手や経費の確保を含めた体制整備を組織委員会に提言しています。その他、医療・救護計画をはじめ、熱中症や訪日外国人医療などの各種ガイドラインを作成しています。
オリンピック・パラリンピック開催を機に発足されたコンソーシアムは、大会終了後も首都圏の大規模災害やテロなどに備え、活動を維持し、将来につなげたいとしています。

オリンピックの成功に医師の力は欠かせません。大会開幕まであと1年。世界各国からやってくるトップアスリートや観客たちを、万全の医療提供体制で迎えたいものです。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考>
・赤間高雄「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて
・赤間高雄「オリンピック・パラリンピックの医務体制
・千葉大学大学院医学研究院整形外科学「第34回 PyeongChang Olympic 2018 ポリクリニック見学報告 -赤木 龍一郎
・伊藤哲朗「大規模スポーツイベントにおける危機管理上の課題―2020年東京オリンピック・パラリンピック大会を中心に―
・2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体合同委員会委員長森村尚登「2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体(コンソーシアム)
・笹川スポーツ財団『平成26年度 文部科学省「スポーツにおけるボランティア活動活性化のための調査研究(スポーツにおけるボランティア活動を実施する個人に関する調査研究)」報告書
2020年東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制を検討する学術連合体
・産経新聞「東京五輪、医療の備えは? 関連学会、提言づくり急ぐ
・北島信哉「東京五輪・パラリンピックに向けた大学連携事業に関する事例研究
・医療維新 - m3.com 医療コラム「東京五輪・パラリンピック、医療行為の責任は組織委でカバー
・日本医事新報社「■NEWS 医療スタッフへの報酬、責任者以外「支払わない」―東京五輪組織委

 

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