8割が「仕事が好き」と回答! 現役医師に聞いた、「医師」という仕事に対する意識、葛藤とやりがい、その魅力とは?
「1860時間」。医師の時間外労働の上限は、過労死ラインと言われる年960時間をはるか超えた数字となっています。激務や心的負担に、医師の多くが葛藤を抱えているのは想像に難くありません。一方で、小学生に聞いた「将来つきたい職業」では第3位にランクイン(男子6位、女子4位)*し医師が主役のドラマが多く作られるなど、今も昔も「医師」は憧れの職業です。
では、「医師」という仕事に対し、医師本人はどのように思っているのでしょうか。 どのような葛藤や悩みを抱え、激務にもかかわらず働き続ける理由や魅力はどこにあるのか。 「エピロギ」編集部では現役医師に仕事に対する意識調査を実施しました。浮かび上がってきたのは過酷な状況の中でも「やりがい」を糧に仕事を続ける医師の姿と、本音の数々でした。
*出典:学研教育総合研究所『小学生白書』(2019年8月調査)より
※アンケート回答者:20代後半~70代の医師263名
※アンケート期間:2019年10月21日~11月11日
1.医師を選んだ理由の1位は「命を救う社会貢献度の高い職業だから」
そもそも、医師の皆さんは、なぜ「医師」という職業を選んだのでしょうか。
「Q.「医師」という職業を選んだ理由をお教えください」の質問に対し、最も多く寄せられた回答は「命を救う、社会貢献度の高い仕事だから」(32.3%)でした。続いて「資格職で生涯安定して収入を得られそうだから」(18.3%)、「親や親族、身近に医師がいたことから」(17.5%)が続く結果となりました。
1位の「命を救う、社会貢献度の高い仕事だから」(32.3%)は、30代以下、40代、50代、60代以上のすべての年代で最も回答が多く、年代に限らず全体として「社会に対して貢献することに喜びを感じる医師像」が浮かび上がってきます。
一方、「高収入だから」(1.9%)は少数にとどまっています。“高収入”という医師のイメージに惹かれて職業に選んだ人は少数派のようです。また3位に「親や親族、身近に医師がいたから」(17.5%)がランクインしたのも、医師特有の傾向と言えるでしょう。
2.仕事が好きな医師は8割を超える
実際に医師になってみて、「医師という仕事は好きか?」についても聞いてみました。
「はい」(82.5%)が「いいえ」(17.5%)を大きく上回る結果になりました。
年代別にみると、「はい」と答えた割合は、30代後半(91.3%)、40代前半(85.2%)、50代(85.2%)で高くなっています。一方、20代後半~30代前半は68.0%、40代後半は73.3%と、全体から比べてやや低い割合となりました。
また、男女別で「はい」と答えた医師の割合を比較すると、男性(80.5%)に比べて女性(88.9%)でその割合が高くなっており、科目別では外科系(92.2%)が高く、内科系(79.0%)とその他科目(78.9%)は同程度にとどまっています*。
3.多くの医師が、葛藤や悩みを感じながら働いている
どんなに好きな仕事でも、悩みは尽きないもの。そこで、医師として働くことに葛藤や悩みを感じたことはあるか聞いてみました。
「ある」と答えた医師は77.6%。多くの医師が葛藤を感じたことがあるようです。
男女別に見ると、「ある」と答えた割合は、女性が87.3%、男性が74.5%と、女性医師で割合が高くなっています。
また年代別で見ると、割合が高かったのは40代で、40代前半で88.9%、40代後半は83.3%という結果になりました。
研修期間や専門医資格取得期間にあたり、長時間労働にもなりやすい20代後半~30代前半では、「医師として働くことに、悩みや葛藤を感じたことがある」と答えた割合が多く、年代別で3番目に割合が高い結果に。仕事を覚え第一線で働く30代後半では、「悩みや葛藤を感じたことがある」と回答した医師の割合は71.7%と、全年代で最も少なくなっています。
しかし、40代に入るとこの傾向が一転。悩みや葛藤を抱えている率は、40代前半で88.9%、後半で83.3%と、最もその割合が高くなります。この年代は、子育てなど自身のライフステージの変化や院内での立場や役割の変化、体力の低下等の影響により、転職や転科などのキャリアチェンジをされる時期と重なります。
50代以降は、悩みや葛藤を抱える医師の割合は少なくなっています。
改めて「医師として働くことへの悩みや葛藤」は、キャリア形成やライフステージの変化と密接に関わっていることがわかります。
4.働くことの葛藤や悩みを解決できている医師はわずか16.7%
「葛藤や悩みを抱えている」と答えた医師に、その悩みや葛藤は解決したか、もしくは解決できそうかを聞きました。
「解決済み」と回答した医師はわずか16.7%でした。
「解決のための努力をしている」(58.8%)と「解決できそうにない」(24.5%)を合計すると、「(葛藤や悩みを感じたことが)ある」と回答した医師のうち83.3%が、現在も葛藤や悩みを抱えていることになります。なお本アンケートに回答いただいた医師全体では、64.6%の医師が現在も葛藤や悩みを抱えている、という結果になりました。
では、実際にどのような悩みを抱えているのでしょうか。
「解決済み」「解決のための努力をしている」を選択した医師に、「それはどのような葛藤や悩みか」、「どのように解決したか(解決しようとしているのか)」を自由回答形式で答えてもらいました。その中から、特に多く寄せられた回答をご紹介します。
【寄せられた悩み・葛藤】
■激務
- ・忙しすぎる(40代後半男性・リウマチ科)
- ・患者の体調の具合を気にする前に、医師である自分の体調に気を付けなければいけないくらい、忙しく働いているという現状が問題だと感じている(30代後半男性・脳神経外科)
- ・医師として成長するために、一人のときはプライベートを犠牲に、その後は家族が犠牲になること。子供を犠牲にしていたことで、生き方を悩みました(30代後半女性・一般外科)
最も多かったのは「仕事の忙しさ」に関する悩みでした。40代までの比較的若い医師からの声が目立ちます。
■スキル不足・能力の限界
- ・標準医療を確実に提供できる医師になりたいが、どんなに頑張っても能力が及ばない。知らないことがどんどん出てくる(30代後半女性・消化器外科)
- ・医師としての力の限界(40代前半女性・乳腺外科)
- ・ほぼ常に自分の能力の不足、自分のしている事の社会的な意義などを考えてしまう。以前の大学病院のような激務の職場では考える暇もなかった事ではあるが……。考えても答えはでないが常に考えている。(50代前半男性・一般内科)
- ・何年医師をしていても自分の理想の医師になれていない(50代後半男性・整形外科)
- ・常に技術の向上や勉強が必要。意欲を高めて、でもどんな人にも分かってもらえる説明ができているか? 自問しています。(60代後半女性・一般内科)
次に多かったのは「自分自身のスキル」に関する悩みです。性別・年代にかかわらず回答が寄せられており、スキルに対する不安や悩みは必ずしも年齢と共に解消するわけではないことがわかります。医療が日進月歩を続ける中、生涯にわたり知識・技術の研鑽が求められる医師という職業ゆえの、尽きない悩みと言えそうです。
■命を扱うことへの葛藤
- ・努力しても救えない患者がいること(50代前半男性・一般内科)
- ・専門上どうしてもやむを得ない患者さんの死に面するので、つらいことや謝りたいと思うことがある。なんとか乗り越えて進んでいっている感覚(50代前半男性・消化器外科)
- ・患者が亡くなった時に、自分の能力が分からなくなる(70代以上男性・脳神経外科)
- ・命を救う事イコール患者の幸せとは限らないこと(40代前半女性・一般内科)
- ・患者さんの命の扱いを自分の家族と全く同じにはできない。時間をかけすぎると激務になる(30代後半男性・病理診断科)
命に向き合う医師という職業ならではの葛藤も寄せられました。
■「より良い医療の提供」と「病院経営」の両立
- ・医学の目標と経営のGAP(60代前半男性・一般内科)
- ・より良い医療を提供しようとしても経済的な問題から十分に提供できない(50代前半男性・皮膚科)
- ・患者満足度、職員満足度と経済性の両立を果たさねばならない(50代後半男性・産科)
患者の治療と病院の経営に関する悩みは、主に50代以降の医師から寄せられました。院内での立場が上がるにつれ、経営層としての責任と医師としての使命の間で板挟みとなり悩む医師の姿が見えてきます。
■患者や家族の希望をかなえたいが……
- ・自分が患者さんのためにと努力してもアウトカムが悪いと、理解してもらえない(50代後半男性・呼吸器内科)
- ・患者の望みにそえているかが迷う。解決は難しいかもしれないが、説明を丁寧にすることで、なるべく齟齬がでない工夫を心がけている(30代前半男性・一般内科)
- ・患者の意向が不明のまま家族の意思で延命をはかる処置や治療を継続させられる状況があること。(40代前半女性・一般内科)
患者の希望や家族の希望と、提供する医療の間での葛藤も寄せられました。また、医療訴訟対策のために医師本来の業務が圧迫されたり、患者や家族との人間関係が辛いという意見も見られました。
■医療だけでは解決できない問題も
- ・医療・福祉行政や勤務先の経営方針など、純粋に医学的な問題以外のところに壁がある。対策は、それでも工夫を怠らず自分にできる範囲のことをすること(50代後半女性・精神科)
- ・医療だけやっていても望ましい環境を作っていくことは難しい。医療以外の知識をつけることを考えている(30代後半男性・一般内科)
数としては少ないものの、医療の提供だけでは解決できない悩みも寄せられました。社会ニーズや医療や患者をとりまく状況が変化する中で、できることを模索し、最善を尽くそうとする姿が浮かんできます。
■番外編:ニーズが高まる、産業医、在宅診療の悩み
- ・産業医をしています。従業員の利益と、会社(その人を支える同僚)の利益のバランスが読みづらく、復職に成功しても失敗しても、悩むことばかり(50代前半女性・産業医)
- ・在宅医療は人生の終末期に関わることが多く、患者さんやご家族の生活丸ごとへの介入やサポートが必要な場面も多い。ついつい患者家族に感情移入し過ぎて、自分が心身ともに疲れ果てて休職するに至ってしまった。現在は復職し、医療者側の負担軽減に向けた体制の見直しと自身の患者家族との距離感の在り方の見直しをするとともに、働き方そのものの方向転換を考えている。やはり、自分が健康でなければ、誠心誠意患者に向きあうことも出来ないと痛感した(30代後半女性・在宅診療)
企業利益と患者利益という相反する利益を求められる産業医特有の悩みや、生活の場で終末期の患者やその家族と関わる医師ならではの悩みも。働き方改革で産業医・産業保健機能が強化されたことや高齢化により産業医や在宅診療の需要が高まる中、このような悩みを抱える医師の数も今後増えると思われます。
5.解決策は転科や転職、経験を積むこと。「折り合いをつけた」の回答も
これらの悩みや葛藤を、医師はどのように解決しているのでしょうか。「(悩みや葛藤は)解決済み」と答えた医師の回答を見てみましょう。
【悩み・葛藤の解決法】
■忙しさを転職で解消
- ・仕事が忙しすぎて、うつに近い状態になった。働き方を変えてから少し楽になっている。自分が調子悪いのに患者を診ていると、自分が嘘つきのように思えて辛かった(50代前半男性・リハビリテーション科)
- ・仕事と家庭とのバランス(ワークライフバランス)が最も大きな問題。仕事の拘束時間を減らすために、大学医局を辞めることに踏み切った。(30代後半男性・脳神経外科)
- ・ワークライフバランスの悪さ。年を取って急性期病院から慢性期に移った(60代前半男性・一般外科)
- ・子育てとの両立。特に子供が病気のときもそばにいてやれなくて子供に申し訳ないという気持ちになったが、両親のサポートと「愛情は時間ではなく質」という考えで乗り切った。勤務時間が短くなるよう転職した(50代後半女性・消化器内科)
「解決済み」の回答で多く見られたのが、転科や転職をすることで激務を解消したりワークライフバランスを整えたケースです。同様の対策は「解決のための努力をしている」を選択した医師からも寄せられました。また、転科して新たなやりがいを見つけるなど、激務以外の悩みを転科や転職で解決した医師もいました。
■「経験」が解決してくれた
- ・研修医の時にこのままちゃんと医師としてやっていけるか不安であった。年数が上がるにつれて不安は消えていった(30代前半男性・呼吸器内科)
- ・自分の知識不足が患者さんの命を危険にさらす。若い時はそれが一番辛かった。が、年を経て、勉強をできるだけして、その場でできることを精一杯すること、何より精神的に寄り添うことが一番大事であると思えるようになって、前向きに診療できるようになった(40代後半女性・一般内科)
年代問わず寄せられた「自分自身のスキル」に関する悩みですが、「解決した」を選択した医師の回答を見ると、仕事の経験を積む中で解消されていったケースが多いことが分かります。
■「折り合いをつける」ことで解決
- ・患者様が亡くなったとき、助けられなかったとき虚しく感じて涙が出ることがあったが、延命して良かったという出来事があってから、割り切れるようになった(30代後半男性・心臓血管外科)
- ・病を治す、それが医師の使命であると思っていたが、現実は治る病はそう多くはなかった。そこに医師としての無力感を感じざるを得なかった。仕事の中で、患者様と一緒に病と共存する為の方策を考えることが出来るようになって、患者様から感謝の言葉をかけて頂けるようになり、ようやく得心がいくようになった(50代前半男性・在宅診療)
- ・治る見込みのない患者さんやリスクが伴う積極的治療が困難な超高齢な患者さんの命が救えないことに対して敗北感を自覚した時期があったが、医師は、病気を治すだけではなく、死を厳粛に受けとめて看取ることも仕事であるという考えに至り、悩みを解決した(つもりです)(60代前半男性・一般内科)
「命を扱うことへの葛藤」については、具体的な経験とともに解決策が書かれている点が特徴的でした。なお、「解決した」を選んだ医師の挙げた解決策の多くが、患者を治療する中で、医師という仕事の役割を見つめ直し、折り合いをつけた、というものでした。また、「生命にかかわる疾患に携わらない」という選択をした医師もいました。
次に、「解決できそうない」を選んだ医師から寄せられた悩みをご紹介します。
■「解決できないそうにない」を選んだ医師が挙げた、悩みや葛藤
- ・患者にとって最も幸せな人生を送ってもらうのが医師の仕事と考えると、とても自分には全うできそうにない(50代前半男性・小児科)
- ・医師は結局、患者さんの人生のごく一部にしかかかわりを持てないから(30代後半男性・神経内科)
- ・誠心誠意、治療をしても亡くなった場合は親族から責められることがあるから。仕方がない(30代後半女性・消化器内科)
- ・医療は、サービス業か否か?(50代後半男性・整形外科)
他にも、「自己研鑽に割ける時間には限りがあり、能力が低いまま仕事を続けることに後ろめたさを感じる。人助けを仕事と決めた以上、技能不足は一生懸命でないことと変わりがない」といった意見や、「(仕事と育児の両立について)どのような働き方を選んでも、後悔がつきまとう」、「保険診療下では、本意でない治療や受け入れをせざるを得ない」等、「解決済み」「解決の努力をしている」を選択した医師と同様の悩みや葛藤も寄せられました。
6.約6割が「医師を辞めたい」と思ったことがある
「仕事が好き」という回答が8割を超える一方で、64.6%の人が悩みや葛藤を抱える「医師」という職業。さらに踏み込んで、医師という仕事を「辞めたい」と思ったことがあるか聞いてみました。
「よくある」(15.6%)と「時々ある」(19.4%)、「ごくたまにある」(23.6%)を合計した58.6%の医師が、一度は「医師を辞めたい」と思ったことがあると回答しました。
この結果を、「医師」という職業を選んだ理由別に分析をしたところ、次のような傾向が見えてきました。
医師を辞めたいと思ったことが「ない」と答えた割合が比較的高かったのが、「命を救う、社会貢献度の高い仕事だから」(49.4%)、「親や親族、身近に医師がいたから」(43.5%)、「ご自身や親族が病気やケガをした経験から」(44.0%)、医師になった方々です。
また男女別で分析したところ、「辞めたいと思ったことはない」と回答した男性医師は44.5%だったのに対し、女性医師は31.7%。男女で差の出る結果になりました。
この傾向は、「医師として働くことに、葛藤や悩みを感じたことはあるか」の質問でもみられたものです(「ある」と答えた割合は、女性が87.3%、男性が74.5%)。
女性医師が「医師を辞めたい」と思った理由を見ると、1位は「家庭と仕事の両立が難しい」(13.3%。同率で「休日・プライベートの時間が少ない」)。一方、男性医師の辞めたいと思った理由の1位は「長時間労働である」「休日・プライベートの時間が少ない」(共に11.7%)で、「家庭と仕事の両立が難しい」は7位(6.7%)でした。「家庭とキャリア構築の両立」の問題が女性医師にとって大きな壁となっていることがアンケート結果からも見てとれます。
先述の通り女性医師の88.9%が「『医師』という仕事が好き」なこととあわせると、医師という仕事は好きだが、葛藤を抱えながら働いている女性医師の姿が浮かび上がってきます。厚生労働省が発表した2018年の「医師・歯科医師・薬剤師統計」結果によると29歳以下の医師の女性割合は35.9%。問題の解決が急務です。
さらに、医師全体でも、「辞めたい」と思った理由を見ていきましょう。「(医師を辞めたいと思ったことが)よくある」「時々ある」「ごくたまにある」と答えた医師にその理由を聞いたところ、以下の結果となりました。
辞めたい理由の1位は「休日・プライベートの時間が少ない」(61票)、2位は「長時間労働である」(56票)となっています。激務や長時間労働を反映した結果になりました。3位は「身体的・精神的不調」(55票)です。
年代別にみると、30前半代以下が挙げた理由の1位は「長時間労働である」(13.8%)、2位は「当直・オンコールが多い」(12.8%)、3位が「休日・プライベートの時間が少ない」(10.6%)でした。30代後半では同率1位で「休日・プライベートの時間が少ない」「身体的・精神的不調」(13.3%)、次いで「長時間労働である」「家庭と仕事の両立が難しい」(共に12.0%)です。
40代前半は1位が「患者や患者家族との人間関係がつらい」(14.7%)、2位が「身体的・精神的不調」(13.2%)、次いで「職場の人間関係がつらい」(11.8%)。40代後半は1位が「休日・プライベートの時間が少ない」(15.6%)、2位が「家庭と仕事の両立が難しい」「身体的・精神的不調」(共に12.2%)でした。
50代は同率1位が「長時間労働である」「休日・プライベートの時間が少ない」(共に11.6%)で第3位が「身体的・精神的不調」(10.5%)。60代以上では「休日・プライベートの時間が少ない」(16.0%)が1位、2位が同率で「当直・オンコールが多い」「長時間労働である」「患者や患者家族との人間関係がつらい」(共に10.0%)となりました。
なお、回答結果を大きくまとめると次のような特徴が見えてきました。
- ・長時間労働や休みの少なさ1)…207票
- ・身体的・精神的不調…55票
- ・業務内容、スキルや能力の限界2)…48票
- ・患者や家族との人間関係…47票
- ・職場の人間関係…41票
- ・業務量や勤務時間に対する収入…39票
- ・病気やケガ、生死と向きあう辛さ3)…35票
- ・訴訟リスク…23票
1)「当直・オンコールが多い」「長時間労働である」「休日・プライベートの時間が少ない」「家庭と仕事の両立が難しい」の合計値
2)「スキルが伴わない・能力の限界を感じる」「業務内容が自分に合わない」の合計値
3)「病気やケガ、生死と向き合うのがつらい、苦痛である」「患者を助けられなかった」の合計値
長時間労働や休みの少なさが、他の理由を大きく引き離して票を集める結果に。その内訳をみると、「当直・オンコールが多さ」は20代後半~30代前半に多く、30代後半と40代後半から上の年代では「休日・プライベートの時間が少ない」ことを、また30代後半と40代後半では「休日・プライベート」と合わせて「家庭と仕事の両立が難しい」を挙げる医師が多くなっています。
その他、長時間労働や身体的・精神的不調に票が集まる中、40代前半で「職場の人間関係がつらい」が票を集めたこと、40代前半と60代以上で「患者や患者家族との人間関係がつらい」が上位に挙げられたことも見逃せません。
7.医師を続ける理由は、「やりがい」と「収入」
今回のアンケートに回答していただいているのは、みな現役で働く医師の方々です。悩み葛藤し、辞めたいと思うことがあっても、「それでも医師を続ける理由」はどこにあるのか、医師という仕事の魅力についても合わせてお聞きしました。
Q.医師を辞めたいと思ったことが「よくある」「時々ある」「ごくたまにある」と答えた方にお聞きします。それでも医師を続ける理由をお聞かせください。「医師」という仕事の魅力や、日々あなたの支えとなっているものは何か。エピソードがあれば、あわせてお教えください。
- ・やりがいがある点。需要が多い点。職業倫理が明確である点(40代後半女性・放射線科)
- ・悩み以上のやりがいがあるから(40代前半男性・腎臓内科)
- ・やはり、やりがいがある。患者さんの笑顔に励まされることは多い(30代後半女性・在宅診療)
- ・高収入、社会的地位(50代後半男性・消化器内科)
- ・収入単価が良いから(50代前半男性・精神科)
多くの医師は「やりがい」と「収入などの待遇」を支えに仕事を続けていることが改めて分かります。
一方、「辞めたいと思ったことはない」と答えた医師は4割です。その理由を見てみましょう。
Q.「医師を辞めたいと思ったことはない」と答えた方にお聞きします。それはなぜですか。医師であり続けたいと思う理由、その魅力をお聞かせください。
- ・なんだかんだいって他の職業に比べて、待遇もいいしやりがいもあるから(30代後半男性・一般内科)
- ・やりがいを感じることができる(50代前半男性・一般外科)
多くの医師の仕事を続けるモチベーションもまた、「やりがい」であることが伺えます。
医師のやりがいとは具体的に何を指すのでしょう。株式会社メディウェルが「医師転職ドットコム」に掲載している「医師転職研究所」の記事「各診療科の魅力や大変さの違いとは?医師1,683名のアンケート結果 」から科目別*の声を一部紹介したいと思います。様々な意見があり、傾向はつかみにくいのですが、共感できる部分も多いのではないでしょうか。
■内科系
- ・患者さんの人生、生活に非常に深く関われるところ(30代男性・神経内科)
- ・一刻一秒を争う決断を迫られることは少なく、患者さんの背景や気持ちを考えながら治療を行うところ(30代女性・内分泌・糖尿病・代謝内科)
- ・患者さんと近いところで接することができること(50代女性・一般内科)
■外科系
- ・手術で病気を治すことができること(40代男性・一般外科)
- ・根治が可能であること(40代男性・消化器外科)
- ・治療の成功不成功がたちどころに分かる(50代男性・脳神経外科)
■その他の科目
- ・働く人をサポートできる、地域貢献できる(40代女性・健診・人間ドック)
- ・チーム医療の極致。目標にむかうチームマネジメントがおもしろい。(60代男性・リハビリテーション)
- ・最前線で命と向き合えるところ(30代男性・救命救急)
- ・命の誕生に立ち会える(40代男性・産科)
>>より詳細なアンケート結果は「各診療科の魅力や大変さの違いとは?医師1,683名のアンケート結果」をご覧ください。
8.半数以上が、生まれ変わっても「医師になりたい」と回答
最後に生まれ変わっても「医師」になりたいかを、聞いてみました。
「はい」(55.5%)が、「いいえ」(44.5%)に比べてやや多い結果になりました。
「実際に働いてみて、「医師」という仕事は好きですか?」の設問で「はい」と答えた医師の中で、「生まれ変わっても「医師」になりたいですか」に「いいえ」を選んだ医師は35%でした。医師という仕事は好きであっても、生まれ変わったら医師以外の仕事に就きたい医師が一定数存在することがわかります。
その理由は次のようなものでした。
Q.「生まれ変わっても医師になりたい」と回答した方にお聞きします。それはなぜですか。
- ・次に医師になったら、もっと効率よくこなしてみせる(30代後半女性・一般外科)
- ・やりがい。日々新しい発見があるから(60代前半男性・その他)
- ・やりがいがある(50代前半男性・消化器外科)
この設問で「やりがい」に言及している回答は、「生まれ変わっても医師になりたい」と回答した医師の中で37.6%に上りました。「医師を続ける理由」「医師であり続けたいと思う理由、その魅力」への回答にも多かったこととあわせて、やりがいは医師の仕事の大きなモチベーションになっていると言えそうです。
一方、医師になりたくない理由は以下のようなものが見られました。
Q.「生まれ変わったら医師になりたくない」と回答した方にお聞きします。それはなぜですか。
- ・人の生死にかかわらない職種になりたい(40代前半女性・乳腺外科)
- ・やはり、大変(50代後半男性・心臓血管外科)
回答の中で多いのは、仕事の過酷さに触れた回答です。
その一方で、他の職業への好奇心から「挑戦してみたい」との回答も目立ちました。
- ・社会に役立つ仕事は他にもいっぱいあるし、こだわる必要がない(40代後半女性・産科)
- ・今度は違うことに挑戦してみたい(50代前半男性・放射線科)
- ・文化人類学または世界史学者(50代後半男性・精神科)
- ・医師か弁護士か迷っていたので、今度は弁護士かな(50代前半男性・一般外科)
- ・工学技術者になりたかった(宇宙戦艦ヤマトの、真田技師長みたいに)(50代前半女性・その他の科目)
*
今回の意識調査で、現役医師の多くは「医師という仕事が好き」であることが分かりました。しかし同時に、過酷な労働環境の中で、葛藤や悩みを抱えながら働いている姿も改めて浮き彫りとなりました。多くの医師を支える「やりがい」を持ち続けることができるような社会であってほしいと願わずにはいられません。
(文=プレスラボ)
※アンケートの回答を一部抜粋、編集している場合があります。
アンケート回答者 内訳
- ・男性医師:200名 女性医師:63名
- ・20代後半~30代前半:29名、30代後半:46名、40代前半:27名、40代後半:30名、50代前半:52名、50代後半:36名、60代以上:43名
*:外科系、内科系、その他科目の内訳は、株式会社メディウェルが運用する「医師転職ドットコム」の科目区分に倣い、以下の通りとしています。
- ・内科系:内科、消化器、呼吸器、循環器、腎臓、神経、内分泌・糖尿病・代謝、血液、老人 人工透析、リウマチ
- ・外科系:外科、消化器、呼吸器、心臓血管、脳神経、乳腺、泌尿器、整形、形成、内分泌、肛門、美容外科、小児
- ・その他:眼科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、心療内科、放射線科、小児科、産科、婦人科、麻酔科、救命救急、ペインクリニック、緩和ケア、美容皮膚科、病理科、在宅医療、健診・人間ドック、リハビリテーション
<参考>
・学研教育総合研究所「小学生白書Web版 2019年8月調査」
・厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
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