医療訴訟に関するメディアの報道は適切?医師1,632人のアンケート結果
医師の86%は医療訴訟の報道を「適切ではない」と回答
医療訴訟に関してメディアの報道が適切にされているかどうかを医師に質問したところ、回答は下図のようになりました。
「あまり適切だと思わない」が56%と最も多く、次いで「適切ではない」が30%と多くなっています。合わせると、86%の医師が医療訴訟の報道に関して適切ではないと考えている状況です。
医療訴訟に関するメディアの報道を医師が不適切と考える理由
多くの医師が医療訴訟に関するメディアの報道に関して「適切でない」と考えるのにはどのような理由があるのでしょうか?医師の自由回答では以下のようなコメントが多数寄せられました(一部紹介)。
患者側に偏った報道
- ・患者サイドから訴訟がある場合、医師が悪い事が前提のような報道が多い気がする。(40代男性、一般内科)
- ・客観性に乏しく、患者感情を優先した報道の仕方が多い。医療者側が悪人のように映るように作られている。(40代男性、産婦人科)
- ・患者側の言い分だけを取り上げて見出しから医療組織をあしざまに書くことが多い(50代女性、一般外科)
- ・正確な情報ではないことが多い。医療機関側が悪い前提で報道されている傾向が強い。(50代男性、精神科)
- ・はなから医療側に非があるような印象を与える報道があるため(50代女性、一般内科)
医学的知識や医療現場への理解の不足
- ・医学的に知識の無い人間が感情論優先で話している印象が多いので(30代女性、循環器内科)
- ・医学的に間違っている情報が多い。または情報が乏しい。誤解を与えかねないなら報道は控えるか、または詳しくはわからないと注釈を入れるべき。(40代男性、神経内科)
- ・医療は予測できない事象がつきまとうが、メディアが適切に理解できてるとは思えない(30代男性、呼吸器内科)
- ・医学的知識が無いままに感情的に報道している印象を受ける(50代男性、健診・人間ドック)
- ・医学的知識の観点からの記事がほぼ皆無(50代女性、眼科)
視聴率や人目を引くために煽っている
- ・目を引くことを目的とした報道のように思う。(50代男性、麻酔科)
- ・注目度を高くする方に表現している感じがする。特に医師側に立った報道は皆無に近い。(50代男性、整形外科)
- ・視聴率を稼ぐことが第一になっていて、センセーショナルな見出しになりがち。(30代男性、放射線科)
- ・視聴率気にして煽っている(40代男性、泌尿器科)
- ・国民感情をいたずらに煽っている 真実の報道がされていない 意図的に扇動している 医師を悪者にして視聴率を稼いでいる(40代女性、皮膚科)
情報が十分でない中で決めつけてしまっている
- ・背景は裁判の過程ではっきりすることだが、一方的で不確実な情報があたかも事実として報道されやすいし、そう受け取られがちだから。(40代女性、皮膚科)
- ・確定していないのに、すでに医師が悪いと決まったかのような偏向報道が多すぎる(30代男性、健診・人間ドック)
- ・真偽が判定し難い状況下での決めつけ的な記載が目立つ(40代男性、神経内科)
- ・医療機関側のミスと確定していないのに、視聴率を上げるためミスがあったかのように報じている。(40代男性、整形外科)
- ・恣意的、結論ありきで医療側を責める報道がおおい、間違っていた場合の謝罪もない(50代女性、小児科)
訴訟の経過を最後まで報道しない
- ・訴訟開始は報道するが結果に関する報道が不十分(60代男性、産婦人科)
- ・訴訟を起こされた報道はあるが、その結論(訴えた側の言いがかりなど)の報道がない。(50代男性、整形外科)
- ・地方裁での判決は病院を実名で報道したが、高裁・最高裁で勝訴した時は何も報道しなかった。(40代男性、精神科)
- ・トラブルが生じるとすぐに実名報道されるが、裁判で無罪が確定してもほとんど報道されない。(50代男性、循環器内科)
- ・問題になった時だけ大きく取り上げるがその後の真実についての報道がほとんどない(50代女性、消化器外科)
十分な知識がない人がコメントしている
- ・専門性の無いコメンテーターの意見ばかり載せる(50代女性、婦人科)
- ・多くは訴えた側のインパクトが強いのでそちらに味方するような報道が多いと感じる。また医学的知識は十分に足りない方のコメントが正しいように扱われていることが多い。(40代男性、消化器外科)
- ・確証がない内容を憶測でコメントしている(30代男性、血液内科)
- ・行われた医療に関して知識のない人々が感情的にコメントをするのはやめてほしいと思って。(40代女性、形成外科)
- ・メディア自体が医療にくわしくなく、メディアが登用している専門家も怪しい人が多い。(40代女性、泌尿器科)
個別の報道を見て
- ・産婦人科での妊婦死亡事故の報道などを見ていると、中世の魔女裁判としか思えない。産婦人科になろうと考える医師が減るのも、当然だと思います。(50代女性、形成外科)
- ・新型コロナワクチンに対する報道などはイタズラに不安を煽っていると感じる(30代男性、その他診療科)
- ・乳腺科医師が強制わいせつで逮捕、有罪となった件から(50代女性、健診・人間ドック)
- ・小児における持続投与によるプロポフォールは一般的によく使われていてPRISは合併症の一つで致し方ないと感じたがメディアの反応は違かった(30代男性、麻酔科)
- ・乳腺外科医の裁判の内容を読んでそう感じた(20代女性、乳腺外科)
その他
- ・学会から送られてくる医療訴訟の数に比べて、報道される訴訟が少なすぎる(70歳以上男性、病理診断科)
- ・そもそも裁判官の決定が公平でない。最高裁の判決で覆ってもそれを報じない。その判決や、それを報道することが今後の社会にとってどのように役立つかという目線ではなく、ただただ注目を集めるためにしか記事を書いていない節がある。(30代男性、消化器内科)
- ・昔からよく言われている事だが、医療事故と報道されるものが、ミスによる過誤だったのか、避けられない事だったのか、ミスがなくても一定の割合でおこりうる事象だったのか、をあいまいにして一律ミスとされる。そして他の事件でもそうだが、報道が間違いであったとしても謝罪や訂正はなく、あったとしてもそれまでの報道内容と比較してごくわずかである。特に職業が医師だったというだけでプライベートなども丸裸にされるのは本当に恐ろしく、いったん報道された内容はだいたい消えない。(40代男性、一般内科)
- ・医療的に正しいことをしているのにそれが反映されていない(30代女性、眼科)
- ・医療訴訟に限らず、メディアは報道のためではなくメディアのために報道していると感じる。(30代男性、小児科)
医療訴訟に関する話題は興味を引きやすいためか様々なメディアで扱われますが、こうした問題点もあってその扱われ方や報道内容は医師目線で適切でないと感じることも多いようです。
訴訟に限らず医療に関する話題は多くの人の健康や生活に影響するため、正確で公正な報道が増えることを期待したいですね。
ただし、単純に「メディア=悪」としても状況は改善されないと考えられるので、医療者からの情報発信やメディアへの情報提供の機会が広がっていくことも重要なのかもしれません。
(文・エピロギ編集部)
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※1 アンケート調査は2021年12月9日~28日にかけて株式会社メディウェルの医師会員を対象に実施。
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