2024年診療報酬改定が医師の働き方に与える影響とは? 重要ポイントを紹介

 2024年4月から「医師の働き方改革」として勤務医に時間外労働の上限規制が適用されますが、2024年度診療報酬改定(以下、2024年度改定)でも医療現場での人材確保や働き方改革の推進が重点課題とされました。そこで、医師の働き方への影響という観点から、2024年度改定のポイント、特に注目すべき診療報酬の見直しについてまとめました。

 

1. 診療報酬本体の引き上げの多くは賃上げの財源に

 2024年度改定では4つの基本的視点が設けられ、その1つである「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」が重点課題とされました。

 それを反映し、診療報酬本体は0.88%引き上げられたのですが(2024年6月施行)、うち、(1)看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種(医師・歯科医師、事務職員など除く)の賃上げのために+0.61%、(2)40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員などの賃上げのために+0.28%程度――が、すでに定められています。また、入院時の食事基準額の引き上げのため+0.06%の対応がなされています。一方で、生活習慣病を中心とした管理料や処方箋料の再編などによる効率化・適正化で-0.25%とされました。

 診療報酬上の具体的な対応として、前述の(1)看護職員等の賃上げについては、ベースアップ評価料を新設するとともに、初・再診料を引き上げます。また、(2)40歳未満の勤務医等の賃上げについては、主に、入院基本料の引き上げで対応します。

2. B・連携B水準、2024年度は「1,785時間以下」に

 2024年度改定で「医師の働き方改革」に直結する見直しが行われた診療報酬として、▽地域医療体制確保加算、▽処置及び手術の休日加算・時間外加算・深夜加算、▽医師事務補助体制加算――などがあります。

 まず、地域医療体制確保加算については、「医師の働き方改革」の実効性の担保という意味で、施設基準において医師の時間外・休日労働時間に係る基準が追加されました。具体的には、(1)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録、(2)地域医療の確保のための特例としてのB水準や連携B水準の医師の年間の時間外・休日労働時間が原則として、2024年度は年1,785時間以下、2025年度においては年1,710時間以下――が、施設基準として追加されました。

 「医師の働き方改革」において、原則全ての勤務医の基準となるA水準の時間外・休日労働の上限時間は年960時間です。B水準・連携B水準では、それが年間1,860時間とされていますが、2035年度末を目標に、解消していきます。つまり、これからの12年間で時間外・休日労働時間を通算900時間減らすわけで、1年あたりでは75時間減らすことになります。まさに、2024年度では、1,860時間からその75時間が差し引かれて「1,785時間」とされたわけです。

3. 休日加算Ⅰ・時間外加算Ⅰ・深夜加算Ⅰで「手当等の支給」が必須に

 診療報酬点数表上の処置及び手術の休日加算1、時間外加算1、深夜加算1の施設基準については、これまでは(1)交代勤務制の導入、(2)チーム制の導入、(3)手当等の支給――のいずれかを満たしていれば良いことになっていました。2024年度改定では(3)が必須となり、その上で(1)または(2)を満たす必要がある、とされました。ただし、経過措置も設けられています。

休日加算Ⅰ・時間外加算Ⅰ・深夜加算Ⅰで「手当等の支給」が必須に

出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」資料p.199

4. 医師事務作業補助者の配置に対する加算が引き上げ

 中央社会保険医療協議会(以下、中医協)による2020年度「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進に係る評価等に関する実施状況調査」などでは、医師の負担軽減策において特に効果のある取組として「医師事務作業補助者の外来への配置・増員」が、最上位に挙げられています。

 そのようなエビデンスに基づき、2024年度改定では、医師事務補助体制加算1・2が、それぞれ20点引き上げられました。また、点数の大きい同加算1の施設基準に「医師事務作業補助者の勤務状況及び補助が可能な業務の内容を定期的に評価することが望ましい」が追加されました。

医師事務補助体制加算1・2が、それぞれ20点引き上げ

出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」資料p.200

5. ICTなどを活用した業務の効率化・負担軽減を評価

 2024年度改定では、業務の効率化、業務負担の軽減の観点から、特に看護職員の業務においてICT、AI、IoTなどの活用が推進されます。

 また、医師の業務においても幅広くICTが活用され、医療DXが推進されます。例えば在宅医療関係では次のようなものがあります。

  • ・在宅医療において、他の医療機関の関係職種がICTを用いて記録した患者の診療情報などを活用し、医師が計画的な医学管理(在宅時医学総合管理料、在宅がん医療総合診療料など)を行った場合について、在宅医療情報連携加算として評価。
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  • ・在宅の末期がん患者の急変時に、ICTの活用によって、医療従事者等の間で共有されている「人生の最終段階における医療・ケア」(いわゆる「人生会議」)に関する情報を踏まえて医師が指導を行った場合について、在宅がん患者緊急時医療情報連携指導料として評価。
在宅医療におけるICTを用いた連携の推進

出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」資料p.213

6. 往診料の評価見直しを受けて「みてねコールドクター」など往診サービスが相次いで提供終了に

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行が続いた2020年~2023年頃までは、企業の主導の下、往診などに特化する形で医師がフリーランス的に仕事をする、ということが可能でした。しかし、新型コロナは2023年5月8日から「5類感染症」に位置付けられ、2024年3月末をもって治療などに対する公費支援が終了するなど、状況は大きく変わりました。

 ポストコロナの状況下の2024年度改定では、患者の状態に応じた適切な往診を実施するという観点から、深夜往診加算など、緊急の往診に係る加算の見直しが行われました。

往診料の評価の見直し

出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」資料p.222

 その改定での大きな考え方は、(1)普段から診ているような患者の場合、(2)その他の場合――に分けたことです。(1)に該当するのは、例えば往診を行う医療機関、あるいは同医療機関と連携体制を構築している他の医療機関において、過去60日以内に在宅患者訪問診療料等を算定している患者。また、往診を行う医療機関の外来において継続的に診療を受けている患者、などです。

 2024年度改定では(2)その他の場合が新設されましたが、緊急往診加算は325点、夜間・休日往診加算は405点、深夜往診加算は485点といったように低い評価となりました。

 そのような見直しを踏まえ、中医協が2024年度改定について答申した翌々日の2月16日、往診サービス「みてねコールドクター」を運営する株式会社コールドクターが往診サービスの終了を発表し、SNSなどでも話題になりました。また、2月29日には、株式会社ノーススターが運営する「キッズドクター」が、往診サービスの終了を発表。同日、ファストドクター株式会社が運営する「ファストドクター」も夜間休日の救急往診事業について3月1日より利用者に負担増を求めると発表しました。

7. 医療政策の大きな流れを踏まえて「働き方」の改革を

 国民皆保険下での「医師の働き方改革」は、実際、医療政策/診療報酬制度に大きく影響されます。その政策の一つの大きな流れは外来医療の機能分化と連携であり、特に往診や在宅医療を行う医師・医療機関に対しては「かかりつけ医機能」が求められています。前述のとおり、夜間・休日往診加算や深夜往診加算の見直しにおいて、「かかりつけ医機能」を有しない医師による往診は十分に評価されませんでした。

 2024年度改定を機に「医師の働き方改革」は、医療政策の大きな流れを踏まえ、ICTの活用や医療DXも含めた勤務環境の改善、タスク・シフト/シェア、チーム医療など、原点ともいえる取り組みを推進することが求められます。

(文・エピロギ編集部)

 

<参考文献>

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