【特集】インフルエンサー医師

歯科医師の活動は医療だけではない。楽しむこと、そして行動すること

菊池 一樹先生(歯科医師・インフルエンサー)

歯科医師としての活動にとどまらず、インフルエンサーやファッションブランド「Ichi」の運営など、多岐にわたる分野で活躍する菊池一樹先生。

インタビューでは、菊池先生が歯科医師を目指したきっかけや、現在の活動に至るまでの想いを詳しく伺いました。また、歯科医師として大切にしていることや、これから歯科医師のキャリアを歩む方々や副業を検討中の医師・歯科医師の方へのアドバイスについても語っていただきました。
【特集】インフルエンサー医師
近年、医師の働き方が多様化する中で、キャリアにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、多方面でご活躍されSNSでも人気の医師や医療関係者の方々にインタビューし、多彩なキャリアのご経験談をお話しいただきました。医師・医療関係者の視点から広がったキャリア像や、仕事の軸となる想いなど、皆さまの今後を考えるヒントとなるエピソードをご紹介します。

 

学生時代に抱いた、周囲の「歯科医師とは、こういうもの」に対する違和感。

 

─菊池先生は歯科医師として、またインフルエンサーとしてもご活動されていますが、それぞれ目指された理由・きっかけについて教えていただけますか?

歯科医師を目指したのは、祖父が外科医、父が歯科医師で、2人のことが大好きだったからです。非常にシンプルな理由ですね(笑)。

逆に言うと、歯科医師になる以外の選択肢が自然と視野に入ってこなかった、という感じです。

しかし、歯科大学に入学してからは、次第に「何かが違う」と感じるようになりました。

学内で何人かの歯科医師の先生と接する機会があって、たまたまかもしれませんが、僕と関わった先生方の中には、やや高圧的な方が多かったんです。「なぜこんなに偉そうなんだろう?」と考えたとき、僕がたどり着いた答えは、「ここが閉鎖的なコミュニティだから」ということでした。

結局、医師や歯科医師などの専門職は、その専門性が高まるにつれてコミュニティが狭まってしまうことがあり、そこで長く過ごすうちに、客観的な視点を失いがちなのだと思います。

そう考えたときに、単に「歯科医師」という立場になることに、以前ほどの魅力を感じなくなってしまったんですね。

ですが、「歯科医師になるのを辞めようか」と考えることはありませんでした。医師として働く祖父と父のことは大好きでしたし、「(歯科大学に入学した以上、)歯科医師以外のキャリアの選択肢はない」という考えもありました。

ただ、そこで「僕自身」が歯科医になることの必然性を、強く感じられなかったのです。

そこで色々考えて思い至ったのが、僕自身の「菊池一樹」というブランドを、インスタグラムなどのSNSを通して発信していきたい─ということ。

これが、インフルエンサーとしての活動を目指した最初のきっかけでした。

─非常に面白いですね。当時の周囲の人たちの反応はいかがでしたか?

当時はまだ「インフルエンサー」という言葉自体が存在しなかったので、あらゆる方面からバッシングを受けました(笑)。

例えば先生方や先輩、後輩でさえも、「歯医者にならずに何をやっているの?」「そんなことをして何になるの?」といった声が飛んできました。

ただ、僕自身は「これからの世の中、SNSの影響力がどんどん高まっていく」という確信がありました。

また、歯科大学在学中に様々なことに挑戦していく中で、歯科医師としての活動は、必ずしも医療行為だけでなく、他にもいろんなアプローチがあるということを実感したんです。

─具体的に、どのようなアプローチを見出されたのでしょうか。

いくつかありまして、ひとつが「はみがきかわいいプロジェクト」です。これは、歯と口の健康啓発とアイドル活動を組み合わせたものです。

インフルエンサーとしての活動を通してモデルの方々と知り合う機会があって、彼女たちの活動の場としても機能しています。

それから、最近では「Ichi」というファッションブランドを設立しました。

もともとファッションが好きだったこともありますが、例えば医師や歯科医師が着用する白衣も、毎日身に着けるものだからこそ、おしゃれにこだわる価値があると考えています。白衣のデザインを少し工夫するだけで、着用者の仕事へのモチベーションが高まり、職場の雰囲気が明るくなることも期待できると思っています。

TIPS:「はみがきかわいいプロジェクト」

「はみがきしている姿×かわいい」コンセプトのガールズプロジェクト

参考:はみがきかわいいプロジェクト(@hamigaki_girls) • Instagram

TIPS:ファッションブランド「Ichi」

「四角い枠組み」をテーマとした、文字だけのシンプルなオリジナル商品のラインナップ。

参考:Ichi photo SHOP ( ichi111111 )のオリジナルグッズ・アイテム ∞ SUZURI.

─幅広いご活動をされていますが、どの活動も歯科医師と関連しているのですね。

そうですね。 僕は、「歯科医師としての活動は、医療行為の枠にとどまらない」と考えています。

ただし、軸となるもの、僕の場合は「歯科医師」という立場ですが、それから外れてしまうと、うまくいかないことが多いとも感じています。

   

歯科医師として大切にしているのは、「成功から学ぶこと」

──続いては、現在の歯科医師としてのご活動も教えていただけますか?

現在は、4カ所の医療機関に勤務しています。 そのうちの一つは、父が開業している歯科医院です。施術に関しては、これまでに歯科治療、予防歯科、矯正歯科など、幅広く経験を積んできましたが、特にボトックスを用いた施術に多く携わってきました。

所属している医療機関の一つに、全国各地に支部を持つ美容診療中心のクリニックで、ボトックス部門の東日本の統括を務めています。

─ボトックスというと美容医療のイメージが強いのですが、歯科でも使用されることは多いのでしょうか?

はい、美容目的以外でもボトックスは歯科で多く利用されます。例えば、かみ合わせの治療で使用することがよくあります。

食いしばりが原因で肩こりや痛みが生じる方や、長時間のパソコン業務であごの筋肉が弱くなってしまった方など、性別を問わず多くの患者様からご相談をいただいています。

結果的には、口元も美しくなり喜んでいただくことも多いです。

また、他の医療機関でボトックスの施術を受けた結果、かみ合わせが悪くなってしまい、相談に来られるケースも多くあります。

医師の中には、口腔内を十分に確認せずに施術を行う場合もありますので、その点では歯科医師が施術を行う方が、より安心かもしれませんね。

─歯科医師として活動するうえで、大切にしていることについて教えていただけますか?

「成功から学ぶこと」を大切にしています。

これは歯科医師に限らず、医療者全般に言えることですが、患者さんへの施術において失敗は許されません。

たとえ99%がうまくいったとしても、1%のミスがあれば、それは失敗です。そのため、完璧を追求する姿勢が必要だと考えています。

「失敗から学ぶことがある」という考え方もありますが、実際には成功して初めて分かることの方が圧倒的に多いと感じています。

例えば、親知らずを抜く施術は特に経験の浅い歯科医師にとって難易度が高く、僕自身も非常に苦労しました。このような難しい施術を上手にこなせるようになるには、成功を重ねることが重要です。

また、歯科医の仕事は患者さんがいてこそ成り立つものです。そのため、「失敗から学ぶ」は学生時代までの話であり、歯科医師として活動していくには、「成功から学ぶ」姿勢が不可欠だと考えています。

─ありがとうございます。「成功から学ぶ」というお話がありましたが、菊池先生が歯科医師として特にこだわっていることがあれば、教えていただけますか?

こだわりという点では、実はそれほど強いものはないかもしれません(笑)。逆に言えば、こだわりが少なかったからこそ、ここまで続けられた部分もあると思います。

手先を使うことが好きでしたので、仮にそれが革作りの職人や、お花を生ける先生でもよかったのかもしれません。

ただ、歯科医師としての道を選んだ以上、その立場を軸に活動することは大事にしています。先ほどお話ししたように、インフルエンサーやアパレルブランドの活動も、歯科医師としてのバックグラウンドがあるからこそ相乗効果が生まれますし、僕自身もそのバランスを楽しんでいます。

そしてなによりも、「患者さんの笑顔をサポートする」こと。これに尽きると思います。

「歯科医師の仕事がAIに取って代わる」という話も聞きますが、僕は絶対無くならないと思います。なぜかというと、歯の治療においては患者さんの気持ちを知ることが大切で、現在のAIはそこまで理解することはできないですからね。

「痛い」という言葉の背景、患者さんの感じ方には何十通りの表現があって、私たちはそれを表情の変化や口腔内の状況などで確認します。それを理解できるAIがあればもしかしたら違うかもしれませんが。

それと、歯科医師としての治療業務は、「労働集約型」の側面があります。

治療をするためには、当然現地に行く必要がありますし、目で見て、声を聴いて、手を動かさなければなりません。心技体が揃っていないとできない仕事ですので、いずれできなくなったときのことを考えて、治療以外の活動も考えていきたいと考えています。

   

楽しむこと、そして行動することで、キャリアの道が開けていく

─これから歯科医師のキャリアを歩む人や副業を検討している医師・歯科医師の人に向けて、菊池先生が大切にしていることと併せて、アドバイスなどありましたら教えていただけますか。

これから歯科医師になろうという方に向けては、歯科医師になるのはすごく大変なので、よく考えたうえで決断されるとよいと思います。

最低限、「歯科医師になるのは自分の意思だ」ということをはっきり自覚して臨むことをお勧めします。困難に直面したとき、「この道は自分の意思で選んだのだから頑張ろう」と思える人は、そこから踏ん張れることが多いです。

現在歯科医師として活動中の人に向けては、「楽しむこと」を大切にしてほしいと思います。

楽しく治療できなければ、やはりいい結果は生まれにくいんじゃないですかね。

「良い仕事をするには、プレッシャーが大事」と言う人もいますが、それが必須かどうかというと、若干疑問があります。プレッシャーが大きくなりすぎて、仕事に行くのがつらくなってしまう人も多く見てきました。

それよりも、歯科医として楽しむことを大切にするのがいいと思いますね。

歯科医師としての資格があれば、仮に「今の職場が辛い」となった際も別の働き口を見つけられる可能性は十分あるはずです。

僕の周りでも「辛いけれど、辞めたら迷惑をかけてしまう」「仕事に穴をあけてしまう」と悩んでいる人がたくさんいます。ですが、これは決して悪い意味ではなく、自分の代わりになる人は、いくらでも見つかるものです。

ですので、もし今の職場が合わないと感じたら、無理に固執せずに「この職場は自分に合わなかったんだ」と前向きに考え、新しい道を模索してほしいと思います。

──歯科医師の方のみならず、全ての職業の人たちにも通ずるメッセージですね。

はい、そう思います。それから、やはり大切なのは「行動する」ことですね。

なにか新しいことを始めたいと思った時、ほとんどの人は「時間がない」「本業が忙しい」という理由で行動しません。逆にいうと、ここで一歩でも踏み出せれば、大きなアドバンテージになります。

行動の方向性については、先ほどもお話ししましたが、医師・歯科医師という肩書から大きく外れない範囲で検討するのが良いと思います。

医師や歯科医師の方々は、最短で卒業しても24歳前後ですよね。そこから新しいことをして、10代から始めた人たちと勝負できるかというとやはり難しいので、まずはこれまで頑張ってきた医師・歯科医師の領域を活用するのがよいのではないでしょうか。

もちろん、「まったく新しい分野で副業をやりたい」という想いの強い方は、チャレンジするとよいと思います。ただし、その際は本業がおろそかにならない範囲で、自分のキャパシティを見極めながらやるのが重要と思います。

それから、この記事を読まれていて、新しいチャレンジに向けて行動することに不安を感じている方がいましたら、ぜひ僕に相談してほしいです。

「背中を押して欲しい」という方にはもちろん力強くサポートさせていただきますし、一緒に考えて、悩んで、解決策を見つけていけたらと思っています。

【特集】インフルエンサー医師について 
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