【特集】インフルエンサー医師

「病院の外の出会い」が、医者としての人生を豊かにする。

たかき先生(整形外科医)

大阪の病院で整形外科医として働く傍ら、2024年の「M-1グランプリ」に参加して「ナイスアマチュア賞」を獲得したたかき先生。高校2年生の時には、吉本興業が主催する漫才コンテストで近畿部門2位となり、「漫才師にならないか」とスカウトを受けた経験もあるそうです。

また、地域医療や病院の枠を超えた医療活動にも強い関心を持ち、広い人脈を生かしてさまざまなプロジェクトに取り組まれています。今回は、そんな異色の経歴を持つたかき先生に、医師としてのキャリアや活動についてお話を伺います。
【特集】インフルエンサー医師
近年、医師の働き方が多様化する中で、キャリアにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、多方面でご活躍されSNSでも人気の医師や医療関係者の方々にインタビューし、多彩なキャリアのご経験談をお話しいただきました。医師・医療関係者の視点から広がったキャリア像や、仕事の軸となる想いなど、皆さまの今後を考えるヒントとなるエピソードをご紹介します。

 

一番うれしいのは、患者さんから「ありがとう」と言われる時。

 

──たかき先生は学生時代に漫才もされていましたが、「漫才と医師、どちらの道に進むか」で悩んだことはありますか?

いえ、そこはあまり悩まなくて笑。漫才師としてのスカウトを受けた時も、「医師になる」と決めていたので断りました。

ただ、当時は医師になることに対してそれほど強い思い入れがあったわけではなく、「しっかりした職業だし、かっこいい」という漠然とした憧れが強かったんです。

「医師になりたい」と強く思うようになったのは、医大生3年の時です。 ある日ふと立ち寄った居酒屋で、隣に座っていた初対面のおじさんと意気投合して。そのおじさんが医師だとわかり、私も医大生だと伝えたら、こう言われたんです。──「医師をやっていて思うのは、こんなにも『ありがとう』って言われる職業は他にないだろうってことだよ」。 その時のおじさんのしみじみと話している姿を見て、なにか心が揺さぶられる感覚があって。次第に、「自分も患者さんから感謝される医師になりたい」という想いに変わっていきました。

──素敵な出会いですね!その後、迷いなく医師のキャリアを進まれたのですか?

医師になることへの迷いはありませんでしたが、苦労はたくさんありました笑。 特に大変だったのが、研修医の頃です。ローテーションでさまざまな科を一定期間経験するのですが、循環器での業務期間が非常に忙しくて、体調を崩してしまったんです。

当直が月に7回あって、さらにオンコール勤務で休みの日も常に電話に出る必要がありました。深夜に電話がかかってくることもありましたし、緊急の場合はすぐに病院に駆けつけなくてはいけません。休日はまったく気が休まらず、夜も熟睡できずで、次第に心が病んでいってしまったのです。

「これはまずいな」と思って、心を元気にするために色んなことにチャレンジしました。筋トレやサウナ、マインドフルネスなど試しましたが、一向に良くならず、朝になると動悸や頭痛がするようになってしまいました。

──それは大変なご状況でしたね…。どのようにして改善したのでしょうか?

それが、ローテーションが終わった途端、心身の不調はすっかり治ったんです。 やっぱり、不調の原因となっている根本をどうにかしないと、ダメなんだなって思いました笑。

もう一つ感じたのは、医師は健康であることが大前提だということです。 当たり前のことですが、自分が心身ともに健康でなければ、患者さんを健康にすることはできません。それ以来、食事、睡眠、運動などの健康管理に、より意識的に取り組むようになりました。

──研修医の時の辛い経験が、現在の体調管理にも活かされているのですね。医師になってから、「良かった」と思うことはありますか?

それはいつも感じていますね。 担当していた患者さんが元気になって退院される時や、痛みを訴えていた箇所を的確に処置できて、痛みを和らげられた時。そして何より、「ありがとう」と感謝の言葉をいただけた時です。

大学時代に居酒屋で出会った医師のおじさんが言っていた「感謝される喜び」が、こういうことなんだと実感できているのが、うれしいですね。

「病院の外の出会い」が視野を広げ、モチベーションにつながっていく。

 

─SNSを通しての情報発信も活発にされていますが、SNSを始めたきっかけは何かあるんですか?

SNSを始めたのは、研修医の時です。 きっかけは、医大生の頃に周りで心を病んでしまう人が多かったことでした。医師って、外から見たイメージと実際にやってみた時のギャップが大きいんだろうなと思い、「それなら、医師や研修医のリアルな情報を発信しよう」と思ったんです。

TIPS:Instagram「Dr.たかき@漫才整形外科医」

たかき先生が運営するInstagramアカウント。医師としての医療現場でのリアルな経験や、医療従事者の業務改善に向けた具体的な取り組みを発信しています。医療の枠を超えたさまざまなテーマに触れ、交流会での学びや、日常生活における成長のエピソードもシェア。視野を広げるためのインスピレーションを提供しています。

参考:Instagram「Dr.たかき@漫才整形外科医」

──フォロワーの方からの反響はいかがですか?

ありがたいことに、多くの方からご感想や応援のメッセージをいただいています。 さらに、SNSを通じて今まで出会えなかった人たちと知り合う機会が増えましたね。最近では、「たくさんの人と出会えること」がSNSの大きな楽しみになっています。

2024年に入ってからは、僕と看護師の2人でThreadsアカウントも開設しました。こちらのチャンネルでは、毎月第2・第4火曜日にライブ配信を行い、他の医師の先生方をお招きして医療現場の現状などについてリアルな議論をしています。

TIPS:Threads「えればらすぱ【整形外科医×内科看護師コンビ】」

たかき先生と現役看護師の方のペアで運営するThreadsアカウント。医療現場のリアルな経験や業務の工夫、医師と看護師のあるある話などを発信しています。医療従事者の視点から、患者との関わり方、医療の現状について議論し、医師・看護師双方の視点での意見交換も行っています。毎月第2・第4火曜日にはライブ配信も開催されます。

参考:Threads「えればらすぱ【整形外科医×内科看護師コンビ】」

──今後、SNS配信でやっていきたいことはありますか?

引き続き、SNSを通じて多くの人とつながっていきたいと思っています。また、地域医療の格差問題にも貢献したいという想いがあります。

僕は研修医時代を秋田県で過ごしましたが、都市部に比べて医療現場全体の人手不足が深刻な状況だったんです。その状況を改善したいと思い、現在は「旅する看護師」という、都心部の看護師の方々に地域医療への参加をよびかける取り組みに携わっています。

TIPS:「旅する看護師」

たかき先生も取り組みに参加している、地方医療を都心の看護師派遣で支援する「看護師と地域病院のマッチングプラットフォーム」。看護師不足で困っている地方病院に対して、看護師が最短1週間から参画できます。

参考:「旅する看護師」

──SNSを通して、さまざまなお取り組みをされていますね!活動を通して、たかき先生ご自身が得られた気づき・発見はありますか?

本当にたくさんありますね笑。 例えば、秋田県での研修医時代に柔道整復師の方と親しくなり、そこで整骨院の活動を深く知ることができました。 医師の方はご存じでしょうが、整形外科医と整骨院って実はあまり仲が良くないんですよね笑。整骨院のことを認めていないという整形外科医の先生も多いようです。

でも、それは「整骨院のことを深く知らないから」というのが大きな理由だと思います。 僕も、実際に柔道整復師の方からしっかり話を聞き、治療を受けてみて、根拠のある治療をされていることがよく分かりました。

今考えているのは、整形外科医と柔道整復師、鍼灸師の医療をうまく融合させた医療サービスです。中長期的な取り組みになると思いますが、実現すればきっと多くの患者さんが喜んでくれるはずです。

よく思うのは、「医師はもっと病院の外に目を向けた方がいい」ということです。 直接キャリアにプラスになることはなくても、人と会うことで人生はどんどん豊かになります。 仕事が病院の中だけで完結してしまうと、どうしても視野が狭くなります。視野が狭くなると、人は思考も偏ってしまいがちですから。 それに、「すごい人が世の中にたくさんいる」ということを知るたびに、うれしい気持ちになりませんか?僕自身、そうした人との出会いが日々のモチベーションにつながっています。

──たかき先生が最近出会った中で、特に「すごい人」「モチベーションにつながった」と感じられたのは、どんな方でしたか?

「この人すごいな」と思った方はたくさんいますが、特に印象深いのは、今年の「M-1グランプリ」に一緒に参加した相方の医師、ネルソン先生ですね。産婦人科の現役医師なんです。

──現役の医師お二人で「M-1グランプリ」に参加されたんですね!

はい笑。ありがたいことに、ナイスアマチュア賞をいただきました。 「M-1グランプリ」公式サイトに YouTube動画が掲載 されていますので、ぜひお時間がある時にご覧ください。

その相方のネルソン先生が、本当にすごい人なんです。 マレーシア出身で、ご実家があまり裕福ではなかったそうですが、18歳で単身日本に来て、居酒屋のバイトをしながら日本語学校に通い、その後、大阪大学医学部に合格したんです──すごいですよね笑

現在は産婦人科医として開業しつつ、吉本興業にも所属してテレビにも頻繁に出演されています。たまたまお会いする機会があり、「自分もお笑いをやっていた」と伝えたところ、「じゃあ(M-1に)出ようか」という話になりました笑。 とてもエネルギッシュで信念をもって活動されている方で、M-1で賞を取れたのもうれしかったですが、それ以上に彼からもたくさんの刺激を受けました。

患者さんを「治す」だけでなく、「心をプラスにしていく」こと。

 

──日々のご活動で、たかき先生が大切にしていることがありましたら教えてください。

いろいろお話しましたが、僕自身、まだまだ知識も経験も不足しているので、勉強し続けることは大前提です。

そのうえで、特に大事にしているのは「患者さんをちゃんと迎える」ことです。 初めてお会いする時は「整形外科医のたかきと申します。よろしくお願いします」と向かい合って挨拶する、ベッドに横になっていただく時は靴を揃えておくなど、そういった接遇はとても意識しています。医療の知識が完全でなかったとしても、接客はしっかりできますからね。

患者さんの満足を考えた時に、病気が治ることは当然そうなんですが、「先生に診てもらって本当に良かった」「この病院で良かった」と言ってもらえるくらい喜んでもらうには、そういった患者さんへの向き合い方がとても大切だと、僕は思います。 感謝の気持ちで心がプラスになれば、患者さんはもっと元気になりますし、僕も元気になります笑。

──ありがとうございます。最後に、この記事を読んでいる読者の方にメッセージがありましたらお願いします。

医師の仕事はハードで、辛いこともありますが、それでも病院の中のことをすべて当たり前と思わず、病院以外の色んな世界を知ることで、人生は豊かになるし、もっと楽しくなると思います。

キャリアも大切ですが、まずは自分自身の人生を豊かにしていくことが先ですよね。 「忙しくて時間がない」という方もいるかもしれませんが、さすがに時間がゼロということはないと思うので。ちょっとしたスキマ時間に本を読むのも良いでしょうし、まとまった時間ができたら友人と会ったり社会人交流サークルに参加してみたりするのも良いと思います。

それから、本当に忙しい人って、自分が忙しいことに気づいてないこともありますよね。 今の状態が「普通」と感じているのだと思いますが、それこそ外の世界を知ることで、まず自分が忙しいことに気づく、そこからですよね。 そういう意味でも、病院の外で人と会う機会を作ることは、大切なのではないでしょうか。

(聞き手・文=エピロギ編集部)

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