【特集】インフルエンサー医師

医師、そして人生を「学び続ける」ライフスタイル

おちば(腎臓内科医)

腎臓内科医として、そして一人の父親として──。おちば先生は、育児と仕事を両立しながら、非医局医という選択肢を選び、新しい働き方を切り拓いています。

医局での厳しい環境の中で奮闘した日々や、育児休業を経験して価値観が大きく変わった瞬間、さらには腎臓内科医としての専門性を深めながら、自分らしいキャリアを築いていく姿は、多くの医師にとってヒントとなるはずです。

本インタビューでは、そんなおちば先生が幼少期から医師を目指したきっかけ、キャリアの転機となった非医局医への移行、そして現在取り組んでいる活動や未来への展望について、じっくりとお話を伺いました。
【特集】インフルエンサー医師
近年、医師の働き方が多様化する中で、キャリアにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、臨床現場にとどまらず、SNSやさまざまなメディアを活用され、医師の学びやキャリア形成に役立つ情報発信に取り組んでいらっしゃる医師の方々にインタビューしました。医師の視点から広がったキャリア像や、仕事の軸となる想いなど、皆さまの今後を考えるヒントとなるエピソードをご紹介します。

 

 

患者さんの人生に寄り添いながら治療を進めることが、私のやりたい医療

~「医師になろう」と思ったきっかけ~

── はじめに、おちば先生の幼少期について教えてください。どんな子どもでしたか?

うーん、どんな子どもだったでしょう…(笑)。たぶん、真面目な子だったと思います。父も祖父も学校教師で、家では常に「真面目にしろ」という圧がありましたから(笑)。

あと、文章を書くのが好きでしたね。小学校の頃にオリジナルの物語を作って、親に製本してもらったこともありました。学校でも新聞委員になって、学級新聞作りをしていましたね。それもあって、子どもの頃は学校の先生や新聞記者、作家などの職業に興味がありました。

── 現在はブログ運営をされていますが、文章への指向はその頃からお持ちだったのですね。その後、医師を目指そうとされたのはどんなきっかけがあったのですか?

これも小学校の頃ですが、当時私は鼻炎持ちでして、近所の耳鼻科に通っていたんですね。そこで通っていたお医者さんが、子ども心ながらに「かっこいい」というイメージがありました。

男性の若い医師で知的な雰囲気があったのと、子どもの私に対して「一人の人間」として、敬意をもって接してくれて。毎週のようにその方から治療を受けながら、だんだんと「医師へのイメージ」が培われていきました。

中学と高校はカトリック系の学校へと進み、そこでは倫理教育の一環として「奉仕の精神」を大切にしていました。自然と私も「働くなら、『自分の働きかけが、直接誰かの役に立てる職業』がいい」と思うようになって、それが小学校の頃に培った医師のイメージと一致したんだと思います。

 

~医師になって、自分の学びや努力が実を結んだ瞬間~

── 実際に医師として働いてみて、いかがでしたか?印象深かった出来事について教えてください。

印象深かった出来事は、専攻医の2年目が終わって病院を異動する際、一人の患者さんから、感謝の言葉をいただくとともに、泣きながら握手を交わしたことです。

その患者さんは私が専攻医として最初に診た方のひとりで、当初はなかなか良くならず、治療方針にとても悩んでいたんですね。上級医に相談しながらさまざまな治療を試みて、当時新しく登場したSGLT2阻害薬を導入したところ、肥満や心不全の状態が大幅に改善したのです。

自分の学びや努力が、誰かの健康や生活の改善に直接つながった瞬間といいますか、──この経験を通じて、私は集中治療や手術ではなく、外来診療で患者さんの人生に寄り添いながら治療を進めることこそ、自分がやりたい医療だと実感しました。

内科医としての働き方、そして生き方への模索

 

~仕事と家庭・育児との両立~

2018年に結婚、その翌年に第一子がご誕生されて、専攻医時代はまさに「仕事と子育ての両立」の時期だったと思いますが、苦労したことはありましたか?

本当に苦労の連続でした(苦笑)。

育休も取得しましたが、その後に専攻医として大学病院で働きながら、1歳の子どもの子育てをしていた時期は特に大変でした。

妻もフルタイムで働いていたため、保育園の送り迎えは私が担当していました。しかし、保育園に預けられる時間が7:45からだったので、それから通勤すると、大学病院の厳しい環境ではいつもぎりぎりの時間に到着することになり、上級医より早く出勤して準備をするのが当たり前という職場の風潮に応えられず、プレッシャーを感じることが多かったです。

早く帰宅して子どもの寝かしつけなどをしようとしても、仕事が山積みで、自宅に持ち帰って早朝や深夜にカンファレンスや学会の準備を進める必要もありましたから。「情報収集が不十分だ」と上級医に叱られることもあり、妻からは「『仕事があるからしょうがない』というのは、違うんじゃないかな」と育児のあり方を注意されることもあり(苦笑)。精神的に追い詰められる日々でした。

もしかしたら、うつ病一歩手前まで来ていたかもしれません。常に朝は早朝覚醒で、目覚ましのアラームが鳴る前に目が覚めるんです。「今日はあれとあれをしないといけない」「まだあれが全然終わっていなかった」と、頭の中でやるべきことがぐるぐる回って。

──それは大変な状況でしたね…。どうやって乗り越えていったのですか?

いろいろなものに助けられました。まず、一つ大きかったのは読書です。通勤中や少しの空き時間に心理学や脳科学の本を読んで、自分の気持ちを整理するヒントを得たり、視点を変えるきっかけをもらえたりしました。

それから、周囲の同期や一つ上の先輩たちが助けてくれたことです。

最初の頃は、「なんでも自分でやらなきゃ」と思い込んでいたんですね。あるとき、先輩から「大丈夫か?」と声をかけてもらって、そこで話を聞いてもらったことで、心がふっと軽くなったんです。──もちろん、それで悩みがすべて解決するわけではありませんでしたが、ただ「一人で抱え込まなくていいんだ」と感じることができたたのは大きな変化だったと思います。

その出来事をきっかけに、人との関わり合いやチームとして働くことの大切さを意識するようになり、それはだんだんと実感へと変わり、仕事の進め方にも少しずつ余裕が生まれていったように思います。

もう一つ大事だったのは、妻との話し合いです。夫婦で定期的にミーティングのような形でお互いの考えや気持ちを共有する時間を持つようにしました。

──夫婦での話し合いとは、具体的にどんなきっかけでやるようになって、どういうふうに行われたのですか?

きっかけは、妻が「もっとお互いの思っていることを話そう」と提案してくれたことです。お互いに忙しい中で、何となく言いたいことが言えないままになっている部分が多いと感じていたんです。

話し合いは週末や少し落ち着ける時間など、お互いがリラックスした気分で話せるタイミングを見て行いました。具体的には、「今の状況で感じていること」「大変だと思うこと」「改善したいこと」を率直に話し、それに対してお互いに「それならこうしてみよう」と意見を出し合う形です。

それぞれが率直な想いや考えを言葉にして伝え合うことで、一人で抱え込む負担が減り、家庭内の協力が深まりました。

Tips:男性の育児休業について

男性の育児休業は、育児・介護休業法に基づき、父親が一定期間仕事を離れて育児に専念できる制度です。日本では1995年に法整備され、その後段階的に改正が進められてきました。

しかし、2023年の時点で男性の育休取得率は30.1%※と低く、女性に比べるとまだ大きな格差があります(※ 厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」より)。

この制度が重視される理由は、家庭内での役割分担を見直し、子どもの成長に両親が関わることで家族全体の幸福度が向上するからです。また、育児休業を通じて父親自身が新たな視点を得たり、夫婦間の協力が深まったりするなど、長期的かつ社会的・家庭的な利益が期待されています。男性が育児に積極的に関わる社会を目指し、政府も取得促進に取り組んでいます。

参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」

 

~医局で働くか、非医局医として働くか~

──2024年には医局を辞めて「非医局医」としてのキャリアを選ばれましたが、育児や家庭と仕事の両立が大きな理由でしょうか?

そうですね、育児や家庭との両立は大きな理由の一つでした。

医局に所属していると、異動や単身赴任などによって働き方の選択肢が制限されることも多く、特に育児や家庭を重視したい私にとっては、将来的な負担が気がかりでした。

非医局医になることで、自分のライフスタイルや家庭の事情に合わせた働き方を選べる自由が生まれました。家族との時間をより多く取れるようになりましたし、育児にも積極的に関わることができています。

──「医局医」と「非医局医」それぞれのメリット・デメリットについて、おちば先生の見解を教えていただけますか?

医局医のメリットは、まず「学ぶ環境が整っている」ことです。

新しい治療法や研究がすぐに取り入れられ、優秀な上司や同僚と切磋琢磨できる点は非常に大きなアドバンテージです。また、研究や大学院進学といったキャリアパスが広がりやすいのも、医局の強みだと思います。そのほか、「医局に所属している」という安心感もありますよね。

デメリットとしては、やはり「異動や働き方の自由度が低い」ことです。自分の希望する場所でずっと働くことが難しく、家庭とのバランスを取るのが難しい場合があります。

非医局医のメリットは、なんといっても「自由度」ですね。

自分のライフスタイルや希望に合わせた働き方を選べますから。私は現在、訪問診療や透析外来を組み合わせた柔軟な働き方をしていますが、これも非医局医であるからこそ可能な選択肢です。また、家族との時間を確保しやすく、育児や家庭との両立も無理なく進められます。

一方、デメリットは「自己責任の部分が大きい」という点です。

非医局医は、学びの環境を自分で作る必要がありますし、情報が少ない環境に置かれることもあります。

それから、非医局医になるということは、「医局を辞める」ことを伝えなければなりません。当然新しい職場を探す必要もありますし、それらの精神的コストも大きな課題だと思います。私も、「どうやって伝えに行こう」「どこで働けばいいんだろう」「本当にそれでいいのか」などを長い間ぐるぐると考え続けていました。それゆえに、非医局医として働く道が定まったときに、それらの悩みから解放されて「ようやく自分の人生を歩める!」という気持ちになれましたけれど(笑)。

──非医局医としてのキャリアの選択は大きな決断だったと思いますが、特に悩んだ点と解決に至ったプロセスについて教えていただけますか?

確かに、非医局医として働くことを選んだのは、自分の中で大きな転換点でした。

一番悩んだのは、自分が医局に所属しないことで「医師としてのアイデンティティが失われるかもしれない」という不安でした。医局に所属していると、組織としての一体感や安心感がありましたし、医師としてのキャリアを築く上でのバックアップも整っていますから。

そうした葛藤を乗り越えるのに、意外に思われるかもしれませんが「ブログ活動」が大きな助けになったんです。ブログを通じて情報を発信する中で、新しい人とのつながりがありました。医局という組織に属していなくても、自分の考えや経験を共有する場があることで、一つの拠り所といいますか、「医師としてのおちば」というアイデンティティを育てていけたのだと感じています。

Tips: ブログサイト「腎臓内科医おちばの備忘録」

おちば先生が運営するブログサイト。若手医師や医学生を主な対象に、医療専門職向けのキャリアアドバイスや試験対策、育児休業の体験談など、実用的で役立つ情報を発信しています。「忙しい人のためのJ-OSLER対策」などの記事を通じて、専門知識をわかりやすく伝えながら、仕事と育児の両立を目指す方々をサポート。医療従事者ならではの視点で、多忙な日々を乗り切るヒントを提供しています。

参考:腎臓内科医の備忘録 _ 腎臓内科医おちばのブログ

 

医師としての人生の楽しみ方は、「自分らしさ」を大切にすること

~現在取り組んでいること~

──現在、医師としての活動のほか、精力的に取り組まれていることを教えてください。

そうですね、自分は「生涯学習」という考え方にすごく興味があって、医師としての学びだけじゃなく、医療以外のことについてもいろいろ学び続けたいと思っています。 具体的には、心理学や行動経済学の本を読んだり、育児に関する知識をつけたりしています。それが患者さんとの接し方や研修医の指導に生かせる場面もあって、自分の引き出しが増えていくのが楽しいんですよね。

あとは、FPや簿記の資格を取って、お金に関する勉強もしています。これがきっかけで投資を始めるようになって、資産をある程度形成できたことで、「医局を離れても、しばらくはやっていける」という自信にもつながりました。忘れっぽいので、学んだことを全部覚えているわけじゃないんですけど(笑)。

もう一つ大事にしているのが、ブログを通じた発信活動ですね。ブログを書くことで、学びや経験をアウトプットして整理することができますし、それを読んでくれた方とのつながりが生まれるのも大きなモチベーションになっています。

──現在、医師としての活動のほか、精力的に取り組まれていることを教えてください。

ありがとうございます。キャリアビジョンについては、いくつかの目標がありますが、共通しているのは「医師として、そして一人の人間として成長し続けること」です。 具体的には、腎臓内科の分野で専門性を深めつつ、総合診療や訪問診療など、患者さんの生活により近い医療に関わりたいと考えています。慢性疾患を持つ患者さんに寄り添いながら、一緒に病気と向き合っていける医療を提供したいですね。

また、「学び続ける環境」を自分で作ることにも挑戦していきたいです。医局を離れた今、自分自身で勉強会を企画したり、ブログやSNSを通じて他の医師と情報を共有することを続けています。こうした取り組みを発展させて、若い医師やこれから医師を目指す方々をサポートできるような仕組みを作りたいと思っています。

肩書きや大きな役職にはそれほど興味がありません。「おちば=医局に属していないけれど、一生楽しく学び続ける優しいお医者さん」と言われるような存在になれたらうれしいですね。 医療の世界だけでなく、生活や趣味、人生そのものを充実させるための学びを続けながら、これからも自分らしいキャリアを模索していきたいと思っています。

~これから医師としてのキャリアを歩む人へのメッセージ~

──ここからは、本記事を読んでいただいている読者の方へのメッセージをお願いできればと思います。まずは、「育児休業の取得を検討している医師の方」に向けて、ご自身の経験を踏まえたアドバイスをいただけますか?

育児休業を検討している方には、ぜひ前向きにその選択を考えていただきたいです。 私自身、育児休業を取ったことが、自分の価値観を大きく変えるきっかけになりました。それまでの私は、医師という仕事に没頭していて、それが人生の中心でした。しかし、育児休業中は仕事から完全に切り離され、初めて「仕事以外の自分の人生」に強制的に向き合う時間を持てたんです。

医師として仕事が楽しいのは本当に理解できますし、やりがいも大きいですよね。でも、家族を持つと、自分の時間は自分だけのものではなくなることを実感するようになります。 そして、特に子どもはあっという間に成長してしまうんです。その貴重な時間を、仕事に追われて見過ごしてしまうのは本当にもったいないと思います。仕事は後からでも取り戻せますが、子どもや家族との時間は戻ってきませんから。

育児休業は、自分自身や家族との時間を再認識し、仕事と家庭のバランスをどう取るかを見つめ直す絶好の機会です。ぜひ、一度立ち止まって、育児休業を通じて自分と家族の人生を見つめ直してみてください。それがきっと、将来の自分にとって大きなプラスになると思います。

──続いて、これが最後の質問になりますが、「医師としての、人生の楽しみ方のコツ」についてお話しいただけますか?

そうですね、いろいろありますが、3つ挙げるとしたら「学び続けること」「人とつながること」「家族と過ごす時間を大切にすること」だと思います。

まず、「学び続けること」。医師という職業は、学びが尽きない分野です。知識をただ蓄えるだけでは、なんだか頭の中にノートが溜まっていくだけになってしまいますので、誰かと共有したり、何かの形で発信することを意識するといいと思います。 例えば、ブログやSNS、あるいはオンライン勉強会など、学んだことを誰かのために役立てる。それが自分の成長にもつながります。 私自身、ブログや腎臓内科の勉強会を通じて、他の医師たちと情報を共有していますが、これが本当に楽しい(笑)。「これどう思う?」なんて話していると、新しい発見が次々と出てきます。

次に、「人とつながること」。これも楽しむ上で欠かせません。SNSを活用したり、勉強会を開いたり、オンラインで気軽に仲間と意見を交わしたり。こうした活動を通じて生まれるつながりは、仕事を超えて大切な財産になると感じています。一人で学ぶことも大事ですが、みんなで学ぶのってやっぱり楽しいんですよね。

Tips:X「おちば@腎臓内科医ブログ」

「おちば@腎臓内科医ブログ」は、おちば先生が運営するXアカウントです。 若手医師や医学生に向けて、専門医試験の対策、医療に関する書籍のレビュー、オンライン勉強会の企画内容など、実践的で役立つ情報を発信しています。

参考:おちば@腎臓内科医ブログ

 

最後に、「家族と過ごす時間を大切にすること」。子どもと一緒に工作をしたり、公園に出かけたり。そんな何気ない時間が、実は人生で一番の宝物だなと感じています。仕事はいつでも再開できますが、家族と過ごす今この瞬間は二度と戻ってきません。だからこそ、意識してその時間を楽しむようにしています。

結局のところ、人生の楽しみ方って「自分らしさ」を大切にすることだと思います。それが学びであれ、人とのつながりであれ、家族との時間であれ、何か一つでも心から楽しめるものを見つけられたら、それだけで人生が少し豊かになる気がします。

(聞き手・文=エピロギ編集部)

「特集:インフルエンサー医師」について

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腎臓内科医。
男性医師の育児休業や、J-OSLER・内科専門医試験についてなど、ご自身の体験をもととした記事をブログやXにて発信中。

[X]https://x.com/autumnleaveskid
[note]https://ikuji-doctor.com/

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