デジタル×知識×アイデアで、医師の働き方はもっと進化する
でじすたねっと(内科医)
医師「でじすたねっと」先生は、高校2年のときに東日本大震災を経験し、「困っている人を助けたい」と医師を志します。その後、初期研修医として迎えた2019年、新型コロナウイルスの大流行に直面。過酷な現場で奮闘しながらも、iPadをはじめとするデジタルツールを活用し、効率的な学習や医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)を追求してきました。
「時間的にも精神的にも余裕をつくり、患者さんとしっかり向き合う医療を実現したい」という強い思いを軸に、多彩なチャレンジを続けるでじすたねっと先生。その行動力の源泉と活動の背景について、じっくりお話を伺いました。
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近年、医師の働き方が多様化する中で、キャリアにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、臨床現場にとどまらず、SNSやさまざまなメディアを活用され、医師の学びやキャリア形成に役立つ情報発信に取り組んでいらっしゃる医師の方々にインタビューしました。医師の視点から広がったキャリア像や、仕事の軸となる想いなど、皆さまの今後を考えるヒントとなるエピソードをご紹介します。
デジタルの活用が、私たちの「学び」と「仕事」の効率を加速する。
~iPadとApple Pencilが、これまでの学習効果の【約3倍】まで引き上げた~
──ブログサイト「でじすたねっと」(https://digista.net/)では、医学生、医師向けにiPadを活用した勉強法についての情報発信をされていますね。ブログを始めた経緯について、教えていただけますか?
Tips:ブログサイト「でじすたねっと」
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でじすたねっと先生が運営するブログサイト。 iPadをはじめとする「デジタル勉強法」を解説する情報サイトです。医学生や医療従事者向けの情報に特化しており、iPadを効果的に活用した学習方法やガジェットの選び方など、実践的なアドバイスが提供されています。
大学4年生の頃、iPadとApple Pencilを購入して、「ちょっと勉強に使ってみようか」と思って試したところ、これがすごくよかったんですね。インプットのスピードがそれまでの3倍近くまで上がりました。
──すごい(笑)。そんなにスピードアップするのですね。
はい。まず勉強で使用するものといえば、ノート、教科書、問題集ですよね。これらが全部iPad内で完結できます。また、Apple Pencilを使うことによって、手書き感覚で作業を進められます。
特に効果が出るのは、「書き込みながら勉強する」タイプの人ですね。僕もそのタイプだったんですけれど(笑)。
まとめ用のノートをきれいに作ろうとしたときに、紙媒体ですと印刷機でコピーして貼り付けて──という手間が発生しますが、iPadだったらカメラ撮影と貼り付けで、十分の一程の時間でできてしまいます。
今は変わってきているかもしれませんが、僕が医大生だったころはとにかく紙の資料が多かったんです。 医学部3年~4年の臨床の授業で使ったプリントを重ねたとき、厚さが40cmを超えてしまって(笑)。これらもすべてデジタル化をしてiPadに入れておけば、持ち運びも便利ですよね。
医学部3〜4年の臨床の授業のプリントの量▶︎40cm越え
— でじすたねっと医師のiPad勉強術 (@digista_net) November 23, 2018
1人分なので、学年全員分考えるとこれの120倍くらいの紙を使ってるはず。
PDFで配ってくれると紙も使わないし、持ち運びにも便利なんだけどな。
卒業試験に受かったのでほとんど処分。 pic.twitter.com/qWTnwhRlkk
当時はまだiPadを使っている人は今ほど多くなくて、友達から「どうやって使ってるの?」と聞かれることが多かったんですね。「こういうデジタルツールを使った勉強法をネットで発信していくと、きっといろんな人の役に立てる」と思ったのが、ブログ開設のきっかけです。
──タブレット端末はiPadのほかにもいろいろありますが、やはりiPadがいいのですか?
そうですね。ノートアプリの品質において、他のタブレットよりもiPadが優れていると感じています。特に秀でているのが、入力デバイスのApple pencilの描きやすさですね。ペンのラグが少なく、紙に近い感覚で書き込めるんです。
Tips:「ペンのラグ」とは
タブレット上でスタイラスペンを使って線や文字を描いたときに、ペン先の動きと画面上に表示される描画との間に発生する時間的な遅れを指します。
Apple Pencilは、iPadとの連携によってこのラグを極限まで抑えており、ほぼリアルタイムでの描画が可能といいます。これにより、スムーズで快適な書き心地を提供し、特にプロのイラストレーターやデザイナー、メモを取るビジネスユーザーから高い評価を得ています。
同様の機能を持つ製品は他にもいくつかありますが、このあたりの性能はまだまだiPadとApple Pencilには及ばないと感じています。
~医師向けのデジタルツールを、自分たちで開発しよう~
──2024年10月に、医師向け病棟ToDo+症例管理アプリ「MOTiCAN(モチカン)」をリリースされましたね。開発に至った経緯を教えていただけますでしょうか。
Tips:医師向け病棟ToDo+症例管理アプリ「MOTiCAN(モチカン)」
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「MOTiCAN(モチカン)」は、医師向けの病棟業務ToDo管理と症例管理を統合したスマートフォンアプリです。紙ベースでのタスク管理による紛失リスクを軽減し、患者ごとの実施事項を漏れなく管理できます。また、J-OSLER対応の症例整理機能を備え、内科専門医試験の症例レポート作成を効率化します。
「ゆくゆく何かアプリを作ってみたいな」という想いがあったんです。
これまでもブログでさまざまなお役立ちツールを紹介していたんですが、「医師向けのもの」となると、なかなか新しいサービスが出てこないという実情があったんです。それで、紹介できることもなくなってきてしまっていて(笑)。
やはり、「医師が何に困っているのか」は医師でないとなかなか分からないだろうと、1年程前からアプリ開発について勉強をしていました。
──「MOTiCAN」はお一人で開発されたのですか?
いえ。一緒にやってる医師がもう一人いて、もともとはゲーム仲間だったのですが、アプリの作り方を教えたところ、すごく(アプリ開発に)ハマってくれたんです。僕のスキルをすみやかに追い越していって、エンジニア上級者になってくれました。
今では、僕がアプリのコンセプト──たとえば「こういうふうに動かしたいんだ」といった要件を伝えただけで、システムを作ってくれるようになりました。「MOTiCAN」も、実質2ヵ月弱で創り上げたんですね。私ひとりだったら、1年以上かかっていたと思います(笑)。
──とてもいいチームワークですね。実際に「MOTiCAN」をリリースして、反響はいかがでしたか?
リリースして1ヵ月で、約1,000人の医師の方にインストールしていただきました。SNSでも反響があって、現在も利用者は増え続けています。
主に使われている機能はJ-OSLERの分類(経験症例の管理)ですね。匿名化された症例情報をもとにToDo管理を行い、データベースから必要な情報をいつでも呼び出せるようにしています。
手作業で行う場合は情報の整理が本当に大変なんですけれど、それを「MOTiCAN」が半自動で整理してくれます。その点をご評価いただいている利用者の方が多いですね。
ただ、正直ここまで一気に利用者が増えることは想定しておりませんでしたので(笑)、機能改善のご要望対応など、いろいろと焦りながら整えているところです。
医師を目指したのは、「困っている人を助けたい」と思ったから。
~高校2年生のときの東日本大震災が、医師になろうと思ったきっかけ~
──少し話をさかのぼって、でじすたねっと先生はいつ頃から「医師になろう」と考えていたのですか?
はっきりと意識しだしたのは高校2年生のときです。ちょうど、東日本大震災が発生した年でした。 私の住んでいた地域では大きな被害はなかったのですが、ネットやテレビで被災地の惨状を目の当たりにして、でも、当時の自分は何もできなかったんですね。だから、「将来は困っている人を助ける仕事に就こう」と思いました。
──では、その頃はもう理系を選択されていたのですね。
はい。周りの大人たちからは「文系は就職が難しいから、理系にしろ」と言われ続けてましたから(笑)。その頃リーマンショックがあって、ちょうど就職氷河期だったのが大きかったと思います。
──将来を決める時期に、世の中で影響のある大きな事件がいくつか起きた時代であったと言えそうですね。その後、内科医を選ばれたのは何か理由があったのですか?
内科を選んだ理由は、初期研修1年目の研修先の病院で出会った歳の近い先輩医師たちに影響を受けたからです。
その病院では、救急対応や重症患者の管理など、広い範囲をカバーする機会があったのですが、どんな症状にも安定感を持って対応する先輩方の姿勢に、頼もしさを感じました。
また、僕自身の特性としてストレス耐性はそれほど強くないので、内科のように一度考える時間が取れる診療科は自分に合っていると感じたんですね。焦ってしまうとパフォーマンスに影響するタイプなので、リアルタイム性が求められる手術や手技より、内科の方が向いていると思ったのです。
~呼吸器内科に進んだその矢先、コロナ禍がやってきた~
──内科医になってから、特に印象深かった出来事では何がありましたか?
いちばん印象深かったことは、呼吸器内科へと進んですぐに、国内で新型コロナウィルスが大流行したことです。どの医療機関もそうだったと思いますが、とにかく忙しかった。
職場の人たち全員が、「持てる力と時間を、すべてつぎ込む」感じでしたね。院内の部長クラスの先生方が、僕たちと同じかそれ以上に働いているんです。
もちろん若手の僕たちも頑張るんですが、やはり経験が乏しいので上の先生方に頼らざるを得ないことが多くて。皆が早残業して、そして遅くまで残って・・・「何とかこの状況を乗り越えよう」と全員が必死でした。
──それは大変な状況でしたね…。その中で、どんな経験や学びがありましたか?
良かったことは、主体的に行動する機会を多く持てたことですね。医師3~4年目はまだまだ学ばせていただくことが多い時期ですので、先輩医師の指導のもと業務にあたるのが通常なのですが、自分の考え、意思で患者さんに対応する経験をたくさん得られました。
また、大変な状況の中で、『助け合おう』という意識が自然と強まり、チームワークが発揮できていたと思います。
残念だったことは、とても忙しかったことに加えて感染リスクの問題もあって、食事会や飲み会といったコミュニケーションの場をほとんど持てなかったことですね。もちろん業務上のコミュニケーションはふんだんにあったのですが、本来ならもっと仲良くなれたかもしれないと、今となっては思います。
「デジタルで、新しいことができる」=「働き方の選択肢が増える」。
~医師の「慢性的な忙しさ」を改善したい~
──ここまでの活動も踏まえて、今後チャレンジしたいことや中長期的なキャリアビジョンなどがありましたら教えていただいてよろしいですか。
「医師向けのサービス」については、これからも考えていきたいですね。
医師の仕事をしていて、「こういうツールがあったらいいのに」と思うことが度々あるのですが、やはりまだまだ不足していると感じています。
「MOTiCAN」の開発時に開発担当の医師ともう一人の医師の3人で、株式会社を設立しました。今後も医師の業務に役立つサービスを企画していきたいですし、自分たちだけでは作れないものについては、他の企業さんと連携して進めることも視野に入れています。
──株式会社を設立したのですね。それは、他の企業との業務提携などを視野に入れてのことですか?
はい。やはりこちらも会社を持っておくことで、企業からは信頼されやすくなりますから。
例えば僕は医学書が好きで色んな書籍を集めているのですが、「こういう情報を出版するといいのでは」と思ったときに、出版社さんと直接やり取りする際もやりやすくなると思っています。
──医師向けのサービス・ツールの開発で、でじすたねっと先生が目指すビジョンやゴールイメージはありますか?
医師の仕事にはまだ多くの試行錯誤が必要な部分がありますが、ツールが整備されれば、現在の「手探りで進める」状態から、「選択肢が提示され、その中から最適なものを選ぶ」という効率的な働き方に変わると考えています。つまり、一つひとつの意思決定が容易になるイメージです。
すると、これまでかかっていた業務時間が短縮されますので、医師の方々はより大切にしたい業務に集中できるようになります。たとえば、患者さんやそのご家族さんとお話しする時間を十分に持つこと。患者さんの「こういうふうにしたい」という希望をもっとくみ取ること。
「辛い治療でも頑張りたい」という方もいれば、「今の状況がとても辛いので、なるべく負荷を軽減してほしい」など、患者さんの希望はさまざまです。そうした希望をきちんと聞き取らないまま、単に医学的な見解のみで治療方針を立ててしまうのは、本質ではないと思っています。
特に呼吸器内科では、「すぐに完治する」という病気は少ないです。多くの患者さんが、ご自身の病気と向き合いながら、長い人生を歩んでいかないといけない。その中で医師がまずできることといえば、話を聴くことでしょうから。
~新しいチャレンジは、「ひとり」よりも「仲間と一緒」がいい~
──最後に、これから医師を目指す方や医師になりたての方に向けて、でじすたねっと先生から「新しいチャレンジをする」上でのアドバイスをいただいてもよろしいですか?
そうですね。医師になるにはたくさん勉強しないといけませんから(笑)、目指している方も医師になった方も、努力家であったり、何かしら能力が高い方であったりすることが多いと思います。
「MOTiCAN」の開発を担当した私の友人もまさにそうですが、一人ひとりに強みがあって、「なにか一緒にやろう」となったときに、自分にない強みを相手から感じられることも多いと思うのです。
ですので、何かチャレンジしようと思ったときのために、一緒に挑戦する仲間を築いておくとよいのではないでしょうか。
また、医師だけでなく、他の業界の人ともつながってみる。それによって、知識やアイデアの掛け合わせ──相乗効果が生まれやすくなると思います。
(聞き手・文=エピロギ編集部)
「特集:インフルエンサー医師」について
近年、人々の働き方は多様化しており、医師の世界も例外ではありません。
現在メディウェルでは医師の転職・アルバイト探し支援のサービスをご提供しておりますが、「より多様な医師のキャリアをご支援させていただきたい」という想いから、臨床現場にとどまらず、SNSやさまざまなメディアを活用し、医師の学びやキャリア形成に役立つ情報発信に取り組んでいらっしゃる医師の方々に、キャリアインタビューを実施しております。皆様がキャリアをお考えになる際の、新たな発見につながりますと幸いです。
ご転職・アルバイト探しや、キャリアについてご相談されたい医師の方は、下記よりお申し込みください。
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- でじすたねっと
- 内科医。ブログやSNSを通して、iPad活用方法や最新iPadの選び方など、デジタルツールを活用した効率的な学習法を紹介している。2024年10月には医師向けの病棟業務ToDo管理と症例管理を統合したアプリ「MOTiCAN」を開発。
[X]https://twitter.com/digista_net
[ブログサイト]https://digista.net/
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