勤務医とマイナンバー

第1回 マイナンバー制度ってどんな制度?

2016年1月より開始されるマイナンバー制度。国民一人ひとりが12桁の番号を持ち、効率的な情報管理や本人確認に利用しようとする制度です。
テレビやネットなどの報道では毎日のように耳にしますが、お手元に通知カードが届いてやっと「始まる」という実感が湧いた方がほとんどではないでしょうか。

ただし、制度が始まる2016年1月の段階では、皆さんの個人番号は、税金・社会保障・災害対策の3分野に関わる事務にしか利用できません。
制度開始時点から上記3分野に制限せず、国民の通院歴やカルテ情報、年金や預金情報、借入金の情報を紐付けてしまうと、大きな混乱が予想されます。その混乱を避けるため、政府はマイナンバーの制度を周知させてから、段階的に上記3分野以外へ活用範囲を広げていこうとしているのです。
「小さく産んで」税金や社会保障、災害対策に限定し、将来的に医療情報や預金情報、年金情報に紐付けて「大きく育てる」ことが、日本におけるマイナンバー制度の特徴です。

マイナンバー制度から得られる恩恵は?

マイナンバーは利用できる範囲が制限されているため、我々の生活が一変するようなことは当分の間ありません。では、制度開始の時点ではどのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、行政の効率化が挙げられます。例えば引越し。年度の途中で引越しをした場合、我々の情報はその年の1月1日に住民票があった役所が持っています。そのため、年度の途中に引越しをした場合は、旧住所地と新住所地の両方で手続きをする必要がありました。しかし、今後は新住所地でマイナンバーを提示するだけで、転入転出の届出や収入証明書の取得が可能になります。行政側の手続きも簡略化されますね。

次に、社会保障分野のメリットがあります。
これまで「資産もなく収入も少なく、明日食べる食事にすら困っている方」と「資産は持っているが現役を引退して単に所得がない方」の区別をはっきりと付けることは困難でした。状況がまったく異なるのに、まったく同じ社会保障を受けていたわけです。
今後はマイナンバー制度により、所得や資産情報の正確な把握ができるので、それぞれの状況に応じた支給ができるようになります。

ただし、所得を正確に把握されることによるデメリットもあります。

 

全ての情報が筒抜け!?

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マイナンバー制度により、今まで困難だった個人の資産や収入が簡単に把握できるようになります。前述したように利点もありますが、その反面、これまで知られる必要のなかった個人の情報も国家に筒抜けになってしまいます。
この「国家に自分の情報が筒抜けになる」ということに対し、警戒したり反発したりしている方も多くいらっしゃるようですが、まじめに働いて納税している皆さんが最も警戒しなくてはいけないことは番号を悪用され自分が被害を受けることです。

海外での番号制度としてアメリカのSSN、日本語訳では「社会保障番号」があります。
1936年に発行された個人識別番号です。いわばマイナンバー制度のモデルとなっているシステムですね。
初めのころは名前のとおり、社会保障に関する手続きにしか用いられませんでした。時を経るごとに活用範囲が広がり、今では銀行口座を開くときやクレジットカードを作る際にも提示する必要があります。
この社会保障番号で問題となっているのが「なりすまし」。他人の番号でクレジットカードを発行するなどといった、金銭的な被害も多発しています。

日本のマイナンバー制度と、アメリカの社会保障番号の決定的な違いは”本人確認の厳格さ”です。マイナンバー制度のために作られた、番号法の第16条では次のように明記されています。

本人から個人番号の提供を受けるときは(中略)その者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置をとらなければならない。

12桁の個人番号を提示した上で、運転免許証や個人番号カードなどの写真付き証明書により、その番号が間違いなく本人であることを確認しなければならない、ということです。
アメリカの社会保障番号では、指紋や写真による本人確認は一切なく、「社会保障番号を持っているということは本人に違いない」という考えがあったため「なりすまし」が容易に行えたのです。
日本のマイナンバー制度では、個人番号を盗み取られたとしても、すぐに情報が他人に筒抜けになることはありません。

 

なぜ勤務先に個人番号を提示する必要があるのか

源泉徴収などの行政手続きや社雇用保険などの保険関係のために、勤務先からマイナンバーの提出を求められることがあります。簡単に悪用されないとはいえ、絶対に情報が漏洩しないとも限りません。個人番号を会社へ提示することに抵抗がある方も多くいらっしゃるでしょう。では、なぜそんなリスクを冒して、勤務先に自分の個人番号を提示する必要があるのでしょうか。

この疑問については、マイナンバー制度の本当の目的を理解すれば解決します。
マイナンバー制度の本当の目的は、これまで税金逃れをしていたり、資産を過少申告したりしていた人に対する課税強化だといわれています。
複数の会社から収入を得ているのに、その一部を隠して課税を逃れていたり、遠隔地に隠し口座を作って資産を少なく見せかけたりしている人は実は大勢いるようです。皆さんの周りにも、本来は確定申告をしなければいけないのに逃れている方はいませんか?
勤務先に皆さんの個人番号を提示し、一人ひとりの所得や課税すべき額を国税当局が正確に把握することで、まじめに納税をしている皆さんが“馬鹿を見ない”ようになるわけです。
いわばマイナンバーは防犯カメラのような役割で、悪いことをしている人だけを監視するようになります。

 

マイナンバー提示を拒否したらどんなことがある?

正確な報道が少ないこともあり、誤解されている方もいらっしゃるかと思いますが、自分の番号を勤務先に提示することは義務ではありません。
反面、経営者が従業員の法定調書などにマイナンバーを記載することは、所得税法などで義務となっています。
マイナンバー制度を監督するために新たに設定された、「特定個人情報保護委員会」のWebサイトによると、経営者が従業員からマイナンバーの提示を拒否された場合の処理について下記の文言があります。

個人番号の記載は、法律で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。 それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。(特定情報保護委員会WEBサイトより一部抜粋)

(2015年10月現在)

すなわち、もしも従業員が勤務先にマイナンバーを提示しなくても、法律違反で捕まるということはありません。
勤務先が、皆さんの番号をきちんと管理してくれない恐れがある場合、特定個人情報保護委員会に申告をすれば調べてくれます。前述のとおり、マイナンバーを提示しただけで個人情報が漏れることもまずありません。
単に番号の提示を拒めば、本来は受けられるはずだった社会保障を受けられなかったり、払いすぎた税金を戻すことに手間取ったりする恐れもあります。もったいないですね。

受けられる社会保障をしっかり受けるためにも、ご自分の個人番号は勤務先へ提示しましょう。

今回は、マイナンバー制度とはどのような制度なのかを簡単に説明しました。よくわからないままなんとなく不安に思っている方もいらっしゃると思いますが、マイナンバーは「行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤」として誕生しました。目的やメリットを理解して、うまく利用していきたいですね。

次回はマイナンバー制度の開始によって、勤務医の皆さんの周りで変化することをまとめます。

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合同会社エルコ
2015年設立。WEBサイトのスパイスとなる動画、イラストの制作やWEB上の誹謗中傷対策の支援を行っている。また2016年1月よりスタートするマイナンバー制度のための安全で低価格の管理ソフトウェア販売事業、中小企業の経営者向けマンツーマンセミナーを開催中。
http://www.jimusol.com/
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