Part2~文化・医療事情の違いによるトラブル回避
現在、日本に滞在する外国人は200万人以上、観光など短期で来日する外国人は年間約2000万人です。生活しているからには健康上の問題も起きるでしょうし、旅先でのケガや急病もあるでしょう。
日本政府は東京オリンピックに向けて、2020年までに訪日外国人観光客数の目標を年間4000万人へ引き上げると発表しました。多くの外国人患者が、当たり前のように医師の皆さんの勤務先へ来院する日が目前に迫っています。
外国人患者の対応で問題となるのは主に3つ。「言葉の違い」「文化・医療事情の違い」「生活背景の違い」です。今後対応が確実に必要になるであろう外国人患者について、今回はその中の「文化・医療事情の違い」について考えてみたいと思います。
まずは外国人患者と信頼関係を築くこと!
日本人からすれば理解しづらい行動・言動をする外国人に、苦手意識を持っている人も多いかもしれません。しかし、彼らの「理解しづらい言動・言動」は、「文化の違い」によるところが大きいのではないでしょうか。
外国人患者に対し、日本のやり方に従うべきという意識でいると、彼らの不信感や不安感につながるばかりか、トラブルに発展する可能性があります。普段は「郷に入っては郷に従え」と思っていたとしても、病気やけがで気持ちに余裕のないときは、やはり母国の文化や医療を基準に考えるのではないでしょうか。
一様に◯◯人だからこう、と言い切ることはできませんが、国民性や医療事情が違うことを念頭に置き、柔軟に考えることで外国人患者にもっと寄り添えるかもしれません。では、在留者の多い国について見ていきましょう。
中国人は注射好き? 効果をはっきり説明してあげよう
在留外国人の国籍で一番多い、中国の医療と文化を見てみましょう。
中国では国内での医療格差が激しく、健康保険制度もまだ整っているとは言い切れません。病院では有料で医師の指名ができ、また医師のランクによって追加料金も発生します。会計も前払いで、検査や診察などその都度支払いが行われます。
都市部の総合病院には国中から患者が集まり、受診の予約券をもらうために早朝から受付に並ばなくてはならないそうです。予約券がオークションに出品されたり、ダフ屋が出現したりすることも珍しくないそう。優先的に治療を受けたり入院したりするために、医師への「紅包」と呼ばれるわいろが横行しているのが現実です。
即効性を求めてか、中国人は総じて注射を好む傾向があるそうです。受診した原因に対して注射が有効な場合は良いですが、そうでない場合は別の治療の方が、効果があるということを丁寧に説明しましょう。
服薬については、効果がすぐに出ない場合に自己判断で容量を増やしてしまうことがあるようなので、副作用などの懸念があるときは、注意が必要です。薬の種類や量についても希望をはっきり言うため、「ずうずうしい」と感じることがあるかもしれませんが、中国では当たり前の行動で、文化だと知っておいてください。
30分~1時間は「遅刻じゃない」!?
では、中国の次に在留数の多いフィリピンはどうでしょう。
フィリピンも国内で医療格差が大きく、都市部と地方では隔たりがあります。私立病院には救急部と検査部があり、それらは病院に帰属していますが、その他の診療科は医師が独立開業しています。総合病院では完全に「オープンシステム」を採用していて、医師が病院内でそれぞれ独立開業し、検査施設や入院部屋を共有する形となっています。
医療費や薬品の価格は平均所得に比べてかなり高額です。さらに保険制度が不十分のため、すべて自己負担となることがほとんど。よほどの異常がなければ通院はおろか、市販薬の購入も避けて民間療法や呪術師・祈祷師に頼る国民も多いそうです。
ところで、「フィリピン・タイム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。フィリピンでは30分~1時間程度の遅刻は当然と考える人が多く、そう呼ばれるようになったそうです。
診療の予約時間に遅れられては困りますから、「予定通りに来てもらわないとたくさんの人のスケジュール調整が必要」「その日に診られなくなる可能性がある」など、理由を説明して予約時間を守ってもらうようにしましょう。
そして、もし時間が守られなくても絶対に人前で怒ってはいけません。フィリピンでは怒られることを恥と感じ、人前で恥をかかされることを何より嫌がります。何か間違っている場合、個別で注意するか、諭すように話しましょう。
母国で処方された薬に注意
ブラジルは国籍別在留外国人では3位に当たります。
ブラジルの公立病院では無料で医療が受けられます。心臓手術が盛んで、都市部の私立病院の医療水準はかなり高いですが、公立病院は衛生面や医療レベルに問題があると言われています。待ち時間がかなり長く、受付では朝から長蛇の列ができ、手術になると年単位で順番待ちのことがあるそう。地方では、簡単な病気であれば保健所でも診てもらえます。
食生活面では、夕食時間がだいたい21時からと遅く、昼食と時間が開くので間食をとる傾向があります。甘党が多く食後にデザートを食べる習慣があり、肉料理も好むため肥満や糖尿病の問題が深刻化しています。
また、薬については強い薬を短期間処方することが一般的で、そのせいかブラジル出身者は「日本の薬は効かない」と感じるよう。
増加が問題になっている糖尿病をはじめ、慢性病の場合は母国で処方された薬を飲み続けていることがあります。それが何の薬で、日本で処方する薬との飲み合わせがどうなのか、調べる必要があります。
「わがまま」ではなく「自己主張」
欧米諸国のうち、在留外国人が一番多いのはアメリカ。
アメリカ国内では、少しずつ勤務医も増えているそうですが、総合病院ではフィリピンと同じようにオープンシステムを採っています。体に異常があれば、まず主治医であるプライマリケア医に相談し、そこから専門医に紹介されることになります。
「医療はサービス業」という意識が医療者にも患者にも浸透しているためか、診察室に入るとまず挨拶と握手を交わし、初診の際は簡単な自己紹介も行います。コミュニケーションを重視しているので、必要なこと以外を話さない日本の医師に対し「冷たい」「偉そう」という感想を持ってしまうことが多いようです。アメリカでは検査ひとつにしても、受けるか受けないか納得ゆくまで説明し、患者に決めさせます。
主張することが評価され、「話さないことはよくないこと」という考えが浸透しています。怯んでしまう医師もいるかもしれませんが、医師としての主張をしましょう。
アメリカでは、医療保険に加入していないと非常に高額な医療費を請求されるため、症状が重篤でない場合は市販薬で済まそうとする人が多いです。そのためか、日本に比べて処方箋なしで購入できる薬が抱負。外国人患者の受け入れを積極的に行っている医療機関では、「なんでアフターピルごときをわざわざ病院で買うの!?」というクレームを受けたこともあるとか。
違う文化圏の人々であることを念頭に置く!
日本人が「自己主張しない」「勤勉」などと言われるように、程度の差はありますが国民性というものは存在します。
外国人患者の行動や言動に「理解できない」と感じたら、「そういう国民性なのかも」と一度考えてみてください。彼らにとって「当たり前」の行動や言動をしているだけなのかもしれません。
(文・エピロギ編集部)
<参考>
日本政府観光局(JINTO)「国籍/月別 訪日外客数(2003年~2016年)
(http://www.jnto.go.jp/jpn/reference/tourism_data/2003_2016_tourists.pdf)
法務省「平成26年末現在における在留外国人数について(確定値)」
(http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00050.html)
法務省「平成26年末現在における在留外国人数について(確定値)」
(http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00050.html)
あいち医療翻訳システム「診療対応マニュアル」
(http://www.aichi-iryou-tsuyaku-system.com/manual/data/manualformi1.html)
ステキナース研究所「外国人患者さんの診療を助ける|医療通訳者インタビュー【前編】」
(https://www.kango-roo.com/sn/a/view/614)
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