医師のあなたに知ってほしい。医療現場でのLGBT
遠藤 まめた氏
もし診察室で「私はレズビアンで、同性のパートナーがいます」と言われたら、医療関係者はどう受け止めたら良いだろうか。
あるいは、外見は女性なのに法的には男性である患者(ないしはその逆)が目の前に現れたら、どのような対応の工夫がいるだろう。
- 遠藤 まめた(えんどう・まめた)
- LGBTなどのセクシュアル・マイノリティーの生きづらさ解消を主なテーマとして活動している。自身もFTMトランスジェンダー。著書に『先生と親のためのLGBTガイド』、共著に『思春期サバイバル』『思春期サバイバル 10代の時って考えることが多くなる気がするわけ。』がある。
最近、「LGBT」という言葉をニュースで見かけることが多くなった。LGBTとはレズビアン、ゲイ(それぞれ女性と男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時にあてがわれた性別を越境する者。医学的には性同一性障害と呼ぶこともある)の頭文字をとった呼び方だ。
LGBTについてのニュースはテレビや新聞などで盛り上がっているが、その一方で、多様な性のあり方についての正確な知識を得る機会はとても少ない。
実はLGBTについての知識は、医療や福祉の現場でも非常に重要なものであり、多様な性についての視点を持っていることが、患者のQOLに大きく影響することがある。
LGBTの患者は、しばしば理解されないことへの不安感から「同性のパートナーにも病状を説明してほしい」などといった自分自身のニーズを主張できない。
また、性別を変えて暮らしていることを周りの誰にも話していないトランスジェンダーの人々は、素性を知られる恐怖から、早期受診をためらう。なかには治療を中断し、医療者からすれば不可解な患者と思われる場合もある。細かな治療方針にも、LGBTであることが関係することがある。
「どの薬をつかう?」という選択肢
「若年女性の場合、こちらが第一選択の薬です」と言われ、あるトランスジェンダーの入院患者は困惑していた。
SLE(全身性エリテマトーデス)の治療で免疫抑制剤を使うことになったのだが、認可薬では卵子に悪影響がある。将来子どもを産めるようにするためには月額6万円の未認可薬しか方法はなかった。
しかし、その患者は「彼女」ではなく「彼」だった。つまり、肉体的には女であり、自分自身のことを男だと認識していた。
子どもを産むなんてまっぴらごめんだし、その目的のために月額6万円も払うのは避けたい。
「認可薬がいいです。子どもはいらないので」
そう繰り返していたが、主治医にはイマイチ伝わらなかった。
「そうはいっても、いつか良い人があらわれるかもしれないじゃない?」
そこで、彼は勇気を出してカミングアウトした。
「トランスジェンダーで、子どもを持つ可能性はない」
主治医はあっさり納得して、治療方針は変わった。
受け止める側に心構えがあるということ
「彼」は、実は1年前の著者である。
他にも薬の副作用の説明で「多毛になるのは女性だと嫌ですよね」と言われる(私の場合、むしろ外見の男らしさが増すのはウェルカムだった)など、カミングアウトするまでは、微妙なコミュニケーションのズレがあった。
同じように、精巣がんになったゲイ男性が精子保存するかどうかの選択の際に、自分のセクシュアリティについて言い出せなかった例もある。
できれば、患者の側がカミングアウトして、自分のニーズを伝えられたらいい。
と言っても、具合が悪いときに勇気を振り絞ることは大変だし、なによりカミングアウトは、受け止める方に知識や共感の姿勢がないと成功しない。医療関係者にあらかじめ心構えがあるのとないのとでは、超えるべきハードルの高さも変わってくる。
目の前にいる人の「多様さ」を想定して
今年の2月に、筆者が関わるNPO法人QWRCでは、医療・福祉関係者に向けた冊子「LGBTと医療・福祉(改訂版)」全28ページを発行し、20,000部の無料配布を開始した。
「実は私のパートナーは同性なんです。法的な家族ではないけど家族として同等に扱ってほしい」と言われた場合、患者の意思を尊重するという基本にたち返れば、その希望を叶えることは可能だし、法的にも問題ない。
冊子では、LGBTの人たち固有の医療・福祉ニーズと、それにどう対応が可能であるかについて、実践例から法的位置付けに至るまでかなり細かく取りあげられている。
LGBTを取り巻く環境や問題をはじめ、診察や治療で配慮すべき内容や方法などについて掲載されている冊子
患者の背景にある困難に目を向ける
トランスジェンダーの人の中には、自分の外見上の性別を変えるためのホルモン剤をインターネットで購入し、自己判断で使っている人もいる。それは病状や治療の内容に何らかの影響を及ぼすものかもしれない。
彼女たちは、病院が自分たちの気持ちを聞いてくれるとは思っていない。使っている薬を言い出せない例もあるが、説教するのではなく、背景にある困難さに目を向けるべきだ。
うつ病やアディクションの背景に、LGBTであることに関連する生きづらさが潜んでいることも多い。幼少期からずっと他人とは違う自分を否定され続け、「死にたいんです」以外に本当のことを面接で訴える術を持たない人もいる。
待合室にLGBTの本やリーフレットを置けば、安心して話していいというメッセージにもなる。
他にも、障害のあるLGBTの人や、高齢者介護、LGBTのカップル間でのDV(同性間でもDVは起きるのだ)など、冊子で扱うテーマは多岐にわたる。
調査によれば、LGBTは人口の3-5%程度は存在している。たとえカミングアウトされたことがなくても、あなたの周りにすでに当事者の患者や家族はいるはずだ。
患者を取り巻く環境に知識があれば柔軟に対応でき、QOLをさらに向上させることができる。目の前にいる相手を一人ひとり大切にすることの意味を、今一度振り返ってみてほしい。
冊子「LGBTと医療福祉」はこちらからダウンロードできます。
・LGBTと医療・福祉(改訂版)
・Medical and Welfare services for LGBT individual in Japan (冊子英語版)
・紙媒体で欲しい方は、クラウドファンディングのサイトから申し込み(無料)
(活動報告のタブをクリック)
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