留学先でかかる生活費ってどれくらい?
医師としての可能性を広げる医学留学。「多様な人種の医療従事者と触れ合いながら臨床・研究の経験を積みたい」「自らの活動の場を世界に広げたい」といった理由で留学を検討している方も多いのではないでしょうか? 留学するタイミングや期間、そのためのルートなど、考えなければならないことは山積みです。
もちろん、マネープランニングも留学前に考えるべき重要項目の1つ。準備費用や留学先での生活費にも目を向ける必要があるでしょう。皆さんもご存知のように、国によって物価は異なりますし、モノやサービスに対する価値観もさまざま。日本と同じ感覚で暮らすと「予想以上に生活費がかかった」ということもあり得ます。
そこで今回は、医師の留学先候補となる外国の生活費(総世帯平均支出)を日本と比較してみました。取り上げた国は、医療先進国である「アメリカ」「カナダ」「ドイツ」と、症例数が豊富で多くの経験を積めることから、留学先として人気が高まっている「中国」の計4カ国です。
さっそく、各国の生活費が日本とどれだけ違うのかを見ていきましょう。
日本における1カ月あたりの総世帯平均支出は約24万円
総務省の調査によると、日本における1カ月の生活費の平均は23万9,416円。内訳を見ると食費が占める割合が最も大きく、居住費と交通費がそれに続きます。居住費が占める割合が小さいのは、家賃を支払う必要がない住居(持ち家)を所有している世帯や、家賃が比較的安価な公営住宅などで暮らす世帯が多いためです。
ただし、これらは日本における総世帯の平均値であるため、マンションやアパートといった賃貸住宅で暮らす場合は下記表よりも居住費が高くなります。
出典:総務省統計局「2016年4~6期家計調査」
約24万円はあくまで平均なので、以下の4カ国を比較する上での指標として見ることをおすすめします。
それでは各国の生活費と比較してみましょう。
アメリカの生活費は日本の約2倍。その内30%以上が居住費
整った環境や設備のもとで最先端の医療を学べるアメリカ。世界各国から優秀な人材が集い、「医師の留学先といえばアメリカ」と言っても過言ではありません。しかし、アメリカで臨床を行うにはレジデンシープログラムに参加し、修了しなければなりません。また、レジデンシープログラムに参加するためにもUSMLE(United States Medical Licensing Examination)という3段階の試験に合格する必要があります。広範な知識と英語力が問われる試験のため、ここでつまずく医師も少なくありません。
ちなみに、研究留学の場合、試験などはありませんが受け入れ先の確保が必要です。
※1 図2-1は総務省統計局「2016年4~6期家計調査」とアメリカ合衆国労働省労働統計局「消費者支出の実態調査(2015年)」を元に作成。
※2 図2-2に記載の項目は、※1に示した資料を元に日本とアメリカにおける1カ月あたりの総世帯支出の重複項目を抜粋した数値であるため、図2-1の総額とは必ずしも一致しない。
※3 1ドル=102円で換算。
アメリカの1カ月あたりの総世帯平均支出は日本のおよそ2倍。日本に比べて平均所得が高いこと、消費傾向が強いことなどがその理由として考えられます。
居住費と交通・通信費は日本と大きな開きが見られますが、この数字はあくまで総世帯の平均なので、ニューヨークやロサンゼルスなどの都市部ではもっと高額になります。また、アメリカには国民皆保険制度がないため、日本と比べて医療費が高額です。その他の項目に関しては日本よりも若干多くかかる程度で、大きな違いは見られません。
カナダの生活費は居住費と交通・通信費が大きな割合を占める
カナダの医療レベルはアメリカと並んで世界最高水準。カナダもアメリカと同様、臨床を行うためにはレジデンシープログラムに参加、修了する必要があります。カナダのレジデンシープログラムに参加するためには、USMLEではなくMCCEE(Medical Council of Canada Evaluating Examination)という試験に合格しなければなりません。
ただ、カナダではレジデンシープログラムとは別に、臨床フェロー(専門研修医)として留学する方法もあります。カナダでフェローシップに参加するためには医師免許と専門医資格が必要ですが、その他の条件は州によってばらつきがあります。USMLEなどの試験に合格しなければならない州もあれば、TOEFLで一定の点数を満たすだけで臨床フェローとして働ける州もあります。ポストの獲得は簡単ではありませんが、現地の資格がなくても臨床フェローとして働けることも留学先として選ばれているポイントと言えそうです。
なお、研究留学の際はアメリカ同様、受け入れ先の確保のみ必要で試験などはありません。
※1 図3-1は総務省統計局「2016年4~6期家計調査」とカナダ統計局「家計支出調査(2014年)」を元に作成
※2 図3-2に記載の項目は、※1に示した資料を元に日本とカナダにおける1カ月あたりの総世帯支出の重複項目を抜粋した数値であるため、図3-1の総額とは必ずしも一致しない。
※3 1カナダドル=77円で換算。
総額の差は大きいですが、食費はカナダの方が若干少ないことが分かります。州税と呼ばれる税金があるため州によって物価の違いはありますが、一般的に食料品は非課税なので日本より安価だといわれています。
ドイツの生活費は日本とほぼ同水準
基本的に外国人医師はドイツで医師免許の取得、臨床研修を行うことができません。一方、研究留学は受け入れ先の病院からの承諾証明書と滞在費用証明書があれば自由に行えます。臨床研究を行う場合は州当局の医師活動許可を取得しなければなりませんが、申請に必要な書類は州によって異なるため、詳しくは州当局へ問い合わせる必要があります。
ちなみに、滞在費用証明書は滞在中の学費や生活費が担保されていることを証明する書類で、ドイツ大使館や総領事館、名誉領事事務所のいずれかで取得することができます。ただし、年間400万円以上の定期収入がなければ滞在費用証明書は取得できません。
※1 図4-1は総務省統計局「2016年4~6期家計調査」とドイツ連邦統計局「消費者支出(2014年)」を元に作成。
※2 図4-2に記載の項目は、※1に示した資料を元に日本とドイツにおける1カ月あたりの総世帯支出の重複項目を抜粋した数値であるため、図4-1の総額とは必ずしも一致しない。
※3 1ユーロ=115円で換算。
日本と比べて居住費は高いですが、生活費の総額で見るとその差はアメリカやカナダほど大きくはありません。ところが、交際費は日本だけではなくアメリカやカナダよりも高額になっています。
食費の平均は4万円弱と日本よりも少ない金額です。しかし税率が高いため、外食は日本よりもやや割高になります。
中国の生活費は約3万円
アジアは日本と比べて症例数が豊富です。さらに、医療レベルも大学病院を中心に目まぐるしく向上しているため、そこで腕を磨く日本人外科医も存在します。中でも修行の地として選ばれているのが、人口に比例して症例数が多い中国。ただし、医療機関ごとに提供される医療水準は日本のように安定しておらず、技術や設備、知識のレベルには偏りがあります。
※1 図5-1は総務省統計局「2016年4~6期家計調査」と中華人民共和国国家統計局「6-6 中国都市部における平均所得と消費支出(2015年)」を元に作成。
※2 図5-2に記載の項目は、※1に示した資料を元に日本と中国における1カ月あたりの総世帯支出の重複項目を抜粋した数値であるため、図5-1の総額とは必ずしも一致しない。
※3 1人民元=16.0円で換算。
中国の1カ月あたりの総世帯平均支出は3万円未満と、日本よりも20万円以上少なくなっています。年々進む元高の影響で中国の物価は都市部を中心に上昇していますが、それでも日本と比べると物価は高くはありません。
ただし、日本の食品にこだわる場合は注意が必要です。輸入食品には関税がかけられるため、日本の数倍の値が付けられることもあります。
まとめ
留学先での生活費をイメージできたでしょうか。
今回用いたデータは総世帯平均支出をもとに比較・考察したものであるため、その国の都市部で生活する場合は家賃を中心に生活費を高く見積もった方がよいと思われます。求める生活水準によっても生活費は大きく変動するため、ご紹介した金額はあくまで参考としてください。
また、各国で生活するためにかかるお金は、その国や地域の文化や生活スタイルも大きく関係します。留学先が決まったら、その土地での生活を具体的に調べることをおすすめします。外務省が運営する「海外安全ホームページ」には、各国の特徴とともに安全に暮らしていくための情報が掲載されています。利用してみてはいかがでしょう。
(文・エピロギ編集部)
<参考>
総務省統計局「2016年4~6期家計調査」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001157003
アメリカ合衆国労働省労働統計局「消費者支出の実態調査(2015年)」
http://www.bls.gov/cex/tables.htm#avgexp
カナダ統計局「家計支出調査(2014年)」
http://www5.statcan.gc.ca/cansim/a26?lang=eng&retrLang=eng&id=2030021&&pattern=&stByVal=1&p1=1&p2=31&tabMode=dataTable&csid=
ドイツ連邦統計局「消費者支出(2014年)」
https://www.destatis.de/DE/ZahlenFakten/GesellschaftStaat/EinkommenKonsumLebensbedingungen/Konsumausgaben/Tabellen/PrivaterKonsum_D_LWR.html
中華人民共和国国家統計局「6-6 中国都市部における平均所得と消費支出(2015年)」
http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/2016/indexeh.htm
総務省統計局「家計調査の月次結果をみる際の注意点(2015年)」
http://www.stat.go.jp/data/kakei/2015np/pdf/gy4.pdf
日経メディカルCadetto「医者のひみつ」P156~169留学、してみる?
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cadetto/magazine/1102-t1/
AllAbout「カナダの物価と旅行予算」
https://allabout.co.jp/gm/gc/379843/
サトゥン不動産グループHP「バンクーバーの賃貸住宅」
http://sanitec2000.com/rent/
HOME’s「東京都の家賃相場」
http://www.homes.co.jp/chintai/tokyo/price/
R-SQ+「海外への臨床留学基礎知識」
http://www.r-sq.net/style/index03.html
ドイツ連邦共和国大使館・総領事館「ドイツへの留学」
http://www.japan.diplo.de/Vertretung/japan/ja/08-kultur-und-bildung/studieren-in-deutschland/0-studieren-deutschland.html
Searchina「日本の医療水準はスゴイ!今やガン大国となった中国の『垂涎の的』」
http://news.searchina.net/id/1606740?page=1
Record China「<中国人が見た日本>中国と日本の医療水準の驚くべき差」
http://www.recordchina.co.jp/a49611.html
AllAbout「旅行に役立つ、中国の物価事情」
https://allabout.co.jp/gm/gc/376677/
外務省「海外安全ホームページ」
http://www.anzen.mofa.go.jp/
ドイツ大使館・ドイツ総領事館HP「留学する方へ:滞在費用の証明について」
http://www.japan.diplo.de/Vertretung/japan/ja/03-konsular-und-visainformationen/031-visa/Verpflichtungserklaerung.html
高橋里史「Charite Universitats Medizin, Berlin(ドイツ、ベルリン)脳神経外科 留学記」(慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点)
http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/yrtr/2011/20111215_01.html
松田央郎「ドイツにおける医師免許の取得ならびに実際の臨床 西部病院におけるカテーテルアブレーションを中心とした不整脈診療の構築」(正マリアンナ医科大学雑誌 Vol.44,99.17-20,2016)
http://igakukai.marianna-u.ac.jp/idaishi/www/441/44-1-04Hisao%20Matsuda.pdf
田畑美弥子「留学体験記」(埼玉医科大学総合医療センター 心臓血管外科)
http://saitama-cvs.jp/intern/student_experience01.html
日本エマージェンシーアシスタンス「FAQ【中国の医療状況について】」
【関連記事】
「医師が得する"お金"のハナシ 第5回|海外の医師の年収はいくら? 診療科別の年収を国際比較!」
「現状に満足せず、もっと質の高い医療を提供したい。~症例数の多い海外の病院で学ぶという選択~」田端実氏(東京ベイ・浦安市川医療センター 心臓血管外科部長)
「『日本とアメリカ』x『医療と法律』——2x2の視点で見る日本の医療 ~ 歪なシステムを「変えられる」と思うことが始めの一歩」加藤良太朗氏(板橋中央総合病院 副院長 総合診療科主任部長)
「私の決断「18歳で医学部留学」は正解でした。~文化の違いを感じながらハンガリーで医師を目指しています」吉田いづみさん(ハンガリー国立センメルワイス大学医学部)
コメントを投稿する