医師が得する"お金"のハナシ

いくらもらえる? 勤務医の年金

「医師には定年がない」といわれますが、少子高齢化の進む時代においてやはり老後の蓄えは必要なもの。個人で保険をかけたり、貯金をしたりしている方も多いでしょう。勤務医はそれに加えて、毎月の給与から「年金制度」*のために一定の保険料が差し引かれています。年金制度は大きく2つに分かれ、国の運営する「公的年金」と企業や事業所が運営する「私的年金」があります。しかしこの年金制度は勤務先によりさまざまな種類があり、複雑な仕組みとなっています。

*:年金制度には、老後に受け取れる老齢年金、被保険者が死亡した際に遺族が受け取る遺族年金、病気やケガにより働けなくなった際に受け取れる障害年金の3種類があります。本記事では老齢年金についてご紹介します。

国が運営する公的年金

公的年金とは、国が運営する年金制度を指します。勤務医が加入する公的年金は、国民全員が加入する国民年金と、各々が勤務先で加入する厚生年金の2種類に分けられます。

【国民年金】
国民年金は20歳以上60歳未満の国民全員が対象となる年金で、20歳になれば自動的に加入となります。基礎年金制度といわれ、働いていない人にも納付する義務があります。
国民年金を受給するには、保険料を10年以上納付することが条件となります*。20歳から60歳まで40年間納付すると満額が支給されます。目安として、平成31年度は満額でひと月あたり6万5,000円程度が支給される計算です。
*:平成29年8月1日から、資格期間が10年以上あれば老齢年金を受け取ることができるようになりました。なお、遺族年金の受給要件はこれまで通り「25年以上」となります。

国民年金は原則として65歳から給付が始まり、亡くなるまで終身受け取ることができます。また、最大5年間前倒して、あるいは繰り下げて給付を受けられる制度もあります。前倒しの場合は減額され、繰り下げの場合は増額されます。
定年後もアルバイトなどで稼ぎがあるため、年金が必要ないというケースもあるでしょう。その際は国民年金の繰り下げ制度を利用すると、老後の蓄えを増やすことに繋がるかもしれませんね。

国民年金は年金の支払いが難しい人向けに、いくつかの免除・猶予制度も用意されています。たとえば学生には学生納付特例という制度があり、この申請を行えば在学中の納付義務は猶予されます。学生時代に利用した方もいるのでは? 納付期間には猶予期間も含まれますが、猶予された分を追納しなかった場合は給付額が少なくなります。

勤務医の場合、学生時代や研修医時代に、国民年金の免除制度を利用したり、あるいは生活が慌ただしくなって納付を忘れたりというケースが考えられます。
たとえば学生時代に納付特例制度を6年間利用して26歳で研修医となった場合は、国民年金の「加入期間」は20歳からと判断されます。就職してから40歳まで年金を納付し、さらに猶予されていた期間の追納を行うことで、満額を受け取ることができます。しかし追納しなかった場合は、猶予分を減額した金額が給付されます。

【厚生年金】
厚生年金は法人の病院などに勤務する医師が加入する年金です。民間企業に勤めるサラリーマンなどが加入する一般的な年金です。企業や事業所に勤務していれば、自動的に加入となります。

厚生年金は65歳から給付されます。給付額は個人によって異なり、加入期間と平均給与(標準報酬)から算出されます。基本的に、平均給与が高ければ納付額も多いため、給付金額は高額になります。また、加入期間が長いほど増額されます。
平成29年度厚生年金の男性の平均受給額は月額約16万5,000円となりました。

※共済年金
共済年金は国公立の病院などに勤務する医師が加入する年金でしたが、平成27年10月より全ての共済年金が厚生年金に統一されました。もともとは公的機関に勤める公務員などが加入していた年金で、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済があり、共済組合に加入した場合、年金の手続きは全て共済組合が行っていました。

統一されたことで、共済年金独自の制度であった「職域部分」が廃止されましたが、平成27年9月30日までの共済年金に加入していた期間分については、統一後も「職域部分」に相当する金額が支給されます。

 

企業や団体が運営する私的年金

私的年金とは、国が行う公的年金と相対するもので、企業や団体などの組織が運営する年金の総称です。主なものに企業年金や個人年金があります。

【企業年金】
企業が独自の年金制度を設けているケースです。
企業年金には「厚生年金基金」を設立している企業が多いでしょう。厚生年金と非常によく似た名称ですが、公的年金ではありません。私的年金の一つで、企業が厚生年金の給付を代行した上で、企業独自の年金を上乗せして給付する、という仕組みです。公的年金を主に同じ自治体に在籍する企業や事業所が提携し、独自に運営しているケースが多く見られます。病院が加入する厚生年金基金の場合は、関連病院や診療所、その他医療施設などが参加していることが多いようです。
勤務先の企業や病院に厚生年金基金が設立されている場合は、厚生年金とともに自動的に加入となります。
厚生年金基金から年金の給付を受ける場合は、その基金に対して個別に申請が必要です。年金機構からは「厚生年金」しか給付されないので注意してください。

また、転職の多い医師の場合は、厚生年金基金に限らず複数の企業年金に加入するケースが考えられます。A病院の企業年金に加入したあと転職し、B病院の企業年金に加入した場合、給付もそれぞれの基金からとなります。いよいよ年金を給付されるときになって申請漏れがあると、せっかく納付した年金が受け取れません。転職した際は勤務先に厚生年金基金などの企業年金があるのか確認しておき、いざというときの給付申請を忘れないようにしたいですね。

【個人年金】
保険会社が販売する個人年金保険サービスを利用して加入します。個人で貯金をして、将来の資金を蓄えている方も多いのではないでしょうか。

医師向けの個人年金の代表として「医師年金」があります。これは日本医師会が運営する医師のための私的年金で、64歳6ヶ月未満の日本医師会会員であれば誰でも加入できます。多くの私的年金と同じく積立型方式を取り、「65歳までに自分で積み立てた金額分を将来受け取る」という仕組みになっています。65歳から受給できますが、「定年後も勤務を続けているため年金は必要ない」という場合などは受給の開始を75歳まで遅らせることが可能です。
給付にもさまざまな種類があり、自身の老後のための「養老年金」はもちろん、自身が病気にかかったときに備える「傷病年金」や子弟を育成するための「育英年金」などがあります。

その他、保険医協会が運営する保険医年金などもあります。

 

いくらもらえる?年金シミュレーション

では実際、退職後の年金はいくらほどもらえるのでしょうか。厚生年金については計算が複雑となりますので、インターネットのシミュレーションツールを活用するといいでしょう。

1 インターネット検索でヒットしたシミュレーションツールで試算
昭和45年(1970年)生まれ、法人経営の病院に40年間勤務した医師をモデルとしてシミュレーションしてみましょう。生涯の平均月収は100万円とします。

国民年金については加入期間の長さで金額が決まります。40年間しっかりと納付した場合は、66歳から月額にして約6万5,000円が給付される見込みです。

シミュレーションの結果、こちらの医師が66歳から受け取れる厚生年金は月額25万円程度となりました。このほか、企業年金や独自に加入する私的年金が加算されます。

2 医師年金ホームページのシミュレーションツールで試算
医師年金のホームページ上には年金給付額をシミュレーションできるツールがあります。
例として、現在26歳の医師が医師年金に加入し加算年金を一口申し込み、26歳2カ月から65歳まで38年10カ月間保険料を払い続けた場合の金額を算出してみましょう。この場合、月々の保険料は18,000円です。

受け取りで15年保証終身型を選んだ場合は、定年時に月額45,900円が給付される見込みです。医師年金は一生涯受け取ることができるので、15年の保証を過ぎても同額が給付されます。

参考:医師年金公式サイト「医師年金シミュレーション

年金にはさまざまなタイプがあり、給付には申請が必要なものも多いです。どれが自分にとって適切なのかを見極め、老後の備えの一つとして、コツコツ取り組んでいきたいですね。

(文・エピロギ編集部)

※本稿は、2015年9月22日に公開したものを大幅に加筆・修正し、2019年10月15日に再公開したものになります。

 

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