【2017年版】今さら聞けない「新専門医制度」をめぐる現状まとめ

2017年8月4日、日本専門医機構は声明を出し、2018年4月から新専門医制度を開始することを正式に発表しました。新専門医制度は当初2017年4月開始予定でしたが、1年延期となった経緯があります。延期されたこの1年で何が変わったのか、これからどう動いていくのか、また今後の懸念点と課題について以下にまとめました。

新専門医制度に関する最近の動き

 まず新専門医制度に関する最近の動きから見ていきます。大きいものとしては、8月2日の厚生労働大臣による談話と、それを受けて行われた8月4日の日本専門医機構による声明の発表がありました。それぞれの概要は以下のようになっています。

■厚生労働大臣談話

  • ・地域医療への悪影響等の懸念に対し、専門医機構でこれまでに行なってきた見直しの取り組みに対して、一定の評価を示した。
  • ・一方で、①専攻医の応募の結果、基幹病院への応募の集中により地域医療に悪影響が生じるのではないか②専攻医が望んだ地域・内容での研修を行なえなくなるのではないか、の二点をはじめとする懸念が未だ払拭されていないという認識を示した。
  • ・そのため、専門医機構と各関係学会に対して、学会ごとの応募状況・専攻医の配属状況を厚生労働省に報告することを求めた。
  • ・その結果、地域医療へ影響を与える懸念が生じた場合には、厚生労働省から関係機関に対して「実効性ある対応」を求めるとした。

■日本専門医機構声明

  • ・昨年に地域医療への影響の懸念が出て1年延期して以降のこれまでの取り組み、特に日本医師会と4月に厚生労働省に設置された「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」で出てきた要望・懸念に対する取り組みで、可能な限りの配慮を行なってきたことを強調した。
  • ・6月2日の専門医制度新整備指針の改定、7月7日の運用細則の修正を経て、新専門医制度に関する規約上の環境が整ったことを説明した。
  • ・8月2日の大臣談話を踏まえて、2018年4月での専門研修開始に向けて10月初旬に基本19領域での専攻医の一次登録を開始し、12月中旬に二次登録を開始することを発表した。
  • ・2018年初めに専攻医の所属状況を各学会に確認し、地域医療への影響や専門研修レベルについて改善の必要性が生じた場合には、各学会への制度や運用の修正等の依頼や、応募状況の調整を行なう考えを表明した。

一般社団法人日本専門医機構「新たな専門医制度の開始に向けた声明」2017年8月4日

 この声明にもあるように、日本専門医機構は2018年4月の専門医制度開始に向けて準備を進めています。直近では10月初旬の専攻医登録開始を予定しているため、現在は専門研修プログラムの審査を行なっている段階となっています。

延期・改定を経て何が変わったのか?―新専門医制度の昨年からの変更点

 1年の延期を経て、新専門医制度は具体的に何が変わったのでしょうか?改定が行われた専門医制度新整備指針、および新整備指針運用細則の変更点を検証します。

 ※2016年時点での新専門医制度の概要と、延期の経緯・主に批判された論点については以下をご参照ください。

   >> 2016年(延期決定前)時点での新専門医制度の概要   >> 2017年5月までの新専門医制度の延期をめぐる経緯および論点

専門医制度新整備指針(第一版、2016年12月16日時点)で改定された内容

 専門医制度の整備指針は2016年の延期決定後に2回改定されており、1回目は2016年12月16日に日本専門医機構の総会で承認された新整備指針(第一版)となっています。その時点で改定された主な内容は以下のようになっています。

  • ・基幹施設の基準は、大学病院以外の医療機関も認定される水準とする。
  • ・従来、専門医を養成していた医療機関が希望すれば、基幹施設の承認のもと連携施設となれる。
  • ・常勤の専門研修指導医が在籍しない施設でも、地域医療を考慮し必要な場合には、研修環境が整っていることを条件に研修施設になれる。
  • ・基幹施設での研修は6ヶ月以上とし、連携施設での研修は3ヶ月未満とならないように努める。
  • ・都市部への集中を防ぐため、都市部の研修プログラムの定員についてルールを定める※1
  • 専攻医の採用は、基幹施設だけでなく、連携施設、関連施設でも可能とする(専攻医登録は基幹施設で行なう)。
  • ・プログラムの承認は、行政、医師会、大学、病院団体などからなる都道府県協議会と事前に協議し決定する。
  • ・海外への留学や妊娠・出産・育児など特定の理由がある場合、研修の中断を可能とし、6ヶ月までの中断であれば研修期間の延長を要しない。6ヶ月以上の場合でも中断前の研修実績は引き続き有効とする。
  • ・基本領域学会専門医は原則としてプログラム制とするが、領域の特殊性を考慮し、カリキュラム制の運営も可能とする。サブスペシャリティ学会専門医では、プログラム制、カリキュラム制のいずれも可能とする。

一般社団法人日本専門医機構「専門医制度新整備指針」2016年12月16日

 これらの改定の多くは、日本医師会が2016年11月18日に提出した要望に沿ったもので、地域医療への配慮がそのポイントとなっています。

専門医制度新整備指針(第二版、2017年6月2日時点)で盛り込まれた内容

 しかし、新整備指針第一版が改定されてからも、大学病院に医師が集中するのではないかといった地域医療への懸念の声は収まりませんでした。そこで、更に検討を重ね2017年6月2日に日本専門医機構の理事会で承認されたのが新整備指針第二版で、以下4点が盛り込まれています。

  • 専門医の取得は義務ではなく、医師として自律的な取り組みとして位置づける。
  • ・卒業後に義務年限を有する医科大学卒業生、地域医療従事者、出産・育児・介護・留学など相当の理由がある医師の場合には、カリキュラム制での研修を可能とする。
  • ・大学病院に研修先が偏らないようにし、症例の豊富な地域の中核病院等が基幹施設となれる基準を設定する。
  • ・都道府県協議会に市町村も含めることとし、研修プログラムの認定後も都道府県協議会は専攻医の登録状況等の確認や意見の提出を行なうことができ、それに対して専門医機構は必要な情報提供や改善を行なう。

一般社団法人日本専門医機構「専門医制度新整備指針」2017年6月2日

 これらは、2017年4月12日の全国市長会による緊急要望や、その後厚生労働省に設置された「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」の内容を踏まえて改定されたものとなっています。

運用細則の修正(2017年7月7日時点)

運用細則は専門医制度新整備指針の下部規定となっており、当初の案は2017年3月17日に日本専門医機構の理事会で承認されましたが※2、新整備指針の改定とその実効性担保のため、主に以下2点を修正した案が7月7日に改めて理事会で承認されました。

①カリキュラム制を含めた専攻医の柔軟な研修への対応

  • ・基幹施設および連携施設は、専攻医からの相談窓口を設け、有効な研修を行えるよう配慮する。
  • ・専攻医は、相談窓口への相談後も有効な研修が行えないと判断した場合には、日本専門医機構に相談できる。

②都道府県協議会の実効性の担保

  • ・協議会は、基幹施設に対してローテ―ト内容などの情報提供を求めることができる。
  • ・基幹施設は、日本専門医機構に連絡のうえで協議会に情報提供を行ない、協議会に提出した資料は同機構にも報告する。
  • ・日本専門医機構は、地域医療への配慮や専門研修レベル改善のための必要性に応じて、基本領域学会、研修施設群と協同して協議会の求めに協力する。

一般社団法人日本専門医機構「専門医制度新整備指針運用細則(改定)」2017年7月7日

この運用細則の修正を行なった7月7日、日本専門医機構は新専門医制度を2018年に開始するための規約上の準備は整ったと説明しています。

総合診療専門医のプログラム整備基準の概要

 新専門医制度開始に伴って新設される総合診療専門医ですが、その研修プログラム整備基準も7月7日に理事会にて承認されました。以下にその概要についてお伝えします。

 ※総合診療専門医の概要については以下をご参照下さい。

   >> 今さら聞けない「総合診療医」をめぐる現状まとめ    >> 高久文麿・日本医学会会長に聞く「総合診療医」のキャリアと新専門医制度

総合診療専門医の使命

 総合診療専門医の使命は以下のように掲げられています。

  日常遭遇する疾病と傷害等に対して適切な初期対応と必要に応じた継続的な診療を全人的に提供するとともに、地域のニーズを踏まえた疾病の予防、介護、看とりなど、保健・医療・介護・福祉活動に取り組み、絶えざる自己研鑽を重ねながら、地域で生活する人々の命と健康に関わる幅広い問題について適切に対応する使命を担う。

一般社団法人日本専門医機構「総合診療専門研修プログラム整備基準」2017年7月7日, 1ページ

 上記に関しては、以前から2015年9月の時点で公開されていたもの※3から変更はありません。

修了要件

 総合診療専門研修プログラムの修了要件は以下のようになっています。

  • 1) 研修期間を満了し、かつ認定された研修施設で総合診療専門研修ⅠおよびⅡ各 6 ヶ月以上・合計 18 ヶ月以上、内科研修 12 ヶ月以上、小児科研修 3 ヶ月以上、救急科研修 3 ヶ月以上を行っていること。
  • 2) 専攻医自身による自己評価と省察の記録、作成した経験省察研修録を通じて、到達目標がカリキュラムに定められた基準に到達していること
  • 3) 研修手帳に記録された経験目標が全てカリキュラムに定められた基準に到達していること
  • 4) その他、各プログラム毎に定める基準に達していること。

同上, 18ページ

 上記のように総合診療専門研修の他に、内科・小児科・救急科の研修も行ない、最短合計3年間で修了するプログラムとなっています。

基幹施設・連携施設基準

 総合診療専門医の研修では、診療所または地域の中小病院での外来・在宅・地域包括ケアの研修を行なう専門研修Ⅰと、急性期病院での総合診療部門として外来と病棟管理の研修を行なう専門研修Ⅱがありますが、基幹施設・連携施設ともに専門研修ⅠもしくはⅡの基準を満たすことが求められます。

 具体的には、専攻医3名あたり指導医を1名以上置くことや、基幹施設ではプログラム統括責任者が常勤で勤務していることなどが条件となっています。

同上, 10-12ページ

指導医基準

 専門研修指導医の基準としては、総合診療専門研修特任指導医講習会の受講を必要とし、卒後7年以上が条件となっています。特任指導医の候補としては、以下の8つが挙げられています。

  • 1)  日本プライマリ・ケア連合学会認定のプライマリ・ケア認定医、及び家庭医療専門医
  • 2)  全自病協・国診協認定の地域包括医療・ケア認定医
  • 3)  日本病院総合診療医学会認定医
  • 4)  日本内科学会認定総合内科専門医
  • 5) 地域医療において総合診療を実践している日本臨床内科医会認定専門医
  • 6) 7)の病院に協力して地域において総合診療を実践している医師
  • 7)  大学病院または初期臨床研修病院にて総合診療部門(総合診療科・総合内科等)に所属し総合診療を行う医師
  • 8)  都道府県医師会ないし郡市区医師会から≪総合診療専門医専門研修カリキュラムに示される「到達目標:総合診療専門医の7つの資質・能力」について地域で実践してきた医師≫として推薦された医師

同上, 15ページ

 以上が総合診療専門医のプログラム整備基準の概要となります。詳細に関しては、日本専門医機構の「総合診療専門医概要」をご確認ください。

新専門医制度開始に向けた今後のスケジュール

 今後の新専門医制度に向けたスケジュールは以下のようになっています。

・2017年10月初旬: 研修プログラムへの専攻医の一次登録を開始   ↓ ・2017年12月中旬: 専攻医の二次登録を開始   ↓ ・2018年当初  : 専攻医の登録状況を確認し地域医療への影響がないかチェック   ↓ ・2018年4月   : 新専門医制度による研修開始

一般社団法人日本専門医機構「新たな専門医制度の開始に向けた声明」2017年8月4日

 現在研修プログラムは審査中であり、研修の詳細がまだ分からない状況となっています。2018年度より研修を希望する医師にとってはぎりぎりまで情報不足の状況が続くため、認証されたプログラムが公開された際にすぐに適切な情報が得られるように動向を注視しておく必要がありそうです。

残された懸念点・課題

 2018年4月に専門医制度を開始するという声明を日本専門医機構が出しましたが、開始にあたって未だにいくつか懸念点や課題が残されています。

開始までのタイトなスケジュール

下の画像は、2017年3月15日の新たな専門医の仕組みに関する説明会で日本専門医機構の吉村理事長が説明した今後のスケジュール案となっています。

2017年3月15日時点の専門医制度スケジュール案

一般社団法人日本専門医機構「新たな専門医の仕組みに関する説明会」2017年3月15日

 これを確認すると、専攻医の募集開始を当初8月に予定していたことがわかります。現在の予定は10月からとなっており、当初より2ヶ月遅れているスケジュールとなっているため、開始まで滞りなく準備を進められるかどうかが懸念されます。

専門医制度新整備指針と実運用との乖離

 6月2日に新整備指針の改定が、7月7日にその運用細則の修正がありましたが、新整備指針の変更内容が各領域専門医のプログラム整備指針や実運用に反映されず乖離が生じてしまう懸念もあります。新整備指針で大学病院以外の地域中核病院も基幹施設になると規定されていても、実際は大学病院が唯一の基幹施設となる可能性も考えられます。

厚生労働大臣談話で指摘された懸念点

整備指針と実運用との乖離に近いですが、厚生労働大臣談話で指摘された2点も懸念として挙げられます。

  ①基幹病院への専攻委の応募の集中により地域医療に悪影響が生じる懸念   ②専攻医が望んだ地域・内容での研修を行なえなくなる懸念

都道府県協議会のチェックによりスケジュールへ影響が出る可能性

 新整備指針の改定により、都道府県協議会には市町村が加わり、またその実効性も強まりました。都道府県協議会がプログラムの認可や監視に携わる中で、議論がまとまらないといった事態があれば、その後のスケジュールに影響する恐れもあります。

以上、専門医制度に関してこれまでに決まっていること、未だ決まっていないことについて整理しました。2018年4月に開始に向けて、これから関係者・関係機関で慌ただしく準備が進みそうです。

来年度に研修を予定している医師や、受け入れ側の指導医、医療機関等は、時間的な余裕がない分、より最新で正確な情報をもとに行動することが求められます。

ただし、中には出回っていない情報もあるため、疑問点などを学会や基幹施設、あるいは日本専門医機構に直接問い合わせるといった手法も含めて情報収集をしていくと良いかもしれません。

(文・エピロギ編集部)

 

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「患者さんから教わった、私の“目指すべき医師”~『専門医』に頼らず自分の腕で食べていく 〜女性に寄り添い、病気を総合的に診られる医師を目指して〜」山本 佳奈 氏(大町病院 内科医)
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【注】
※1 別途設けられた運用細則で、5都府県(東京・神奈川・愛知・大阪・福岡)では、原則として、募集定員が過去3年間の採用実績の平均を超えないことが定められた。
※2 一般社団法人日本専門医機構「専門医制度新整備指針運用細則及び補足説明について(お知らせ・お伺い)」2017年3月21日
※3 一般社団法人日本専門医機構「総合診療専門医 専門研修カリキュラム」にて2015年9月8日時点で公開されていた内容。現在は該当するページは存在しておらずリンク切れになっている。「今さら聞けない「総合診療医」をめぐる現状まとめ」を参照。

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